「冬の夕暮れに読みたくなる本」を部員が選んだら
前月の手紙社リスト“本”編で花田菜々子さんがセレクトした「冬の夕暮れに読みたくなる本」を、手紙社の部員が選んだら? 「夕暮れ」という言葉の意味を部員のみんながどう捉えたか(人生の夕暮れについて、思わず考えさせられました)。今回も珠玉のセレクトを、ぜひご覧ください!
✳︎ここで紹介した10冊を、手紙舎つつじヶ丘本店の一角に準備しました。どなたでも読むことができますので、カフェタイムのお供にぜひ!
1.『わたしのマトカ』
著/片桐はいり,発行/幻冬舎
映画「かもめ食堂」の撮影に参加した筆者のフィンランド滞在記、エッセイです。マトカは、フィンランド語で「旅」。フィンランドの町や田舎に果敢に出かけていく旅人、片桐さんの視点が面白く、フィンランドの人々との出会いを楽しむ様子に笑ったり、ジンとしたり。
そして、特に筆者が堪能したというのが白夜の夕暮れ(白夜なので夏です……)。日本の日常にはけっしてない、ヘルシンキの街の輝くひととき。遠い北欧の地を思い浮かべながら読む夕暮れ、いかがでしょう。
(選者・コメント:はたの@館長)
2.『影をなくした男』
著/シャミッソー,訳/池内 紀 ,発行/岩波書店
冬の夕暮れ。日に日に風は冷たくなり、だんだんと影は長くなり、日が落ちるのも早くなっていく。寒さは、夏の夕暮れとは違う、なんだかもの悲しい寂しさも連れてくる。そんなイメージで思い出したのは、「影をなくした男」という物語。あらすじは、以下、文庫から引用。
「影をゆずっていただけませんか?」
謎の灰色の男に乞われるままに、シュレミールは引き替えの”幸運の金袋”を受け取ったがーーー。大金持ちにはなったものの、影がないばっかりに世間の冷たい仕打ちに苦しまねばならない青年の運命をメルヘンタッチで描く。
表紙ではキリッとしている主人公シュレミールは、全くかっこよくはない。すぐ弱気になり、すぐ惚れては振られ、すぐ従者に泣きつく。だが、その人間くささが他人事とは思えず、ついつい続きが気になってしまう。
世間の冷たい仕打ちは冬の夕暮れにも似ているが、どんな結末が待っているのか。ぜひ、暖かくした部屋の中で、のんびりココアでも飲みながら行方を見守って欲しい。
(選者・コメント:部員S)
3.『ワイルドサイドをほっつき歩け | ハマータウンのおっさんたち』
著/ブレイディみかこ,発行/筑摩書房
人生の斜陽期を今から迎えようという方々にオススメしたい一冊、パンクやモッドカルチャーが生まれた70年代イギリス、クールでスタイリッシュかつ確固たるアイデンティティをもった若者たちが中年となった現在の様子を綴ったエッセイです。
テレビやニュースで見せられている世界の人々ではなくリアルに生きている庶民たちの姿を愛を持って観察して文章にされるみかこさん、政治や社会情勢をより身近に感じられるように表現されるので勉強にもなり「この人のフィルターを通すと悲劇か喜劇になる」ということに気がつきました。
そしてアナキーだった憧れの人たちが理想と現実に揉まれてワーキングクラスヒーローや健康オタクになっていたり、EU離脱に投票しつつも近くの移民たちには優しかったり、親近感しかないエピソードばかりで憧れの国でもどこの国でも人間は同じだなと、決して斜陽期は悪いことではなく、歳を重ねることは素晴らしいと思える一冊でした。
(選者・コメント:神戸のレイコ)
4.『アラン、ロンドン、フェアアイル 編みもの修学旅行』
著/三國万里子,発行/文化出版局
冬の寒い日
気がつけば一歩も部屋を出ず
時間を忘れて編みものをしていると
すぐに夕暮れ
ふと編む手をとめて
あたたかい紅茶をいれ
どのくらい編めたかな?
まじまじにまにまと
今日一日の成果を愛でる
時折、間違いをみつけて
愕然とすることもある
あぁせっかく編んだのに
また、やり直しだ
そんなとき
この本を開くと
大きなお顔の羊さん(21ページを見てくださいね♪)に
じーっとこちらを見つめられて…
羊:「大丈夫。また、やりなおせばいいよ。何度でも」
わたし:「そうね。やってみるよ(もう3回目だけど……)」
なぁんて心の中で羊さんと会話しながら
大好きな毛糸
大好きな編みもの
大好きな三國万里子さん
この一冊です
(選者・コメント:あっこたーばん 坂野亜希子)
5.『ファンタジックショップ エルフさんの店』
著/高柳 佐知子,発行/亜紀書房
偶然はいったお店に、魅せられたことがありませんか? 表紙のお店は “気まぐれ屋 エルフさんの店”。お店がみせてくれるのは、商品だけじゃないのです。
高柳佐知子さんが描く、空想のお店紹介絵本です。赤毛のアンやメアリーポピンズがちらほら見える、古い物語のあれこれにも、ぜひ引っかかっていただきたい。
雪の家でカンテラだけ売るカンテラ屋さん。
みたい夢を絵に描いてくれるゆめ屋さん。
風を袋詰めにして、ずらりと並べた風屋さん。
なれなれしくしてはいけない黒ネコがいる、ほうき屋さん。
「古めかしい小さなごたごたした店がすき(あとがきより)」という高柳さん。きっとあなたもファンになります。
(選者・コメント:まっちゃん)
6.『スナック キズツキ』
著/益田ミリ,発行/マガジンハウス
冬はなんだかちょっと心がカサカサする。カサカサして 些細なことがササクレみたいに痛いんだ。ササクレのまま誰かに触れると、ザラっと相手を傷つけてしまう。「痛っ」となった相手の顔に気がついて、そして自分のササクレがまた痛むんだ。
益田ミリさんの 「スナックキズツキ」 は、そんなササクレだった心に絆創膏を貼ってくれる 不思議な一冊。アルコールのないスナックのドアを開けて、女主人のトウコとするおしゃべり。特別な話でも夢見る話でもない、たわいもないおしゃべり。誰かと話す時間が、ササクレだった心にはよく効くんだ。
おしゃべりをして、ササクレの痛みにポンと絆創膏を貼って、キズツキのドアをでて、ほんの少し前をむく。冬の夜、そっとひとりで読みたい本。
(選者・コメント:KYOKO@かき氷)
7.『飛田和緒のおうち鍋』
著/飛田和緒,発行/世界文化社
冬の夕暮れ、今日の晩ごはん何にしようかな……?
そんなときにこの本を手に取ると、次々に現れるめくるめくお鍋の世界。
ぐつぐつ、蓋を開けてほわ〜ん、お出汁がじゅわ〜と広がるようなあったかさが詰まっています。
我が家は手始めに《揚げ餅と揚げ魚のみぞれ鍋》を作りましたが、定番になりそうなくらいお気に入りになりました。
今日はお鍋でいいか、じゃなくお鍋にしたい! と張り切って料理する気持ちにさせてもらえます。今日はどんなお鍋にしようかな。
(選者・コメント:ちゅんちゅん)
8.『WINTER JEWELS | 大自然が創り出す冬の奇跡』
著/高橋 真澄,発行/青菁社
北海道の冬は寒い。人によっては過酷な環境だ。
この写真集には過酷な世界で生まれた冬の宝石が、散りばめられている。
私も北海道民だが、冬は外へ出たくないと思うこともある(何せ寒くてね……笑)。だからこそ、北海道民でさえ見ている人は少ないであろう貴重な景色の数々に、改めて魅了されてしまうのだ。
ただキラキラした景色が広がっているだけではなく、この環境下でしか生み出されないものがあり、冬の良さを教えてくれる。ページを開くほど、自然界でうまれた神秘的な宝石の数々に魅了されてしまう。
目に映るトキメキ溢れる宝石の世界はいかがでしょうか?
(選者・コメント:やすか@大自然の手前に住むジャス)
9.『薪を焚く』
著/ラーシュ・ミッティング,訳/朝田千惠 ,発行/晶文社
薪の年間消費量と森林面積との関係や、焚くことで得られるエネルギー量に関するデータといった詳細な数値。あるいは、樹種や薪割の道具、各種ストーブに関する説明といったものだけではなく、たとえば「伐採は下弦の月の時期に行うこと」という昔からの言い伝えの真偽など、薪を主題とするノルウェーのノンフィクションです。
摂氏0度以下の日が続く長い冬の間も、技術的な問題や停電で簡単に止まってしまう家電にではなく、家の前に積まれた薪によって与えられる厚みのある安心が生活の基調となっている遠い国の人々に想いを馳せてみては如何でしょうか。原題『Hel ved(硬い薪)』の持つもうひとつの意味「強く、信頼できる人物」を感じることのできる本です。
(選者・コメント:井田耕市)
10.『孤独のすすめ』
著/五木寛之,発行/中央公論新社
孤独を恐れず、孤独を楽しむのは、人生後半期のすごく充実した生き方のひとつだと思うのです。
自分が老いていく事を考えたことはありますか? いずれやってくる人生の冬の夕暮れ。どんな風景が広がるのか、考えるとちょっと不安になりますよね。
だんだんと心も身体も衰え、思うにままならなくなる。いつしか、例えば最愛の人ともさようならし、社会の中で居場所を失う時も来るでしょう。老いて生きる時間は思うより長いのです。
この本は、私たちがそんな人生の後半戦、老いとどう向き合い生きていくのかに、一つの指標を与えてくれます。老いを受け入れて諦め、孤独を楽しむという発想はとても安心感を与えてくれます。
今の自分が作った楽しい思い出を、年老いた自分が一人で何度も慈しむように振り返りながら生きていく。それは素敵なことです。人生の山を下りていく時には、ゆっくりとその風景を楽しんでいこうと思いました。
(選者・コメント:田澤専務)
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