イギリスで役所広司さん主演の映画『PERFECT DAYS』を観た
夫とWim Wenders監督、役所広司さん主演の『PERFECT DAYS』という映画を観に行った。シネマまでのドライブで見た雨上がりの夕方が刻々とピンク色に染まっていき息を呑む美しさだった。
渋谷区のトイレ清掃員である平山(役所広司)の日常を静かに描いた作品だ。彼は同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いている。役所広司さんが演じる主役の中年清掃員は、毎日一生懸命に完璧に同じトイレを掃除する。彼は「今は今、今度は今度」と言って、毎日神社の公園で「木漏れ陽」を楽しみます。(イギリスでは映画のラストクレジットの最後に、日本語のみに存在する「木漏れ陽」の説明が出てくる)
若い世代の同僚は「明日になったらまた汚れるのだから、完璧に清掃する必要ないじゃない」と言う。それでも黙々とやり続ける平山。
これは、私の師匠に教えていただいたマザーテレサが愛した詩「Do it anyway」の一部で表現されています。‘what you spend years building, someone could destroy overnight. Build anyway.’「あなたが長い年月をかけて作り上げたものを、誰かが一瞬にして壊してしまうかもしれません。それでもなお、築きなさい」
どう生きるかは個人の選択、自分を知り自分の授かった命を尊重する生き方は、生きる過程の中で一瞬存在するという思想です。一瞬という点。「天にお任せする」という言葉があるけれど「天=点」なのかもしれない。点と点が結ばれて一筋の光の道となる…。
その毎日は繰り返しのように見えるけど、実際には新しい日々が広がっているのだ。男は木々を愛し、木漏れ日に目を細めている。
今を大切に生きるとは?をテーマにこの映画はその教えを毎日の一見つまらない生き方を通して見せてくれる。この主人公は、まるで禅僧の様に毎日のルーティンを崩さないで生きようとする。そのルーティンがあるからこそ、変化を楽しめるから。
でも、彼の日常に思いがけない出来事が訪れ、それが彼の過去と向き合うきっかけとなる。
多くを語らない平山ゆえにセリフの極端に少ないこの映画で、人間である彼の心の中の寂しさや葛藤は、表情から溢れ出す。彼の一個人としての尊さや個性が爆発しそうなくらい滲み出ていて、泣きたくなるほど魂に訴えかけて来た。
自然に生きる事のシンプルさと心の混沌、それが人間の生き様だ。今を大切に生きるのは容易ではない、だから自分に戻る努力をする価値がある。本当の自分を探求する価値がある。
幸せは個人の主観によるものであり、他人からは見えにくい。平山は自分自身を知っているように思えるが、彼が本当に幸せであるかどうかは彼自身にしかわからない。彼の日常の中で、自己理解を深め、自分の心の声に耳を傾けることで、平山のこれからの未来はまた大きく変容していくのかもしれない。トイレ掃除をしていたあの数年間を回想する平山の続編の物語をいつかまた観てみたい。
『PERFECT DAYS』は、自己理解と点を生きること、そして点が線になった先の幸福についてを考えさせてくれる映画だった。平山の物語を通じて、改めて私の「今という点」を大切にしようと、周りにあるものや人に思いを馳せた。平山に通じる日々のルーティンの中の美学を大切にするイギリス人夫が、隣で穏やかな顔をしてスクリーンに見入っていた。人生はみんな色々あるけれど、私は今日という点を自我の足跡で汚さず、昨日より今日いい人間として生きたい。そして、まぎれもなく今ここが私の最善なのだと思った。
帰り道に遅くまで開いているケバブバンでチップス(フライドポテト)を息子のぶんも買って家に戻った。犬がぶんぶん尻尾を振って喜び、スッキリ髪を切ってロンドンから帰ってきた息子はニコニコしながら友達とビデオゲームをしていた。
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