タイツリソウ
茎を釣り竿、花を鯛に見立てて【タイツリソウ(鯛釣草)】と呼ばれます。
タイツリソウは、ケシ科、ケマンソウ属の多年草。原産国は中国東北部から朝鮮半島。自生地は森林や湿った深い谷間にあります。日本には室町時代に渡来し、古くから栽培されてきました。農家や旧家の半日陰の庭に咲いている姿がしばしばみられます。
多年草のため、秋には茎や葉が枯れて地上部がなくなり休眠に入ります。根の状態で冬を越し、翌年また芽吹きます。タイツリソウは「ケマンソウ」という別名があります。ハート形の花の形が、寺院のお堂を飾る装飾品「華鬘(ケマン)」に見立てられて名付けられたものです。華鬘とは「華やか」な「草や花で作った髪飾り」という意味。
ちなみに、英語では「bleeding heart(血を流す心臓)」という名前です。ハート型の花の先に滴のような突起があることから名付けられたのでしょうか。花言葉は「失恋」。血の涙を流しているような花という見立てです。
ピンク色の花の他に、次の花色の品種があります。
白花タイツリソウ
花の色が白色に品種改良されたもので、栽培環境によってクリームっぽい色になったり、真っ白になったりします。涼しげな姿が魅力的で、ほのかな優しい香りが楽しめます。
タイツリソウ バレンタイン
花の色は濃い紅色。花だけでなく茎や葉もピンクのタイツリソウより濃いのが特徴で、庭での存在感は抜群。まるでオブジェのように庭で目を惹きつけ、個性的なワンシーンを演出するのに活躍してくれます。耐寒性が強く−40℃まで耐えられます。
芽が動き出すのが3月頃。ぐんぐん成長し、4月の終わりから6月にかけて花をつけます。草丈は30〜60cm程度。多年草ですから年々大株になり、たくさんの花茎に10〜15輪ほどの花を吊り下げて咲くさまは見事です。花が咲き終わったら、茎の根元から切り取ってしまいましょう。あまり長い間そのままにしておくと、種子がついて栄養が奪われて株が弱ってしまいます。ある程度開花が進んだら、切り花としても楽しむこともできます。株が成長している3〜6月頃に肥料を与えてしっかり管理しましょう。秋が近づくと地上部の葉が枯れ込み休眠期に入るので、基本的に肥料は不要です。
寒さには大変強いが暑さと強い日差しが苦手なタイツリソウ。午前中は日当たりがよく、午後には日陰になるような場所が植え付け場所、鉢の置き場所として適しています。年々大株になるため、庭植えの場合は庭の前面ではなく、やや中段に植えると全体のバランスがよいでしょう。建物の影や、落葉樹の下など明るい半日陰で、少し湿り気のある場所などもおすすめです。夏は直射日光に当たると葉焼けを起こしてしまうため、日除けをするなど注意して管理してください。
タイツリソウの植え付け時期は、3〜4月、または10〜11月が適期です。その時期に苗を入手して植え付けましょう。タイツリソウは水もちと水はけのよさの両方を兼ね備えた用土が適しています。地植えの場合、20cmほど掘ってたっぷり腐葉土をすき込んでください。生育も水はけもよくなります。株間は20〜30cmほど。鉢植えの場合は、市販の草花用培養土でも十分です。自分で配合するなら、赤玉土と腐葉土を混ぜ込んだ土に少量のパーライトを加えた用土を使用します。根が深く伸びるため、底の深い鉢に植え付けることがポイント。その後は、生育状態をみながら、2〜3年に1回植え替えをして根詰まりを防ぎます。タイツリソウの根はゴボウのような太い直根なので、どちらかというと、鉢植えより地植えにしたほうが花つきはよいでしょう。また、植え付けの際は根を傷つけないように注意しましょう。
肥料は植え付けの際、元肥としてカリウムやリン酸を多く含んだ緩効性化成肥料か、牛ふん堆肥を土の中に混ぜ込みます。その後は3月から9月にかけて、液体肥料を2,000倍程度に薄めたものを1週間に1回与えます。夏の間は3,000倍に薄めて与えたほうがいいでしょう。地上部が休眠したら肥料は与えません。水やりは植え付け時にたっぷり与えるのはもちろんですが、その後は土の表面が乾いてきたら水を与えてください。やや湿った場所を好むため、土を乾かさないように適度な湿度を保つのがポイント。鉢植えの場合は鉢底から水が流れる程度にたっぷり与えます。冬は休眠期に入りますが、水を与えないと枯れてしまうため、やや控えめに水やりしてください。
タイツリソウは丈夫で病気にはほとんどかかりません。一方、害虫には注意が必要です。3〜5月にかけてはアブラムシに注意。若葉や新芽の汁を吸うため成長に悪影響を及ぼします。大量発生しやすいため、見つけたら早めに殺虫剤を散布して駆除しましょう。アブラムシは光り物が苦手とされるため、園芸用のシルバーテープなどで予防が可能です。晩春から初夏、初秋の年2回ほどはヨトウムシに注意。ヨトウムシは昼は土の中に隠れていて、夜になると土の中から出てきて葉や茎を食い荒らす害虫。葉や茎を集団で食害するため、気付いたら葉が丸坊主になっていた、なんてこともあります。葉裏に大量に卵を産みつけるため、これが孵らないうちに葉ごと処分します。こまめに葉裏もチェックすること。
タイツリソウはとても可愛らしい花姿をしていますが、植物全体に「アルカロイド」という毒を含んでいます。アルカロイドは大脳中枢を麻痺させ、嘔吐、呼吸困難、心臓麻痺など重篤な症状を引き起こす恐れがあります。しかし、相当量を摂取しないと死に至るようなことはありません。くれぐれも誤って食べないようにしましょう。