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景気後退局面入りを示唆するサーム・ルール(Sahm Rule)とは?
最近、米国が景気後退期に向かうのではないかという憶測を呼んでいます。そんな中、景気後退入りの初期段階を特定するのに役立つ指標として”サーム・ルール(Sahm Rule)”というものが知られているようです。これについて解説します。
サーム・ルール(Sahm Rule)とは
サーム・ルール(Sahm Rule)は、経済学者クラウディア・サーム(Claudia Sahm)が2019年に発表した景気後退指標です。
考案者のクラウディア・サームの経歴
クラウディア・サーム(Claudia Sahm)はサーム・コンサルティングの創設者で、ブルームバーグ・オピニオンの常連寄稿者。マクロ経済、消費者支出、家計金融の政策と研究の専門家。不況時に景気刺激策を自動的に発動する「サーム・ルール」を考案。以前は連邦準備制度理事会(FRB)の課長として家計経済・意思決定調査を監督。それ以前は、連邦準備制度理事会(FRB)のマクロ経済予測に10年間携わった。経済諮問委員会ではシニアエコノミストを務めた。ミシガン大学で経済学博士号(2007年)、デニソン大学で経済学、政治学、ドイツ語の学士号(1998年)を取得。
「サーム・ルール」の定義
「米国の失業率の3ヵ月移動平均が過去12ヵ月で最も低かった失業率と比較して0.5%(閾値)以上上昇したときに発動されます」
失業率の急上昇に着目
サーム・ルールでは定義で示したとおり、過去12ヶ月間において失業率が0.5%以上上昇した場合、リセッション入りの可能性が非常に高いとされます。この0.5%を超える上昇は、経済の減速や景気後退が始まったと解釈される重要な指標と言われています。
シンプルかつ効果的な指標
このルールは非常にシンプルでありながら、過去のリセッションを予測する上で高い精度を持つとされており、経済学者や政策担当者にとって有用な指標とされています。
この指標は、失業率がこの閾値を上回ると、その後さらに失業率が上昇する傾向にあるという歴史的な経験則に基づいています。
もともと彼女は、財政刺激策を発動する基準としてこのルールを考案したようです。つまり、米国の経済状況や労働市場におけるインフレ圧力を推定するために提唱したものです。
しかしながら、今では多くのエコノミストや政策立案者が景気後退の可能性を見極めるために使用されています。これと他の経済指標とを組み合わせることで、より総合的に景気判断が行われることが多いようです。
リセッション(Recession)とは?
そもそもリセッションとは何でしょう?ここで再確認しておきましょう。
経済学において、景気循環(Business cycles)とは、実質GDPの上昇と下落が交互に繰り返されることを意味します。
その中において、景気後退(Recession)とは、実質GDPが下落する期間を指し、経済学の定義では
「2四半期連続(つまり6ヶ月連続)で実質GDPが減少すること」
を言います。
したがって、実質GDPが底を打って上昇に転じて始めて、過去を振り返った時にこの期間がリセッションだったと分かる訳です。
サーム・ルール指標の最新状況(2024年9月)
下の図は、サーム・ルール指標のトレンドグラフを示します。
横軸は、時間軸で1959年12月〜2024年9月の各月を表します。
縦軸は、サーム・ルール指標を表します。
グラフ中のグレーで示される帯は景気後退(リセッション)の期間を表します。
![](https://assets.st-note.com/img/1728698931-ChWekQi4bPuZlR07G5Fyz2YE.png?width=1200)
Observation:**Sep 2024:0.50 (+ more) Updated: Oct 4, 2024 8:06 AM CDT
上のグラフにおいて、景気後退期を示すグレーの帯とサーム・ルール指標の折れ線グラフとの関係を見ると、この指標が閾値である0.5%を超えるところで景気後退期が始まっていることが分かります。
つまりこの指標は、景気後退の初期段階を示唆するリアルタイム・シグナルとなっています。
サーム・ルール指標の現在(2024年9月時点)の状況は、ちょうど0.5%にあります(グラフの一番右端)。
米国が景気後退に突入するかどうかを占う上では、今後、さらにこの指標が上昇していくかどうか注目しておく必要がありそうです。
ちなみに、この指標のリアルタイムグラフは、下記のリンクから確認することができます。
注意点
サーム・ルールで使われる基準が景気後退と関連する理論的理由はない。
景気後退が起こることを示唆するものであって、景気後退を予測するものではない。
少ないサンプルで観察された過去の経験則に基づく指標であり、今後も常に維持されるとは限らない。
以上の注意点に留意しながら、他の経済指標とも合わせて、多面的な観点で米国の景気の動向に注視していく必要があります。
(参考)
「アメリカの高校生が学ぶ経済学」 ゲーリーE.クレイトン著、大和証券商品企画部訳
“The Sahm Rule Trigger: Is the United States in a Recession? “(Congressional Research Service August 26, 2024)