おっさんもひとり、ホストクラブ「愛」本店に行ってきた
昼の歌舞伎町は、平日ということもあってか、いつもより人が少なかった。
緊急事態宣言が解除されたあとも「夜の街クラスター」と名指しされては、仕方がないのかもしれない。クラブ(←飲むほう)に花を出すお店も、これまでなら回収した花や風船があちこちに置いてあったのに、ちょっと寂しそうだ。
そんな歌舞伎町のホストクラブ「愛」本店で、カフェ営業をやるというので、おっさんひとり行ってきた。カフェ営業は6月の土日のみ実施されてきたが、整理券が配布されるほどの大賑わいとあって、今週は月曜日と水曜日にも開かれた。
カフェ営業は「愛」本店がこの場所での営業を6月いっぱいでいったん終えることと関係している。店の入るビルが、取り壊されることになっているのだ。新型コロナウイルスの騒動がなければ、もっと派手なイベントができただろうになと思う。ホストのお兄さんたちもやるせない思いがあるだろう。
カフェとなった「愛」本店は1000円(税込み)でソフトドリンク飲み放題。「女性専用クラブ」の「愛」だが、このときばかりは男性客でも入れると聞き、平日の昼なら空いているだろうと行ってみた。
開店時間の40分前、つまりは13:20ごろ店に着くと、すでに列ができていた。その最後尾に並んで10分ほどたつと、後ろに20人以上が並んでいた。
女性の2人組が70%、男女の組が25%、その他5%といった感じだった。
見た感じ、おっさんひとり客は、ぼくと年配のおじさんの2人だけだった。
運がよかったのだろう。開店と同時に入れた。入口には「愛」を作った男・愛田武さんの写真が飾ってあった。愛田さんは2018年に亡くなられている。20年ほど前に、ご本人をお見かけした記憶がよみがえった。
女の子を口説こうと、ラブホテルの多い歌舞伎町で飲み始めたまではよかったが、なんだかんだで朝まで飲んでしまい、楽しかったという記憶となんか切ないなという感情とが入り混じったまま早朝の歌舞伎町をひとり歩いていたとき、店の前で立派な車から降りてくる愛田社長を見かけたのだ。小脇に犬を抱えられていたように思う。
店は、入るとすぐ階段がある。「愛」本店は地下にあるのだ。ぼくのすぐ後ろに並んでいた若い女性2人組が「〇〇(おそらく店名)と似た感じだねー」と話すのが聞こえた。開店を待っているときに漏れ聞こえてくる会話からも、この2人組はガチのホストクラブ勢だという気がしていた。
階段を降りきったところで、検温があり、そのあと1000円を支払った。
やがて1組ずつ席に案内される。フロアは、わかりやすいようでわかりにくい例え方をすると、小学校の教室1.5~2つ分。初めてのホストクラブなので比較できないのだが、思っていたより広かった。
天井からはシャンデリア、あちこちに豹(ひょう)の置き物があった。いずれも黒や金色(こんじき)に輝いている。ステージやダンスできるスペースまであった。すべてが大仰なつくりになっている。
それらのひとつひとつが、子供のころに見たバブル景気の光景とイメージが重なって、「そりゃここに来たらテンションあがるわ……」と思った。ホストクラブガチ勢の気持ちがわかった。マンガに出てくるような「ホストクラブ」だった。
カフェ営業なので、ホストによる接客はなし。お兄さんたちは急きょ用意されたと思われるカウンターで、ソフトドリンクを提供するだけだ。皆、マスクとビニール手袋をしている。
お兄さんたちは、しゃべるにも動くにもいちいち元気で、いやがおうにも店内は活気づく。なんというか、中学生男子の集団のようだった。「そりゃ、ホストもちょっとかわいいなと思ってしまうわ……」と思った。
店内は(他のお客さんが映らなければ)ホストも含め撮影自由。SNSへのアップも自由なので、店内をあちこち撮影した。
ガチ勢とみられるお客さんは、真っ昼間の、しかもカフェ営業でもちゃんと着飾っていた。Tシャツ短パン姿でやってきた自分が情けなくなった。
ちょっとおとなしそうなお姉さんが、もじもじしながらホストに写真を撮ってほしいとお願いしている微笑ましいやりとりも見られた。きっと店の外では、照りつける太陽の下、順番を待っている女性もいるのだろう。
純なおっさんはひとり、なんだかいたたまれなくなった。それまで知らなかった夢の空間を、無断で侵しているような気持ちになった。一刻も早く出よう。入ってから30分も経っていなかったが店を出ることにした。
それでもきっと存分に楽しめたんだろうと思う。
「誰が買うねん!」と心の中で思っていた「『愛』48周年記念Tシャツ」を買っている自分がいたのだから。