罪 第26話
【前回の話】
第25話 https://note.com/teepei/n/n08c1b5c6adfc
フェンスを越え、さらにフェンスを越え、学校の外へ。
「逃げるってどこへ」
「意識の外」
「それってこっちなの」
「違う、お前が目を覚ませばいいんだ」
「どうやって」
「実は俺も分からん」
「え」
「知らねえんだよ、方法を。俺がここから離脱するだけならわけないが、人の目を覚まさせるなんてやったことがねえ」
耳を疑い、先を行く谷崎の背中を見る。
谷崎が振り返り、表情を歪ませる。
「きやがった」
菊池も振り返る。
黒いドロドロがまるで入道雲のように拡大し、あらゆるものを飲み込ながらこちらへやってくる。
「どうすんだよ」
「知るか。お前の意識の中だろ。お前がどうにかしろ」
「できてりゃ最初から苦労しないだろ、もう」
相変わらずの谷崎に、ある意味では安堵を覚えながら考える。
「なあ」
「何」
「何で俺は、俺の意識の中なのに、俺の思い通りにならないんだ」
「思い通りにできる人間なんて見たことねえよ。皆、自分の意識や思いに囚われながら生きてる」
一気に言って、谷崎は少し呼吸を乱す。
「じゃあなんで」
菊池が息を切らす。
呼吸を整えて続ける。
「何であいつはあんなことができる。ここは俺の意識だろ」
「お前、もう、あんまり、しゃべんな、疲れるだろ」
そう答えてしばらくしたのち、呼吸の整った谷崎が振り返る。
「あいつはお前の深層意識に接続してる。つまり、今いる意識の世界よりも深い部分から、あいつはこの世界を動かしてる」
「俺の深層意識に。でも俺はここにいて、その深層意識とやらも俺に伴っている」
それから呼吸を整える時間がまた必要だった。
「俺の深層意識に入れ」
「あ?」
「今ここにいる俺から、さらに深層意識に入れ」
「それでどうすんだ」
「お前も深層意識からこの世界を操れ」
「なるほど、一理ある」
「つ、疲れた、早くしろ」
「わかった、まずは止まれ」
「え」
「止まんねえと集中できねえ」
「わかった」
二人して止まり、膝に手をついて息を整える。
黒いドロドロは確実にすべてを呑み込みながら迫ってきている。
「やるぞ」
ドロドロの勢いは止まらない。
谷崎が深呼吸をする。
ドロドロが二人を飲み込もうとするその時、谷崎が目を閉じる。
「だめか」
菊池が絶望を吐露する。
ドロドロが被さり、日差しを遮る。
(続く)
【次の話】
第27話 https://note.com/teepei/n/nd6c458cb3ff7
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