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静間先生に教わったこと
高校2年の二学期に父のアメリカでの駐在員としての任期が終了し、我々一家は日本に帰国した。そんな中途半端な学年の途中に帰国子女を受け入れてくれる学校は少なかったが、なんとか9月から日本の高校生活をスタートできた。
私が通うことになった高校は全校生徒数合計150人と規模がとても小さく、全員帰国子女だった。日本の高校生活といえば部活動。私は迷わず茶道部に入部した。長いアメリカ生活の中で、和文化に対する憧れが募っていたのだ。その思いを共有する者は少なく、私が入部した段階で部員は私を含めて4名。どんな経緯だったかは忘れたが、私はいきなり部長となった。
高校卒業後は茶道から離れてしまったので帛紗の捌き方やお点前などすべて忘れてしまったが、茶道部の顧問だった美術教師の静間先生に教わった事の幾つかは今もたまに思い出す。
お箸の正しい使い方は茶道部の活動の中で身についた。順番にお点前を練習しながら毎回和菓子をいただき、正しい箸の上げ下ろしの所作と持ち方を叩き込まれた。それまでは母に箸の使い方が下手だとたまに指摘されながら交差箸で使っていたのだ。
これは静間先生独自の美学だったのかもしれないが、両膝を常にピッタリくっつけていればどんなに体勢が崩れても様になるものだとも教わった。床に直接座る時はもとより、歩いている時も椅子に座っている時も膝がぴったり閉じていればだいたい格好がつくものだ。
軽い物を持ち上げる時は重いものを持ちあげるように、重い物を持ち上げる時は軽いものを持ちあげるようにするべきとの利休の教えについてもこの時学んだ。重い物を重そうに扱えば大丈夫かしらと周りの人をハラハラさせてしまうかもしれない。軽い物を軽々しく扱えば相手を軽んじているように思われてしまうかもしれない。いずれも相手に気遣いをさせないための配慮だ。
階下で夫が鍋や食器を派手な音を立てながら洗ったりしまったりしているのを聞いていて、ふとそんな事を思い出した。
夫に
「重いものは軽く、軽いものは重く扱ってちょうだい。」
なんて頼んだら、
"You Japanese make things so complicated!(君たち日本人は物事をややこしくする)"
と呆れられるんだろうな。
利休さん、どう返したらいいでしょうか?