【CSR・SDGs取組み事例】誰もが人生を全うできる社会の実現を目指し、一人ひとりが生きがい・働きがいを感じられる環境をつくりたい
遺品整理・生前整理を手がけるココピア。孤独死の現場に出くわすことも多い。そこでは、人生を全うできなかった故人の手紙に触れる事もあるという。「これはかなり大きな社会問題ではないのか?」この意識がSDGsとリンクし、自社にSDGsを取り入れるようになった。TEGO-LAB(テゴラボ)が運営するラジオ番組「ひも解くト~ク」でパーソナリティも務める、ココピア取締役の藤原真由美さんにSDGsを実践した成果と、これからの取り組みについて聞いた。
話し手:
株式会社ココピア 取締役 藤原 真由美 さん
株式会社ココピア スタッフ 小笹 倫 さん
孤独死や自死のない街づくりを目標に
――遺品整理、生前整理を手掛けるきっかけは?
藤原真由美さん(以下、藤原):弊社は2012年に社長である夫が起業しました。その頃は高齢者の単身世帯の増加や孤独死といった問題が表面化されはじめ、遺品整理・生前整理という仕事が目に入りはじめた時期ですね。当初から社会貢献という意識はあったものの、現在のような強い思いで仕事に取り組みはじめたのは、ある若者の遺品整理を手がけたことがきっかけです。「会社の社員寮で若いスタッフが自ら死を選んだ。その部屋を整理・清掃してほしい」という依頼でした。
部屋に入って遺品を整理していると、彼女に宛てたのかな?と思わせる手紙など、彼が生きた跡をいたるところに見つけたそうです。しかし、外国から働きにきた彼は身寄りがなく、整理しても遺品を届ける人が見つからないことが分かりました。「だったら僕が最後に彼と会話する気持ちで片付けよう」と考えたことが、ターニングポイントになったと言います。
彼の想いは誰にも伝えられず、覚えてあげる人もいない。「これはかなり大きな社会問題ではないのか?」と感じ、そこから自殺者や孤独死の仕事は一度もお断りしたことはありませんね。その後は社長の遺品整理への思いを共有してくれるスタッフが集まり、今に至ります。
――SDGsを自社に導入しようと思ったのはなぜ?
藤原:SDGsを知ったのは約3年前のことです。社長がJC所属時代にSDGs推進会議に参加し、SDGsアンバサダー(外務省公認)を取得するなどの活動をしている時に、はじめてSDGsを知りました。
これまで孤独死に伴う遺品整理を手掛けてきた経験から、孤独死に至る生活困窮やひきこもりなどの問題を感じることも多かったんです。長年自分の中にあったその気持ちとSDGsがリンクし、「もっと知りたい!」と。そこで、SDGsビジネススクールに通い始めました。最初は、自分自身が学びたい気持ちと社内導入できればという思いが一致し、スクール半年間で修了。ですがまだまだ学びたいと思い、社内導入をしながら、さらに応用コースやカードゲームなど学び、自社での取り組みもできるようになり、岡山信用金庫主催のSDGsアワードで入賞。
それがきっかけで他社や地域、学校などワークショップを行うようになりました。学んでいるうちに、私の実現したいことを模索するように。そしてたどり着いたのが、「誰もが人生を全うできる社会~孤独死や自死のない街づくり~」という目標です。
カードゲームを使った体験スタイルの研修で、SDGsの社内理解を深める
――SDGsを学んだ後、会社にのように浸透させましたか?
藤原:SDGsの基礎知識を学ぶ勉強会を定期的に行うとともに、カードゲームを使った研修なども行いました。例えばこれは、SDGs達成に向けたアイデアを創るカードゲームです。貧困や人権、教育などの社会課題に対して、さまざまなリソースを使って解決へのアイデアを出していくもの。座学だけでなく、ゲーム感覚で参加できる研修を行ったのも良かったですね。社内ではもちろん、企業間で行っても今までとは違ったアイデアが生まれておもしろいですよ。また新しい取り組みを行う時には進捗を必ず全員で共有するようにしています。研修では、社員自身が社会や誰かの役に立てていることが実感でき、バックキャスト(目指す未来を起点に解決策を見つける考え方)を意識する内容を心がけています。技術的なことも大切ですが、一人ひとりのお客様にどう向き合うべきか、考えることを大事にしていますね。
小笹倫さん(以下、小笹):最初はSDGsがどんなものか知識ゼロ。入社後に研修やカードゲームなどを通じて、世の中には貧困や環境破壊などのさまざまな問題があり、それを地球全体で解決していこうとしていることを知りました。自分もしくは会社が取り組んだことが、社会がもつ問題という大きな課題の解決につながっていく。それは今までにない感覚で、とにかく新鮮な気持ちになったのを覚えています。
――SDGsの講習を受けて自分の中で変化したことはありますか?
小笹:身近なことではあるんですが、通勤途中に1つは必ずゴミを拾うようになりました。大谷翔平選手みたいに(笑)。
もともと入社を志望したのは、社会の役に立つ人間になりたいと思ったのがきっかけでした。SDGsに取り組んでいることは知らなかったんですが、社会貢献に熱心な会社という意識はあり、そこはピッタリだったなと思ってます。
藤原:たまに朝、空のペットボトルを持っていたのは拾ったゴミだったんだ(笑)
貧困・ひきこもり問題を解決するために、私たちができること
――SDGsを遺品整理の仕事にどう活かされていますか?
藤原:2021年から就労支援A、B型事業所5社と連携して、遺品整理・清掃のお仕事研修を実施。就労支援の一貫として、その方たちの生きがいや働きがいを作る活動を行いました。研修後も施設外就労として弊社の仕事を依頼する機会を設け、継続した就労支援に取り組んでいます。現在も頼れるスタッフとして、自信をもって現場に入ってくれていますね。
研修では技術的なことだけではなく、仕事に対する気持ちや心がけも教えます。遺品整理の現場には手を合わせてから入るんですが、「次は数珠を持っていこうと思う」と言う方もいて、伝わっているんだなと感動しました。
小笹:僕は講習する側ではなく、就労支援の方と一緒に現場で働く形だったんですが、皆さん本当に意欲的なのが印象的でした。僕らはずっと仕事をしている分は、少し力を抜くタイミングもありますが、就労支援の方は最後まで全力です。力仕事は社員側でするんですが、「手伝います」って言ってくれて、嬉しかったですね。
藤原:また、遺品のお洋服などのリユース活動にも取り組んでおり、今後はさらに強化していこうと考えいます。
――17の目標のうち「12.つくる責任 つかう責任」は業種的に重視されているのではないかと想像していましたが、「8.働きがいも経済成長も」「1.貧困をなそう」をより意識されているの感じます。
藤原:そうですね。やはり自殺者や孤独死の現場に立つと、なぜそこに至ってしまったかを考えてしまいます。一人でも働きがいや、生きがいを感じ、働いて頑張ろうって思えるようになれば、この状況は変わるかもしれないと。そこで就労支援との連携をスタートしました。就労支援の事業所には、身体的な障がいをもっている方はもちろんですが、心の障害を抱えている人も多くいらっしゃいます。本当は就労支援にたどり着いていない人にこそアプローチが必要だと考えていますが、これからの課題ですね。
廃棄される服をできるだけなくす! 買取やリユースを強化した新事業
――SDGsを実施して得られた成果を教えてください。
藤原:SDGsを意識した取り組みをはじめてから、お客様からの選ばれ方が変わったことを感じます。私たちの活動を知って「気持ちのこもった丁寧な仕事」と信頼されるようになり、大手企業から受注をいただくことも増えました。名前を知っていただくことで契約にもつながりやすくなり、紹介のお客様も増えました。
また若手社員の入社が増えたことも、大きな変化です。社会問題に対する弊社の取り組みに共鳴してくれる方、自分自身が社会の役に立ちたいと思ってくれる人、そんな意欲的な若い世代が多く集まり、昨年の採用は採用3人に対して100人以上の応募がありました。SDGsの導入によって働き方を見直し、残業や時間外労働をなくし、副業もOKに。健康や体力づくりのためのフィットネスジムの費用負担などもはじめました。弊社の社員も休日はデザイナーとして活躍している子や、小笹くんのように休日に子どもたちに野球を教えたりしています。
――今後の目標を教えてください。
藤原:買取やリユースを強化した新事業の立ち上げです。遺品整理で出たものは、まだ使えるものでも、分かりやすいブランド品でなければほぼ廃棄です。それらをリユースにつなげる事業を、就労支援の方と共にできるよう、システムづくりを行っています。買取・リユースを強化することで、お客様が遺品整理ではなく生前整理(元気なうちに片付ける)の選択につなげ、残された家族、未来の自分、未来の地球のためにも負荷のない循環をつくるサービスを目指しています。
また洋服のアップサイクルを目的とした、地元デザイナーさんや学生さんとのコラボによるファッションショーも計画。さらに、ひきこもりや障がいのある方などのコミュニティづくりも目標に掲げています。自社だけでなく、地域の自治体や企業も巻き込んで、みんなで取り組んでいきたいですね。
(記事初出:2022年10月13日)