I found! 【小説】火曜日の美術館
わたしの友人には絵を描く人、文を書く人、デザインをする人の割合が比較的多いと思うのだけれど、その中に写真を撮る人ももちろん、いる。そんな友人から素敵な本を借りたので、紹介するよ。
ダミーブック、手製の写真集。外函を見て、その書籍のサイズにピンと来る人もいるかもしれない。バイテン。フィルムの写真を撮影する人ならニヤリとするんじゃないかと思う。この外函も自作されたもの。そう、彼自身が作成した、今のところこの世に一冊しか存在しない写真集だ。
冒頭の写真は、蓋を開いたところ。細部へのこだわりがよく分かると思う。
ステッチで綴じられた外観も、紙質と相まって、素朴なようで、こだわりを持って仕上げられているのがよく分かる。わたしも手製本を作るから、折り丁の重ね方や紐での綴じ方の繊細さを知っている。その糸の通し方にリズムの生まれること。
そして、肝心の中身だ。
モノクロの写真が大小、様々な形を伴って現れてくる。
街と人。
ページを繰るたびに音が聞こえてくる。
それは何だろうか、と耳を澄ます。
ああ、と思う。
足音だ。
写真のほとんどに、人の息遣いが感じられる。
動いている気配。
過ぎ去った後、
到来を待つ窓。
人の足音を打楽器として楽譜したような、そんな流れを感じている。
喧騒があり、喧騒を待つ静寂がある。
少し街から離れると、呼応する呼びかけの景色がある。
(おーい)(ぉぅぃ)
***
いつか、あなたの手元にも届いたらいい。
そして、いつか彼の写真を手元で見てもらえるようにしたいと願っている。それは、わたしのやるべき働きなのだけれど、そうだね、届けなくてはね。
素敵な写真集だ。
音のない喧騒に、なぜだかまどろむような心地になる。きっとあなたも、それを聞くことができると思う。
写真集 『I found!』 Norikazu Oya