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【特集・36 Sublo〜スタンダードでちょっと懐かしい文具を〜】2022年6月号

36 Subloの店主・村上 幸さんにお話しをうかがいました

2004年から東京・吉祥寺に店を構える文具店「36 Sublo(サブロ)」。店主の村上 幸さんが、「雑貨屋さんを開きたい」という夢への一歩を踏み出したのは、『雑貨カタログ』という雑誌に挟まれていた、雑貨店経営を学ぶ専門学校の「広告のページ」を目にしたことがきっかけでした。

雑貨店、カフェでバイトしながら雑貨の専門学校へ

「もういても立ってもいられなくて、すぐに当時働いていた会社を辞め、専門学校に通うために東京へ行くことにしたんです」

村上さんは京都・伏見の出身で、実家は事務関連を中心とした文具店を営んでいます。「サブロ」という店名は、実家の文具店を創業した祖父「三郎さん」の名前から付けたものです。文具が身近にある環境で育った村上さんは、高校のころから雑貨やインテリアに夢中になり、雑貨関連の雑誌やファッション誌のインテリア特集を読んでは、気に入った写真を切り抜きスクラップにしていました。将来の夢として憧れていたのは、雑貨屋さんの店主かインテリアスタイリスト。けれど、どうしたらなれるのかわからず、短大を卒業後、企業に就職。3年が経ったころ、冒頭のように専門学校の広告を目にし、上京を決意したのです。

東京で最初に住んだのは武蔵境です。吉祥寺にある雑貨店が併設されたカフェと、別の雑貨店でバイトをかけ持ちしながら、夜間に専門学校へ通いました。村上さんは、店主の趣味が色濃く反映されたお店が立ち並ぶ、吉祥寺がすぐに好きになり、よく訪れるように。そして、数年経ったある日、たまたま路地裏にある小さな物件と出会います。

「当時、東京と京都、どちらで雑貨店を始めるか悩んでいて、ちょうど京都に帰省する予定がありました。路地裏の物件は、不動産屋さんから『すぐに埋まりそう』と言われていたんですが、京都から戻ってまだ空いていたら借りようと、物件との縁に賭けてみたんです。そしたら、1週間後まだ空いていて、借りることを決めました」

デッドストックを求めて直接問屋へ買い付けに

キッチン雑貨からインテリア雑貨まで、幅広いジャンルの雑貨が好きだった村上さんが、自分のお店で扱う商品を“文具”に絞ったのは、どんな理由からでしょう?

「当時、雑貨の専門学校で出会った友人たちとの間で、昔ながらの文具店を巡って、棚の奥にあるデッドストックを探す“遊び”のようなものが流行っていたんです。それこそ、私が子どものころ実家で祖父が販売していたような、古い文具を買い集めて楽しんでいたのですが、改めて長く使い続けられている文具を目にすると、デザインが良くて使いやすく、いま見てもかっこいい! そんなスタンダードで、ちょっと懐かしい文具を、お店の核にしようと考えたんです」

例えば、「いろは印」は、昭和初期から変わらない手書きのやわらかな文字をそのままハンコとして使っていて、「ゐ」や「ゑ」などの旧仮名遣いの文字もあり、面白いなと感じたそうです。このロングセーラーの「いろは印」に、濁点「゛」や半濁点「゜」を加え、パッケージもオリジナルに変更して、サブロではオープン当初から販売しています。

いろは印

「測量野帳」も、友人との文具店巡りで、魅力を再発見した文具のひとつ。

「子どものころ、実家の文具店で目にしていたときは、味気ない手帳だなって思っていたのですが、改めて見るととてもシンプルで、手に馴染むサイズで装丁も美しく、外で使いやすいように考えられていて、かっこいいなって思ったんです」

測量野帳

サブロをオープンしてからも、村上さんは文具店や問屋を直接巡り、お店の奥に置きっぱなしになっているようなデッドストックのアイテムを探しては仕入れるように。「最初は、こんな古い商品のどこがいいの?」と不思議がられたそうですが、何度も足を運ぶうちに、顔を見ただけで「今日は、もう掘り出しものはないよ!」と言われるほど、仕入れ先の人とも親しくなりました。

文具を雑貨屋さんのようにディスプレイ

もう一つ、村上さんがオープン当初から重視しているのがディスプレイです。

「ロングセラーの文具は、もの自体のデザインや使い勝手はいいのですが、パッケージでちょっと損していることがあって。だから、あえてパッケージを開けて、例えば、色鉛筆は瓶にさしてバラ売りしたり、袋を詰め替えたり、複数の商品をアソートにしたり、そこにデッドストックを混ぜたり。まるで雑貨屋さんのように文具をディスプレイして販売するようにしたんです」

商品を箱から出してバラ売りすることで、文具自体の魅力が伝わりやすくなるとともに、駄菓子屋のように気になる文具を少しずつ選ぶ楽しみも広がります。パッケージの台紙に書いてある説明書はとっておいて渡すようにしています。こうした、雑貨店のように文具を並べて販売する手法は、当時は珍しく、サブロはオープン当初から多くのメディアの取材を受け、瞬く間に多くの人が訪れるようになりました。

人との会話や出会いがオリジナル商品のヒントに

村上さんは開業したころから、オリジナル商品もつくり続けています。その発想のもとは、「こんな商品があったら」という感覚です。お客さんからの声や、スタッフとの会話がヒントになることが多いといいます。

例えば、サブロの人気商品の一つ「ラベラーロールシール」は、もとはスーパーなどで値つけ用として使われているシールですが、そこにスーパーの店名が印刷できるのであれば、かわいい柄も印刷できるのではないかと、村上さんはメーカーと相談。当初は、背景に柄を印刷した値つけ札としてサブロで使っていましたが、可愛らしく仕上がったので、1000枚綴りのシールとして商品化。現在では、ラッピングや袋などの封をする「封緘(ふうかん)」も、ラインナップに加わっています。

ラベラーロールシール 3種類セット

同じく人気の「日付回転印」も、日付まわりにある店名などの代わりに、イラストを入れて商品化したもの。

「持ち手は、木軸のほうがよりかわいいのではとメーカーに提案したところ、営業担当者が面白がってくれて、その方が木軸をDIYで取り付けてくれているんです。こんなふうに、熱心な担当者や工場の方との出会いによって、面白いアイテムが生まれることもあります」

木軸日付回転印

イベントやフェアから新商品が誕生することもよくあります。例えば、これまでにパンやお菓子、野菜など、さまざまなテーマでイベントを開催。パンフェアのときに誕生したのが「パンのハンコ」。このアイテムから派生して、パン屋、手芸屋、おしゃれの店などの「おみせやさん」シリーズも登場しました。

パンのハンコ
おみせやさん ハンコ

「印象に残っているイベントが、『役所フェア』です。キャッシュボックスを キャッシュトレーなど、市役所で使われていそうな文具を集めたイベントだったのですが、ある文具屋さんから婚姻届を束で仕入れることができて。それを素材に封筒をつくり、レターセットとして販売したこともありました」

村上さんは、仕入れる商品を選んだり、オリジナルアイテムをつくったりするときには、「思わずクスッと笑える」、ユーモアがあることも大切にしています。

念願だった「サブロ京都店」の開店が目前に

2010年には、お店が手狭になったこともあり、吉祥寺通り沿いの小さなビルの2階へと移転したサブロ。さらに、今年の夏〜秋を目指し、村上さんの地元である京都・伏見に「サブロ京都店」を開くべく、現在準備が進行中です。

「将来的には、酒蔵が多く、坂本龍馬ゆかりのまちとしても知られる伏見で、サブロらしいお土産屋さんを開きたい。長く愛されている伏見のスタンダードなお菓子をはじめ、伏見のカルタ工場でつくられている花札など、ちょっと懐かしくて今見てもかっこいいものをセレクトできたらと妄想しています」

そのためにも、まずは「サブロ京都店」をオープンすること。これからも文具を通じて、使う人の日常が楽しくなったり、贈る人、受け取る人に笑顔が生まれたり、そんな小さな幸せを届けていきたいと、村上さんは願っています。(文・杉山正博)


村上 幸(むらかみ・ゆき)
文具店店主、京都府生まれ。雑貨店のバイヤー等を経て、2004年吉祥寺に文具店「サブロ」をオープン。2006年プロダクトデザイナー・植木明日子さんと文具ブランド「水縞」を立ち上げる。2010年に吉祥寺内でサブロを移転。2014年に代々木上原にアクセサリーのお店「HELEN HEIJI」をオープン。2015年に京都に拠点を移し、2022年サブロ京都店オープンに向けて準備中。
Web Site: http://www.sublo.net/
Instagram:https://www.instagram.com/36sublo/
Twitter: http://twitter.com/36Sublo
Facebook:http://www.facebook.com/36Sublof


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