教育専任医師の学会発表
これまでのあらすじ
ていねこは卒後5年目まで総合診療医のヒヨコだったが、人生の諸々を経ていまは自分が初期研修した病院で教育専任として働いている。
北の大地にあり割とでかいこの研修病院は、「挑戦し続ける医師になる」をスローガンとしてこれまで数多くの若手医師のキャリアを、それこそ専門研修や留学から企業、進学まで見届けてきた。
私はその歴史のほんの数年しか携わっていないが、教育一本でかなり好きにやらせてもらっている。
いま行っている業務は主に3つで、
①海外の提携大学病院との連携、特に日本に来るドクターの指導内容やスケジュール調整
②内科専攻医プログラムの見直しにおいてアメリカで実績のある仕組みを導入するプロジェクト進行(と通訳翻訳)
③初期研修医のメンタルケアや個々の研修目標設定、振り返り
私をリアルで知っている方は、「ていねこにピッタリのことしかやってない!」と思うだろう。
私もそう思う。ほんとに幸せなことです。
2024年8月はそんな私にとって「外に発信する夏」だった。
当院で研修していた時から疑問に思っていた、他の病院からは当院の研修はどう見られているのか?当院での実践から得られた学びは一般化できるのか?といった問いに挑むタイミングが来たと思った。
そこで、母校で医学教育の教授をされている先生にハチャメチャにお忙しいことを承知でリサーチメンターをお願いした。なんと引き受けて頂いた。
リサーチメンターの話、他の領域の方からはイメージしづらいと思うけど、今回は長くなってしまうので割愛する。要はマジの専門家に相談相手になって頂いている。感謝400%勇気100%。
日本医学教育学会
8月上旬に国内学会があった。
ここでは、2022年から当院が行なっている、アメリカの若手医師や指導医を2〜4週間単位で初期研修医指導のために来日してもらっている取り組みについて報告した。
「外国の医師と交流し、学ぶとどんなことが起こるのか?」という問いは自分が初期研修の頃から持っていた。パンデミックで一旦途絶えたが、当院は5年前までも異なる形で外国人医師との交流は常にある変わったプログラムだ。変わってる。
9年前の私は帰国子女が浮かない場所を探して当院に辿り着いたが、留学願望はなかったのであまり英語で診察を学ぶなどといったことにモチベーションを感じていなかった(私の5-6年前の記事を見て頂けたらなんとなく分かると思う)。
そんな私が外国人医師対応の業務についたので、存分に研修医とのやり取りを観察させてもらった。
細かい結果までは触れないが、所感としては以下の2点が大きかった。
①もう自分の周り、自分の国のことだけを見て医業ができる時代ではない
②言語の違いを無視しても、システムが大きく異なる現場で働く同業者との継続的な交流から得られるものが双方にある
全国の他の病院や医学部の方々から質問・コメントを頂けて、研修医とも発表内容を共有できて、5年ぶりの学会発表だったが得るものは多かった。「国内の学会参加は毎年続けよう」と思った。
世界医学教育学会(AMEE)
8月下旬、開催地はスイスだった。2秒くらい迷ったけど猫と離れたくないのと円安に日和ってオンラインで参加した。Zoomさまさま。
こっちでは、初期研修医に対して行なっている、現場での印象に残った経験とその時の感情を振り返る教育について発表した。
これはていねこが総合診療専攻医のときに学んだ教育方法で、SEA(エスイーエー)と呼ぶ。
ていねこは当院の医療安全管理室にコラボを持ちかけてSEAを導入することが、初期研修の医療安全に対する意識や行動にどう影響するかを調べている。今回の発表はその中間報告に当たるものだった。
学会という場では、発表内容に応じて似たテーマ同士「セッション」に分けられ、複数の発表と質疑が決められた時間の中で行われる。
今回の発表は「医療系教育における感情の役割」というセッションに振り分けられたので、医療安全よりもSEAにおける心理的配慮に着目して発表した。
他の発表者はアメリカの医学生とスウェーデンの大学院生で、どちらも学生を対象とした発表だったので、卒後教育しか関わっていない私にとって気付きの多いセッションとなった。
特に、卒後では感情の出所として「責任」や「業務遂行」が話題に上がりやすいのに対し、卒前では「インポスター症候群(自分は今の居場所・ステータスにふさわしくないと感じること)」が取り上げられることが多いのだと知った。
まあ卒後も全く仕事が覚えられなかったり周りに助けられてばっかりだったりするとインポスター感は芽生えると思う。
国際学会も当然数年ぶりの参加で、何より学会用のアプリがめちゃ進化してて驚いた。
セッション後に視聴者の先生から連絡を頂いて、更なるコラボの話に発展した。アゲ。
他にも学びや改善点は色々挙がったけどこのテーマは論文書こうと思ってるのでもう少し温めたい。
国内・国際学会の使い分け
100%ていねこの感想だけど
・似た制度の中で苦悩を分かち合い、ノウハウを共有するなら国内で日本語発表
・海外の人たちと知り合いたいなら国内で英語発表(わざわざ日本に来ているので、話しかけるとたくさん話せて仲良くなれる!あと国内で働いている方とのコネクションが芽生える)
・自分の研究テーマや発表内容をブラッシュアップしたいなら国際学会
あと、今回国内学会はポスター、国際学会はZoomで口頭演題発表を選択した。
・ポスターだと一日中掲示できるので人目に触れやすい→当院のプログラムに興味がありそうな人が発表時間外でも当院の取り組みを見つけられる
・口頭演題は比較的発表も質疑も持ち時間が長めで、発表者同士のディスカッションも盛り上がる気がする。
まあでも、研究指導してくれる先生のオススメに従うのがいいんじゃないかな。
学生〜専攻医の時は勧められるがままなんでもかんでも英語で演題発表して「これって意味あんのかな」って思ったこともあったけど、なんだかんだで度胸ついたし発表のお作法も覚えたし良かったと思う。
おわりに
自分の専門分野を持って、現場と理論を言ったり来たりしながら成果をまとめて、公に発表して議論するの
た、た、た、楽しい〜!!
教育は診療とは違った面白さがあるし、
研究は現場とまた全く違う。
現職に就いてから約1年半、知識も度胸も体力も、おそらく多少の信頼もついてきた。
つくづく恵まれた環境にいさせてもらっているなあと実感した夏だったのでした。