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手紙社リスト映画編 VOL.1「キノ・イグルーの、観て欲しい『東京(TOKYO)』な映画10作」

あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「東京(TOKYO)」。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーのおふたり。5本ずつ、お互い何を選んだか内緒にしたまま、ライブでドラフト会議のごとく交互に発表しました!

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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。

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−−−まずはジャンケンで先攻・後攻を決めました。勝ったのは渡辺順也さん(以下・渡辺)。先攻を選択し、後攻は有坂塁さん(以下・有坂)に。ビールを飲みながら、後半に向けて加速していきます!

渡辺セレクト1.『AKIRA』
監督/大友克洋,1988年,日本,124分

有坂:おおー。
渡辺:これはアニメ映画で、作られたのが1988年なんですけど、原作の漫画は1982年なので約30年前の作品になります。漫画の作者も映画の監督も、大友克洋です。すごいのが設定で、2020年に東京オリンピックを控えた“ネオ東京”が舞台なんですよ。30年前の作品なのに、もう2020年の東京オリンピックを予言していたという(笑)。当時としては近未来を描いてたわけなんですが、この予言力! 去年、ちょうどコロナ禍でリバイバル上映をやっていて、久々に観たんですけど、やっぱりメチャメチャ面白くて……。これは東京オリンピックを控えている、このタイミングで観るのがベストだなぁ、と。配信とかレンタル店とかで普通に観ることができるので、ぜひ近未来の東京、観てみてください。
有坂:その手があったね! 俺完全に『AKIRA』は抜け落ちてた。去年順也大興奮してたもんね、そういえば。
渡辺:そう。これは絶対に被らないと思った。


有坂セレクト1.『転々』
監督/三木 聡,2007年,日本,101分

有坂:『時効警察』と同じ三木監督とオダギリジョーのコンビ作なんですけど、本当に東京の色んな風景を楽しめる作品と言えば、この作品を置いて他には無いんじゃないかというくらい、色んなロケーションが出てきます。
渡辺:うわ、被った!
有坂:ふふふ。このお話は借金をしてるオダギリジョーが、借金取りの三浦友和に「散歩に付き合えば借金帳消しにしてやる」と言われて、仕方なく付いてくところから物語が始まって、どうして散歩に付き合うと借金がチャラになるのかとか、そういう展開があるんですけど、それは観てのお楽しみとして、この映画の出発が……
渡辺:吉祥寺ね。
有坂:そう、吉祥寺の焼き鳥の“いせや”からスタートして、終着点が霞ヶ関というね。その途中に、新宿だったり上野動物園だったり、浅草の花やしきだったり。
渡辺:パッケージになってるイチョウ並木は神宮外苑だったりね。
有坂:あとね、調布。この(手紙社の)近くの調布飛行場も出てきます。あと、日暮里の愛玉子(オーギョーチィ)とかも。ということで、散歩が好きな人に。散歩をするようなゆったりとしたリズムがあって心地良いし、季節的には秋。東京の秋の様々な風景を見ることができるので、ステイホームのゆったりとした時間の中で観るのにはとても良いんじゃないかな、と思います。
渡辺:キノ・イグルーとしてもね……
有坂:そう、以前これを浅草のホテルの屋上で野外上映したことがあって、その時は浅草の助六寿司をシュウマイ付きで楽しむなんてこともして、個人的にも思い入れのある作品で、観てない人には本当にオススメです。
渡辺:どうして散歩に付き合わせたのかっていう謎とかね、映画の話自体も面白くてね。やっぱり、被りましたね(笑)。


渡辺セレクト2.『珈琲時光』
監督/ホウ・シャオシェン,2003年,日本,103分

渡辺:これは台湾の監督、ホウ・シャオシェンという巨匠が日本で撮影した映画ですね。お茶の水だったりとか、神保町だったりとか高円寺だったりとか、東京のちょっといい雰囲気の場所がロケ地になっていて。しかも監督が台湾の人ということで、外国人から見た東京の魅力という視点で描かれているんです。例えばお茶の水の、中央線と総武線がクロスする……
有坂:立体でね。
渡辺:そう、立体でクロス。台湾から見るとああいう電車自体が珍しいですし、赤と黄色の電車が立体でクロスする光景とかね。僕らには見慣れた日常なんですけど、外国人にとっては物珍しい「これぞ東京」な風景なんですよね。あと、神保町の喫茶店だったりとかご飯屋さんだったりとか、何か東京の散歩で巡っても楽しいようなところがロケーションに選ばれてるんですけど、その撮り方もとても綺麗ですし、一青窈とか浅野忠信とかキャストの佇まいなんかも雰囲気にマッチしていて、映画としてもとても雰囲気の良い作品です。外側からの視点で、改めて東京の魅力に気付かされるというか……。これは絶対被りそうだな、と思って早めに持ってきました(笑)。
有坂:そうなのよー。これ実はラストの5本目に出そうと思って(笑)。ちなみにこの作品は元々、小津安二郎生誕100周年を記念して、小津を尊敬しているホウ・シャオシェンに東京を舞台に映画を撮ってもらったというもので。言わば台湾版『東京物語』という意味合いで、日本人としてもとても期待値が高まった映画だったんだけど、小津とはまた違ったアプローチで、順也が言うように外国人目線での東京の楽しみ方というか。だからこの映画観るとロケ地に行きたくなるよね。行ったもん(笑)。
渡辺:俺も俺も(笑)行った。
有坂:(珈琲)エリカとか天ぷらの“いもや”−−−萩原聖人がやってるね、とか。
渡辺:ちょうど今から20年前くらいに撮ってた映画なので、今ではだいぶ変わった東京の風景が楽しめるというね。
有坂:もうエリカも無いもんね。
渡辺:無いんだ! 東京の風景ってすぐ変わってしまうんでね、20年前の東京がしっかり残っている映画ということで、そういう部分でもすごくオススメです。


有坂セレクト2.『野獣狩り』
監督/須川栄三,1973年,日本,83分

有坂:(持参したDVDを出して)ジャン!
渡辺:わー!
有坂:手紙社の企画なのに「何で藤岡弘、?」と驚かれる方もいるかと思いますが……これは、知られざる傑作アクション映画です。1973年に作られた東宝映画で、主演の藤岡弘、が仮面ライダーでブレイクした後、色んな映画に引っ張りだこな状態で。そんな中で彼はこのプロジェクトを選んで参加したんですけど。この映画は舞台が銀座なんですね。刑事ものなので、ストーリーはよくある感じなんですけど、とにかく銀座を背景にした撮影が素晴らしいんです。
渡辺:うんうん。
有坂:で、これ実は全編ゲリラ撮影で撮っているので、銀座の街中で犯人を刑事が追いかけてるとか、そういう撮影も無許可でやってるから、その周辺を歩いてる人たちが驚いてる素のリアクションがカメラに収められてます。ということでこの映画は藤岡弘、とか出演している俳優だけじゃなくて、1973年当時の人々のファッションの記録にも、街の記録になっていますし、その時代の街の空気が閉じ込められた映画なんですね。ドキュメンタリータッチの刑事アクションになっています。無許可で撮っているので、途中でビルの手すりが無いようなところを藤岡弘、が歩いてるシーンで、それを目撃したビルの下の人が通報して、パトカーが来てそのサイレン音が聞こえてきたりとか。すごくね、生々しいんですね。
渡辺:アクションもガチなんだよね。命綱無しで。
有坂:そう、無しで。これ裏話なんですけど、ビルからビルにポンって跳び移るシーンの時に、藤岡弘、もやっぱり怖がってたんですよ。そしたら撮影監督の木村大作っていう人が。
渡辺:巨匠が。
有坂:「飛べないって何事だ! 俺がやってやる」って1回試しに跳んで、それで後に続いたというね。
渡辺:へぇ! あの藤岡弘、が。
有坂:木村大作って後に『剱岳 点の記』という映画で、もう70代くらいで映画監督デビューするんですけど、もう日本映画の伝説的なカメラマンと言われている人で、とにかく今のエピソードに表れているように前のめりなエネルギーに溢れている人で。そしてこの『野獣狩り』が木村大作の撮影監督デビュー作なんですね。で、33歳でようやく撮影監督のチャンスが巡ってきた木村大作。
渡辺:気合い入ってた!
有坂:そう、もうこんなチャンスは二度と来ないだろうから、後悔が無いようにとことんやってやろうと。で、この無謀な企画がかたちになったんです。そして映画が公開されると木村大作も高い評価を受けて、今では日本を代表するカメラマン、そして映画監督となっています。そんな彼の原点の映画という意味でもオススメです。で、これ以前雑誌の「GINZA」で久々に特集で“銀座”を取り上げる時があって、銀座に因んだ映画を選んで欲しいという依頼が来て「これ選んで大丈夫かな?」と思いながら紹介したら、当時の編集長がすごい喜んでくれて。「成瀬巳喜男とかそういう上品なものばかりくるかと思ったので」って。ぜひ、これは多くの人に知ってもらいたい映画です。ちなみに「踊る大捜査線」はこの映画を参考にしていたりします。


渡辺セレクト3.『事件記者』シリーズ
監督/山崎徳次郎,1959〜62年,日本,50分前後

渡辺:これは映画といっても1本50分くらいの短編が10話とか、そういうシリーズなんで、ドラマに近いんですね。スクープを目指す記者たちの話だけど、熾烈な話というよりはコメディーなんです。1950、60年代の映画なので、今からもう50年以上前の銀座とか霞ヶ関だったりとか、そういう東京が見られる。もう今だと想像つかないような時代の東京がね。白黒の作品で“事件記者”っていう言葉からちょっと恐い事件とかの話なのかなと思われるかもしれないんですけど、めちゃめちゃコミカルで。事件を追うというよりも、どっちかっていうとライバルとスクープ合戦をしたりとか。
有坂:(Filmarksの映画レビュー採点投稿を見て)お、星の評価低いですよ。
渡辺:ね。これ実は観ている人がほとんどいないので、そういう作品は星のスコアあまり当てにならないところあるんですよね。僕らからしたら5点満点です!
有坂:ほんとほんと、大傑作です。
渡辺:これは今、なかなか観られないんですよね。レンタルも無いし配信もやっていません。DVDも探すとわかるんですけど、高値になってしまっていて、2万円とか3万円とか……。という感じでなかなかちょっと貴重で観られなくなっているんですけど、これはぜひキノ・イグルーのイベントで上映してみたいな。みなさんに絶対観て欲しい映画です。
有坂:うん。
渡辺:昔の東京が観られる映画ということで紹介したんですけど、この『事件記者』を観て、ジャーナリストを志した方がいます。その人はこの映画に感銘を受けて、NHKに入社してジャーナリストになるんです。そう、池上彰さん。今ではわかりやすくニュースを解説するのでテレビで引っ張りだこですが、あの方がジャーナリストを目指すきっかけとなったのがこの作品ということで。エンタメとしてもすごく面白いし、あの池上さんにも影響を与えていた映画という、そういう逸話のある作品であります。


有坂セレクト3.『君の名は。』
監督/新海 誠,2016年,日本,107分

有坂:渋い映画が続いたんで、どメジャーな映画にしてみました。新海さんは、実際に存在する風景をすごく繊細なタッチのイラストで表現することに長けた人ですね。説明するまでもない有名監督ですけど。『君の名は。』は、東京の舞台が新宿中心になっています。新宿東口の大ガードだとか、南口駅前のバスタのビルあたりとか、サザンテラスのスターバックスが出てきたりとか。
渡辺:看板とかも、そのまんまね。
有坂:そう! そこがやっぱり面白くて。映画って演劇とかと違って記録できるメディアであるところが面白かったりするんだけど。『君の名は。』が公開された時の新宿駅前の風景っていうのが絵として記録されている。記録性の高いアニメ映画っていうところが新海作品の魅力でもあるのかな、と思います。やっぱりとにかく絵が美しいので、普段肉眼で東口とかの看板見ても全然心動かないのに、絵になるとすごく心動くじゃない? で、その目を通してもう一回見ると、何か以前のようなちょっと引いた目線じゃなくて、今自分がいるこの東京を、なんかこう肯定してもらったというような。そういうファンタジーがあると思います。なので、まだ観ていない方はそういう風景もぜひ楽しんでもらえたらと。
渡辺:新海監督の作品は大体ね、新宿近辺が出るよね。『言の葉の庭』っていうのは新宿御苑だしね。『天気の子』も代々木とかだったし。本当にリアルにそのまんま。


渡辺セレクト4.『ロスト・イン・トランスレーション』
監督/ソフィア・コッポラ,2003年,アメリカ・日本,102分

渡辺:2004年公開でソフィア・コッポラ監督の映画。スカーレット・ヨハンソン演じる主人公が、ご主人の仕事の関係で東京に一時滞在しているんですけど、旦那さんは仕事で忙しく自分はホテルにポツンと残されて、暇だから東京をふらふら旅するっていう映画です。泊まっているホテルが新宿のパークハイアットなんですね。だからハイアットの高層階からの東京の景色が見られるという。なかなか普通の人だと泊まれないような高級ホテルなので、ソフィアのセレブ目線というか。そういった感じの視点でハイアットからの風景、新宿が見られたりとか。あとふらふらカラオケに行ったりとか、色々と東京を彷徨うところが描かれていて。これもやっぱり外国人目線の東京を観ることができますね。東京ってすごく賑やかな街なんですけど、日本語しか通じないっていう不自由さとか、なんか賑やかなのに孤独みたいな、そういう演出がされていて、僕ら日本人からすると感じないけど、言葉の通じない外国人だと疎外感を感じてしまう東京。賑やかさと孤独感がうまく融合して、日本人目線じゃない描き方がすごく楽しい作品です。日本人キャストもたくさん出ていたり、ビル・マーレイ……
有坂:おっ。
渡辺:ビル・マーレイの安定感抜群な存在感が出ていたりしますんで、映画としてもめちゃくちゃ楽しい作品としてオススメです。これも20年くらい前の作品で、2番目に挙げた『珈琲時光』と同じ頃の映画なんですよね。あっちはお茶の水とか東側の雰囲気ですけど、こっちは新宿の風景が見られる。
有坂:これさ、『ロスト・イン・トランスレーション』と『珈琲時光』と両方とも外国人監督なんだけど、両方とも車のフロントガラスに東京の風景が映るっていう、おんなじようなショットを撮ってて。
渡辺:ネオンね。
有坂:あれは、何だろうね。外国人が見てハッとなる光景なのか。でもああいう映像の中でフロントガラスに映る景色を見るとやっぱり美しいし、歌舞伎町も捨てたもんじゃ無いなって思う(笑)。
渡辺:確かに(笑)。ウォン・カーウァイとかのイメージもあるかな香港とか。
有坂:アジアの雑多なね。あるかもね。


有坂セレクト4.『ライク・サムワン・イン・ラブ』
監督/アッバス・キアロスタミ,2012年,日本・フランス,109分

有坂:これは、さっきと同じように外国人が撮った日本の映画です。監督はイランのアッバス・キアロスタミという人で、『友だちのうちはどこ?』とか『桜桃の味』とかを作った世界的な名匠が日本に来て映画を撮ってくれた、ということで。僕も大ファンなので楽しみに観たんですけど、これはストーリーは有って無いようなもので、加瀬亮が出演してるんですけど、加瀬亮とおじいちゃんと女性の3人の話で、なんかちょっと怖い話でもあるんですね。詳しいことは言えないんですけど『めがね』とか観て「加瀬亮大好き!」という人が観たら、もうドン引きすること間違い無しな、全く違った加瀬亮が見られるので(笑)。
渡辺:ちょっと恐い加瀬亮ね!
有坂:演技の振り幅に驚いて。「こんな負のエネルギー出せる俳優なんだ」って逆に俳優としてますます好きになりました。
渡辺:うんうん。
有坂:本当に話はちょっと不思議な映画なので、とにかくこれは映画でしか表現できないようなタイプの作品です。で、東京がどういうかたちで絡んでくるかというと、まさにこのジャケット写真が六本木通りを走るタクシーの写真。これ面白いのが、六本木通りをタクシーがブーンと走って、曲がったら、曲がった瞬間静岡の駅前の風景になるんですよ。家康の像が立ってる。そういうカットに変わるんです。で、何事も無かったかのように物語が進むんです。僕らは六本木通りも静岡駅前の家康も知っているから、「何でだろう?」って思うじゃないですか。何か意味があるのかな、とか、このあとこれをベースに物語が展開していくのかな、とか思ったり。でも特にそれで何か起こるわけでも無いんですね。で、これ、特に日本を知らない外国人が観た時には、何の違和感も無く物語に集中できるんですよ。でも、キアロスタミは確信犯的に急に静岡のカットにしてるわけじゃないですか。自分で選んでわざわざそのシーンを入れて。
渡辺:移動させてきてね。
有坂:そう、それが何でなのかっていうのはわからないとこではあるんですけど、ただこの映画の、どんどん「不思議の国のアリス」じゃないけど、どんどん負の世界に引っ張られていくような物語と、キアロスタミのマジックがシンクロしていくような気がするんだよね。だから確実に狙ってやってると思うので、ぜひそこに注目して観てもらいたい映画だなと。映画ってね、結局すごいリアリティーがあっても、編集で撮影したものをどんどん繋いでいくものなので、そうやって確信犯的に違う風景を入れたりだとか、監督の意のままに手のひらで転がされるような面白い映画がいっぱいあると思います。その筆頭がこの『ライク・サムワン・イン・ラブ』だと思います。ただ、加瀬亮めちゃくちゃ恐いので……
渡辺:(笑)
有坂:心して、なんならちょっと飲みながら、気を散らして観た方がいいのかな?
渡辺:ホラー映画かと思っちゃうじゃん(笑)。
有坂:ホラー的な怖さもあるよね。
渡辺:人間的なね。人間の内面の怖さみたいな。ホラー映画では無いです(笑)。
有坂:怖いのは一瞬なんで、心配しないで観ていただけたらと思います。
渡辺:これキアロスタミの遺作かな?
有坂:その後にもう1本実は撮ってて、日本公開のものとしては最後だね。


渡辺セレクト5.『花束みたいな恋をした』
監督/土井裕泰,2021年,日本,124分

渡辺:これはもう、今まさに映画館でやっている映画です。色々、何選ぼうと考えてたんですけど、やっぱり手紙社最寄りの京王線。京王線に乗って手紙社に行く。東京の京王線っていうことで、手紙社に行って選んだ映画を発表するっていうならこれかな、と。今年大ヒットしている作品で大好きなんですけど、舞台が京王線沿線で、明大前で出会った菅田将暉と有村架純のふたりのラブストーリーです。ふたりは出会って盛り上がって、朝まで飲んで終電を逃して、電車も無いので甲州街道を歩いて調布まで来るんですね。で、調布駅前のパルコに到着といった感じで。菅田将暉演じる麦くんは調布に住んでるんですけど、有村架純演じる絹ちゃんはもう少し先の飛田給に実家があったりとか。で、ふたりは付き合うことになって同棲を始めるんですけど、そこが多摩川の見渡せるマンション。そういう京王線に縁のある話で、もう出てくる場所だったりが見たことのある場所ばかりで。あと脚本が坂元裕二っていう方で、ドラマだと「カルテット」とか色々やってきた人で、特徴として固有名詞をバンバン出すんですよ。
有坂:うんうん。
渡辺:なので、本の名前とか映画の名前とか、そういうのがバンバン出てきて、そのセンスがめちゃくちゃ絶妙で、「この作品好きな子ならこういう子なんだろうな」と思えてキャラクター描写に繋がるようなタイトルがどんどん出てくる。カルチャー好きの人にはビシバシはまる作品だと思うので、未見の方はまだ上映してますんで、ぜひ観て欲しいですし、手紙社のある京王線の風景というところも楽しめる作品として、最後に選びました。
有坂:いやー名作だよね。2021年を代表する1本。でも実際観るまでは、坂本裕二のドラマを全然見てきてなかったので、評判いいけどビジュアル見ると「そんなに面白いのかな?」って最初。
渡辺:俺も。普通に若者のラブストーリーかな、って。
有坂:そうそうそう。だから、そういう日本映画が苦手な方って、けっこうスルーしがちな映画かなって思うんですけど、これは、こればっかりは土下座してでも観てもらいたい(笑)。
渡辺:(笑)。
有坂:それぐらい素晴らしかった。あの部屋も良かったね。マンションのロケーションもね河川敷沿いにあってさ。
渡辺:本棚にも色んな本とか漫画とか並んでるんですよ。面白そうだなって。
有坂:そう、だから実際に出てくる固有名詞、小説家の名前とか映画のタイトルとか、知らないとわからないわけではないけど、例えば観たことない映画が出てきた場合、その映画を観ると、後追いで麦くんの性格がわかるようになるとかね。そういう楽しみ方もあるんじゃないかと。
渡辺:そうそう。下高井戸シネマのさ、チラシを見ながら「これやるんじゃん!」とかそういう会話のシーンとかあったね。キュンキュンきちゃいますね。
有坂:あるあるだよね。あるあるネタが本当に豊富で。
渡辺:あとカウリスマキの映画観てたでしょ。
有坂:そうなのよ。僕たちのキノ・イグルーの名付け親になってくれたアキ・カウリスマキの映画をね。
渡辺:観てたね。あの子たちは絶対にいい子だね(笑)。
有坂:間違いないね(笑)。

有坂セレクト5.『ライブテープ』
監督/松江哲明,2009年,日本,74分

有坂:これは音楽ドキュメンタリーです。舞台は吉祥寺で、2009年の街中で撮影したドキュメンタリーなんですけど、前野健太というミュージシャンがいて、くるくるパーマでサングラスかけて、見た目がボブ・ディランか井上陽水かみたいな超かっこいいミュージシャンなんですけど、その前野さんが弾き語りで吉祥寺を練り歩いている姿をカメラがずーーーっと追い続けて、74分ワンカットで撮った映画です。なので、この映画も2009年吉祥寺の風景の記録にもなっている映画です。僕実際今自分が吉祥寺に住んでいるので余計に思い入れが強いんですけど、この映画を観た時はまだ別の場所に住んでいて、で、観た時に武蔵野八幡宮から始まって、サンロードを弾き語りして街中をぐるーっと歩くんですけど、終わったらね、やっぱりおんなじコースを散歩したくなるんです。
渡辺:ふふ。
有坂:散歩したらね、おんなじ人が何人かいるんだよね。おんなじこと考えている人が。
渡辺:ふふふ。
有坂:で、最後は井の頭公園なんですけど、井の頭公園のところで「お疲れ様でした」みたいな感じで去っていくいみたいな。
渡辺:正月だよね?
有坂:そう、元旦。元旦なので、最初は初詣で並んでる人たち。よくあんな所で前野さん堂々と歌えるな、っていうところから始まるんですけど。この映画の面白いところのひとつが、もうその、作り手目線で観ると、スタートが武蔵野八幡で井の頭公園がラストで、「こういうコースで回りましょう」というのが監督と前野さんとの間では台本があるかのように決まってたと思うんですね。でも途中で前野さんが歌い終わった時に、監督がカメラの後ろから話しかけるんです、急に。「ねえ前野さん」って。そうすると前野さんが、ああいうもうキャラクターが出来上がってる人なのに、一瞬ドキっとするのね。素の前野さんが一瞬映る。あれは多分、台本には無くて、監督がやっぱり前野さんの素の部分を出して、そこのエネルギーも加えて後半にドライヴ感を与えたい……から、あんな仕掛けをしたんじゃないかな、と。それを受けて前野さんも小さなアクションをしたりとかするシーンもあるので、吉祥寺の街の記録としても面白いですし、74分ワンカットっていうね、吉祥寺をまるで自分が歩いているかのような時間が体験できる。さらに映画としても監督が演者に仕掛けるっていうところも楽しめるので、これは僕は2000年代を代表する日本映画の1本とも思っています。ということで、これはぜひ観ていただきたい映画です!

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今回選ばれた10本以外に、キノ・イグルーが紹介したかった「東京(TOKYO)」な映画は以下の通り。気になる方はライブのアーカイブもご覧ください!

『あのこは貴族』

『街の上で』


『TOKYO!』


『四月物語』


『エンター・ザ・ボイド』

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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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