誰かに贈りたくなる言葉#2 父から娘へ
手紙を書くということは、自分の気持ちを誰かへ贈るということでもあります。それは、家族や恋人、はたまた自分宛てかもしれません。
ここでは、手紙を書くきっかけになるような「誰かに贈りたくなる言葉」をご紹介します。
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父からのミッション
上記は、みなさんご存知世界的コミック『PEANUTS』の主人公、チャーリーブラウンの言葉です。実は私、この言葉とは2回の出会いがありました。
最初の出会いは小学生のとき。
私の父親は単身赴任で、たまにしか姿を現さない存在でした。
ただ、赴任先に帰る時、いつもメモに英語の一節を書き残していきました。次家に帰る時までに、自分で調べてその意味を伝えてくれよという父親からのミッションでした。普段は遠く離れた父親なりの英語教育です。
大抵は洋楽オタクの父親らしく、ビートルズの歌詞が多かった(A hard day's nightの"Cause when I get you alone"は強敵でした…それ以外は特に記憶にナシ)ですが、その日はビートルズでもオアシスでもレッチリでもなく、謎のバンド"PEANUTS"のこの言葉が置いてありました。
早速メモを持って小学校にいき、英語教室に通ってる友達に意味を教えてもらいました。
その子が言うには、直訳で「人生はアイスクリームのコーンみたい、あなたはそれを舐めることを学ぶべき」とのこと。
なんのこっちゃです。
そこで、ELTの先生に2人で聞きにいきました。
先生による訳は、「人生はアイスクリームのコーンみたいなもの、それを舐める日がくることを知っとかなきゃ!」とのこと。
これもまたなんのこっちゃでしたが、先生曰く、
「人生はアイスクリームのように甘いものじゃなくて、アイスクリームの下にあるコーンみたいなもの。いつかは甘いアイスじゃなくてコーンを食べなきゃいけなくなることを知っておけ……つまり、人生甘いことばかりが続くわけじゃないよ、いつか甘い日々は終わるんだよって意味じゃない?」
という解説でした。
悲観的な人生観を小学生に伝えて理解できるはずもなく、しかし何か妙に印象に残り、鮮明に覚えている記憶です。
英語のlick(舐める)が、「(キャンディーを)舐める」と「(態度が)舐めている」の両方に使える、日本語と同じ意味を共有しているということにびっくりしたのも覚えてます。
ちなみに父親にこれを伝えたところ「えっそうなの?難しい〜」という謎の反応が帰ってきました。答えをくれるタイプのミッションではなかったため、これはよくあることでした。
一言二鳥!
そんな小学生の頃の出会いを経て、2回目の出会いは高校生のときでした。
偉人の名言をもとに作文を書きなさい、との課題が出て、本屋で名言漁りをしていた時のことです。
「名言コーナー」のような、人生に役立つ言葉が詰まった本の並ぶ場所で、「スヌーピーの人生案内」という一冊と出会います。
あの谷川俊太郎が心に響くスヌーピーの言葉を翻訳してまとめた本です。
スヌーピーってかわいいだけのキャラクターに見えて、たくさんの格言を残してるんだな〜とパラパラめくっていたら、見覚えのある英文が。
父親が書き置いて、友達と一緒に先生に意味を聞きにいったまさにその言葉でした。
あの”PEANUTS”はバンドじゃなくて、スヌーピーがでてる世界的コミックの『PEANUTS』だったんだ!と数年を経たアハ体験です。
ただ、その訳は小学生時代に先生に教えてもらったものとはまったく違いました。
谷川俊太郎の訳によると、
「人生ってソフトクリームみたいなもんさ…なめてかかることを学ばないとね!」とのこと。
人生って甘いもんだよ、気張らず肩の力を抜いて、なんなら舐めるくらいでいかないと、という超楽観的な人生観です。
悲観的な人生観と楽観的な人生観、まさに真逆なふたつの訳に触れて、正直かなり困惑しました。
幼い頃の記憶に残っている大事な言葉なのに、人に伝える時どう言えばいいんだろう?そもそも今まで周りの人にこの話をするとき、いつも間違った訳を伝えていたのかな!?いやいやそんなはずは……という調子です。
そこそこ悩んで、一つの結論に辿り着きました。
どっちでもいいんじゃない??
ふたつの訳があるなら、その時々によって都合の良い訳で受け取ればいい。
一石二鳥ならぬ、一言二鳥だ!と。
2度出会ったことにはしっかりと意味があり、2つの"見立て"を得ることができたのです。
あまいあまいアイスクリームに人生を例えたこの言葉は、人生における大切な考え方をカジュアルに贈ることができるのではないでしょうか。
相手の現状によって、「いつか甘い日々が終わるのが人生だ」という悲観的ながらもずっしりと考えさせられる訳と、「アイスみたいに甘いのが人生だよ!」という毎日の生活にラフさを与えてくれる訳を使い分けたり、はたまたどっちの訳で受け取るか英語のまま相手に委ねてみるのもいいかも。
ぜひ大切なあの人に、贈ってみてください。
出展『スヌーピーたちの人生案内』(主婦の友社刊)