Vol.109 文通の思い出【手紙の助け舟】
ごきげんよう。
喫茶手紙寺分室の田丸有子です。
梅雨時を代表する花といえば紫陽花を思い浮かべる人が多いでしょうけれど、立葵も今の季節によく見られる花です。まっすぐに立ち上るようにして下の方から咲く立葵の花は入梅のころに咲き始め、上の先まで咲き揃うとそろそろ梅雨明けする目安になっているそうです。
北海道では立葵をコケコッコー花と呼ぶ人もいます。私も子供のころはそう呼んでいました。花びらの顎に近い部分はベタベタしており、赤い花びらを1枚ずつ剥がしてほっぺたやおでこにくっつけるとまるでニワトリみたい。子どもたちは面白がって空き地に咲く立葵の花をとってよくそんな風に遊んでいました。だからコケコッコー花なんておかしな名前がついたのでしょう。子供心にとても楽しかった思い出として記憶の中に残っています。
そんな遊びをしていた小学生の頃、冬になると毎年スキー合宿に行くようになりました。たった2泊3日ですが、全く知らない人たちの間に放り込まれて過ごすのは慣れるまでに時間がかかります。私の緊張した心をほぐしてくれるのはいつも同室になった上級生のお姉さんたちでした。よく面倒を見てくれて、仲良くしてもらいました。帰る頃にはお別れするのが寂しくて泣きそうになっていたものです。
そこから何人かのお姉さんたちと文通が始まりました。憧れの上級生から手紙を受け取るのがどんなに嬉しかったか想像できますか?
手紙の上でも本当に楽しませてくれました。まず、書き方がとても参考になりました。届いた手紙そのものが当時の私にとっては教科書のよう。こう書けばいいのか! 自分が手紙から楽しい、面白い、好いと感じたことは、すかさず真似して他の文通相手に対して実践してみました。文字やイラストの書き方もそうですが、シールの使い方や筆記具の色づかいなど、手紙を楽しくアレンジする術を吸収していきました。
ある時「青い文字は友情のしるし」と青いインクで美しく書かれた花柄のメモ用紙が便箋とは別に同封されていて、私は改めて「私たちは友達だよ」と認めてもらえたように感じて誇らしくなりました。手紙の中に示されていたそのような小さな事柄の一つ一つが今も忘れられません。
正式な手紙の書き方は学校で習ったかもしれないのですがその記憶はなく、この時の文通から実践的に身につけたことがその後の私の人生に本当に役立っています。上級生も私もまだ小学生だったことを考えると、小さい子供が心底楽しいと感じていることから吸収するパワーがいかに強力だったか思い知らされますね。
文通は数年続いたものの自然消滅し、上級生のお姉さんたちとはそれっきり。今はどうなさっているのか。もしお会いすることが叶うなら感謝の気持ちを精一杯伝えたいです。
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