全国のシステム標準化事務に従事する自治体職員に伝えたい事
システム標準化は大変困難な事業です。
2022年10月に地方公共団体情報システム標準化基本方針が策定されましたが。そこにはシステム標準化の目標としてベンダロックインの回避や2018年度比でコストの3割削減等が掲げられています。
恐らく各市町村に置かれても、財政部門や議会にそのような説明をしているのではないでしょうか。
このシステム標準化の試みは、アプリケーションの標準化とそれに合わせた業務のBPR、クラウドジャーニー、アプリのモダン化と、単体でも結構大変な案件を複数同時並行で行わなければならず、しかも期限が2025年度末と非常に短い、極めて難易度が高いプロジェクトです。
市町村職員も大変ですが、それより遥かにアプリベンダの負荷が大きい仕組みです。
そのため標準準拠システムを手掛けるアプリベンダは既存顧客以外にサービスを提供する事が困難で、一部のアプリベンダは事業から撤退を表明しています。競争性が働いているとはとても言い難い状況で少なくとも2025年度時点ではベンダロックインが回避される状況には恐らくならないでしょう。
コスト3割減の方も、ガバメントクラウドにかかる共同利用方式などが十分に活用され、かつアプリのモダン化が十分になされた場合の想定とデジタル庁は説明しています。
しかしアプリベンダが費用負担やセキュリティが絡む提案を行い、顧客自治体の合意を短期間で取り付けるのは困難だと思われます。そして開発期間が限られているためアプリのモダン化もどこまで出来るか不明瞭です。クラウドエンジニアの数もまだまだ少ないため人件費が高騰し、それは開発費用や運用経費に転嫁されます。また新たに回線費用が必要になることもあり、コストメリットは非常に出づらい状況です。
この悪条件の根源的な要因は2025年度という期限の短さにあり、実際のところはこれが後ろに倒れれば多くの問題は解決すると思われますが、このゴールは政治案件であるため動かせません。
これらの事情から、システム標準化はいかにも筋が悪い事業のように思えてしまいます。
しかしここで一度、騙されたと思って「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を読んでみてください。
https://www.digital.go.jp/policies/priority-policy-program/
本文を全て読むのが理想ですが、膨大な量となりますので、システム標準化関連のP110-P114だけでも押さえておいてください。
その中に以下のような記述があります。
「公共サービスメッシュ」という言葉が出てきました。これはデジタル庁が描くトータルデザイン実現のための中核を成す情報連携基盤のことで、上記重点計画の中にも説明はありますが、それよりは「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」の資料を見ていただく方が理解が早いと思います。
要約すると、国は行政サービスをデジタルを活用して国民皆に優しく便利なものにしようとしています。具体的に目指す理想像はあらゆる手続きがスマートフォンで60秒で完結する社会です。
60秒で完結するというのは中々にハードルが高い目標です。例えば現在のオンラインショッピングでも、クレジットカードの番号や発送先の住所等を一から入力していたら60秒では中々完了しません。実現のためには、住民が行政サービスのどの施策に該当するかを自動的に識別し、プッシュ型で通知し、住所、氏名、所得情報、認定区分等の必要な事項を予め画面に初期表示させておいたうえで同意ボタンを押すだけの状態にしておく必要があります。
それを実現するためには市町村や各府省庁の持つデータの連携基盤が必要となり、それを担うのが公共サービスメッシュというわけです。
そしてそれを実現するためには、地方公共団体の基幹システムの標準化が必要となるのです。
つまり、システム標準化は国の描くトータルデザインの一施策に過ぎず、位置づけとしては公共サービスメッシュのための地ならしな訳です。
システムを標準化するのが目的ではありません。その先にガバメントクラウドに構築された公共サービスメッシュがあり、更にその先にあらゆる手続きが60秒で完結する便利で優しい社会の実現があるわけです。
標準化だけやれば良いのになぜガバメントクラウドを使う必要があるのか。
なぜオンプレやプライベートクラウドではダメなのか。
性能面や経済合理性等を比較衡量して総合的に優れていると判断して例外的にプライベートクラウドを使う場合でも、なぜガバメントクラウドへの連携が必要なのか。
全ての答えはそこにあります。
システム標準化は、KPI指標の取り方はじめ、その事業単体としては色々難があるかもしれませんが、そこに拘り過ぎるのもよくありません。
システム標準化はあくまで地ならしの通過点であり終着点ではなく、目指すべきはその先で地域住民に良質な行政サービスを提供することだからです。
ここで意地を張ってシステム標準化に消極的なスタンスを取っていると、公共サービスメッシュが活用できず、最終的に自分の自治体だけ住民に良質なサービスが提供できないというような事態になりかねません。
残念ながら、今後日本の人口は減少が避けられません。税収が減るだけでなく自治体職員も成り手が少なくなりっていきます。
そんな中、市町村単体で行政サービスの水準を維持していくのは非常に困難です。
生き残るためには適切な選択と集中を行い、デジタルの力を活用しながら得意分野で勝負し、自治体の魅力をアピールする必要がありますが、当然それが出来る市町村とそうでない市町村があります。
だから国は優良事例に補助金を出して全国に公開し、可能なものはSaaSとして横展開することで、あらゆる市町村が救われるように手を差し伸べています。
これが正にデジタル庁が行っている、デジタル田園都市国家構想と窓口DXSaaSです。現在は北見市ベースのものにスポットが当たっていますが、標準化が進み公共サービスメッシュが整備されれば、優良事例の横展開SaaSは更に増えていくでしょう。
だから今一度考えてみてください。
トータルデザインに至る最初のチェックポイントにしか過ぎないシステム標準化を拒否して、国が差し伸べる手を振りはらって、自分の自治体がこの先、生き残れるかを。