「あの人」への手紙 二通目
ゆうり、
今日はあなたに手紙を書きます。
いまもそうだけど、私は歌を聞くのが大好きで、あなたに会えたのも、あの時にラジオから聞こえてきた歌がキッカケだった。それはいままであまり馴染みがない国の言葉で、女性ボーカルの強烈なロックだった。
メチャクチャカッコいいと思いながら聞いているとラジオのDJから初めて聞く歌手の名前が紹介され、それが韓国の歌手だと分かったんだ。
韓国にもこんな音楽があるんだという驚きと、もっといろいろ聴いてみたいという関心が出てきたんだ。韓国といえば演歌のイメージで、いまでは当たり前になったKPOPも知られてなくて、若いひとの歌が紹介されることはあんまりなかったと思う。
どうしたらあの時の歌手のことを聞けるんだろう。まだspotifyもなくてCDをデータに変換してMP3などで聞いていた時代だったから、CDを探すところから始めないといけないのに韓国のCDが売っていなかったから、気になったままだったんだ。
そんな時に駅前の雑居ビルに韓国パブという看板があることに気づいて、恐る恐るお店に入った。馴染みのない韓国パブという響きも、得体の知れない怪しげな感じもあり、そもそも若いひとがいなければ、わたしが聞いた歌手のこともわからないだろうし、見当違いだったらすぐに帰ろうとしていたんだ。
しかしお店に入った途端、よく分からない大歓迎を受けて席に通されたことを覚えている。頼んでもいないのに手づくりの韓国のお惣菜が出てきて。それはそれでメチャクチャ美味しかったけど。あまり期待通りに歌手のことも聞けずにいた時に、急に奥の部屋から出てきたあなたを見つけたんだ。まだあなたは20歳くらいで、そのままソウルを歩いていそうな若い子が目の前に現れて不思議な感じがしたんだ。そこからあなたと知り合い付き合うまではとても自然な流れだったよね。
だけど付き合ってまもなく、あなたからオーバーステイしていること切り出され、それからまもなくあなたは強制帰国しなければならなかったよね。
わたしは東京、あなたの抱えている問題や悩みの大きさにどうしていいか分からなかったんだ。一緒に悩みに寄り添えずに、どうしたら解決できるかばっかりを考えて、あなたにも私の考えを押し付けていたね。いろいろとうるさい私に、私は父親と付き合っているんじゃない、と言われたこともあったよね。
私はあなたに出会えたおかげで、自分の中のいろんな感情に出会うことができた。大変だったけど、人生が思い通りにならないということも教えてもらった。あなたは日本語が片言だったけど言葉以上に気持ちが伝わってきたのでそれで十分だった。
あなたが強制退去させられてから、すぐにソウルにあなたに会いに行き、空港であなたに会った時の印象がいまでも忘れられずにいます。
ようやくソウルの空港で会えたあなたはオーバーステイで日本に5年間入国禁止となってしまったから、それからは私がなんども会いに行ったよね。当時の韓国はまだ日本から若者が気軽に行く雰囲気でなかったのを覚えてる。続きはまた次回にするね。
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