罪 第34話
【前回の話】
第33話 https://note.com/teepei/n/nc002bf223e85
深層意識から菊池の記憶,表層の意識へ。
「行くぞ」
と谷崎が菊池の腕をつかむ。
「え?」
次の瞬間、体が浮かび上がる。
黒いドロドロはまるで日差しに溶けるように、地面に広がって消えていく。
そして、記憶の中の街が霞む。
高機能媒介水の感触は、重くて浮力の強い気体のようだった。
まとわりつかれるような、少し気持ち悪い感覚。
その感覚を突き破り、頭を水面に覗かせる。
他の被験者達も目を覚まし、顔を水面に出していた。
プールサイドを見ると、谷崎が胡坐をかいていた。
「よお」
腰と腕を繋がれたままだった。
「久々だな、生身で会うのは」
すべての被験者の無事が確認された。
精密な検査は後日行うようだが、おそらく問題はないだろう、と本山が言う。
プールには既に強力な室内灯が灯されている。
「まったく、方法も知らないまま飛び込んでくるなんて」
「行きゃあどうにかなると思ったんだよ、なったろ実際」
「ああ、でも半分は俺の手柄だろ」
「何が」
「深層意識に潜れって言ったのは俺だぞ」
「何言ってやがる、どちらにしろ奴は俺を取り込むことなんてできなかったんだから、ハナっからドロドロなんて気にする必要もなかったんだよ、それをお前があんまりにも怯えてるから」
「お前だってビビってたじゃねえか」
そう言い返す菊池をよそに、谷崎は何かを見つけたようだった。
「よう、ちょっと付き合ってくれよ」
そう菊池に同伴を求め、谷崎は一人の女性に近づく。
「ちょっと、いいかい」
囚人服で五分刈りの、手と腰が鎖で繋がれている男に話しかけられる。
女性が固まらないはずがなかった。
「ああ、この人こんな格好してるけど、今回の俺達を救ってくれた人で…」
「そうですか」
「脅かしてすまない。いや何、今回の件でちょっと事情を垣間見ちまってね」
谷崎は自分のデリカシーのなさを自覚している。
そういう時にするやりづらそうな仕草を、菊池は察知していた。
「あそこにいるジジイ、いや、本山って人なんだけどさ、何だっけ、カウンセリング?…なんかそういう人と知り合いでさ」
「何が言いたいんだよ」
たまらず菊池が突っ込む。
「いや、もしよかったら、そのカウンセリングの人とか紹介できるから、なあ」
と、菊地に話の接ぎ穂を渡す。
「え、ああ、はい、私は本山の助手をしてるんで、もし必要なら連絡ください。後で名刺渡します」
(続く)
【次の話】
第35話 https://note.com/teepei/n/n096b71eabe54
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?