手紙社リスト映画編 VOL.8「キノ・イグルーの、観て欲しい『おとぎの国・ファンタジーランド』な映画10作」
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、クリスマス特別編「おとぎの国・ファンタジーランド」な映画です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつドラフト会議のごとく交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今回は、最初にチョキを出すクセがある渡辺さんが裏をかいてパーを出して勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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渡辺セレクト1.『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』
監督/ヘンリー・セリック,1993年,アメリカ,76分
有坂:うん、うん。
渡辺:まずは、この季節と言うこともありまして……。これは1993年に公開されたアニメーションなんですけど、ストップモーションアニメといって、一コマ一コマ、人形を動かして撮影していくという気の遠くなるような撮影スタイルで撮られた、しかもミュージカルですね。話は“ハロウィンタウン”っていうところから来た主人公が、“クリスマスタウン”に来て、クリスマスに魅了されていくというお話なので、ハロウィンの要素とクリスマスの要素の両方が楽しめるようなお話になっています。まぁこれからクリスマスっていうのもあるので、季節的にもぴったりかなと選んでみました。アニメーションといっても、墓場からゾンビ的な人形が出てきたりとかするので、どちらかというとダークファンタジーになります。キャラクターはけっこう可愛らしいんですけど、その元はガイコツだったりとか、割とおどろおどろしいものだったり。その彼らの可愛らしい話になります。これは大人も子どもも楽しめる作品なので、まだ観ていない方はこの機会にぜひ観ていただけたらなと思います。
有坂:うんうん。
渡辺:ちょっとこのFilmarksのページ下のほうに行くと今どこで観られるかがチェックできるので……。
有坂:けっこう観られるね。
渡辺:そうですね。Disney+で見放題だったり、あとはレンタルで観られるという感じです。
有坂:で、これ「ティム・バートンが監督してる」って思われがちなんだけど、実は違うんだよね。
渡辺:そう原作なんだよね。
有坂:ヘンリー・セリックって人が監督をして。ティム・バートンは、ストップモーションアニメとしてはこのあと自分で『コープスブライド』という映画を監督してつくって、よりあっちの方がダーク色が強いよね。こちらはもうちょっとポップできらびやかな要素があるので、入り口としてはこっちのほうがいいかな。
渡辺:そうね。
有坂:そうか、これを1本目に。
渡辺:まずは、王道的な感じだと思います。
有坂:ちなみにさ、ちょっと話がずれるけど、順也はクリスマスって好き? 何か思い出とかってある? その話を最初にしようと思っていたんだけど、忘れちゃったので……
渡辺:急に(笑)、突然だね(笑)。
有坂:このタイミングで(笑)。
渡辺:クリスマスは、そりゃ好きですよ。なんか時代時代でクリスマスのあり方って違うので……。子どものときは、えーと、もうサンタさんにプレゼントをもらうっていうのが楽しみで。でも、うちは貧乏だったので、だいたいぼくの希望通りじゃないっていうね(笑)。そういうのがありましたね。あと学生時代とか若いときは、もうカップルのための日だったりするから、クリスマスは。
有坂:そうだよね。
渡辺:だから、そのタイミングで彼女がいないと、もうとりあえず寂しいっていうのがあったりとか。あとまた家族ができると、家族のための行事っていう感じになるからね。まぁそんな感じの。
有坂:変わらず好きなんだねぇ。僕もクリスマスは大好きで、なんでこんな好きなんだろうなって大人になって考えてみると、やっぱり小さい頃の原体験があって、例えばサンタクロースにプレゼントばかりか、サインまでもらったことがあるとか(笑)
渡辺:はははは、まじで?
有坂:筆記体のサインでした。
渡辺:漢字じゃなかった!
有坂:漢字じゃなかった(笑)。で、筆記体のサインをもらったり、なんか幼なじみの何家族かが集まって毎年クリスマスパーティーをやってたの。それがめちゃくちゃ楽しくて、必ずそこでクリスマスソングがかかっていた。多分シナトラとかローズマリー・クルーニーとか王道のクリスマスソングってあるじゃない。ああいう曲が流れていて、そのクリスマスソングを聴くと、あの頃の時間がよみがえってくるからね。そういう意味でも音楽は重要かなと思って。それでクリスマスソングをいつ解禁するかっていうのも、毎年ちょっと肌寒くなってくると自分の中では大きなテーマとして……
渡辺:なるほど。
有坂:最近は“コートを着た日”がクリスマスソング解禁日ということで、クリスマスを楽しんでいます!
渡辺:じゃぁもう解禁された?
有坂:されたよ! めちゃくちゃ聴いています。
渡辺:(笑)11月なのに。
有坂:あ、カメラのですね、向こう側に(この前にライブ演奏を終えた)tico moonの二人がいるから言うわけではなくて、tico moonのクリスマスアルバムも本当に聴いているし、もうぼくらの世代だとドンズバでマライアキャリーとか。
渡辺:(笑)
有坂:どうしたって、あの鈴の音が鳴っただけで、すごいテンションが上がって、あの高揚感で未だに涙が出るっていう。はい、そんなクリスマス好きのぼくが次1本目をいきたいと思います。
渡辺:はい!
有坂:ぼくの1本目はですね、もう1本目というかぼくの5本はですね、今回すべてミュージカル映画でいこうと思います!
渡辺:いいんですかそんなこと言っちゃって。
有坂:はい。なんかこう、おとぎの国っていう切り口、シンプルにクリスマスって考えたんだけど、なんかちょっと違うことをやりたいなと思って、ファンタジーランドとかおとぎの国って映画だと何かなぁと思ったら、もう完全にミュージカルの世界っていうのが、もうファンタジーじゃん。なので、今回はちょっとそっちに絞って、5本紹介しようかなと思います。
渡辺:へー、なるほどー。
有坂セレクト1.『雨に唄えば』
監督/ジーン・ケリー,1952年,アメリカ,102分
渡辺:うんうんうん。
有坂:これは、1952年の映画なのでもう60年前ぐらいの作品なんですけど、未だにに若い人でも名作映画を観るときに選ばれるような、本当に語り継がれている一本かなと思います。この映画、ストーリー自体は、映画業界の実は裏側を描いた作品です。まだ映画に音がついてなかったサイレント映画の時代の人たちが主人公で、サイレントからトーキーに変わるちょうどその間の時代の話なんですね。無声映画っていうのは、結局声が映画の中で使われないので、その代わり役者の表情がすごくオーバーな、あと身振り手振りもオーバーな、そういう見た目で表現する、というところから、声が使えることになって、そのセリフ、会話劇っていうのがどん中心になっていった。そういう変化があったんですけど、そこで一つ大きな問題になったのが、役者の声問題。
渡辺:うんうん。
有坂:で、当時、実際にいたと言われているんですけど、顔のイメージと声の雰囲気が圧倒的に違うって人が、もうそのサイレント映画の時代が終わったあと取り残されてしまった。『雨に唄えば』でも実際にそこが物語のキーポイントになってきます。それでこの映画は、ジーン・ケリーっていうミュージカルスターが主演していて、まぁ彼のね、雨の中のタップダンスがですね、まさにこのDVDジャケットの3人で踊っている絵もそうなんですけど、ハイライト中のハイライトかなと思うわけです。実は キノ・イグルーでこの映画を1回上映したことがあります。恵比寿ガーデンプレイスのピクニックシネマっていう野外シネマでこれを上映したんですけど、ちょうどその日が雨でした。雨天は基本中止なんですけど、幸い屋根があるので小雨だったら続行できると。ただ上映中どんどん雨足が強くなってきて、さすがにこれは続けるのは難しいということで一度中断をして、そのあと天気が回復しそうだったら続行しますってことで20、30分くらい中断したんですよ。そうしたら、もうずぶ濡れの大学生とかがいたんですけど、声をかけたら映画が映画なので濡れてなんぼですよってことで、その環境を楽しんでくれていました。それで結果的に雨が止み、上映して、最後まで無事に上映終了までいきました。そのときに、僕はステージで毎回上映の前後に簡単に映画の話をするんですけど、本当にステージに上がる階段でいいフレーズを思いついたと思って言ったのが、世界初の『雨に唄えば』、4D上映いかがだったでしょうかって言いました(笑)。そしたら、すごいワーって盛り上がってくれて、それこそさっきのtico moonのライブのときのようにワーって歓声が上がり、みなさんが喜んでくれて、終わったあとね、みんなに囲まれて本当に「最後まで上映してくれてありがとう」って、こっちが涙が出るぐらい。ぼくらも「最後まで観てくれて本当にありがとう」だったので、ほんとにみんなでこの映画をこの環境で観られたっていうことが特別な瞬間だったなーって共有できたんだよね。
渡辺:そうだね、なかなか映画を中断して、再開するっていうのもないので。
有坂:それに観ようと思えば、例えば、配信で無料で観られたりするんだけど、やっぱり「何を観る」も大事なんですけど、「どこで観る」「どういう環境で楽しむか」っていうのも、改めて大事だなっていう。そういうキノ・イグルーの思い出も含めて、特別な一本が『雨に唄えば』です。ぜひ、観ていない方は雨の日に、雨降って嫌だな、雨が憂鬱だなって方は、その日に『雨を唄えば』を観ると決めておけば、その日も楽しみな日になると思うので、ぜひ観てみてください。
渡辺:なるほど! そうきましたか。
有坂:だから、今日かぶらないでしょ?
渡辺:そうだね。でも、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』もミュージカルだからね?
有坂:リストに入ってなかったので大丈夫(笑)!
渡辺:(笑)。じゃあ、塁がこれを出してくるんじゃないかなと思ったやつを、2本目に出します。
有坂:あれかな?
渡辺セレクト2.『アリス』
監督/ヤン・シュヴァンクマイエル,1988年,チェコスロバキア・スイス・イギリス・西ドイツ,86分
有坂:あぁ、そっちか。
渡辺:はい。『不思議の国のアリス』が、なんていうんでしょう、ファンタジーの定番、おとぎ話の定番だと思うんですけど、それのヤン・シュヴァンクマイエルっていうチェコの映像作家がつくったバージョンの不思議の国のアリスですね。タイトルは「アリス」だけなんですけど……
有坂:ちょっと待って! これ1回、おれが「東欧な映画」の回のときに紹介したよね?
渡辺:いいでしょ? 重なっても。
有坂:そうか、違う角度からね!
渡辺:いいよね?
有坂:はい。
渡辺:これは1988年の作品です。前回も作家としては紹介したと思うんですけど、ヤン・シュヴァンクマイエルっていう人はチェコの映像作家で、ストップモーションアニメとかそういうのを撮っている人なんですけど、なんていうんでしょう、ビジュアルとか美的センスみたいなところがすごく独特の人なんですね。それで、出てくるのが、木が枯れていたりとか、鉄が錆びていたりとか、あとは腐りかけのリンゴが置いてあったりとか、そういうちょっと“ものが朽ちていく”っていう、そこに美学を、美的なセンスを生み出している人であったりするので、そういう世界観の不思議の国のアリスという感じですね。
有坂:うんうん。
渡辺:なのでウサギが迎えに来て、時計を見ながら「行かなきゃ」とか言ってるんですけど、もうそのウサギからして、ちょっとキモイみたいなところがあります。ただ世界観としては、不思議の国のアリスだったりするので、なんかちょっと不気味で、なんかキモかわいいキャラクターたちが不思議の国のアリスの世界をつくっているっていう、そういう作品になっています。で、不思議の国のアリスって、多分世界で一番リメイクされている作品なんですね。なので、不思議の国のアリスっていうタイトルの作品っていっぱいあって、世界最古の作品の一つにも、不思議の国のアリスがあったりするんで……、最新だと何だろう。ティム・バートン?
有坂:かな? でも、そのいちばん古いものでいうと、それこそ映画が誕生して5年後に、アリスってもう、1本つくられているんだよね。
渡辺:100年くらい前にね。
有坂:そうそう、それは本当に画期的で、何が画期的かっていうと、世界最初の映画ってただの記録映像だったんですよ。駅に電車がやってくる映像とか、工場から仕事が終わった人が出てくるとか、それをただ撮っているだけ。でも、その「映像」っていう概念がそれまでなかった人にとってはそれが衝撃的で、電車がカメラに向かってやってくると、ひかれるんじゃないかと思って逃げちゃうっていう逸話も残っている。そんな記録映像が出発点なんですけど、そこに演劇の要素が加わって、要は物語というものが入ってきて、今の“脚本を楽しむ映画”っていうスタイルができた。その最古のアリスがDVDにもなっていたりYouTubeでも多分観られると思うので、100年前のアリスは必見です。おすすめ!
渡辺:そう、それで当時、小屋で映画ってかかっていたんですけど、同じように見世物小屋でやっていたのがマジシャンで、マジシャンが映画に目をつけて、いろんなトリック映像っていうのがそこから撮られるようになったんだよね。だから、アリスの登場人物が大きくなったり小さくなったりとか、突然消えたりとか、そういうのってフィルムをつなげればいなかった人が出てくるとかできちゃうわけですよ。そういうのができるというのを、実はマジシャンが最初に発見して、映画でトリックをしていくっていうことを表現し出した。そういう面でも試されたのが「不思議の国のアリス」なんですね。なので、「不思議の国のアリス」っていうタイトルは、歴史のある作品だったりするんですけど、その中でチェコ版の『アリス』。これもなかなかダークファンタジーって感じの作品です。これもキノ・イグルーで、何回も上映したりしているので。
有坂:そうだね、上映したよね。絶対にやってはいけないことは、お肉を食べながら観ないでください。これは観てもらえればわかります(笑)。
渡辺:(笑)食事時はね。
有坂:そうだね、特に肉関係は要注意です。
有坂セレクト2.『踊るニュウ・ヨーク』
監督/ノーマン・タウログ,1940年,アメリカ,102分
渡辺:うんうん。
有坂:1940年のハリウッド黄金期って言われた時代のミュージカル映画。ただ、これ「おどるにゅーよーく」ってタイトルが実は二つあって。
渡辺:うんうん、漢字の方とね。
有坂:そうそう、今日、ぼくが紹介するのは「ニューヨーク」がカタカナなんですけど、漢字版の方もあって、漢字の「大紐育(ニュー・ヨーク)」のほうは、さっきの『雨に唄えば』のジーン・ケリーが出ている。で、ぼくが紹介したいのは、フレッド・アステアっていう人が出ています。なので、「ミュージカルスターと言えばこの二人!」っていうジーン・ケリーとフレッド・アステアが同じ邦題の映画に、内容全然違うんですけど出ているんですね。
渡辺:うーん。
有坂:「踊るニュウ・ヨーク」にはフレッド・アステアとエリノア・パウエルっていう、当時のミュージカルスター二人が出ている。話はシンプルで、売れない二人のダンサーが、紆余曲折を経て成功していくっていうサクセスストーリーをミュージカルとして描いたもの、なので話はものすごいシンプルです。ただ、やっぱりミュージカルで大事なのは話がシンプルであることだと思っていて、結局、見せ場は「歌って踊って」をいかに素敵に魅せるかっていうところなので、そういう意味では、本当にこの映画のストーリーがシンプルなのは重要なポイントかなと思っています。そして音楽があの大作曲家のコール・ポーター。なので、アステアとエリノア・パウエルのダンス、プラス、コール・ポーターの名曲を堪能できるなんて、もう「こんな贅沢な100分ありますか?」っていう。贅の極みだと思って観てもらえたらと思います。
渡辺:おおー。
有坂:それで、やっぱりこういう昔のミュージカル映画って、なかなか実際に普段映画に接しているぼくらでも、機会が無いとなかなかこの時代のものまで遡ったりしないんですけど、なぜ今回取り上げようかなと思ったかっていうと、それは『ラ・ラ・ランド』ありますよね? あの『ラ・ラ・ランド』って昔のミュージカルを、もう監督が大好きだからいろんなシーンにオマージュを捧げて使っています。その中で『踊るニュウ・ヨーク』も、実はオマージュを捧げられている1本です。これは、星空の下で二人がワルツを踊るシーン。まったく同じシーンが『踊るニュウ・ヨーク』に出てきます。この『踊るニュウ・ヨーク』の方では、もうダンサーとしても超一流の二人が夜空の中で、もう空中で踊っているような本当に素敵なダンスシーンで、それをフルで観せてくれるので、ここだけでもぜひ観てほしいと思える素晴らしいダンス。おまけに、クライマックスで「ビギン・ザ・ビギン」という曲がかかる。そのクライマックスのダンスバトルはね、もうこれは鳥肌が止まらない!
渡辺:ふふふふふ。
有坂:内容を言いたいんですけど、言っちゃうとつまらないので、ぜひ観てください!
渡辺:ははははは。
有坂:けど、言いたい! 淀川長治だったら言っているな。
渡辺:笑。「ちょっとだけ言わせてください」……
有坂:そう「ちょっとだけ言わせてください」で最後まで言うよね(笑)。まあ、長回しでそのダンスをたっぷり観せてくれるっていうところに、すごく監督、主演、作り手のダンス愛を感じる映画かなと思います。あ、Filmarksの画面、出た! このパッケージだと全然面白そうに見えないかもしれないんですけど、信じてください!
渡辺:(笑)
有坂:これFilmarksの表記は「ニュウ・ヨーク」なんですけど、DVDのほうは「ニューヨーク」になっていますよね。なので、違うタイトルでDVDはあとから出たみたいです。で、ぜひ、ジーン・ケリーっていうのはダイナミックなダンス。で、このフレッド・アステアはすごく優雅なダンス。スタイルがまったく違う人なので、両方観るのもいいかもしれない、と思います。はい、ということで、僕の2本目は『踊るニュウ・ヨーク』でした。
渡辺:なるほど……、なるほどですね。
有坂:今日は全然かぶらない、安心感!
渡辺:想定と全然違って(笑)。
有坂:でしょ? だから余裕だったの今日。ジャンケン負けてもいいやぐらいな(笑)。
渡辺:「そう来たから、こうしよう」みたいな……
有坂:駆け引き?
渡辺:……ふうに思っていたけど、無いからどうしよう、逆に(笑)。
有坂:戸惑う?(笑)今回、ちょっとお題が広がりのあるお題だったからね、その解釈の仕方から違いが出るといいなと思っています。
渡辺:なるほどですねー。じゃあ、ぼくはもう、はい、ファンタジーな感じでいきたいと思います。
渡辺セレクト3.『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
監督/トム・ムーア,2014年,アイルランド・デンマーク・ベルギー・ルクセンブルク・フランス,93分
有坂:ほう。
渡辺:これは、アイルランドかな。アイルランドのアニメーションです。これは、ベースがですね、もともとアイルランドに伝わる民間のおとぎ話というか、伝説を元にしたお話になっています。海の妖精のお母さんと人間の間に生まれた兄弟の話で、あるとき、だんだん大きくなってきて、娘がですね、妖精の力を得るようになって、海へ妖精として帰っていってしまうんですね。それをお兄さんが取り戻そうとする、という冒険のお話になっています。これは、本当になんていうんだろう、めちゃくちゃ良い話で、絵もすごく可愛いくてですね、キノ・イグルーでも何回か野外上映とかをやったりしたんですけど、海と星空とかっていう、絵ももすごい綺麗で。
有坂:うん、うん。
渡辺:あとは、アイルランドの民間に伝わる伝説だったりするので、人と自然との調和であったりとか、何か教訓めいた、「こういうことはしていいけど、こういうことはしちゃだめなんだよ」みたいなことだったりとか、そういうことが物語から学べるような、話としても結構美しい物語になっています。で、このアイルランドのアニメーションスタジオがあるんですけど、そこが実は有名で「カートゥーン・サルーン」っていうんですけど“ポストジブリ”というふうに、実は言われています。ヨーロッパではめちゃくちゃ有名で、この作品は監督トム・ムーアって人なんですけど、トム・ムーアが大のジブリファンなんですね。自分でも思いっきり宮崎駿の影響を受けてアニメをつくっていると言っていまして、なので、この『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』も、ちょっと『崖の上のポニョ』の影響が見えたりするんですね。他の作品でも、いちばん新しいのが『ウルフウォーカー』っていうお話があるんですけど、これは森に住むオオカミたちと、森を開拓していく人間との対立だったり調和だったりっていう話で、これもですね、観てみると『もののけ姫』の影響が感じられる。それがわかるんですね。
有坂:うんうん(笑)。
渡辺:なので、本当にそういう影響が観られるし、アニメとしても本当に面白い。観ていて「パクリじゃん!」ってそんなふうには全然思わないですね、オリジナリティーがある作品で、もともとベースもアイルランドの伝説からきている。なので、ジブリのほうが普遍的なテーマをを扱っているので、そういうところがシンクロするところがあるんじゃないかなぁと思います。これもすごいオススメなので、どこかで観られるかな。U-NEXTとかね、観られるみたいです。
有坂:(コメントを見ながら)「妖精と人間でポニョが思い浮かびました。ジブリ好きの監督だったとは」。
渡辺:レンタルもありますので、これも親子で観られる作品なのでぜひ!
有坂:これ、キノ・イグルーで上映したときは、横須賀美術館で上映したんですけど、横須賀美術館のスクリーンって実は透けているんですよ。メッシュ地みたいな素材がスクリーンになっていて、メッシュ地じゃないほうがもちろんきれいに映るんですけど、実はですね、海から山に抜ける風の通り道に建てなきゃいけないので、風を受けて倒れないように、風を通すためにメッシュ地のスクリーンを使っているんですね。なので、上映中に船とかが通ると、映画の画面を船の灯が移動していくんですよ。
渡辺:透けてね、背景が見えるんですよね。
有坂:そう、普通だったらありえないんですけど、この場所で映画を見るための特別なスクリーンって説明をしておくと、それさえも特別な体験になったりするんですけど。なので、せっかくなら海をテーマにした映画ができるといいなぁということで、『ソング・オブ・ザ・シー』も上映しました。なので、海が透けたスクリーンで海のアニメーションが観られるということで、子どもが喜んでくれていた記憶がすごいあって。忘れられない体験になっていたらいいね。
渡辺:ね。これもめちゃめちゃおすすめなので。
有坂:うん。……順也、あれだよね。トム・ムーア好きだよね。
渡辺:トム・ムーア、大好き。
有坂:ずっと言っているよね。
有坂セレクト3.『世界中がアイ・ラヴ・ユー』
監督/ウディ・アレン,1996年,アメリカ,102分
渡辺:ああー。
有坂:なんかねぇ、「世界中がアイ・ラヴ・ユー」ですよ。
渡辺:笑
有坂:このタイトルね。原題は「Everyone Says I Love You」なんですけど、なんか、今こそこういうのを観てほしいね。
渡辺:好きだよね(笑)。
有坂:なんか『世界中がアイ・ラヴ・ユー』って本当に好きで、やっぱり世の中で何か暗いニュースがあったり、社会の分断が進んでいるとか言われたりするけど、やっぱりこういう能天気なミュージカル……とは言い切れないけどね、ウディ・アレンなので、ちょっとシニカルな要素があったりするんですけど、でもコメディーの要素もあって、最後はね大団円を迎えるっていう、本当にハッピーな気持ちになれるミュージカルです。これはウッディ・アレンだけじゃなくて、ドリュー・バリモアとか、エドワード・ノートンとか、ジュリア・ロバーツとか、ナタリー・ポートマンとか、そうそうたるメンバーが出演したミュージカルになります。それで、ウッディ・アレンが言っていたのが、これは吹き替えを使っていないので、演者さんが歌っている声がそのまま使われているということなんですね。なので、歌が上手い人もいればそうではない人もいて、そうでもない人の中に監督のウディ・アレンがいるんですけど、すごくか細い声だけど、その役の気持ちを伝えるのにやっぱり本人の声のほうが良いと言うことで、代役というか別に歌手を立てることなく、本人たちの声をそのまま使っています。……って言ってたんですけど、どうやら、ドリュー・バリモアだけ吹替られたらしいんですね。
渡辺:(笑)
有坂:かわいそうに。ぼくは、ドリュー・バリモアの歌声を知らないんですけど、それで言うならウッディ・アレンの声も大丈夫なの? ってちょっと心配になるので、ぜひウッディ・アレンの歌声を皆さん注目してみてください。
渡辺:(笑)
有坂:それで、この映画は僕が初めて観たのは、恵比寿ガーデンプレイスの映画館だったんですけど、本当にクリスマスシーズンに観て、こう、なんていうんでしょうね余韻に包まれたまま、本当に心がなんていうんだろうだワクワクするような状態で映画館を出たら、クリスマスツリーが飾ってあって、で、ショーウィンドウの前を通ったら、映画の中でマネキンが急に踊り始めるシーンがあるんですけど、そのシーンが本当にシンクロしたというか、ガーデンプレイスを歩いていてほんとにマネキンが踊り始めるんじゃないかって思うくらい、映画の世界からなかなか抜け出せないくらい、強い余韻がありました。なので、舞台がニューヨーク、ベニス、パリのミュージカルコメディーなんですが、そんなの面白いに決まっています。あと映像も素敵なので、ぜひクリスマスシーズンに観ていただきたいなと思う一本です。大切な人とぜひ観てみてください。
渡辺:なるほど。
有坂:大好きです!
渡辺:好きだよね。
有坂:本当に。ちなみに、ぼくが人生ではじめて好きになったミュージカル映画です。
渡辺セレクト4.『怪物はささやく』
監督/フアン・アントニオ・バヨナ(J・A・バヨナ),2016年,アメリカ・スペイン,109分
有坂:うんうん。
渡辺:こは実写なんですけど、なんていうんだろう、アニメというか、CGで怪物も出てくるというファンタジー作品になります。これはある少年が主人公なんですけど、少年にはなぜか他の人には聞こえない声が聞こえて、それが怪物が夜な夜なやってきては、何か脅してくるっていうお話です。この少年にだけ怪物が囁いてくるというお話なんですけど、なんでそんなことが起こるのかということが、話が進んでいくとだんだんわかってきまして、この少年というのは、すごく不幸な生い立ちをしているんですけど、実は自分の中に閉じこもっていた少年の声がそういう風に表現されているっていうことがだんだんわかってきます。なので、これもちょっとファンタジーなんですけど、なんだろうな、絵本の話みたいな体なんですけど、闇の部分もだいぶある「実は深い話だった」みたいな、そういうタイプの作品です。なので、よく昔話とかおとぎ話とかってよくよく読んでみるとけっこう残酷だったりとか、実は怖かったりとかってことがあると思うんですけど、本当にそういうけっこう人の核心をついたような話って、ダイレクトに話してしまうとキツかったりするものも、昔話みたいにタヌキとかウサギが出てくるみたいな、そうやってちょっとオブラートに包むと、昔話でも聞けてしまうっていうのがあると思うんですけど、なんかそういう要素があるような話です。なので、これも子どもと一緒に見られるタイプの作品なんですけど、大人の方がそのメッセージにやられるっていうですね……
有坂:ふふふ。
渡辺:けっこう最後泣ける作品だったりするので。感動作であったりもするので。あんまり言ってしまうとネタバレになってしまうのであれなんですけど。これは、2016年なのでわりと最近の作品ですね。これは『パンズ・ラビリンス』っていう作品を手がけたメキシコのギレルモ・デル・トロっていう監督の製作チームがつくったということでも、当時話題になったんですね。ギレルモ・デル・トロって何年か前に『シェイプ・オブ・ウォーター』っていう作品でアカデミー賞も取った監督なんですね。で、その監督が世界的に有名になったのが「パンズ・ラビリンス」っていう作品で、これも同じような不幸な女の子が、“怪物が出てくる”、“迷宮に迷い込む”という夢を見る話なんですけど、それはやっぱり女の子がつらい現実から目を背けるために自らつくり出していった話だったりして。その同じ製作チームがつくっただけある、という作品で、これもなかなか見ごたえがあるので、ぜひ機会があったら観ていただけたらと思います。
有坂:これ、その年のベスト10に挙げた作品。ぼく大好きで。でも順也から挙がるのちょっと意外だなって思って。
渡辺:そう? 意外じゃないよ、全然(笑)。
有坂:何ちょっと?(笑) ベスト10入れてたっけ?
渡辺:入れてなかったと思う。
有坂:(笑)。でも、本当に素晴らしい映画です。少年、子どもたちの通過儀礼の話、こういうものを通って自分を受け入れて大人になっていくっていうものを、こういうファンタジーという体で描いている作品で、ハズレがあんまりないよね。そう思います。子どもの心に製作側が向き合ってつくっていて、『怪物はささやく』は映像がすごくかっこよくて。
渡辺:そうだね。
有坂:歩いているシーンを後から撮って、それをこう……あんまり言うのはやめよう。とにかくかっこいいので映像も注目です。……自分が紹介した映画っていう体で語りそうになっちゃった(笑)。
有坂セレクト4.『ロシュフォールの恋人たち』
監督/ジャック・ドゥミ,1966年,フランス,127分
渡辺:んー!
有坂:1967年のフレンチミュージカルの本当に代表作ですね。それで今日紹介したジーン・ケリーの『雨に唄えば』とか、フレッド・アステアのミュージカルとか、そういった過去のハリウッドでつくられた、アメリカでつくられたミュージカルにオマージュを捧げて、フランスでミュージカルをつくろうというプロジェクトが『ロシュフォールの恋人たち』です。なのでロシュフォールの中には実はジーン・ケリーも出演しています。アメリカからやってきた音楽家だったかな。この映画っていうのは港町ロシュフォールを舞台にした作品で、主人公がですねカトリーヌ・ドヌーヴ、あとはフランソワーズ・ドルレアックっていう、実際の姉妹が双子を演じた物語になっています。その二人は運命の恋人を待って、その港町ロシュフォールで暮らしているんですけど、彼女たちの周りにいる親であったりとか、友人だったりそういう人ともつながって、ある種の群像劇みたいな物語になっています。でも、これはね『シェルブールの雨傘』っていう名作がありますが、これは同じ監督の ジャック・ドゥミがつくっていて、本当にざっくりと陰と陽で分けたらシェルブールはどちらかと言うと影を感じる、『ラ・ラ・ランド』のラストシーンはシェルブール、と言われるぐらいちょっともの悲しさがあるんですけど、ロシュフォールはもうちょっと陽のほうのミュージカルなので、本当にみんなが恋をしているんですよ。『世界中からアイ・ラヴ・ユー』とちょっと通じるところがあって、この双子の姉妹のお母さんも恋をしているし、みんな運命の人を待っている。そんなの映画じゃなきゃつくれないじゃないですか。
渡辺:(笑)
有坂:それを本当に色彩豊かにミシェル・ルグランの素晴らしい曲も含めた、“めくるめくようなときめき”を与えてくれるミュージカル。本当にその言葉に嘘がないっていうくらい、他にちょっとね並べるものがないくらい陽のほうにふりきった素敵な作品かなと思います。
渡辺:うん。
有坂:これちょっと裏話があって、世界で映画史上最も美しい姉妹というふうに、この映画を通じて言われたぐらい、カトリーヌ・ドヌーヴとフランソワーズ・ドルレアックは素晴らしい役を演じています。ただ、ジャック・ドゥミの第一希望はこの二人ではなく、オードリー・ヘプバーンとブリジット・バルドーだったそうです。なので、アメリカとフランスの大女優を迎えて世界規模の大作ミュージカルをつくるっていう野心を持ってたらしいんですけど、結果的にヘプバーンがバルドーとの共演を断って、バルドーも「何よそれ!」ってことで降板して、二人ともいなくなってしまって、「シェルブールの雨傘」でジャック・ドゥミの映画にデビューしていたドヌーヴがキャスティングされて、お姉ちゃんのドルレアックも出ました。これバルドーとヘプバーンだったら観てみたいけど、やっぱりちょっとあんな雰囲気にはならなかったよなぁって思う。
渡辺:バチバチになってた?(笑)
有坂:バチバチだよね(笑)、二人でダンスもちょっと合わないとかね(笑)。
渡辺:(笑)
有坂:ドヌーヴというのは妹で、お姉ちゃんはドルレアックなんですけど、お姉ちゃんが先に映画界にデビューしていて、そのお姉ちゃんのことがドヌーヴはもう好きで好きで、大好きで、お姉ちゃんを好きすぎて自分なんてそんな可愛くもないし、魅力がないってことで、若い頃のドヌーヴってシスコンって自分でも言っているんですけど、そんな引っ込み思案で自信のない彼女が映画界に足を踏み入れて『シェルブールの雨傘』で大スターの仲間入りをするんですね。で、ついに大好きなお姉ちゃんと共演を果たすことになったのが『ロシュフォールの恋人たち』なんです。なので、ね、もうこの話をすると泣きそうになるんだけど、毎回……ちょっと飲んでいいですか?
渡辺:(笑)
有坂:これ、ドヌーヴが……何て言ったかな、その……どこから説明しよう……。ちょっと待ってくださいね……。お姉ちゃんが好きでやっと共演できて、二人で……何ていうんだろうな、お姉ちゃんへの愛情とか、お姉ちゃんもやっぱり妹のことが大好きだしっていうのがやっぱり出ているんですよね。そこかしこににじみ出ているから、これだけ感動できるんだろうなって思うんですけど、その映画が実際に完成して、いざ公開までの期間、宣伝の期間も含めてあるんですけど、実はその公開までの期間に、お姉ちゃんのドルレアックが交通事故で亡くなっちゃったんですよ。……そう。……で、ドヌーヴは自分が大好きなお姉ちゃんと共演できて、もう本当に自分の人生の喜びの絶頂のときに、本当に急にお姉ちゃんがいなくなってしまって、そこから「自分はもう女優もできない」とか、ふさぎ込んでしまうんですね。ふさぎ込んでしまったんですけど、やっぱりいろいろあって乗り越えて、そこからまた女優として頑張るってことで、今もバリバリ第一線で、是枝監督の映画にも出たりしていましたけど、活躍しています。なのでやっぱり、彼女なりにいろんなことを若いころ経験して、それが本当に彼女の生きる力になって、これだけ大女優になっているのかなあと思います。なので、もうそのドヌーヴが、ドルレアックがどれだけ好きだったかっていうのを知って観るとね、もうね、二人で笑顔で踊っているシーンなんて大変ですよ。これぐらいにしとかないと、ほんとに泣きそうだからやめておきますが。
渡辺:(笑)
有坂:でも、ほんとに映画はすごくハッピーなミュージカルなので、ぜひ。で、2枚組のセリフ入りのサウンドトラックが出ていて、これをたくさん聴いてから観ると、またちょっと感動も増したりするので、ぜひそんな楽しみ方もしてみてください!
渡辺:さっき、カトリーヌ・ドヌーヴ、是枝監督の映画にも出ていると言っていましたけど、それは「真実」っていうタイトルの作品で、「万引き家族」の後なのかな?
有坂:そう、後。
渡辺:……なんですけど、そのカトリーヌ・ドヌーヴの役っていうのが、まさに昔大好きな家族を失った大女優っていう役なんですね。
有坂:うん、そうだった。
渡辺:ほんとにそのエピソードを知っている人が観ると、「おお!」って。「まさにドヌーヴの役じゃん!」ていうのを、そのまま是枝監督も知っていて多分やらせていると思うんですけど。是枝監督ってドキュメンタリー出身の人なので、本当にドキュメンタリーなのかフィクションなのかみたいな、そういうところを攻める人なので、そういうことをするんだよね。
有坂:そうそう、でも、本当に演じるだけでは伝えられないものがある、人間としての魅力があるっていうことを是枝さんは信じて映画をつくっているので、それも含めてロシュフォールと二本立てで『真実』もぜひ観てください。
渡辺:ね、知っていて観ると、だいぶ見え方が変わってくるもんね。
有坂:そう、あとドヌーヴの貫禄もね、こんなに貫禄が出るかっていうくらい変化も楽しめると思います。
渡辺:よく引き受けるな、この役って思うよね。当時のインタビューを見るとそこをやはり突っ込んでいるインタビューもあったりする。やっぱりなんか「そこってどう思いますか?」みたいに聞いているんですけど、ドヌーヴはもう「役なんで」と、女優としての答えみたいな感じです。
有坂:強いよね。
渡辺:あとラ・ラ・ランドもやっぱり……、
有坂:しゃべるねぇ、今日! 2杯目だからね(笑)。時間大丈夫?
渡辺:やばいやばい!
有坂:そうだよ、あんまりしゃべり過ぎると後がね(笑)。
渡辺セレクト5.『ヒューゴの不思議な発明』
監督/マーティン・スコセッシ,2011年,アメリカ,126分
有坂:うんうんうんうん。
渡辺:これは実写の作品で、2011年、10年前の作品でそんなに古くない比較的新しい作品なんですけど、監督はマーティン・スコセッシです。内容は思いっきりファンタジーで、子どもが主役の冒険物の作品になります。これは舞台は1930年代のパリで、パリの駅に時計台があるんですけど、その時計台の中に住んでいる親がいない家もない男の子が主人公になります。この男の子っていうのは大好きなお父さんから、いろいろ聞かされていたお話があって、そのなんていうんでしょう、その宝物を探すではないんですけど、お父さんに、何だっけな……あれ、細かいところ忘れちゃいました(笑)。
有坂:2杯目だからね(笑)。
渡辺:(笑)。そう、お父さんに機械仕掛けの人形か何かを託されて、それを見つけるみたいな冒険の話ですね。いろいろお父さんから聞かされていた話をもとに、友達になった女の子と一緒に探していくんですけど、最後、「あとは鍵があれば」というところで、実は、その女の子が鍵のキーマンだったみたいないうことがわかるというお話です。で、冒険物語としてもすごく面白いんですけど、これ実は、映画史に残る『月世界旅行』というかなり初期の……月にロケットが刺さっている白黒の映像を観たことがある方もいるかもしれないですけど、かなり映画史の初期に撮られた『月世界旅行』という話が、実はこの映画のキーになっているっていうところがあって……。うまく説明できないんですけど、普通に少年少女の冒険物語というのが、実は映画史のかなり初期のキーポイントの作品と関わっていたみたいな、そういうことがわかるんですね。そういう作品になっています。なので、映画ファンからするとめちゃくちゃファンタジーなんですよね。すごい想像の……マーティン・スコセッシ監督って映画界の巨匠なんですけど……その人がつくり出したファンタジー。やっぱりなんかこの映画がつくり出してきたこととか、映画の歴史の謎解きみたいなところをファンタジーの映画にしてつくったところがあってですね、最初は「スコセッシがなんでこんな映画をつくったんだろう?」って思ったんですけど、観終わるとやっぱり映画愛とか、映画の歴史とかにあふれた、すごいファンタジーになっているので、これを最後に選びました。はい。
有坂:エンターテイメントとしてすごい、子どもが主人公なので、エンタメとして楽しめるんですけど、実はそこにリアルな映画史っていうのがからんでくるので、「そういえば『月世界旅行』とか聞いたことあるけど、観たことないなぁ」とか思って、けっこうヒューゴを観た人は『月世界旅行』も観て、「ああこういうことが100年前にあったんだ」って、なんか今まで無かった知識も得られるっていう良いところもあるかなと思います。
渡辺:うんうん。
有坂:じゃぁ最後、僕の映画は、実はですね、映画じゃないものを紹介しちゃおうと思って(笑)。最後はですねミュージックビデオを1本紹介しようと思います。
有坂セレクト5 .「おとぎ話『COSMOS』ミュージックビデオ」
監督/山戸結希
渡辺:ええ? 知らない!
有坂:これ、「おとぎ話」っていうバンドの……あ、ちょっと説明すると山戸結希っていう女性監督がいて、その人がおとぎ話って言うバンドの曲を使って『おとぎ話みたい』っていう映画をつくったんですよ。で、このおとぎ話っていうバンドの、その「COSMOS」っていう曲を使うのね。『おとぎ話みたい』って言う50分台の映画で。それが縁で監督とおとぎ話っていうバンドがつながります。で、バンドの人がそれをすごく気に入って。趣里ちゃんが主演の映画でね。これがきっかけで、おとぎ話と山戸結希監督がつながって、「今度、ミュージックビデオをつくってください」ということで、今度はこの趣里ちゃんを主演にミュージックビデオをつくります。で、このミュージックビデオね、日本のミュージシャンのミュージックビデオの中でもトップクラスに好きな1本で……
渡辺:へぇー。
有坂:ぜひこの後、YouTubeで観てください。本当に3分くらいで観られるはずなので観て欲しいんですけど、これがもう銀座の街で泣きじゃくっている趣里ちゃんがいて、その泣きじゃくってる趣里ちゃんが、そのあと自分の気持ちを解放するためにそこから歩いて歩いて銀座の街で踊り始めるんですよ。完全ゲリラ撮影です。歩行者天国の銀座の街を踊るので、よく観ると普通にカメラを見ている一般の人とか、「なんでこの子、踊ってるんだろう?」とかっていう、そういう素のリアクションもあるんですけど、もうその曲の内容と、あと趣里ちゃんのダンス……あの子、もともとバレエをやっていたので……そのダンスの表現力と、あと、やっぱりそれを撮っている監督の映像の撮り方。ほんと3者のコラボレーションが、こんなに幸せな形で一つになるんだっていうのが体感できる、ほんとに素敵な1作。カメラワークとか、「このカメラの動きをしないと、こんなに感動しないなぁ」とか、でも趣里ちゃんもそうだし、曲もいいしっていう、その3者のコラボレーションを楽しんでほしいなと思うし、自分が見たことのある銀座の風景が、こんな、なんていうんだろう、フィクションの世界にすんなり収まることが奇跡だなぁというか、こんなクリエイティブがあるんだなっていうことをすごく感じられた作品です。今日もこれをどうやって紹介しようかなぁと思ってそのミュージックビデオを3回見たんですけど、3回とも泣きました。ほんとに(笑)。
渡辺:(笑)
有坂:可能であれば、イヤホンとかヘッドホンとかをして、なるべく音量大きめでパソコンの全画面にして、せっかくなら観てほしい! 最後に、このおとぎ話っていうバンドの人が、この「COSMOS」という曲をについてインタビューでしゃべっていたことを、ちょっと紹介したいと思います。
「5年くらいライブでやっていて、ほんとに大事な曲だったので、リリースする場所やタイミングをずっと探していました。ただずっと恋人がいないと、どんどん理想が高くなっていくのと同じで、COSMOSという曲も大事にしすぎて、誰にも渡したくない気持ちが強くなっちゃって。でも山戸結希監督としゃべっていたときに、この人だったらこの曲を託してもいいなぁと思ったし、何ならこの映画のためにつくったといってもいいぐらいに思いました」
ということで、このバンドの人自身も山戸結希監督という人と出会って、ずっと大事にしていたCOSMOSという曲を、この人に託したいということでつくられたミュージックビデオになります。絶対これ観たら銀座に行きたくなるはずです。踊っちゃってもいいんじゃないかなって思いますが、ぜひこの後リンクを貼ってくれたので、ミュージックビデオも見ていただけたら嬉しいなと思います。はい、ということでぼくの5本目は、おとぎ話「COSMOS」のミュージックビデオでした。
渡辺:なるほど、映画じゃないところで最後は。
有坂:そう、そうなんです。ちなみに、この『おとぎ話みたい』という映画は、その年のベスト1に挙げている映画なので、映画も素晴らしいので、機会があったらぜひ併せて観てみてください。
──
有坂:はい、という10本になりました。
渡辺:今回、まったくかぶらなかったね。
有坂:かぶる気配もなかったね。
渡辺:そうきましたかっていう感じでした。
有坂:たまにはそういう回があってもいいのでは。……何か最後にお知らせなどありましたら。
渡辺:さっき何か言おうと思ってたんですけど忘れました。
有坂:ええ! 笑。お知らせを? インスタのこと?
渡辺:インスタのことだっけな? 思い出せる気がちょっとしなかったので……(笑)。
有坂:分りました。ぼくはお知らせ、キノ・イグルーのイベントが、年内は富山県でやります。北陸の人が観ていてくれたら嬉しいなと思うんですが、12月11日、12日の2日間、「富山県美術館」でイベントをやります。上映する映画は佐藤雅彦監督の『kino』と、アニメーション『銀河鉄道の夜』を、1日ずつ、土曜日、日曜日に分けてやります。さらに、おまけでスウエーデンのグラフィックデザイナーのオーレ・エクセルという人のイラストを使ったかわいい短編アニメーションを、それぞれ2本ずつつけてお届けするという豪華企画です。で、実は、その3本は、すべて動画配信で観ることができません。なので、ここに来ないと観られない作品になっておりますので、無料で予約制で先着50人のイベントになってますので、ぜひ富山に行ってみようかなぁとか、住んでいる方がいたら遊びに来ていただけたら嬉しいです。
渡辺:レンタルとかもないもんね。
有坂:ないんだよね。で、大空間で、大スクリーンで、大音量で観られます。あの『銀河鉄道の夜』は細野晴臣さんが手がけた曲が、あまりにも前衛的すぎて衝撃を受ける1本、アニメになっておりますので、ぜひチャックしてみてください。そのあたりの情報もホームページ、Instagramにも出ておりますので、Instagramは、それぞれ個人的にやっています。いろんな情報も発信してますので、よかったらチェックしてみてください。では、今月の月刊手紙舎、キノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」は、これにて終わりたいと思います。今日もみなさん、遅い時間までお付き合いいただき、ありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました︎。おやすみなさい‼
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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)
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