ヒッチレースの行先が北海道だったので楽しく旅行したが、真につらかったのはその後だった話。

去年も出た吉田寮祭のヒッチレースに今年もでることにした。一応ヒッチレースについて説明しておくと、目隠しをした状態で日本のどこかに送られ、自分で何とかして京都の寮に帰るという企画。去年は愛知の田原市というところに飛ばされ7回のヒッチでその日のうちに帰ってくることができたので、今年も余裕だろうと思ってスマホも財布も置いていった。

目隠しを外して最初に見たのは空港だった。次に見たのは片道切符。行先は新千歳。えぇ。履きなれたクロックスで来たけどそういう場所じゃないじゃん。

でも予兆はあった。くじで決まったドライバーの第一声は「一番つらい車へようこそ」だったような気がするし、高速をものすごいスピードでぶっ飛ばしてた気配を感じたし、「去年の反省から今年はものすごいところに連れて行ってあげようと思ってる」というようなことを嬉しそうに語っていた。自分も調子に乗って「どこでもいいですよ」なんて言っていた。

追記:そういえば、3人中2人は何かしらの公共交通機関を、それも別々の、使うとも言っていた。そんなのもう船か飛行機じゃん。で1人目がなんとなく船っぽかったから僕はもう飛行機じゃん。

その結果が1人目が伊豆大島、2人目がディズニー、3人目の自分が成田空港からの北海道だったわけだ。なんだかな。

寮祭のパンフと支給の飲み物だけの入ったビニール袋のみを手荷物検査に出して飛行機に乗り、空港を出るとそこは北海道であった。晴れて、史上5番目以内くらいに軽装で北海道に行った馬鹿になれた。12時ごろでも少し涼しいような気もするし、植生も違う気がするし、絶対に道路が広く長い。とにかく動かなくてはと、100円を2人からもらい寮に電話してマジックを買っていざヒッチ!

誰も止まらないのである。本土へのフェリーがあるという苫小牧行きを掲げたが、見向きもされないし、なんなら笑われている。それもそのはず、ナンバーを見ると苫小牧行きはほとんどいない。どうやら苫小牧はそこまで大都市ではなく、その逆方向にあるらしい札幌が主都なので当然大きく、室蘭とかいうどこにあるかわからない場所がその次に大きいらしい。

ということで向きを変えて札幌へ。そうしたら、30分程度で乗せてくれる人が見つかった。よく知らないが、「そことそこ、試合決定で」というフレーズだけ知っているyoutube番組、breaking downのなにがしを空港に送り届けた帰りなんだとか。

追記:調べた結果、「としぞう」という人っぽい

30代でたくみさんと名乗ったその人はいろいろ教えてくれた。道民は片道300km弱程度なら車で日帰りで行ってしまうこと、札幌の町は京都と同じで碁盤の目のようになっていること、北海道にしかないおいしい寿司屋から室蘭がどこにあるかまで。16時過ぎに札幌に到着し、写真を撮ってもらってそこで別れた。

もちろん帰るのとは逆方向に来たのは理由があって、仲が一番良かったネ友が札幌周辺(といっても北海道はでっかいどうなので多少は遠いはずだが)に住んでいるはずなのでなんとか連絡できればお金が借りられる。ただスマホがない。ということで小中学生のころよくやっていた家電量販店のPCでのネットサーフィンとかいう、いろいろリテラシーのない方法でTwitterにログインし、連絡をするとなんと来てくれた。感謝。

そのネ友と初オフ会をし、ご飯を食べ、札幌観光をし、お土産を買い、完全にヒッチレースを私的な旅行として楽しんでから、京都の舞鶴までのフェリー代の12000円をもらって別れ小樽へと向かった。ただ時間と距離の予測を間違えフェリーの発船時刻ぎりぎりになった。大きいな北海道。とにかく走った。スマホも時計もなく時間が分からない以上とにかく走るしかない。なんとか船についたが、係の人の「乗る場所は一番奥だしぎりぎりだぞ。」とのお言葉。まだ走った。そしてどうやら発船15分前について乗ることができた。最初に会った係の人も無線で死にそうな20歳の運動不足の男性が向かっていると報告してくれたようであった。優しいな北海道。

乗船料金は11100円であったので、所持金は残り900円になる。大事に使わなければ、と思いながら浴場をでた先に目についたのがビールだった。気づくとビールとポテチが手にあった。うまかった。生まれて初めてビールがうまいと思った。後方に小さくなっていく小樽の深夜の景色を見ながら、ほてった体に低温の液体をぎゅるんと流し込むとき、地下帝国に送られたカイジの気持ちが分かった。豪遊!!所持金残り400円。

翌日、特にすることもないので12時に起きてみると、船内は悠々自適の旅行をする老人であふれていたが、彼らが昼ごはんに行くときも夜ご飯に行くときも、僕は自室に引きこもった。ビールとポテチでの豪遊のせいで食事の一番安いメニューですら手が届かなかったからだ。しかたなく部屋でカップ麺を食べた。残りの金はゲームコーナーの100円スロットに入れたら消えた。

ついに舞鶴!ついにというほどの時間も苦労もなかったが土曜の0時に始めたヒッチレースで日曜の21時には京都に戻ってくることができた。なんだ、楽じゃん。このままヒッチして日曜が終わるまでには着きそ。月曜の夜の自分の寮祭の企画までには間に合うな。初めに道を聞いたおじさんが京都市と真逆の方向を教えてくるというハプニングもあったが(よく見たらそのおじさんの車は札幌ナンバーだった)、その後修正し京都市と書いた紙を掲げる。しかしその紙を見る車はいなかった。車はほとんど通らなかった。看板には「京都 108km」の文字。

翌日、月曜日。コインランドリーにて雨音で5時半に目を覚ました。めちゃめちゃ降ってた。とりあえず2時間ほどヒッチを試みたが誰も止まらない。そらそうだ。びしょぬれで傘もささずに立ってるサンダルはいたやつなんて乗せたくないもの。手を変え品を変え、立つ場所を変えてみたり目的地を変えてみたり、違う目的地を二つ同時に掲げてみたりしたが(これは結構いい作戦だと思った)、ずぶ濡れの自分がいるだけだった。お金を貸してもらおうといろいろな店を訪問してみるのもだめだった。

が、ふとある作戦が思いついたので駅に行って京都市までの運賃を見てみる。二条までは1980円だがその一個手前なら1690円。北海道では100円くらいなら普通に貸してくれる人が2人いた。ということは、だ。駅で100円を17人から集めて1700円にすれば電車に乗れるではないか!名付けて100円大作戦。

こうして、100円をいただけませんか?と駅にいる人に手当たり次第に聞く試みが始まった。以後これを見て、ラッキーwこれすればただで電車乗れるじゃんwwwと同じことをしてみたいと思った人向けに、十数人に声をかけた僕がアドバイスすると、十代くらいの若い人が2分の1くらいでくれるし、年配の方も結構くれる。ただ、妙齢の女性はこういう変なやつの対応にはナンパやキャッチでなれているのか割と断られた。断られると心がすり減るしこちらも悪いことをしているようで疲れるので、金に余裕があるときにこういうことをするのは普通にお勧めしない。

ちょっと良心が痛む100円大作戦を続けること1時間、僕は1690円ちょうどを集め、10時ごろに電車に乗ることができた。1000円くれた外国人らしき女性、手持ちがないと言っていたのにわざわざくずして250円くれたおじさん、20円だけくれたおじさんおばさんやその他のみんなも、ありがとう。電車は途中で2時間待ちさせられもしたけど、おかげで京都市の我が家、吉田寮に15時過ぎに帰り着くことができました。

思えば車、飛行機、船、徒歩と思いつくメジャーな交通手段全部を使って、ヒッチレース開始で寮を出てから約63時間で帰ってくることができた。金がなかったせいで北海道にいた時間は12時間だし、なんなら京都に帰ってきてからのほうがきつかった。でもこうまでして急いで帰ってきたうえに、その体験談を急いで1時間で書いたのは吉田寮受付の手前でBARをするという自分の寮祭企画があったから。ということでみなさん、BARでお待ちしております。来てね!

この旅でビールを克服した筆者。帰ってすぐ。

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