【CSR・SDGs取組み事例】良いものをいかにかっこよく魅せられるか。ホテル開業から続ける地元を伝え繋ぐこと。
一般的なビジネスホテルの経営から一転。「まちの魅力的な人・技・物を伝え繋いでいく」をコンセプトに、食材や備品にまで地元産の製品を活用する「アンカーホテル」を福山にオープン。続いて愛媛県の限界集落にあるロッジを全面改装した「水際のロッジ」をはじめることで、地域とのコラボレーションによる町の活性化を目指す取り組みが話題になっている。
話し手:
株式会社サン・クレア 広報 東 真貴 さん
今までのビジネスホテル経営とは異なる、地元のものづくりの良さを伝えるホテルに
――地域とのコラボをメインに打ち出したアンカーホテルがオープンした経緯を教えてください。
東 真貴 さん:アンカーホテルの立ち上げは2017年にはじまったのですが、その頃はオリンピック前でホテル業界全体の景気が良く、もともと経営していた「福山オリエンタルホテル」も満室続きに。お断りするお客様も多かったため、その受け皿として「別館」の形での開業を考えていました。そこでタイミング良く売り出された3軒隣の建物を購入し、改装する段階に至って「さてどんなホテルにしようか」と立ち止まりました。
オリエンタルホテルは一般的なビジネスホテルのため、費用を抑えるために、使っている食材も歯ブラシなどの備品も大手の汎用品ばかり。地元の良いものは高くて使えませんでした。
しかし、それでも私たちは30年福山でホテルを経営してきました。地元が作ってきた良いもの、受け継いでいた技術、魅力的な人がいることを知っています。「本当はこの街の良さを知ってもらいたいし、地元に貢献できる仕事をしたい」と考えるようになり、アンカーホテルが生まれました。
「国内外の方々に、このまちの魅力的な人・技・物を伝え繋いでいく」をコンセプトに、食材や家具、備品なども地元で作られたものを使用し、ものづくりの魅力を伝えるイベントや宿泊プランの企画も行っています。
――地域コラボが会社のCSRにも繋がっているということですね。
その通りです。最初は「この街のいいものを知って、使うきっかけになってほしい」という気持ちだけだったのですが、様々なものづくり企業に話をお聞きすると、「商品をもっと売りたい」という気持ちだけではありませんでした。後継者がおらず、受け継いできた技術を絶えてしまうことが、商品を売れるかどうかより大きな問題でした。これは、ものの良さを知ってもらうだけでは足りない、実際にどんな人がどんな想いで作っているのかまで伝えなければいけないと考えるようになりました。
そこでホームページでも、生産者についてや、ものづくりの背景を紹介。ホテルの1階でも、企業を集めたイベントやワークショップなども企画しました。また客室の備品にも多くの地元商品を使っているため、一晩を過ごすことで使い心地を試したりできるのは、小売店では出来ない、ホテルならでは魅力発信の手段だと思います。
ロッジを通じて限界集落の復活を目指す
――アンカーホテル以外のホテルの特徴も教えてもらえますか?
現在は福山にアンカーホテルを入れて2軒、愛媛県にホテルとロッジを2軒経営しています。
「福山オリエンタルホテル」はいわゆるビジネスホテルですが、2022年12月の頭から「働くビジネスマンの健康をサポートする」をテーマに営業再開する予定になっています。レストランでは地元農家さんから食材を直接仕入れ、なるべく手作りにこだわった朝食を提供。地産地消の食事で、出張中のビジネスマンの健康づくりをお手伝いしたいと考えています。
愛媛の「宇和島オリエンタルホテル」は、1階にコンビニエンスストアを併設するなど、利便性の高いビジネスホテルです。お客さまに寄り添った接客に定評をいただいています。
そして当社の中で最も“尖っている”と言えるのが、愛媛県の滑床渓谷の最上流にある、四万十川源流、森の国「水際のロッジ」です。もともとは町が持っていた施設を全面改装し、2020年3月にオープンしました。
――その“尖っている”水際のロッジとはどんな場所でしょう。
自然豊かな国立公園の中にあるロッジは、まさに「森の国」という言葉がぴったりですね。町自体が、森に敬意をもち、ありのままの自然を大切にする考えのため、あくまでも私たちは森の中にお邪魔している立場という感覚です。そんな町の考え方に代表の細羽が惚れ込んだのが、ロッジを引き継いだきっかけになりました。
実はロッジがある場所は愛媛県でも一番小さく、人口も最も少ない町です。中でもロッジの麓は人が200数人しか住んでいない限界集落。町の人と触れ合ううちに、おこがましい考えかもしれませんが「なんとかできないか」と思うようになりました。その頃には町に惚れ込むあまり細羽は家族での移住を決め、お米を作ったり、お祭りを復活させたり、パン屋さんをだしたり。ビジネスとしてのロッジの経営だけではなく、町を盛り上げようという活動にも取り組んでいます。ロッジの経営で儲けるというよりも、ロッジを通じて訪れる人に町の良さを知ってもらうとともに、雇用が移住につながったり、関係人口を増やす入口になればいいと思っています。
福山のアンカーホテルは「ものづくりの魅力」を知ってほしい。愛媛の水際のロッジは「土地と人の魅力」を知ってほしい。少し質は違うかもしれませんが、どちらも私たちの感じた魅力を多くの人に知ってほしいという気持ちから生まれています。
――会社自体が一般的なビジネスホテル経営から方向転換した分岐点は?
これは完全に新型コロナウイルスの影響ですね。最初のロックダウンで旅行客が激減し、ホテルも一度休館を余儀なくされました。その時は仕事の心配を超えて、この国はどうなるのかと考えるくらい。休館期間を終えて完全に手探り状態での運営を続けるなか、「やりたいことをやっていかないと、私たちの心がしんでしまう」と思うようになり、水際のロッジでの活動がはじまりました。会社全体の方向性が変わった分岐点になったと思います。
半分ホテルで半分農業、パラレルキャリアという働き方
――福山のアンカーホテルに戻りますが、ホテルのパーパスである「国内外の人にこのまちの魅力的な人・技・ものを伝え繋いでいく」は、お客さまに達成できていると思いますか?
実は私たちが最初に設定していた客層とは全然違いました。最初は40代・50代くらいのこだわりをもつ人がターゲットでした。しかし旅行自粛のムードが起こり、ターゲットとする年代が動かなくなり、逆に若者層の旅行が活発になることで、アンカーホテルも若年層が多く訪れるようになりました。
そうするとSNSで「館内着がデニムで可愛い!」と紹介してくれたのです。物のクオリティが分かる大人ではなくても、若い世代にだって地元のものづくりの良さはしっかり伝わっていると、意識がガラッと変わりました。その後は若年層へのアプローチを強化し、写真の撮り方から、プランなどを変え、インスタグラムなどのSNSを利用したPRをメインにしています。
――地元に住んでいるとわからない魅力を再認識するきっかけになりますね。
どうしたら地元で生まれた製品をかっこよく魅せられか、一番気を配っているポイントです。例えばベッドスローにデニム製品を使っていますが、これも普通のものでは面白くない。コーディネーターである株式会社ディスカバーリンクせとうちさんに「癖のあるデニムを使いたい」とお願いして、あまり見たことのない個性的な柄を選んでもらいました。当たり前のものではなく、自分たちのフィルターを1枚通してお出しするということは、大切にしていますね。魅力が最も伝わる見せ方には人一倍こだわっています。
――ホテルづくりのこだわりが、インナー向けにも良い影響を与えているのではないですか?
例えばアンカーホテルで働くためには、この街やものへのお客さまからの質問には、答えられないといけません。やはりものづくりへの知識はもちろん、この街で何がおきているか、アンテナを張って自分で情報収集するようになったと思います。当社の社会貢献としての活動を知り、共感してくれて就職を目指す学生が増えたのも嬉しいことですね。
また当社ではインターンを数多くとっており、現在は10人以上を受けて入れています。最終的に入社してくれる人を探す目的でインターンを受け入れる企業も多いですが、それよりもコロナ禍で社会との関わりが減ってしまった学生たちに、会社として、大人として何か提供できないかを考え、数多くのインターンを受け入れています。
――今後の目標、取り組み予定があることを教えてください。
子ども向けのものづくりツアーの開催が目標です。福山に住む子どもたちが将来、生まれ育った街の産業に誇りがもてるか、かっこよく語れるかは、その子の価値になると思っています。大人になって「自分がやりたいことはなんだろう」と迷う時に、子どもの頃に見た「働く大人のかっこよさ」を知っていることが、大きな力になると確信しています。
また新しい働き方「パラレルキャリア」の推進も、現在取り組んでいることのひとつです。例えば半分ホテルの仕事を、半分は農業をするなど、本業を持ちながら第二の活動をする「パラレルキャリア」。これは水際のロッジの方で先行してはじめています。1つの仕事にこだわるのではなく、働く人それぞれの可能性を広げるきっかけになればと考えています。
(記事初出:2022年10月13日)
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