見出し画像

手紙社リスト映画編 VOL.10「キノ・イグルーの、観て欲しい『中南米』な映画10作」

あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「中南米な映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。

──

お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。

──

−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今回も渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。

──

渡辺セレクト1.『アモーレス・ペロス
監督/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ,1999年,メキシコ,153分

有坂:あー、うんうん。
渡辺:はい、これはですね、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥっていう、ちょっと長い名前の監督なんですけど、そのアカデミー賞とかも獲っている監督のメキシコ時代に撮った長編デビュー作なんですね。この話が、長編デビュー作とは思えないクオリティで、3つの話がある事件をきっかけに交錯するっていう内容なんですけど、それがめちゃくちゃ良くできてて……。「交錯する」っていうのが、ある事故が起こってその「加害者」、「被害者」、「目撃者」っていう3つの視点からそれぞれ物語が進んでいって、あるとき交錯して「その後もそれぞれどうなるのか?」みたいなところも描かれてるんですけど、結構この3つの話が、ある時点で交差はすれど、それまでも若干関わっていたりとか、登場人物の関係性があったりとかですね、そのあたりの脚本もすごく練り込まれていて、めちゃくちゃ良くできた作品です。これは99年制作なんだけど、当時、東京国際映画祭で、このタイトルもよくわからないまま監督もキャストも知らない状態で観て、「なんだこの作品は!」っていうね。
有坂:衝撃だったよね。
渡辺:すごい作品を観ちゃったっていうね。そしたら、その後、劇場公開もされてヒットもしてって。で、この監督はその後、アメリカ進出、ハリウッド進出して、アカデミー賞を獲るようになるっていうですね。そういう監督です。
有坂:アカデミー賞は、どういう作品で取ったんだっけ?
渡辺:レヴェナント:蘇えりし者バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)だったかな。
有坂:うんうん、『バードマン』。
渡辺:2年連続だったんだよね、確か。あれか撮影賞……と監督賞かな。
有坂:そうそうそうそう。
渡辺:作品賞を取ったのは『バードマン』かな……ですね。結構他にも、バベルっていうブラッド・ピットが出てる作品とか、21グラムっていうショーン・ペーンの作品だったりとか、ハリウッドに行ってからもね、結構大物と仕事をしている。
有坂:そうだね。
渡辺:『レヴェナント』も、レオナルド・ディカプリオがこれで悲願の……
有坂:主演男優賞とったんだよね。
渡辺:そうだね、そうだそうだ。……というね、今やもう巨匠の域に入る監督の長編デビュー作。メキシコ時代の。これがまぁめちゃくちゃ面白い作品なので、まずは。
有坂:これさ、最初にその、東京国際映画祭でコンペティション部門っていうのがあって、そのコンペ部門っていうのは、いわゆる新人監督の登竜門って言われるような部門で、確かデビューしてから2作目ぐらいまでの人しか出品できないので、そこでなんかこう面白い若手を見つける……見つけたい人にとっては、コンペ部門を観るっていうのは、すごい楽しみ方のひとつとしてあるんですけど。ただ、情報がない分「本当にこの作品、この監督の映画は面白いのかな?」って半信半疑で行った分、もうね、『アモーレス・ペロス』に出会ったときの衝撃はものすごくて、しかも、さっき順也が説明したように、3つの話が交錯する映画っていうのは、この映画は1999年の映画ですけど、僕たち、そのちょっと前にね、同じ設定の映画に歓喜したことがあって、それがクエンティン・タランティーノのパルプ・フィクション。そこで、3つの話が交錯していくっていう物語っていうのは「なんて面白い映画のつくり方なんだ!」っていうのがベースにあったから、余計に。またそれをもっとメキシコのリアルに置き換えてつくってくれた『アモーレス・ペロス』に熱狂したよね。
渡辺:そうね。ぜひ観ていただきたいです。
有坂:はい、おすすめだよね。
渡辺:はい!
有坂:『アモーレス・ペロス』はね、順也が言うだろうと思ってリストから外していました。
渡辺:(笑)

有坂セレクト1.『彼の見つめる先に』
監督/ダニエル・ヒベイロ,2014年,ブラジル,96分

渡辺:ああー!
有坂:はい、というですね、2014年の映画から行きたいと思います。今回、僕は5作品全部、5か国別の国で紹介したいなと思っています。まずは、ブラジル映画です。
渡辺:はい。
有坂:この映画は、サンパウロが舞台の青春映画になってます。で、主人公の男の子。これ高校生の話なんですけど、主人公の高校生・レオっていう男の子は、目が見えないんですね。目の見えない男の子と、その幼なじみのジョヴァンナという女の子。二人から始まって、そこに転校生としてもう一人、ガブリエルという人が入ってくる。そのガブリエルと、レオっていうのは友だち同士だったんだけど、いつしか友情以上の感情が芽生えていく……、という物語で、ちょっとゆるく三角関係の話にもなっていく、そんな青春映画になってます。なので、ちょっとこうLGBT的な要素も入っている映画なんですけど。この映画が、これ目黒のクラスカで企画していた「ルーフトップシネマ」というイベントでも上映したことがあって、それぐらい好きなんですけど、何がいいかというと、どうしてもそのLGBTのラブストーリー……ちょっと恋愛要素の入った映画って、切なさとか、報われなくて主人公が命を落としてしまうとか、割とね、ヘビーな映画が多い中、この映画は、めちゃくちゃ爽やかなんですよ。
渡辺:うんうん。
有坂:で、そのレオとガブリエルが、二人が心を通わす瞬間、そのきっかけになったのは、ある音楽、あるミュージシャンがきっかけなんですけど、そのミュージシャンというのが「ベル・アンド・セバスチャン」です。もともとクラシック好きだったレオに、まったく自分が聴かないような音楽をガブリエルが教えてくれた。で、それが“ベルセバ”の「There's Too Much Love」っていう曲なんですね。なので、なんかそういう音楽好きとか、カルチャー好きの文科系男子、文科系女子にも、すごく響くような内容になっています。
渡辺:うん。
有坂:それで、この映画、ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞っていうのも獲って、作品としての評価も国際的にもとっても高い映画になってます。で、日本では確かね、同年公開だったと思うんですけど、君の名前で僕を呼んで。みんな大好きな彼が出てる。あの映画です。それとちょっとね、内容的には重なるところがあって、当時はその『君の名前で僕を呼んで』派か、このブラジルの『彼の見つめる先に』派かみたいな、会話をしたような記憶もあります。なので、その『君の名前で僕を呼んで』が好きな人も、ぜひ一度は観てほしいなと思う、ブラジル映画となっております。
渡辺:なるほどねぇ、取られましたよ!
有坂:やっぱり候補に挙がってた?
渡辺:挙がってた。これはいいよね!
有坂:いやぁ〜、うん。
渡辺:で、ほんとにさ、ハッピーエンドだからさ、すごいなんかいい気持ちになって終われるというか。
有坂:なんか、そのハッピーエンドも、ちょっとスカっとするようなハッピーエンドなんだよね。
渡辺:うん。
有坂:なんかこう、ちょっと明るい未来が待っているっていうような、余韻を残してくれるような終わり方で……。これはぜひ。これ多分配信で観られるよね。
渡辺:そうそう。AmazonプライムとU-NEXTが入ってました。
有坂:なかなかね、今回、中南映画をピックアップして思ったのが、だいたい配信とかね、取り扱いがないものが多いんだよね。だけど、いつか観られる日は来るので、ぜひタイトルはメモしてもらいたいなと思いますが、『彼の見つめる先に』は観られるそうです。
渡辺:観られます!

渡辺セレクト2.『永遠に僕のもの』
監督/ルイス・オルテガ,2018年,スペイン・アルゼンチン,118分

有坂:うんうんうんうんうん。
渡辺:これはですね、実話ベース、実話をモチーフに映画化したものなんですけど、もう絶世の美少年が、絶世の美少年なんだけど犯罪者っていう。そういう、ちょっと魅力的な男の子が主人公の作品になります。これ、ポスターもすごく良くて。で、この美少年の友達が主人公というか、その彼の目線で見ていくんですけど、この美少年が“無いものねだり”というか「欲しいものは全部手に入れてやる」っていうそういう少年で、それがどんどんどんどんエスカレートしていって、殺人まで犯して、欲しいものを手に入れるみたいなふうに暴走していくんですけど、なんかそれをすごい暗い、犯罪ものみたいな感じの描き方ではなくて、どこか青春映画っぽい、だけど、ちょっと闇があるみたいな、そういう感じの描き方で……。なんて言うんですかね、監督で言うと、あのペドロ・アルモドバルをちょっと思わせるような、そういう独特の作風もあったりしてですね。あと最後、ラストにですね、一人ダンスのシーンがあるんですけど、すごい印象的で、なんかいい映画って、すごい映画的なシーンっていうのが必ずあるんですけど、これも象徴的なそういう一人でダンスをするシーンが最後の方にあって、それがね、めちゃくちゃ決まっていて、この映画のかっこよさを表してるような、印象的なシーンになります。はい。この『永遠に僕のもの』が、ぼくの2本目です。
有坂:これね。最高だね。俺もベスト10に入れた。
渡辺:ああ、この年のベスト10ね。
有坂:そうそう。この映画はアルゼンチン映画で、スペインとの共作で、キャストにセシリア・ロスって人が出ていて、その人もさっき順也が紹介したペドロ・アルモドバルの映画に出てる人だったりするので、確か関わっていなかったっけ? 原作かなんかに関わってた。ペドロ・アルモドバルって人は、例えば、オール・アバウト・マイ・マザーという映画とか、トーク・トゥ・ハーという映画で、スペインの枠を超えた世界的な名監督の一人なんですけど、確か関わってた。だから、アルモドバルが確か彼の監督の才能を認めて、なんかバックアップしてたような気がするので。そのアルモドバル好きな人には、ぜひ観てもらいたい1本だね。
渡辺:そうだね。これもおすすめなので。この作品もAmazonプライムとかでやってます。huluとか、U-NEXTとかいくつか観られます。
有坂:ぜひ! なんか映画の中のダンスシーンね。ダンスシーンのある映画は、大体おもしろいです。
渡辺:(笑)
有坂:なんかね、こういうこの映画も、ストーリー展開で「なんで最後にダンスシーンがあるのか?」って考えるのもね、多分楽しいと思うし、どういう展開が待っているのかね、そういうところも含めて、ぜひ観てほしいなと思います。

有坂セレクト2.『100人の子供たちが列車を待っている』
監督/イグナシオ・アグエロ,1988年,チリ,58分

渡辺:お?
有坂:この映画は、チリの首都のサンティアゴが舞台で、そこで暮らす貧しい子どもたちに映画づくりの楽しさを教えていく。その過程を記録したドキュメンタリー作品になっています。で、これ58分なので、すごく短い作品。このパッケージも可愛いですよね。なんかフィクションのようなビジュアルですけど、これはドキュメンタリー作品です。で、このチリの子どもたち、実は映画館で映画を観たことがない子たち。その子どもたちに向けて、映画の面白さを伝えに先生がやってくるんですね。で、そのアリシアっていう女性教師なんですけど、なんかね、映画を教えるときに、やっぱりこう学びを届けるっていうよりは、「遊びましょう」って語りかけて、紙とか木で簡単なアニメの装置をつくってみたり、あとはそのカメラの動きとか、遠近法とか、そういう技術も教えてあげる。それでみんなで映画をつくっていくっていう、58分のドキュメンタリー作品になっています。それで、やっぱりまだ映画っていう概念がない子どもたちに、映画の楽しさを教えるっていうのは、多分、このアリシア先生からすると、なんて言うんでしょうね、こんなにやり甲斐のある仕事はないんじゃないかな、と思います。ほんとに彼女が映画をどういうふうに、その魅力を伝えるか、その言葉のひとつだったりとか、もうそのときの映画づくりの過程を追っていく時間そのものが楽しければ、この子どもたちはみんな映画が好きになってくれるかもしれないっていう。なんかそういう空気感みたいなものも、ぎゅっと凝縮されたようなドキュメンタリーになっていて。チャップリンの映像とかも観せるんですけど、チャップリンとか、そういうものを子どもたちが、「じゃあ観てどう思うのかなぁ」っていうシーンもあるんですけど、実際、ぼくたちは子どもたちにチャップリンを観せたりしてて、もう今年も年始に実は1回やってるんですけど。子どもたちってなんか昔の映画でも、やっぱり時代を飛び越えて面白いものにはね、ちゃんと反応してくれて喜んでくれます。なので、まあ僕たちが上映活動もしているから、余計に響くっていうところもあるかもしれないんですけど、なんか、もっと大きく、例えば映画をあんまり観ないような人でも、自分の原体験と重なるような瞬間もあると思うので、なんかぜひ多くの人に観てもらいたいなと思う、1988年のドキュメンタリー作品です。
渡辺:なるほど、きたね。ワークショップをするやつね。……でも、これ観られないんだよね。
有坂:そうなんだよね。配信はなかったね。
渡辺:うん。これ、レンタルも無いんじゃない?
有坂:うん。VHSしかないと思う(笑)。
渡辺:そういうやつだよね(笑)。だから、借りれてもね、家に再生機が無いとね。
有坂:でも、これ日本で上映するための権利っていうのは確か残ってるから、いつかキノ・イグルーでもね、また。以前、仙川の「niwa-coya」というカフェで上映したことがあるんですけど、またちょっとやりたいなと思ってるので、ぜひタイトルだけでも覚えていただけたら嬉しいです。
渡辺:なるほど、そうですか。すごいところ来ましたね!

渡辺セレクト3.『エイブのキッチンストーリー』
監督/フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ,2019年,アメリカ・ブラジル,85分

有坂:うんうんうんうん。
渡辺:これはブラジルの作品なんですけど、ただ、その主人公が男の子で、その男の子はどういう家庭かというと、イスラエル系のお母さんとパレスチナ系のお父さんっていう、民族同士が対立している両親を持つ男の子のお話です。さらに、そのおじいちゃん、おばあちゃんたちも一緒にいるんですけど、みんなで食卓を囲むといつも政治の話で喧嘩ばっかりするっていう。そういう家庭で生まれ育ったのがエイブという少年で、彼は料理が好きなので、すごくいつも料理はしているんですけど、もう家族はみんないつも喧嘩をし出すから、それがすごい嫌で、料理に逃避するというかですね、料理づくりに没頭して気を紛らわしているっていう少年だったんです。あるとき、すごいアイデアを思いついて、そのアイデアによって、「この自分たちの家族の不和を解決できるんじゃないか?」っていうところで、エイブはレシピづくりに励むっていうお話なんですね。
有坂:うんうん。
渡辺:で、やっぱりすごい面白いのが、その自分の得意な料理によって、その夫婦というか、家族の仲を良くしていこうっていう、そういうアイデアを思いつく。で、それをやっていくっていうところがすごい面白いんですけど、なんかこの映画、ひとつの家庭だけの話ではありながら、すごく大きく見ると、なんて言うんでしょう、「これをやれば世界平和になるんじゃないか」みたいな。ちょっとそういうふうに大きくも捉えられるような、そういうメッセージが込められてる作品です。なので、料理ものとしてもすごい面白いし、ヒューマンドラマとしても、すごくハッピーエンドでいいお話なので、そういう意味でも楽しめるんですけど、実はそういうメッセージも込められている、そういうタイプの作品です。
有坂:うんっ。意外な作品がきたね。
渡辺:おおそうですか。これ好きなんだよね。
有坂:うん、面白いよね。
渡辺:料理少年が、「この料理で物事を解決していく!」みたいな。それがね、すごい素敵だなと思って。
有坂:そうだね。夢があるよね。
渡辺:これも配信で、Netflixで観られます。
有坂:2019年とかだもんね。新しい映画だよね。
渡辺:そうだね。新しいやつです。

有坂セレクト3.『映画よ、さようなら』
監督/フェデリコ・ベイロー,2010年,ウルグアイ・スペイン,63分

渡辺:おおー!
有坂:ウルグアイですね。スアレスがいる。サッカーが好きなので、もう南米っていうのは、サッカーの聖地なんで、ちょっと特別なんですけど(笑)。
有坂:めちゃくちゃ渋い映画です、これ。
渡辺:そうだね(笑)。
有坂:2010年の映画なんですけど、日本公開は4、5年前だよね。
渡辺:うん。
有坂:なんか、また遅れて日本に入ってきた作品です。で、この映画は、『映画よ、さようなら』というタイトル、このパッケージもね、モノクロで渋いビジュアルで……この「シネマテークに勤めて25年」と書いていますけど、シネマテークというのは日本でいうとね、京橋にある国立映画アーカイブは、日本のシネマテークと言われていて、要は、フィルムの保管、これまでの歴代のいろんな映画のフィルムの保管もしつつ、同じ敷地の中に映画館のような上映スペースも持ってる。そういうフィルムライブラリーのことをシネマテークと言います。で、そのシネマテークに勤めて25年のホルヘという45歳の男が主人公の作品です。上映時間が、これも結構短めで63分です。なので話がね、あんまり変な方向にいかずに、基本的にホルヘの日常。要はシネマテークで「どういう映画を掛けようかな」っていうプログラムの編成だったりとか、実際フィルムを使った映写とか、あとは客席の修理をしたりとか、あとラジオに出てちょっと映画について語ったりとか、そういうまぁ映画好きの彼の日常がベースになった作品です。で、とにかく彼は映画を愛していて、映画のことになると饒舌なんですけど、こと恋愛にはですね、奥手という、本当に世界に何万人といるかのような、そういう映画好きのおじさんが主人公の作品です。個人的には、そういった実際に映画の現場に関わっている人のほんとに日常的な作業を、ドキュメンタリーではないんですけど、ドキュメンタリー的に、そういう日常を丁寧に見せていくことで、そのホルヘという人の人柄をこう、浮かび上がらせていくようなつくりになっていたり、あとはそのシネマテークの壁に貼ってあるポスターとか、そういうところをチェックすると、意外となんて言うんですか、そこのシネマテークのこだわりだったりが見えてくるので面白いかなと思います。このオフィスにね、確か黒沢明のだったかな? 『乱』という映画のポスターが貼ってあったりします。なので、そういうディテールもすごく見ごたえがあったりするんですけど。まぁ、そんな恋愛に奥手のホルヘが、なんとかなんとか勇気を出して、自分が恋する人にですね、デートの誘いをして、さて、その後どうなるかっていう小さな物語が、この映画をですね、まさかのハッピーエンドに誘ってくれるという、素晴らしい作品になっています。全体を通して観ると、ほんとに極渋映画なんですけど、63分という短い映画なんですけど、個人的には本当に、こういう映画を愛する、世界中にたくさんいる映画を愛する、その小さな物語が作品となって、フィクションとして世界中に届くということがとても素敵だし、思いがちゃんと詰まった映画だなということで、この年のベスト10に挙げるぐらい大好きなウルグアイ映画です。はい、『映画よ、さようなら』観てみてください。
渡辺:なるほど、めちゃめちゃ渋い。
有坂:これは被らないかなと思って。
渡辺:被んないね(笑)。好きだよね、こういうのね。
有坂:身につまされる。
渡辺:これはU-NEXTでやってましたね。
有坂:おお、すごいね。いや、もう「ぜひ観てください」って、声を大にして言いづらい、渋い内容なんですけど、でも、やっぱり実際にウルグアイに現存しているシネマテークを舞台に撮ってるので、やっぱりこういう昔ながらのシネマテークって、やっぱりどんどんなくなってっいってしまう。建物なんか特に老朽化が進んでリノベーションとかしてくと思うので、その建物、空間を感じられるだけでも、すごく面白い映画かなと思うので、観てほしいな。
渡辺:なるほどね。いや〜、これは被らなかったな。
有坂:これは安心して紹介できました。

渡辺セレクト4.『2人のローマ教皇』
監督/フェルナンド・メイレレス,2019年,イギリス・イタリア・アルゼンチン・アメリカ,125分

有坂:おーお!
渡辺:これは、Netflixでしかたぶんやっていないと思うんですけど、これはですね、ジョナサン・プライスとアンソニー・ホプキンスっていう、すごい名優2人によって描かれてる作品なんですけど、実在のローマ教皇が、モデルとなってます。で、もう本当にそのままで、ローマ教皇がつい最近、といっても何年か前ですけど、代わったんですね。ローマ教皇って、天皇みたいに亡くなると次の人が選ばれるという流れなんですけど、このときは、確か700年ぶりとかに、「自ら退きます」って言って、世代交代されたっていう、そのときの二人の法王(教皇)のお話です。で、一人はドイツ出身、もう一人はアルゼンチン出身で、性格も経歴も全然違う、水と油みたいな二人なんですけど、この二人が実は、個人的に交流していたっていう、それを劇映画にしたものなんです。なので、実際に表では割とカトリック教会の問題がいろいろあって、それで交代劇があったっていうところがあるんですけど、そこの裏舞台みたいなところで、水と油みたいに思われてた新旧二人の教皇が、実は心を通わせていたみたいな。そういうヒューマンドラマになっています。で、割とその教皇の内面的なところとか、出自の部分だったりとかというので、なんか、そんなに聖人君子じゃない。割と泥臭いことをやってきたとか、政治的なところに巻き込まれてきたみたいな過去とかも割と赤裸々に出していて、なのでローマ教皇だからといって、一点の曇りもない人っていうわけではなくて、ちゃんと人間的にちょっと闇もあったりとか、そういう泥臭い部分もあったみたいなところも、描いてるところがすごいなっていうですね、さすがNetflixっていう。
有坂:だね。
渡辺:なかなかこういうのはね、スポンサーがあったりとか、どこかに忖度するような感じだとつくれないタイプの作品だなと思ったんですけど。なんか現役のローマ教皇を映画にしちゃうっていうところが、Netflixっぽくてすごいなと思いました。それで、これは監督が、フェルナンド・メイレレスっていう人で、シティ・オブ・ゴッドっていう、これも強烈な、裏のスラム街で少年のギャングの話っていう、衝撃的な作品があるんですけど、その監督です。作風は、全然こっちはバイオレンスではなくて、おじいちゃんたちのヒューマンドラマっていうところなので、対照的なんですけど、これもめちゃくちゃいい作品です。これもね、被らないなと思ったね。
有坂:でもね、正直、『シティ・オブ・ゴッド』は来るだろうなと思っていたんだけど。
渡辺:こっちにしました(笑)。
有坂:まぁ、手紙社イベントで『シティ・オブ・ゴッド』を紹介するか否かっていうのはね、お互いそこは悩むとこだろうなって思ってたけど(笑)。でもね、あの映画もなんて言うんだろう、そのスラムのリアルな部分を描きながらも、映画のつくりとしては、すごく極上のエンターテインメントみたいなつくり方になっているから、面白いは面白いんだけど、まあ、あれを観たら、「ブラジルに行くのはやめとこう」って思うこと間違いなしだから(笑)。まあね、好みは分かれるとは思いますけど、併せて同じ監督の『シティ・オブ・ゴッド』もね。観てほしいね。
渡辺:そうですね、はい。それで、これはNetflix限定の作品。
有坂:うん。Netflixのオリジナル映画だね。そうきましたか。そこは意外だったね。

有坂セレクト4.『砂漠のシモン』
監督/ルイス・ブニュエル,1965年,メキシコ,43分

渡辺:んー!
有坂:1965年というもう60年ぐらい前の映画になります。この映画は、ルイス・ブニュエルという監督の作品なんですけど、今回、中南米を紹介するっていうときに、このブニュエルっていう監督は、自身がスペイン人なんですよ。で、スペイン人で、若きころにサルバドール・ダリと一緒にアンダルシアの犬という映画をつくって、それでもうシュールレアリスム映画の金字塔みたいなことで、名を上げた人なんですね。晩年はフランスに拠点を置いて、カトリーヌ・ドヌーヴとかと映画をつくっている。あの昼顔っていうね、映画の監督もルイス・ブニュエルです。で、そのブニュエルの映画が、この長い映画のキャリアの中で「メキシコ時代」って語られる時代があって、そのメキシコ時代の最後、フィナーレを締めくくるのがこの『砂漠のシモン』という映画です。
渡辺:ふんふん。
有坂:まあ、ちょっと変わり者なので、ブニュエルって、すごい不条理だったりとか、ストーリーを理解して共感して楽しむっていうのとはまったく違ったタイプの、なんか観てすぐには理解できなくて、こう唖然としちゃうような。でも、テレビドラマとかでは味わえないような感動を得られるタイプの人です。『砂漠のシモン』は、その名のとおり、シモンという人が砂漠の真ん中にそびえ立つ柱の上で、修行にいそしむ物語です。これも短くて、43分しかない映画です。そのシモンの修行に基本的には密着したような内容で、なんかね、悪魔の誘いにも乗らないで、毎日レタスばっかり食べて、神に祈りを捧げて修行している彼に、いろんな不条理なことが起こって……。というところまでしか言葉では説明ができません。なんでそんなことが起こるかっていうところは、ほんとに映像を観てもらってはじめて多分理解できるところかなと思うので、ぜひぼくのことを信用して観ていただきたいなと思う映画の1本です。
渡辺:(笑)
有坂:で、この映画の見所は、本当にね、ラストです。もう砂漠で修行に励んでいるシモンを見ると、なんか現代の話ではなくて、「どういう時代設定なんだろう?」と、とにかく昔の時代だよなっていうのは分かるんですけど、そういう観ている側の想像をはるかに超えるような、もう驚きすぎて言葉を失うぐらいの衝撃のラストが待ってます。43分後に待ってます! これは観て何を感じたかっていうのを、観た人同士で語りたくなるような、そんな映画になってます。それで、そのメキシコ時代というところで、今回紹介したいなと思ったのは、映画監督。生まれ育った場所で映画を撮る人が多い中で、例えば、ウディ・アレンという人は、もう生粋のニューヨーカーで、アニー・ホールとかマンハッタンっていう映画をニューヨークで撮って。彼は飛行機嫌いだから「ニューヨークを出て映画は撮らない」って言っていたら、あのスカーレット・ヨハンソンに恋をして、飛行機に乗ってロンドンでマッチポイントっていう映画をつくって、そしたら、今度バルセロナで映画をつくって、ローマで映画をつくってってことで、あんなニューヨークで何十年も映画をつくっていた人が、ヨーロッパで映画を撮るような時期がきたんですね。なんか、そうやってベースがある人ほど、そこのベースを離れて撮ったときに、やっぱり今まででは出せないような、なんでしょうね、多分解放感があるから、こうなんか想像の、イマジネーションの膨らみ方も今までとは違うような面白さのものに出会える傾向が強いなと思っていて、そういう意味では、このブニュエルも、スペインとかフランスとか、彼はスキャンダルばっかり起こしている人なので、例えば、スペインにもいられなくなって、逃げるようにしてアメリカに行って、メキシコに流れ着くんですけど、結果的に多分そのメキシコの風土が、彼にすごく合っていたということで、彼のイマジネーションをメキシコっていう環境が引き出してくれたんだなと、それをなんか究極極めたのがそのメキシコ時代の最後を飾る、この『砂漠のシモン』だなと思うのでね。ぜひ、ちょっと配信では取り扱いがないみたいなんですけど、これ3年前にリバイバル上映されたので、多分観られる機会は近々あるんじゃないかなと思いますので、なんか、新しい刺激が欲しい方は、ぜひ『砂漠のシモン』、観てみてください。
渡辺:すごいところを、また挙げてきたね。俺、観てないな、すごいね。
有坂:これね、本当に最後なんかね、ずっこけるような、「嘘でしょ!」 っていう。でも、これ観たら、もうお酒飲みたくてしょうがなくなるぐらい、すごいもの観ちゃったねって笑顔で語れるような、そんなタイプの作品なので。
渡辺:なんかブニュエル、今、特集上映やっているっぽいね。
有坂:そうなの?
渡辺:角川シネマ有楽町で。
有坂:ああ、そうだそうだ。「男と女」っていうテーマでやってるね。もう伝説の映画監督の一人なので、ぜひ勇気を出してチャレンジしてみてください。

渡辺セレクト5.『バクラウ 地図から消された村』
監督/ジュリアノ・ドネルス,2019年,ブラジル,131分

渡辺:本当はね、『彼の見つめる先に』を入れたかったところだったんだけどね。
有坂:5本目に?
渡辺:5本目というか、まあ流れのどこかにね。だけど、ちょっと外して。これはもう、めちゃくちゃ変わった作品です。最初ポスター見たときは、全然観る気が起こらなかったのね。なんかすごいカルト映画だろうなと思って。それもブラジルとかのカルト映画って、もう「やばい匂いしかしない」みたいな(笑)。そういう感じで、予告編を観ていても、すごい暑苦しい感じで。ちょっと濃い人たちばっかりが出てくる、濃い内容な感じがしていたんだけど、ちょっとその上を行く面白さだったっていう感じです。なんで、このポスターを見て惹かれない人、いっぱいいると思うんですけど、「騙されたと思って観てみると面白かった」っていうタイプのやつです。
有坂:ふふふ。
渡辺:で、これ本当にちょっと変な話なんですけど、ブラジルのすごい田舎の山奥のとある村が舞台で、現代なんですね。時代設定としては。で、ある日、学校でGoogleマップ見ていたら、「なんか村が無くなっている」って、誰か生徒が見つけて、「どれどれ」って見たら、「ほんとだ、ほんとだ!」って。Google上から村が消えちゃっているみたいな、そういうところから物語が始まります。で、なんでそんなことが起こっているのかとか、そういう謎めいたことが次々と起こっていきます。田舎の外れの村なので、村人以外ってあんまり来ないんだけど、なんか旅行者が現れたりして、その旅行者が現れたことによって、不思議なことがどんどん起こっていって、ついには村人が殺されるっていう事件まで起こるという。それがどういうことなのかが、だんだん明るみになってくるっていう、そういうサスペンスフルな話になっています。けっこう、あの普通に、まともにサスペンスの話です。なんか予告編とかポスターを見ると、UFOが映っているみたいな、なんかちょっと突拍子もない感じの奇想天外な感じになっているイメージがあるんですけど、全然そんなことなくて、普通に現代の普通の話なので。
有坂:普通の話?!
渡辺:普通の話ではない(笑)。でも、その全貌がだんだん明らかになって、全貌が見えたときっていうのは、「えっ!」て驚かされる内容になっています。で、どういうことかっていうと、ざっくりと言うと、すごい風刺が効いた作品なので、この村の話っていうことをよくよく考えたら、「こういうことだよね」みたいな。そういう、ちょっとブラックジョークというか、かなりシニカルな皮肉のある、風刺の効いた作品になっているという感じです。そういう意味で、すごい良くできてるので、おバカ映画とか、ただのカルト映画とかではない作品だったりするので、これはちょっと騙されたと思って、乗り越えてもらえると、その先に面白さがあるというタイプの作品です。で、これはですね、Netflixで今やっています。
有坂:Amazonプライムとかもあるね。
渡辺:そう、Amazonプライムはレンタルで、見放題はNetflix。レンタルであれば普通に他でも観られるという感じです。はい、『バクラウ 地図から消された村』、変わった作品です(笑)。
有坂:それ、さっきの『砂漠のシモン』に引っ張られた?
渡辺:かなり引っ張られた(笑)。選択肢としては、持っていたけどね。
有坂:5本目にそれ持ってくるか! っていうね(笑)。さすが、バーチャル手紙社の空間だと、大胆になれるね。流石です。あっ、「Netflixで観てみます」ってコメントも来てるよ!
渡辺:ぜひぜひ。
有坂:まあ、自己責任で見てくださいってね。面白いですよ(笑)。

有坂セレクト5.『ラテン・アメリカ/光と影の詩』
監督/フェルナンド・E・ソラナス,1992年,アルゼンチン・フランス,140分

渡辺:うーん!​​
有坂:これもね、ちょっと配信で観られないので申し訳ないんですけど、ぜひ紹介したい1本です。この映画は一言でいうと、ロードムービーです。南米の最南端にあるフエゴ島っていうところを出発点に、そこから主人公のマルティンという高校生が、なんと自転車に乗って南米大陸を旅するっていうロードムービーになっています。まあ要は、そこから北上していくわけですね。なので、アルゼンチン映画ではあるんですけど、出てくる土地としては、アルゼンチンだとパタゴニアとか、あと水没した町が出てきたり、あとなんか砂漠化しちゃったボリビアの密林が出てきたり、マチュ・ピチュが出てきたりとか、あとアマゾンの奥地が出てきたり、あとはメキシコのモンテ・アルバン遺跡っていうところが出てきたり、本当にもうね、中南米を語る上では絶対に、もう絶対に外せない1本。だってタイトルが「ラテン・アメリカ」ですから、もう今回のテーマを象徴するような1本と言ってもいいんじゃないかなと思います。
渡辺:うんうん。
有坂:このビジュアルも素敵ですよね。空を大きくとらえた、この高校生が自転車に乗って旅をするっていう。まあ自転車で旅をするっていうと僕らの世代だと、やっぱりグーニーズを観て、みんな自転車でどこまでも行けるんだと思って旅したことがあると思うんですけど、ちょっとそのスケール感が、この映画は違います。で、ぼくがこの映画を観たのが、これ1992年の映画って書いていますけど、日本公開はもうちょっと遅かったと思います。リアルタイムで劇場で観たんですけど、「キネカ大森」っていう映画館で観て、もうすごい覚えていて……。当時ぼくは、まだ映画が好きになって間もない頃で、当時メグ・ライアンとかトム・ハンクスとかウィノナ・ライダーとか、そういうスターが出ている映画ばっかり観ていたときに、なんかこのラテン・アメリカのポスターに惹かれて、大森っていう行ったこともない土地に行ってみて、観たからすごく印象に残っていて、そこで展開される物語も、今ままでのアメリカ映画みたいな分かりやすい「起承転結」、「最後はハッピーエンド」っていう物語でもないし、言語はスペイン語だし、なんかね、光も基本的に自然光を使って撮っているんですよ。だから、今までその光なんて気にしたことなかったんですけど、やっぱり、今まで観たアメリカ映画に比べると、なんかこうちょっと影が強調されているシーンがあったり、光がきれいだなと思っても、すごく自然な光が、なんて言うんでしょうね、気にしたことなかったような、そういう自然光にはじめて意識もいったような、そんな作品になっています。それで、どうして高校生のマルティンが南米大陸5万キロという壮大な旅に出るかっていうと、これね、お父さんを探しに行く物語なんですよ。すごくね、物語自体はシンプルです。「お父さんに会いたい」っていう一心で、彼は自転車に乗って南米大陸を旅するんですけど、やっぱりその行く先々で、いろんな現実に出会うわけですね。賄賂を払わなきゃいけなかったりとか、利権が絡んでいろいろな面倒くさい問題に絡まれたりとか、その不条理な現実。当時の南米諸国のいろんなそういうダークサイドみたいなものを、彼はこの自転車の旅を通して目の当たりにして、人として成長していくっていう物語です。なんか、これを高校生の頃とか、本当にそれこそマルティンと同い年ぐらいに観たら、同じような自転車の旅をしたくなっちゃうんじゃないかなっていうぐらい、なんかパワーを持った一作になっています。そういう物語的に惹かれる部分もありながら、音楽、これはタンゴが使われてるんですけど、アストル・ピアソラという人の、すごくあの有名なミュージシャンなんですけど、ピアソラのこれは遺作で、ちょっと物悲しい感じのタンゴが使われています。あと、ぼくがこの映画を観て、“ロードムービー”っていうものをはじめて知りました。ロードムービーって素敵だなと思って、ここからヴィム・ヴェンダースのパリ、テキサスとかジム・ジャームッシュのね、ダウン・バイ・ローとかを知ってくんですけど、そもそもの原点は、ぼくの場合は、この『ラテン・アメリカ/光と影の詩』になります。
渡辺:へぇ。
有坂:もうひとつ、この映画を通してはじめて知ったのが、「マジックリアリズム」っていう言葉。当時「なんだそれ?」って、全然わからなかったんですけど、要はこの中南米の現実を描いているんだけど、それをそのままストレートに描くんじゃなくて、ちょっとそこにフィクションを混ぜることで生まれる、超現実みたいな表現の仕方がマジックリアリズムです。これは映画というよりも小説の方でよく使われる言葉ではあるんですけど、映画の中でのマジックリアリズムとして、『ラテン・アメリカ/光と影の詩』というのはつくられているので、すごくドキュメンタリーかのようなリアルな映像を観ながらも、もう南米の最南端の島でなぜかコンクリート打ちっぱなしの部屋の中で雪が降っているとか、なんかそういうちょっと幻想的なねシーンとかがあるから、すごい心に残る名シーンもたくさんあります。なので、まあ、特に、このコロナ禍でなかなかね。今、もう旅ができない中で、観てほしいなと思う1本なんですけど……配信では取り扱いがないよね。
渡辺:ないですね。うん。
有坂:だよね。多分、これレンタルでTSUTAYAとかでもVHSしかないので、ちょっと紹介するのを躊躇したんですけど、これはいつか多分良きタイミングでみなさんの前に現われてくれる映画だと思います。ということで、今回のテーマにもピッタリということで、ぼくの5本目は『ラテン・アメリカ/光と影の詩』でした。
渡辺:なるほど、また激渋なところをあげてきましたね。
有坂:いやぁ、でも、これはね。モーターサイクル・ダイアリーズとかね、今回紹介しようかと思ったロードムービーもありますけど、それよりも前に影響を受けたということで。
渡辺:すごいね、よくこんなの観てるね。そんな映画観始めのタイミングとかで。
有坂:そうそう。
渡辺:ヴェンダースより先に観てるっていうのが。
有坂:だから、やっぱり振り返ると、自分がどうやって映画を選んでいるかなってときに、俳優とかね、物語が「好きそうだな」だけじゃなくて、ポスタービジュアルとかで、「なんかよくわかんないけど面白そう」とかっていうものに、やっぱりこう惹かれる傾向はもともとあったんだなっていうのが、この映画をあのタイミングで観ているっていうので、すごいなんかわかったから。
渡辺:うん、なるほどね。
有坂:勇気を出して観に行ってよかったなと思う一本でした。
渡辺:なるほどね。

──

有坂:今回はブラジル映画の『彼の見つめる先に』だけが被ったのかな。
渡辺:そうだね。
有坂:ということで、計10本の映画を紹介しました。みなさん、観たことがあった作品ってありましたか? もしくは、これ私もすごい好きですとか。渡辺:割と最近のやつとかだとね。観たことがあるかもしれないけど。
有坂:わかんない。『砂漠のシモン』が大好きですって人がいるかもしれない(笑)。まあ、なかなかこの中南米にフォーカスして映画の話をするって、うちらもはじめてだよね、多分。
渡辺:そうだね。
有坂:うん。やっぱりその言語だったり、そのライフスタイルとか、文化的なところが、中南米っていうのはね、日本と比べるとやっぱり全然違うなって感じることが多くて。やっぱり映画をたくさん観ているからこそ、中南米のライフスタイルをなんとなく知った気にはなれていると思うので、なんかそこに刺激を受けて。いつかぼくは、まだ行ったことがないので、中南米に行ってみたいなと思います。順也は行ったことある?
渡辺:ないね。
有坂:どこ行ってみたい?
渡辺:そうだな、アルゼンチン。ブエノスアイレスとかね。あとブラジルとか。
有坂:スラム?
渡辺:スラムはいいかな(笑)。
有坂:俺もやっぱりブラジルとかで、サッカーを観たいね。
渡辺:うんうん。
有坂:すごい熱狂的なサポーターの中で、観てみたいなと思います。じゃあ、順也から何か最後にお伝えしたいことがあれば。
渡辺:はい、そうですね、ぼくたち、インスタグラムとかで映画情報を日々発信していますので、ぜひそちらもフォローしていただけるとうれしいです。
有坂:仕事の方は、なんかないの?
渡辺:仕事の方は……あの上映企画。映画館での過去作上映とかを、今Filmarksのほうで、ぼくが企画していたりするんですけど、最近スパイダーマンがめちゃくちゃブレイクしているので、昔のアニメ版、『スパイダーマン:スパイダーバース』の企画を最近やったりして、でもそれは結構すぐ完売しちゃって人気でした。なんで、今度はちょっと吹き替え版も企画しようかなと。
有坂:いや、だって、スパイダーマンの新作、やばいねあれ! そんな思い入れないけど「そう来ましたか!」みたいな。
渡辺:Filmarksでも「ネタバレで書けない!」とかそんなコメントばっかりで。
有坂:もうね、めちゃくちゃ感動して伝えたいんだけど、その感動を言葉にすると全部ネタバレになるっていう(笑)。でもね。「そう来ましたか」っていう、視点の面白さはあったね。
渡辺:そうね。いや、そういうことができちゃうっていうのがすごいなと思ったね。
有坂:……どういうこと?
渡辺:(笑)
有坂:それが言えない(笑)。はい、ええと、ぼくからのお知らせは、あの横須賀美術館で来週やる予定だったイベントがコロナで延期になり、3月末になって、予約で一応完売してしまっているイベントなんですけど、人生フルーツというとっても素敵な日本のドキュメンタリーを上映します。もしかしたら、延期したことによって、枠が空いたりするかもしれないので、ちょっとお伝えだけしておきます。また、詳細はホームページとインスタグラムのほうでお伝えしますので、気になった方は、ぜひチェックしていただけたらと思います。あと、これも2月末に予定してるイベントで、代々木上原の「hako」というギャラリーで、急遽イベントやろうよっていうことで、あの順也にもまだ言ってないんだけど。
渡辺:うん。
有坂:映画のタイトルデザイン。
渡辺:うんうん。
有坂:タイトルデザインって、みなさんわかりますか? 有名なとこで言うと、『007』のオープニング。ちょっとアニメーションを使って、スタッフクレジットみたいなところを、ちょっとグラフィカルにアニメーションを入れて紹介したりするような、このパートをタイトルデザインっていうんですけど、そのタイトルデザインにフォーカスしたトークイベント、映像付きで紹介すると、イベントをnorahiというイラストレーターと一緒にやろうということで進んでいたんですけど、もしかしたら延期になるかも? ただ、いずれ必ずやりますので、そのタイトルデザインのことをわかりやすく説明しようと思っていて、その情報が入ると、また映画の楽しみ方も広がると思うので、ぜひそちらも興味を持っていただけるとうれしいなと思います。皆さん、どうもありがとうございました!!
渡辺:ありがとうございました!!

──

選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe


──────────────────────────────────

月刊手紙舎トップへ戻る
















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?