罪 第6話
【前回の話】→ 5話 https://note.com/teepei/n/nbde543272989
そんなことを、せいいっぱいの声でいうんだ。
突然で驚いたけど、でもそんな風に考えたことなかった。
だって、いるのがあたりまえで、いなくなるなんてこと考えられないし、いなかったらどうなってたかなんて考えない。
でもそれって、大事ってことなのかな。
「はい」
そうか、っていって男の人はまた体を動かして、やっぱり辛そうなんだ。
見てる僕までなんだか辛くなってくるよ。
「その大事な家族を奪われたとしたら、どうする」
「取り返します」
「でも、もう取り返せないとしたら」
生田君はとうとう言葉に詰まったんだ。
そりゃそうさ、取り返せないとしたら、って。
それって、僕はなんだかずっと恐ろしい気持ちなったんだ。
「そうだな、考えたくもないよな。
でも俺は奪われちまった。
そんで、そいつに復讐しようとしてこのざまさ」
男の人は、自分の言ったことがおかしいみたいに笑って、また辛そうにしたんだよ。
笑うのだってしんどいみたい。
「黙っててくれたら、夜を待っておとなしく出て行く」
ほんとうにそうしてもらえるなら、僕はそれでいいと思ったんだ。
だってそうすれば、誰も損しないだろ?でも生田君は、そのままにはしない。
彼はそういう人間さ。
誰にだってきちんとする。
「出て行った後は、どうするんですか」
男の人は呼吸してた。
もしかして生田君のいったことが聞こえなかったのかな、って思えるくらいに、呼吸をするだけだったんだ。
「そんなこと、聞いてどうする」
やっぱり聞こえてたんだ、生田君のいった事は。
でも、聞いてどうするかって?
「復讐するんですか」
男の人が、また、ち、っていって、体をもぞもぞ動かすんだ。
それで、その時少しだけ、男の人の顔が悪魔みたいに見えた。
男の人には悪魔みたいな部分があって、でもそれがあるからまだ生きてる。
でもその悪魔っていうのは、なんか哀しいんだ。
「俺はいいですよ」
こんな時に谷崎君が口を挟む。
彼ったら、ぜったいに今の話の肝心な部分は分かってないはずさ。
保証するよ。
「俺らも今日は休みのプールに忍び込んでるわけだから、誰かに言うわけにはいかないんだ。
だから、俺達もおじさんのことは黙ってる。
そうだろ?」
そう言って、急に僕の方を見るから参るんだ、だって今みたいなときに巻き込まれたくないよ。
だから僕はあんまりうまく言えなくて、うん、だか、ううん、だか、よくはっきりしない答えをいっただけだった。
「そういうわけにもいかないよ」
(続く)
【次の話】
7話 https://note.com/teepei/n/nf156b6cf8697
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