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初心者からのアカペラミックス0 前書き

動機

この人にアカペラミックスの教科書を書けと言われたような気がしたので、書くことにしました。

筆者について

大阪で生活している社会人です。音楽経験としては大学時代に合唱とアカペラを嗜み、社会人になってからはアカペラの録音とミックスをやっています。パートはベースとビートボックスです。アカペラミックス経験は30曲程度で、最近やっとちゃんとしたミックスが作れるようになってきました。手順を体系化して書き残すことで、自分のミックススキル向上になるんじゃないかと思っています。詳細な処理や手順は雑誌やWebにあふれています。なぜその処理を行うのかという考え方に立ち返って、説明していきたいと思っています。

目標

これから書く内容は、ミックス素人が素人アカペラ録音を可能な限りましな音源に仕立て上げる標準手順を提供することを目的としています。100点満点で20点の録音から60点の音源を製作するイメージです。ミキシング素人が最初の曲を仕上げるまでには非常に苦労が多く、時間もかかります。標準的なミキシング手順に則ることで、時間はかかっても迷うことなく曲を仕上げることができると考えられます。

というのも、経験上素人演奏→素人レコーディング→素人ミキシングは高確率で挫折します。筆者個人は「素人ミックス死のスパイラル」と呼んでいますが、素人アカペラの素人ミックスにおいては「演奏がひどい→録音したトラックがよいか判断できない→録音がひどくなる→ミックス中にどこが悪いか判断できない→変な処理をする→ミックスがひどくなる→どこが悪いかさらに判断できない」の無限ループに容易に陥ります。結果労力多くしてゴミのようなミックスしかできず、徒労感と自己嫌悪を招き、最終的にはミックスが嫌いになってしまいます。

これから書く内容は、ひどい演奏とひどい録音を所与とし、ミックス時に判断箇所を限定して適切な処理を積み上げ、最終的にはマシなミックスに至ることを目的としています。当然ですが演奏とレコーディングが良ければ、非常に良いミックスが狙えるのでそれに越したことはありません。ただしミックス素人が取り扱う録音素材が高レベルであることは、そうそうありません。そのような状況でいかにましなものを作るかというかという視点がミックス素人に必要と考えられ、そのための手順をこれから説明していきます。

判断の重用さ


ミックスにおいて、何か処理を加えると必ず副作用が発生します。処理による効果が副作用を下回ると、ミックスはその分だけ悪くなり、最終的なゴールから遠ざかります。

処理を加えるにあたっては、どのような処理を加えるかの判断が重要となってきます。一つの処理を行うにあたっては3回の判断が行われます。まずミックスの状況を確認し、目標とするミックスの状況と脳内で比較してギャップを認識し、処理を行うべきポイントを判断します。続いてギャップを埋めるためにどのような処理をどれだけ行うかを判断し、処理を実行します。処理完了後、実際に処理の結果を聴き、ギャップが埋まったかどうかの判断を行います。これら課程の判断が間違っていた場合、結果としての処理も間違えたものとなってしまいます。これらの結果、ミックスが目標から遠ざかり、さらに判断が困難になります。

これを避けるためには、判断を行う際にはなぜその判断に至ったのかを必ず言葉で説明できるようにする癖をつけなければなりません。ミキシングにマジックは存在せず、素晴らしいミックスは論理的な積み上げから生まれます。すなわちミックスがうまくなるためには、正しい判断に基づく正しい処理をできるようにならなければならないのです。

モニター環境


判断においてはモニター環境は非常に重要です。ただしモニター環境の構築にはお金がかかりますので、ヘッドホンモニターを活用します。現代においてはプロでもヘッドホンだけでミックスする人がいますし、そもそも初心者レベルでまともなスピーカーモニタリングの環境を構築するのは予算的にもスキル的にも困難なため、初心者においては比較的廉価でセッティングにもスキルを要しないヘッドホンを中心にミックスする方が良い結果がもたらされると個人的には考えています。

ただしヘッドホンとスピーカーでは音響特性が異なり、それに伴い上述の判断がブレてくるので、文明の利器であるプラグインエフェクトを最大活用することでヘッドホンミックスの弱点をカバーし、極力適切な判断ができるようなセットアップを作り上げます。最終チェックにおいてはスピーカーでの確認も必要となってくるため、その場合はテレビやホームオーディオから音声出力する、外部スタジオをレンタルする等の方法でカバーします。

機材、ソフト


そこそこの金額のハード機材が必要となります。上述の通りミックスでは判断が重要となりますが、適切な判断のためには通常のリスニング環境の何ランクも上の音質が必要となります。すなわち判断の前提とすることができる音質があって初めてミックスができるということができます。トレーニングを積めば貧弱な音質でもミックスをすることが可能ですが、それは音を聞いて判断する能力があってこそで、初心者が貧弱な音を基に適切な判断を行うことは極めて困難であると言わざるをえません。この点はお金をかけないとどうしようもないと考えています。ただしモニタリング環境の構築は、よい音で音楽を聴ける環境の構築と言い換えることができ、もしミックスに挫折してもこの環境は継続して使うことができますし、人気の高い定番機材であればリセールバリューも期待されます。

ソフトウエアは極力DAW内蔵および無料のプラグインで賄い、機能的に賄いきれないプラグインのみ購入する方針です。近年のDAW付属プラグインは非情にバラエティにあふれかつ品質が高く、無料の高品質プラグインも多数あり、機能的に賄いきれないプラグインの数自体は少ないと考えています。DTMを始めるとすぐ新しいプラグインが欲しくなるのですが、ごく少数のプラグインを使い込んで使用方法に熟練したほうが、多数のプラグインを浅く適当に使うよりも良い結果が生まれます。また上にも書きましたが、プラグインを購入するだけで劇的にミキシングの仕上がりが向上することはありません。ミキシングの仕上がりを向上させるのはミキシングエンジニアの腕だけなのです。

録音想定


1名ずつダイナミックマイク(みんな大好きSM58とか)でマルチトラック録音、オンマイクで収音していると想定しています。録音レベルは適切でレベルオーバーは発生しておらず、局所的に録音レベルが低いところがあるが目立つノイズはないという収音ができているイメージです。ただしマイキングに問題があり、倍音が録音できていないトラックもあると想定しており、これはアマチュアアカペラではよくある状況と考えています。

演奏に関して、音程は6割がた、テンポは8割がた適切な状況を仮定します。これに満たない場合はもっと練習してから録音しましょう。またテンポデータ(MIDI)が存在し、クリックに合わせて録音されていて、録音後に縦のリズムをそろえるのが比較的簡単である状況を想定しています。

個人的にはこれら条件は、ミックス用録音として最低限満たすべきものと考えています。これよりひどい録音であった場合、トラックの修正を頑張るか、再録音を検討してください。

つづく

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