#4 文章の流れをよくするKnown-to-Newの原則 その3
同一文内でKnown(既知)とNew(未知)を入れ替えるテクニック
前回は、一つの文内で既知と未知の情報が適切な順序でないと文章が読みにくくなることを紹介しました。今回は、同一文内で情報を既知から未知の順番にするテクニックを6つ紹介します。
1.Be動詞を挟んで主語と述語を入れ替える
これは比較的シンプルです。前回と同じ例文(*)を使います。
この例文は未知の情報が既知の情報よりも最初に書かれています。
[To develop the high-speed (>10 kHz) transistors critical for such devices] (未知) is [the present target in many organic electronics labs around the world] (既知).
未知と既知の情報はbe動詞のisで接続しているので、そのまま両者を入れ替えればOKです。
[The present target in many organic electronics labs around the world] (既知) is [to develop the high-speed (>10 kHz) transistors critical for such devices] (未知).
2.節の順番の入れ替え
こちらも比較的シンプルです。例文は以前の記事に使ったネーチャー系論文からの引用です(**)。
[Additional research is required to optimize mRNA design, intracellular delivery and applications beyond SARS- CoV-2 prophylaxis](未知), [although it is now clear that mRNA vaccines can rapidly and safely protect patients from infectious disease](既知).
二つの文が接続詞のalthoughでつながれています。未知の情報が最初に書かれているので、下記の様に文(節)を入れ替えればOKです。
[Although it is now clear that mRNA vaccines can rapidly and safely protect patients from infectious disease](既知), [additional research is required to optimize mRNA design, intracellular delivery and applications beyond SARS- CoV-2 prophylaxis](未知).
3.前置詞句の順番をかえる
論文に使われる前置詞句の例です。
- under these conditions
- in the case of ...,
- in this chapter, in this review, in this paper
前置詞句を使用した例文を見てみましょう。
Glass is known to become more brittle in water and at high temperature and relative humidity. [Glass parts should be used carefully] (未知)[under these conditions](既知).
最初の例では、2文目にあるunder these conditions (水中や高温多湿)はすでに1文目で述べられていますから既知の情報です。したがって、下記の例のように、under these conditionsは文頭に持ってくるのが適切です。
Glass is known to become more brittle in water or at high temperatures and relative humidity. [Under these conditions](既知), [glass parts should be used carefully] (未知).
訳)ガラスは水中や高温多湿環境で脆くなることが知られている。このような環境でガラス部品を使用する際は注意が必要である。
4.能動態を受動態にかえる、もしくは逆にする
学術論文は受動態で書いた方がよい、もしくは書くべきと習ったことがありませんか?これは正しくないと思います。なぜなら、どちらも使用しないとわかりやすい学術論文を英文で書くことは難しいからです。理由はいくつかありますが(詳細は別の記事で)、その一つはKnown-to-Newの原則の適用に必要だからです。
現実的ではないですが、以下の例文が学術論文に使われたと仮定します。
A new material(未知)is reported in this paper(既知).
新しい材料は未知ですよね。論文ももちろん既知です。 この1文は受動態で書かれているので、Known-to-Newの原則を適用するには下記の様に能動態に変える必要があります。
This paper(既知)reports a new material(未知).
5.動詞の意味を逆にする
例文はネーチャーの論文のタイトルです(volume 228, pages477–478 (1970))。
Development of the Brain depends on the Visual Environment
(訳)脳の発達は視覚環境に依存する
dependを受動態にかえることはできません。したがって、the Visual Environmentを先頭に持ってくるには、dependの逆の意味を持つcontrolに変更すればOKです。
The Visual Environment controls the development of the Brain.
6.その他
既知と未知の情報を入れ替えるのに上記テクニックがいずれも使えない場合があります。前回の記事で使用した例文(*)を見てください。これは原文で既知と未知が正しい順番になっています。前回の記事で例文をあえて逆の順番にするのに上記のテクニックが使えないので少し考えていました。
[This technology](既知)comprises [fast-switching transistors, antennas operating at frequencies above 100 kHz, memory, and so on, all integrated into a plastic foil](未知).
結局、compriseをare the component of に置き換え、既知と未知の情報を入れ替えました。
[Fast-switching transistors, antennas operating at frequencies above 100 kHz, memory, and so on, all integrated into a plastic foil](未知)are [the components of this technology (RFID) ](既知).
まとめ
紹介したテクニック等を活用して、Known-to-Newの原則を適用していきましょう。ほとんどは1から4までのテクニックで対応できると思います。なお、Known-to-Newの原則はいつも正しいわけではありません。いくつか例外があり、次回はその一つを書く予定です。
(*) Nature Materials, volume 6, pages3–5 (2007)
(**) https://www.nature.com/articles/s41573-021-00283-5