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【CSR・SDGs取組み事例】地域の方々にきっかけと影響を与えるエンタメの場「どこでも映画館」

 全国どこでも出張して映画上映するサービス「どこでも映画館」を、およそ50年前からおこなっているフューレック。「映画は映画館でしか見られない」という認識をなくしたい想いから、各地を駆け回って人々に感動やつながりを与えてきた。わくわくや感動だけではない「どこでも映画館」が提供するさまざまな”きっかけ”とは。出張上映を担当する酒井さんから話を聞いた。

話し手:
 株式会社フューレック 映像事業部 営業推進セクションチーフ/出張上映担当 酒井 宏雅 さん


【学生・若者リポーターが取材!】
今回は専門ライターではなく、若者リポーターが取材をおこないました。
大人の視点ではなく、これからの備後を担う若者の視点から企業の取り
組みを深掘ります。
[日常的に地域の学生・若者と企業をつなぐプロジェクト]


●企業紹介
株式会社フューレック

 明治30年創業、映画興行を中心にお客様に感動を届ける事業を展開。備後地方初のシネコン(複合映画館)としてエーガル8シネマズを誕生させ、2015年には中国地方で初めてIMAXRデジタルシアターを導入。多様な映画体験をお届けするため、常にアップデートを続ける。映画館のない地域への出張上映も積極的に取り組み、あらゆるつながり・きっかけ・思い出を創出するエンタメ屋。

●リポーター紹介
ウォーカー・ジョン・リチャードソン(通称ジョン)

 日本生まれの19歳で、地元の全日制普通科高校を卒業後、現在は海外留学中。(2023.7月時点)
英語、日本語をたくみに操り、見た目は外国人、中身はバリバリのびんご人。
自分の意見をしっかりと伝えられ、楽しいことに好奇心旺盛なまさに福山の若者代表。


全国どこでも映画を楽しんでいただきたい

――ジョン:どこでも映画館の事業について教えてください。

 酒井宏雅さん(映像事業部 営業推進セクションチーフ・出張上映担当):ご希望の場所に出張して映画上映を行うサービスです。この活動自体はすでに50年ほど行っていますが、より活動内容を知っていただけるよう、約3年前に「どこでも映画館」という名前をつけました。
 はじめたのは現在の社名に変わる前で、35ミリフィルムの時代。その頃から比べると、デジタル化によって機材は持ち運びしやすくなり、活動範囲もぐんと広がりました。いまは劇場で使うプロジェクターを小型化した移動上映用の機材を使っており、必要な電源も200ボルトから100ボルトへ。小型発電機も導入したので、まさに「どこでも映画館」の名前通り、全国屋内外を問わずどこでも出張できるようになりました。

――どんな場所で上映を行っているんですか?

 ホールや会館、体育館、会議室など、スペースがあれば場所は問いません。夏は野外も多く、尾道の浄土寺の境内で行ったこともありますよ。依頼は個人から団体までさまざまな、条件や予算があえばどこでも行かせてもらっていますね。

――海辺とかどうですか? サンセットビーチで映画とか最高にエモいと思います

 海辺ですることもありますよ。スクリーンを張るものが必要なので、建築現場のような足場を組むことになり、通常よりちょっと費用がかかりますが。足場を組むのが難しい場所では「エアスクリーン」というものを使用します。
 これは「ドライブインシアター」のために導入しました。送風機2台を使用して使い、空気で膨らませるとL字型に自立するスクリーンです。足場を組めない場所で活用していますが、海辺の場合は風があるのでちょっと難しいかな。

――ドライブインシアター!友人が見たと言っていました。確かエフピコアリーナの横のあたりでやっていた、車に乗ったまま映画鑑賞ができるものですよね?

 そうです、芦田川での上映会に来ていただいたんですね。自分たちの社名を出していない場合も、実はいろいろなイベントにお邪魔させてもらっています。

――依頼の条件によって断ることもあるんですか?

 野外だと時間帯によってはお断りすることがあります。私たちがもっている機材は昼間には対応していないので、希望の時間帯には不可能なことも。あとは野外だと天候によって左右されるため、上映当日に中止となる場合もあります。

身近な場所に出張することで、映画鑑賞を外出のきっかけにしてほしい

――「どこでも映画館」をはじめるきっかけは?

 「映画は映画館でしか見られない」という認識をなくしたいと考えたのがきっかけです。特に映画館へ行くのが困難な地域や人に対して、もっと身近な場所で映画を楽しんでいただけたらと考えました。定期的に開催をしている会場では、毎月来るのを習慣にしてくださっている方もおり、楽しみにしているという声を聞くと嬉しく感じます。

 また近くに映画館はなくても、立派な公民館やホールを使用する場合も多いので、そのような場所を活用するきっかけとしても、映画は役立つと感じています。

――最近はサブスクが出てきたり、YouTubeやTikTokなどの短い動画が入ってきたりしていますよね。映画が見る人数は減っているのでしょうか?

 いえ、むしろ増えています。動画などで「この映画良かった」と発信してくれる人もおり、話題を共有したいという気持ちが口コミとなっているのでしょう。何度も映画をみるリピーターの存在をメディアが取り上げたことで、興味をもってもらえています。

 確かにサブスクや以前から行われているレンタルなど、気軽に映画が見られるコンテンツはありますが、「どこでも映画館」で持っていく映画を見てもらえないかというと、そうではないです。例えば、ある子ども会主催の上映会で『ミニオンズ』が決まっていたけれど、その直前にテレビ放送が行われてしまったことがありました。しかし上映会に子どもの来場が減ったということはないですね。

――確かにみんなが見たってSNSとかに出ていると、見たくなるかも(笑)改めて、それだけ沢山の方が外に出て、足を運んで観に来てくださるというのは本当にすごいことだと感じます。人を動かす「どこでも映画館」を通して、どんな問題が解決できると思いますか?

 出張上映に来てくださる方は、映画館に行きたくても距離があったり、移動手段が少なかったりする高齢者の方が多いです。そういう方にとっては、知っている場所、しかも歩いていける距離で映画を見ることができます。そして「映画を見に行く」ことが「外出するきっかけ」になり、知り合いや友人との交流の機会も増える。「どこでも映画館」は、こもりがちな高齢者の方の外出するきっかけとして機能しているのではないかと思っています。

――なるほど。それは大きな役割を担っていますね。

上映機材の進化と長年積み重ねた工夫により、“どこでも”を可能に

――上映をするにあたって特に大切にされている考え方はありますか?

 やはり依頼されて伺うので、喜んで帰っていただけるよう、ミスなく上映を行うこと。人生の中で楽しい思い出として残るような上映をしていきたいと思っています。特に野外上映は子どもに人気で、野外で映画を見る機会なんてめったにないので、とても喜んでいただけます。

――どこでも映画館をはじめて30年以上とお聞きしましたが、最初の頃は苦労もあったのでは?

 まずは出張上映というものがあることを、どうやって認知させるかだったと思います。最初は固定の会場からはじめて告知物をみなさんにお渡ししたり、窓口になっていただける公民館などの会場にアプローチをかけたり、各市町に資料を送って提案したり、そこからだんだん枝を広げていきました。

――いろんな場所で上映できるよう、エアスクリーンなどの設備も30年の間に進化していったんですね。

 そうですね。手作り感は満載ですが、どんな条件でも上映ができるように工夫を重ねていきました。依頼してくださった方、見に来てくださる方の期待を少しでも超える気持ちで、どの会場もやらせていただいています。予算はもちろん決まっているのですが、この予算ではちょっと難しいかな?というところも、なんとか喜んでいただくために工夫を凝らし、同様のサービスを提供する他企業と比べても安価な部類に入ると思います。

――お話を聞いてたら、なんだか映画が一本できるんじゃないかって気がしてきます。

 確かに(笑)。「どこでも映画館」をはじめる少し前に定年で辞められた映写技師さんがいるのですが、独自の技法はひとつのショーになるくらい、見栄えがしたと思います。通常の35ミリフィルムの映写機は1作品で2台使うのですが、いくつかのフィルムをつなげてリールに巻きつけたものを各映写機にセットして、前半と後半で切り替えます。この方は映写機1台しか使わず、フィルムの先端が終わるか終わらないかの一瞬を見極めて、テープで止めてつなげます。少しでもずれていたらローラーの枠にハマらず止まってしまう。この「流し込み」という技術は、今ではできる人は、そうそういないと思います。

映画を楽しんでいただける機会を増やすことで、未来のクリエイターに影響を与える存在に

――今後の目標をお聞きしてもいいですか?

 「どこでも映画館」の名前どおり、全国いろんな場所にお伺いできるのが一番です。年間100ヶ所は行きたいですね。あとは自分たちが上映しに行くだけでなく、自分たちでやってみたいという団体に、素材提供していく配給業務にも力を入れていきたいです。

――今は高齢者の方が多いと聞きましたが、ナイトプールでの開催やフクヤマニメのようなイベント参加は、若い層をターゲットにした挑戦だと思いますがいかがですか?

 そうですね。今は固定の方ばかりになっているので、掘り起こしが必要だと感じています。ただ若い方はスピードが速く、移動上映が決まった時にはすでに映画館で見ている。若い人たちにどうアプローチしていくか模索中です。

――「どこでも映画館」が目指していることは?

 少しでも映画や映像の分野に興味をもってもらい、子どもたちに「こんな仕事につきたい」と思ってもらえると嬉しいですね。実際に広島出身で活躍している映画監督や美術監督などが出てきています。この方達が映像に興味を持ったのは、やはりどこかで映画をみたという経験からつながっていると思うのです。私たちの仕事が、このような方々の影響を与えるような存在になっていたら喜ばしく思います。

――映画館の仕事に興味がでてきました。ぼくなら俳優になるのもいいけど(笑)

 酒井さん:(笑)

 [自信満々な若者リポーターの発言で終始明るい取材現場でした。ご協力いただいた皆さまありがとうございました!]

(記事初出:2023年7月20日)


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