サムライ 第1話

ある資産家が、遺言にこう残した。
「かつて日本の精神的象徴だったサムライがまだこの日本にいるならば、その人間にすべての遺産を相続させる」
 非常に抽象的な相続対象のため、もちろん遺産は宙に浮いた状態になる。
 その遺産の処理のために財団が設立された。
その名もサムライ財団。
財団はサムライを『義を行う者』と定義づけた。
さらには義を『正義を行うこと、また他人に尽くすこと』として、適正な被相続人を選定するべくさっそく動き始める。既存の信用調査機関を買収し、その組織力を総動員して調査を行う。当初は新聞やニュース、聞き込み等の調査から開始した。
しかし候補は上がるものの、決めるとなると優劣が付けがたい。また、全ての人に対して公平に調査が行われているとも言えなかった。その難点を攻略すべく考案されたのがポイント制だった。財団は、信用調査機関による独自の調査でポイントが付加されることを公式に発表した。送付されるパスワードを財団のホームページで入力、またはスマートフォンでQRコードを読み取ると、マイページ登録もしくはアプリのダウンロードを促され、手続きが済むとポイントが加算される。以降はQRコードが送られて来るたびに読み込めば、随時加算されていく。
一度に配布される相場は大体一~五ポイント程度が平均。財団は性急な判断を望まず、また長期的展望による評価こそ真の義を計れるとした。そしてきめ細かい評価とできる限り多くの人を評価対象にすることを求めた結果、配布されるポイントの相場が細かいものになったのであった。しかし細かい配布にはもう一つの狙いがあった。義、つまり正義や他人に尽くすことが行われたと思った場合、マイページやアプリを使って、自らのポイントを他人に与えることもできた。つまり、信用調査機関だけではなく、多くの人に判断を委ねることでより公平な審査になることを期待したのだった。
こうして始まったサムライポイント制だったが、被相続人の選定という本来の目的を追いつつも、また違った側面を持ち始めるようになる。ポイントそのものが社会的信用を表す基準として利用されるようになってきたのだ。
例えば就職条件、信販会社の信用調査などに有効。
また人間関係を構築する際の基準としても見られる。
そうなると、徐々にポイント加算に対して世間が熱を帯び始める。誠実に加算を求めているうちはまだ良かったが、前述の譲渡システムゆえに金銭で売買される裏市場が出始める。勿論ポイント売買そのものは違法性が無い。ただし道義は失われている。財団はこの行為を厳しく糾弾し、発覚した者はポイントの取り上げとマイナス五千ポイントから調査開始という重い罰則を科す。しかし裏取引はなくならず、多額の金銭が動いたために殺傷事件も発生。この時点でようやく警察も介入するのだが、それでもポイント売買そのものは罰することはできず、裏取引と共存したまま今日に至るー
(続く)

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