物理力学入門② 竹刀の円運動を解析。剣道の打突を数式で表してみよう。打突に何が重要なのかが可視化できる
①では、力学の基礎的な部分をやり、直線運動の範囲での紹介でしたが、次は「円運動」について紹介したいと思います。これ剣道に関係あるの?という疑問を持たれるかもしれませんが、この記事は剣道の竹刀の打突を物理的に考察する材料としての知識を提供するため「だけ」の記事です。
竹刀の打突というのは、右手を支点、左手を力点として、重心を中心とした縦回転の運動をすばやく行うものです。これをただ数式的にも詳しくなれれば、面白くなりそうだなと思います。また、剣道だけじゃなくて他のスポーツにも応用できるはずなので、是非物理を堪能していきましょう。
※この記事は①は読んだことを前提に話を進めていきます
円運動は「等速度」ではく「等速」であることに注意。物体が円の軌道を描きながら運動する時その運動を「円運動」といいます。
「等速円運動」について考えていきますが、まず「等速度」ではなく「等速」になります。「速度」はベクトル量なので「向き」にも影響があります。しかし、円運動をする場合は「向き」は常に変わり続けています。向きが同じだと円運動できません。つまり、スカラー量である「速さ」が等しい時に「等速円運動」すると理解しましょう。
角速度はω(ギリシア文字でオメガ)で表記され、角度の単位はラジアン (rad)、時間の単位は秒 (s) であるため、角速度の単位はラジアン毎秒 (rad/s) となります。定義は「単位時間(1s)あたりの角度変化量」であり「1秒でどれくらいの角度を回るか」ということです。まさに、速さの角度バージョンです。
周期:T
周期は「1回転するのにかかる時間」です
振動数:f
振動数というのは「1秒で回ることができる回転数」です。なので、単位は[回/s]の方が分かりやすいと思いますが、振動数には[Hz(ヘルツ)]という単位が個別に与えられています。
周期と振動数は「逆数」の関係にあります。つまり、T=1/fが常に成立します。
速さvと角速度ωの関係性とは
でまず周期Tを角速度ωを用いて表してみます。周期とは「1周する時間」なので、1周すると角度は、360度ですね。つまり、2πです。したがって、角速度ωを用いて周期Tを表すと
T=2π/ω
では、速さvを用いて周期Tはどのように表すか。速さは「1秒で動くことができる距離」です。では物体は実際の距離でいうとどれくらいすすむのかというと円周の長さだけ動きますよね。円周は、半径rなので、2πrです。つまり
T=2πr/v
この2つの式を連立してみると
2πr/ω=2πr/v
v=rω
円運動をするためには、中心向きの加速度が必要
そもそも何故物体は「円運動」できているのかというと、
例えば、ハンマー投げをイメージしてみましょう。ワイヤーの先についている砲丸をぐるぐる回すとき、砲丸にどのような力が働くか。中心向きに砲丸に働く接触力である「張力」という力が働きます。実は、「円運動」するためには、必ず「中心を向いている力」がないといけません。このような力を「中心に向かう力」という意味で「向心力」と言います。円運動は、力は必ず中心にあるわけです。ということは、力があれば、加速度があるので、中心向きに加速度もあるはずなのです。
もう一つ例に挙げましょう。地球の周りを回る月も円運動をしています。もし、月にまったく力が働いていなかったら「力がない」→「加速度がない」→「速度に変化は生じない」→「等速直線運動をする」となるので、もしも力がないと、月はだんだん地球から離れていきます。しかし、実際は、地球と月は距離を保ちながら月は地球を回っています。
これはツキが地球に向かう力が働いており、ある一定の距離分だけ「落ちてきている」のです。
ちょっとややこしいの、誤魔化して申し訳ないのですけど、数式で表すと、こうなります。
初めの月と地球の距離をrとして、速度v、加速度a、時間tの数式で表すと、三平方の定理より
(r+1/2at²)=r²+(vt)²
「1/2at²」は、落下した分の距離です。
t⁴=0と近似すると
ra=v²
v=rωより
a=rω²
となります。
そして、加速度がわかったので(向心)運動方程式は
ma=F
mrω²=Fもしくはm×v²/r=F
となります。
うまく説明できませんでしたので上記のサイトで再確認しましょう。
剛体の運動
これまで物体の運動について紹介しましたが、これまでの話は実は「物体の大きさは無視している」という前提で展開されました。いままで扱った物体は「質量は持つが、大きさはないもの」としていました。そのような「質量は持つが大きさを持たない物体」を「質点」といいます。それに対して「大きさも考慮した物体」を「剛体」と呼んでいます。
ドアノブ
蝶番が右側についている右側に対して、ドアノブはどこにつけたらよいか。もちろん、左側につけると答えるでしょう。では、なぜドアノブを左に付けるのか?と聞くと、応えることができる人は減ってしまいます。ここで登場するのが「力のモーメント」という物理量です。これは大きさの持つ「剛体」で考えるものです。
ここで両物体に力を加えた状態を比較した画像を引用しました。
剛体の運動を議論したい場合、そこには「回転」の話も付け加える必要があります。
この物体を回転させようとする能力を「力のモーメント」といいます。
力のモーメント
力のモーメントの値を決定する要因は2つあります。1つは「力の大きさ」、そしてもう一方は「支点からの距離」です。「支点からの距離」は、一般的には「腕の長さ」と呼んでいます。力のモーメントはこの2つの積、かけ算で求めることになります。
力のモーメントN=力の大きさ・腕の長さ
この時の力のモーメントN=Frとなります。
こうしてみると、ドアノブを左端に取りつけるかが理解できるでしょう。
つまり、できるだけ弱い力で簡単にドアを開けたい場合、モーメントを大きくする必要があるわけです。そうなると、できるだけ視点から遠くに力を加えるとよい、ということになります。
次に、剛体に対して斜めに力が働いている場合を考えます。
Fsinθは回転に効きますが、Fcosθは剛体を横に引っ張ろうとするだけで回転には影響しません。
力のモーメントNはFsinθ×Lで、N=FLsinθとなります。
積程は力を分解しましたが、今度は長さをいじってみます。Fの力を加えた時、いったいどれくらいの長さが回転に関わっているのかを評価してみます。この回転に関わっている腕の長さを、「回転に効く腕の長さ」といいます。
点線は「力の作用線」で力はこの作用線どこに移動しても同じです。
回転に効く長さはLsinθ
力のモーメントNは
N=F×Lsinθ
=FLsinθ
つまり、この「回転に効く腕の長さ」であるLsinθと、力Fの積が、力のモーメントNとなります。やはり、計算結果は先程と同じくN=FLsinθとなります。
剣道の竹刀で力のモーメントを考える
まず竹刀の重心は、二本の指でささえられる真ん中の部分ということを抑えてください。そこが重心となります。
その重心から力を加える距離が力のモーメントの距離Lとなります。
それで、力点がFとなります。
この時、Lはできるだけ長い方が力のモーメントの値は大きくなりますので、剣道の端っこから力を加える「力点」となります。つまり、左手を「力点」右手を「支点」と考えることができます。逆に右手を「力点」とした場合、Lが左手を「力点」にした時より小さくなりますので、力のモーメントは小さくなります。したがって、剣道では、左手を「力点」にし、右手は「支点」するてこの原理となります。
竹刀の打突回転運動
剣道の打突は重心点が相手の打突部位より上の地点で竹刀を縦回転させればよいこととなります。
この原理を理解すると、上段や二刀流の際に片手打ちが成立するかイメージがわくと思います。
上段や二刀流の片手面の場合は、構えている時点で自分の竹刀の重心が相手の打突部位よりも上にあるため、竹刀の重心点を相手の打突部位の方向に放り投げるイメージで打突するように、つまり、重心が相手の打突部位に向かって直線に打突することになります。
しかし、一刀中段の面打ちの場合は、相手のメンよりも竹刀の重心点が下にあるため、一旦、重心点を挙げる必要があります。竹刀の重心点が放物線を描くような軌道で、打突する瞬間にだけ、左手を締めて、竹刀を縦回転させてあげればよいというわけです。
重心点が相手の打突部位よりも上に挙がっていれば、あとは竹刀を縦回転させてあげるだけである、これを理解すれば、無駄に振りかぶって打突する必要もありませんし、刺しメンになっていて打ち切るメンができない等といった悩みの部分は解消されるのではないかなと考えております。
投げる
野球のようにボールを投げる動作というのは、力のかかる方向が三次元的で非常に複雑に絡み合います。投げる動作を考える場合は、「角運動量」という概念も必要となります。剣道の竹刀の打突(突きを除いて)は縦回転だけ考えればよいのですが、投げるとなるとなると、特に野球のピッチャーの変化球というのは、スピンのかけ方というのが複雑になっていきます。