【TOY2020出演者紹介】evening decay
今回のteenage of the yearに追加発表で出演が決まったevening decay。
我らがTOYメン・吉岡たくが地元・高知で山下大樹と結成したユニットだ。
日本のポップミュージックシーンの第一線で活躍するTOYメンズの兄貴的な存在のたくさんが、今回は地元・高知からリモートライブで参加してもらえることになり、一同ホッと胸をなでおろしている。今回のTOYで「evening decay」だけ追加発表になったのは、ライブを収録してみて、その内容いかんで配信するかどうか決めるという段取りになっていたからだ。
映像に収めたライブを配信で世に出すというのは、その場限りの一回きりのライブとはまったく違う。アーティストとして、それが世に出せるものなのかという判断は慎重にならざるを得ない。
いままで僕が何度か見てきた吉岡たくソロライブは、混沌の中から音楽が湧き上がってくる瞬間をそのままパッケージングしたような“音楽体験”と呼ぶべきものだった。evening decayは、果たしてどんなライブを見せてくれるのか?
じつは今回、この紹介原稿を書くために、配信映像をいち早く見ることができた。いま言えることは、吉岡たくソロライブをさらに深化させた素晴らしいライブだということだ。
電子音とギターが生み出すミニマルなシーケンスの中から、別のフレーズが立ち上がり、やがてアンサンブルへと変化していく。高知の野外イベントでライブする機会から生まれたユニットというだけあって、ゆったりとした時間の流れの中から大きなグルーヴが生まれていくような感覚が心地よい。自由で、繊細で、重厚で、それでいてエッジの効いた引っ掛かりをリスナーの耳に残していく豊かな音楽だ。
そこにアーティスト・吉岡たくのポップを感じる。
いままでの長い付き合いの中で、僕は酔っ払ってさんざんたくさんに失礼な絡み方をして(もちろん怒られて)それでもたくさんは優しいのでいろんな話を聞かせてくれた。とくに印象に残っているのが、たくさんによる「ポップの定義」。酔っ払った僕に語ってくれた「耳ざわりのいいメロディや口ずさめるような歌がポップなんじゃない。“耳に引っかかる”ことがポップなんだ」という話は強烈に印象に残っている。
あの国民的なアイドルのアレンジを手掛けるときも、ソロライブで打ち込みとギターとボコーダーでライブをやってるときも、確かにたくさんの音楽は耳と心に爪痕を残していく。そこに日本のポップミュージックシーンの第一線で活躍するアーティスト・吉岡たくの矜持を感じる。
今回のライブの冒頭、2人でギターをかき鳴らしながら、やがて入ってくるピアノの旋律。とあるカバー曲の入り方が最高にクールだ。ジャムセッションのような自由さと、時間の経過とともに変化していく曲の構成が絶妙なバランスで、配信向きのスリリングな演奏が楽しめる。アンビエントやミニマル・ミュージックの定型フォーマットから、積極的にはみ出していく、どこにも当てはまらないポップな音楽。ネタバレを避けつつ説明すると、そんな言葉になってしまう。
ちなみにこのライブを収録している会場の高知・ONZOというクラブは、2008年8月にteenage of the yearがほぼ全メンバーで高知遠征したときにイベントをした思い出深い会場(当時はSi-rutuという箱だった)。高知と吉祥寺は遠く離れてはいるけど、たくさんのTOYへの熱い思いを感じることができたのも、個人的に嬉しいポイントだ。
映像もただの撮りっぱなではなく、小気味良いカメラワークと映像の質感が臨場感を引き立てている。細かいところまで目が届くような映像になっているので、ぜひじっくりご覧いただきたい。(坂井ノブ)
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