技術科教師のPBL #MFTokyo2023
obnizでiPad回転台を遠隔操作する
今年もMaker Faire Tokyo 2023が、東京ビッグサイトにて10/14土~15日に開催される。技術教室グループとしての出展は8回目となる。生徒のいない夏休み、私はiPad回転台「ここにいるよ!」の改良に没頭している。
Maker Faireには、多くのMakerが集まる。Makerといっても、趣味でものづくりに取り組む人たちから、エンジニアとして開発の第一線で活躍する人まで、ものづくりが大好きな実に多様な人たちがいる。私は、技術教室グループの発起人として。2015年からMaker Faire Tokyoに出展し、授業や部活などでの中学生の作品や教材を紹介してきた。
ところが、コロナ禍でMaker Faire Tokyo 2021は開催できなくなってしまった。翌年は徹底した感染対策が求められ、現地に遠隔地から人を集めることを躊躇せざるを得ない状況だった。ならば、遠隔からブース説明ができるアバターロボットを製作してブース説明をすればよいじゃないかと考え生まれたのが、今回紹介するiPad回転台「ここにいるよ!」だ。
obnizを使いこなす
iPadでZoomに接続していれば、遠隔での説明くらいできそうなものだが、ブース展示でZoomに接続したPCの画面をブースに映しだしておくと、その前をほとんどの人達は素通りしていく。多くの人にとって向きを変えることのない画面は、そこに人がいるとは思えず、ビデオが写っているとしか思えない。
そこに人がいるという感覚を持たせるためには、画面を遠隔から自由に動かす必要がある。できれば手も動かしたい。ネット上をずいぶんと調べてみたが、iPadの向きを遠隔から自由に動かすことができる製品はなかった。覚悟を決めた。これはもう自分でつくるしかない。
早速Maker Faire Tokyo 2020で購入していたobnizを試してみることにした。中学校ではmicro:bitを使った制御学習が数多く実践されているが、micro:bitでモーターを制御する場合、拡張ボードを取り付けその制御のための拡張命令を使えるようにしなければならない。micro:bit単体ではネットワークに接続することはできず、遠隔地からの制御を実現するためにコストだけでなく手間もかかってしまう。対してobnizはボード自体の値段こそmicro:bitの2倍ほどするが、obniz単体でWifiに接続でき、DCモーターやサーボモーターを駆動するためのモータードライバーも内蔵されている。ネット環境に接続しなければ制御すらできないが、接続してしまえば地球の裏側から制御することも可能だ。obniz自体にはプログラムは入っておらず、ネット上にプログラムを置いておきそこから信号をobnizに送ることで動作している。
3D-CADと3Dプリンタをフル活用
iPadを回転させるための機構を技術教室グループの仲間たちと考えた。iPadほどの重さのあるものを動かすためには、それなりのトルクが必要になる。中学生ロボコンで使うギヤでそれを担えるのはタミヤの6速クランク一択だった。このギヤなら過剰に回転させてしまった場合はラチェットギアが働いて破壊を防ぐこともできる。
ラダーチェーン用のスプロケットを組み合わせ、これに合わせて直径140mmほどのギヤを3Dプリントした。iPad回転台の筐体も3Dプリントすることにして、1号機と2号機を完成させ。Maker Faire Tokyo 2022でのブース展示に使用した。
改良したい衝動を抑えられない
Maker Faire Tokyo 2022の丸2日間「ここにいるよ!」1、2号機は無事遠隔地からの操作で動き続けてくれた。ブースに来てくれた方が「ここにいるよ!」に向けて、「こんなところでお会いできるなんて・・・」と話しかけていた。「ここにいるよ!」を遠隔で操作していた先生に向けて、教え子さんが話しかけていたのだ。
DCモーターと3Dプリンタで製作したギヤは想定した以上に丈夫で破壊することはなかったが、自分自身の首のように自由に動かすことはできず、機構上ゆっくりとしか動かせなかった。さらに腕の動きに使用した安価なプラスチックギヤのサーボモーターは次々に壊れ半日程度での交換を迫られた。
Maker Faire Tokyoの会場は、ロボットハンドや二足歩行ロボット、ロボット格闘技など、もっと強力なサーボモーターを使った作品であふれているのに、私たちはなぜこんな安物のDCモーターやブラスチックギヤのサーボモーターで満足しているのだろうか。沸々と疑問が湧き起こる。
obnizの電源をハックする
今年Maker Faire Tokyo 2023に出展するにあたって、obnizによる遠隔操作ロボットをグレードアップすることに決めた。ロボット格闘技などで使われているような金属ギヤである程度のトルクに耐えることのできるサーボモーターを使って「ここにいるよ!」を動かす必要がある。
まず20kgまでのトルクに耐えられるブラケット付きサーボモーターを2つ購入して、obnizにそのまま接続してみた。しかし、電流量が足りず1つしかサーボモーターを駆動することができない。何回もググってみたが、どのページも初学者にわかりやすいとはいえず。十分な情報が得られなかった。
そこで技術教室グループ上で聞いてみた。別電源(5V4AのACアダプター)を用意して、obniz側にGNDを接続しておき、信号のみをobnizから出力することで、結果20kgのサーボモーターでも2つ以上動かすことができることを教わる。早速基盤をつくり配線して動かしてみたら問題なく動いた。さらに、本来USBから電力を供給するobnizに基盤上から5Vの電源を供給するとUSB端子は必要なくなってしまった。まるで家電のようにACアダプタを繋げるだけでサーボモーターを制御可能だ。
サーボモーター化された「ここにいるよ!」3号機はすさまじい勢いで動く、iPadが外れて落下するといけないので、JavaScript上から制限をかけた。今回使っているサーボモーターは1つ2千円ほどだが、実現できることを考えると決して高くないことがわかる。
今年のMaker Faire Tokyo 2023では、ゲームコントローラで操作できるようにプログラミングし、来場された方に自由に使っていただく予定だ。
Maker > 技術科教師
みなさんは、Orihimeをご存じだろうか。オリィさんが率いるオリィ研究所にて開発、運用されている遠隔ロボットだ。私たちはOrihimeを激しくリスペクトしている。彼がOrihimeを生み出していなければ、私たちのiPad回転台「ここにいるよ!」は存在していない。
昨年、そのオリィさんこと吉藤健太朗さんの自伝を読んだ。「孤独は消せる」には𠮷藤少年が自らの不登校やひきこもりを克服し、多くの人たちに支えられながら起業家として成長していく姿が描かれている。ロボコンとの出会いをきっかけに、工業高校、高専、早稲田大学、そして起業へとつながる彼の歩みを読みながら涙が止まらなくなってしまった。
この夏、2週間ほど前、彼の会社が立ち上げた分身ロボットカフェを予約して訪ねてみた。外出が厳しい人たちがOrihimeを遠隔で操縦している。Orihimeの横にあるiPadに映し出されたプレゼンをみながら、会話を楽しみ、食事をした。全てが当たり前のように遠隔で行われていた。
オリィ少年がそうであったように、私もMakerとしてものをつくりながら考え続けたい。技術科教師である前に、ものづくりが大好きなMakerでありたいと思う。
参考資料
Maker Faire Tokyo 2023に出展予定の「ここにいるよ!」3号機の動き
Maker Faire Tokyo 2022 で使用した「ここにいるよ!」1,2号機の紹介