【CSR・SDGs取組み事例】篠原テキスタイル株式会社 | “世界”から俯瞰したときに選んでもらえるか? 新たな挑戦から「篠原がいい」と言ってもらえるように。
ふわふわした履き心地の良さそうな靴下「SHINOTEX(シノテックス)」。企画したのはデニム生地をつくる「篠原テキスタイル」。SDGsの取り組みの一環としてスタートした。他にも、デニムを通じた異業種とのコラボがまた新たなコラボを呼び、時にはメディアに取り上げられる。本業がありながらも、何故そこまで精力的に活動をしているのか。そこには世界を相手にしたときに、自社を選んでもらうという思いがあった。
話し手:
篠原テキスタイル株式会社 代表取締役社長 篠原 由起 さん
環境負荷の高い産業に身を置く中で何ができるか
――SHINOTEXを作り始めたきっかけは?
篠原由起さん:弊社はデニムの生地を織る工場で、織物で使えないような少量の残糸が大量に出ていました。これをまた何か別のものに生まれ変わらせることができないかと思ったのがきっかけです。織物は大量の糸が必要なんですが、編み物って発想にすると残糸を集めれば靴下1足はできるのではないかと。弊社の営業が企画して、お付合いのあった靴下工場の桒原ニットさんにご協力いただいてSHINOTEX1号のローゲージソックスが完成しました。靴下の他にも、手袋やニット帽、キズなどの不良で規格を外れたデニム生地でつくったスリッパやペンケースもあります。
なので、はじまりは今まで産業廃棄物として捨てていたゴミを少しでも減らそうかという考えからです。
――ずっと余った糸がゴミになるということには悩まれていたと。
悩んでいたというよりも、そもそもアパレルをはじめとするファッション産業は、世界的に見てもエネルギー産業の次に環境負荷が高い産業で、注目されやすいんです。「環境汚染」というワードが出てくると大体ファッションが関係してるっていう。大量生産・大量消費、商品をつくるときにエネルギーもすごく使う。デニムも例外ではありません。そもそも綿からできているので、種から綿が育つのにも水の消費量もかなり多いです。綿を育てるとき、綿からできた糸を染めるとき、あとは織り上げた後で製品に縫ってまた洗って色を落とすとき。あらゆる工程で大量の水とエネルギーを使います。その中で自社ができることからやっていこうという第一歩目でした。
デニムに関わる会社ならではのデザインとコンセプトに
――開発まで、どのようなところに苦労がありましたか。
まずは織物と編み物で糸の種類が違うことです。厳密に言うと糸のねじり具合が違うんです。織物用はしっかりした糸でないといけないので結構ねじる。それを編み物用で使うと生地がすぐにクルクルとねじれてしまうんです。あとは、デニムの糸は普通の糸より太いことですね。それでできた靴下なので、靴下自体も若干ねじれています。ただ実はそこが一番の特徴になっていますね。糸が太いので結構ふっくらした仕上がりにはなってますが、編み目の粗い機械で編んでもらってるので、ふわっとしていて糸は太いけど、履いたときに暑苦しくないものをつくることができました。
――作る上でこだわったポイントはそのあたり。
そうですね。履き心地のところ。あと、せっかく弊社がつくるので、ジーパンと合うデザインということは意識しました。また、つくる上で、安っぽいものは作りたくないと思っていましたね。結局ファッションが大量生産・大量廃棄される理由って、安くて今シーズン限り着れればいいという考えからだと思うんです。そういった考えが環境負荷を与えてるので、SHINOTEXは、長く使えて飽きない形にして。人に話したくなるストーリーもあるのでそこを大事に伝えるようにしています。販売をお願いするお店も地域のいいものを丁寧に発信しているところに取り扱っていただいております。
――SHINOTEXの反響はいかがですか?
気に入った方はリピートして全色買ってくださることもあります。
また、商品のコンセプトに共感していただけるところ。例えば、地域のモノづくりや歴史を伝える丁寧なコンセプトを持っている旅館さんに館内用にスリッパを採用いただくとか、新規のお取引もありました。あと、デニム生地を買いに来たお客さんには、「こういうこともやっている」とある意味ブランディングにつながっています。既存のデニム生地を買っていただいているお客さんにも、どこから生地を仕入れるかという判断基準として、会社としての環境保全への取組みや姿勢も意識されるので、こういった活動をしていることがメリットになっている印象は受けます。
世界を相手にするために、ややこしいことにも挑戦する
――他社との協業やコラボも多いと感じます。最近で印象に残っている案件はありますか?
最近だと、今年5月くらいに参加した某飲料メーカーさんのオリジナルジーンズをつくるプロジェクトでしょうか。飲料製品の製造過程で出る原料の搾りかすなどを、和紙から糸にして最終的にジーンズに仕上げるという。数十本限定で募集して、抽選で当たったら買えるというキャンペーンで展開をしたと聞いていて、応募倍率が40倍以上の反響があったとか。これってすごいなと思って、アパレルブランドではない発想と反響に驚きました。飲料メーカーがつくった、生産工程で出る搾りかすなどを再利用したジーパンだから可能性があるんだなと。この商品で弊社は和紙からつくった糸を織ってデニムにする工程を担当したのですが、新しい素材を扱うというところで難しさはありました。言ってしまえば糸に不純物が入っているわけなので。
――こういった協業やコラボを通じて、新しいことに挑戦するという機会も結構ありますか?
ありますね。先ほどのコラボでつくった生地を見てくださった方から、「こんなの織れますか?」とお話しをいただくこともあります。今あるのは、お茶っ葉の捨てる部分を生地にできませんか、といった話。できるかな、どうかな、みたいな…。(笑)
こういった話って弊社が前例を持ってるから来るわけで、「ややこしそうだからやらないです。」って言ってたら何もなかったと思うんです。やってみてもいいかなと思っているうちはチャレンジをしていこうと。
――ややこしいことに取組むのは大変だと思います。それでも挑戦する理由は?
デニムって世界中で作っているんですよ。織物なので世界中にある。価格でいくと中国・トルコ・ブラジルの方が圧倒的に強い。それって綿が取れる国でもあって、人件費が安いので。その中で勝負をしていくとなるとごく普通の生地を織っていてもしょうがない。今までにないものとか、より付加価値の高いものを作っていかないと。こういった意識からややこしいことにも挑戦しています。簡単に織れるようになるまで弊社で改良しますし、原料もこういう改良をしてくれたら織りやすいという話もします。ややこしいことをクリアすることで技術力が上がり、弊社でしかできないことが生まれる。日本で製造業を続けるなら挑戦が必要だと思いますね。
小さい頃の発見はずっと残る。だからやらない手はない
――地元貢献という意味では、小学校とかの工場見学も積極的に受け入れていらっしゃいますが。
僕が声を掛けている訳でないのですが、色んな記事を見た方にお声掛けいただいてます。年間、小学校でいくと4~6件程度。高校の探求の授業とか、大学生が卒論の参考にしたいので見学させて欲しいといった申し出も通年通していただいている感じです。
子どもの時に社会見学でいったパン屋さんとか、僕は結構覚えてるんですよ。それで大人になってもあそこのパン屋さんでパン買おうかなって気になる。社会見学で行く場所ってそのジャンルの初めてのことが多いので、それはそうだと思ってて、小学校の時に見た衝撃的な音のする織り機とか、デニムって大きいなっていう発見ってずっと残ると思うんですよね。それが大人になって自分で服を買う時とか、就職先を選ぶ時とかに、そういえばデニムって面白かったなって思い出されて、選んでもらえたらいいな、と思うんです。結果につながるまで長いですけど、毎年500人受け入れてたら、10年で5000人。そしたら福山の人口の数パーセントにはなるじゃないですか。それならやらない手はないかなと。
――これからも、長くこの地でやっていくためですね。
やっぱり地元の方に認識して頂かないと。何をやってる会社か知ってもらわないとね。お店にある商品はわかっていても、それを弊社でつくっていることは伝わらない。だけど、子どもたちが見学に来て、家に帰って話したり日記に書いてくれたら、お家の方にも知ってもらえてその輪は広がるかもしれない。知ってもらって気にしてもらっていれば、選んでもらえる可能性が広がるでしょ?
――今後の目標や、取り組みたいことを教えてください。
面白いことはどんどんやっていきたいと思っています。アパレルでないところとのコラボとか。デニムって基本ジーパンのイメージかもしれないけど、カーテンや壁紙にもなるし。あとは、飲料メーカーさん始め、異業種とでもデニムという素材を介して一緒にできることがあるとわかったので、可能性はすごく感じています。
あと、本業としては、デニムの生地売りがメインなので、いかにこれを増やしていくか。海外ブランドさんに認知してもらうというところですね。生地商社さんを経由してヨーロッパやアメリカのハイブランドに弊社の生地を使ってもらったりしてますけど、今は「篠原で織ってるからこの生地を買う」というブランドはあまりないので。篠原テキスタイルという会社の取組みを知って評価してもらえれば指名買いに繋がるかもしれない。そのためにInstagramとかのSNSを通じて取り組みを発信していくことは大切だと思いますね。価格じゃないところで勝負していかないと。
ヨーロッパだと廃棄物ゼロやトレーサビリティが重視されている中で、商品に使われる生地や糸をどの会社で作っているのか開示されてくる可能性もある。そしたらその時に選ばれるための活動をこちらも進めておかないとと考えています。
(記事初出:2022年10月13日)