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【ネタバレあり】『OMORI』の雑多な感想
『OMORI』は本当に長い間待ち望んでいたゲームだった。
具体的には、このトレイラーを観てからである。今観ても物凄く魅力的だし、発売から6年も前の映像にも関わらずコンセプトや根幹のストーリーは全くぶれていないのですごい。確か僕がこの映像を観たのも概ね6年前だったと思う。その当時もやっぱりとても魅力的に感じたことを記憶している。
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長い期間を経て、本作は2020年のクリスマスに発売された。
しかし僕はプレイできなかった。理由は単純で、日本語化がなされていなかったからだ。翻訳ソフトを駆使してプレイするという方法もあったが、
以前『Undertale』をその方法でプレイした際には初見の際にイマイチ楽しめなかったという少々苦い思い出があったため、プレイを見送ることにした。すでに正式な日本語化対応が決まっていたし(ありがたいことである)、無理してプレイする必要もないだろうという判断だ。
……とは言ったものの、実は日本語化対応を待ちきれず翻訳ソフトを傍にプレイしたこともあった。しかし2時間ほどプレイして、その滲み出る名作の予感に「これちゃんとやった方がいいわ」と思い至り、断念したのだった。
そして2021年12月、スイッチ版の発売決定とほぼ同時に日本語版が実装された。これはかなり急で(公式ツイッターでは匂わせがあったが、ネタバレがあるらしいので見てなかった)なかなかにビビった。ちなみにそのスイッチ版の発表がなされた任天堂のオンライン番組「Indie World」では、
「次が、最後のタイトルになります。どうぞ」
と、ニンダイにおけるスマブラかゼルダみたいな扱いを受けていた。でもマジでインディー界におけるそんぐらいのゲーム。
とにかく、年単位で待っていた日本語化が出たとあっては放ってはおけない。僕は今やってる当分終わらなさそうなゲームをそっちのけにしてでプレイを始めた。
結論から言えば、期待通りどころか期待を大幅に超えてくるとんでもない作品だった。言いたいことが多岐に渡るので、項目に分けて書いていきたいと思う。
なお、ここからはネタバレ全開です。「プレイしてみようかな〜」とお悩みの方はすぐにSteamでプレイすることをお勧めします。2022年春にはSwitch版も出ますので、初見の良さをドブに捨てたくなければ……。
ゲームシステム
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基本は一般的なRPGで、良くも悪くも堅実。個人的には正統派なRPGをやるのは結構久しぶりだったので新鮮に楽しめた。個性的なのは「感情」システムだ。
「いらいら」「にこにこ」「しょんぼり」の3種類があり、それぞれ一長一短のステータス変動を起こす、言わばバフでありデバフなのだが、それをキャラクターの感情としている点がなんとも言えない独特さを生んでいる。
仲間達の顔グラフィックの表情が感情によって変動するのは顕著な例だ。しかもモブ敵の全てもこの表情変化に対応しているというのだから驚きである。もちろんキャラによって感情の出方が違ったりもしてそこも面白い。他にも、それらの「感情」が強まったとき、例えば「いらいら」なら「むかむか」に変化し、さらに仲間キャラがそれになった場合はより怒った表情になるなど、非常に凝っている。
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そして何よりも主人公(デフォルト名サニー)が恐怖に立ち向かう際、「怯えるあまり戦うことができない」という状態を表す上で非常に良い役割を担っている。
本作はホラーゲームであり、平たく言ってしまえば主人公がトラウマ(=恐怖)を乗り越えることが物語の中心を占めているため、この「主人公の感情がプレイに多大な影響を与える」というシステムがプレイヤーと主人公の一体感を高めているんじゃないかなと思う。
ストーリーと演出
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話の主軸は、大雑把に言えば「引きこもりの子が友達の力を借りて復帰する」というものだ。それを、「過去の凄惨な記憶を心の奥深くにしまい込み、夢の中に閉じこもってしまった主人公が、友達の力を借りて最終的にそこから抜け出す」という形で描いている。その理由というのはとても痛ましくて、追っていて辛くなるようなものだし、暗いストーリーであることは確かだ。そのため、万人に勧められるものではないとは思う(最初に注意書きもあるし)。しかし、ずっと主人公の味方であり続ける友達たちの存在があることによって希望はあり続けるし、何もわからない状態からどんどん真実が明らかになっていくストーリー展開はただただ面白い。
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クリアした後の率直な感想として、みんな最終的に前を向けるような終わり方をして本当によかったなというのがまずある。僕は基本的にハッピーエンドが一番だと思っているので、それだけで評価点みたいな感じだ。もっと言えば、「誰のせいでもなくどうしようもない状況になってしまうが、それでもなんとか前に進んでいく」みたいなストーリーが好きなので、まさしくそういう感じの本作のストーリーはかなり刺さった。
僕はこういうゲームをやるとき主人公になるべく感情移入しようとする方で、そのためにいつも主人公の名前を本名にしてプレイしたりするのだが、このゲームはそういうスタイルに特にバチッとハマるような作品だった。
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とにかくプレイ中、演出に引き込まれるし、主人公が感じている恐怖や困惑に引き込まれることもままある。そして何より主人公の3人(+2人)の友達がとっても魅力的で、セリフも膨大な量があるため、彼らのことを近しく感じるうちに、主人公と自分が重なっていくような感覚までも湧いてくるのだ。まあここら辺は人によるだろうが、少なくとも僕はクリアする頃にはケル、オーブリー、ヒロ、マリ、そしてバジルにただならぬ愛着を持つようになっていた。
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プレイしていた時、記憶に残っているのはやはり現実世界で友達たちに出会うシーンだ。ケルくんの変わらなさに安心したり、オーブリーさんのあまりの豹変具合に暗い気持ちになってしまったり、バジルくんに顔を合わせた時、「実際のところ、この二人に何があったのだろう」と心がざわついたり、ヒロくんも昔と同じであることがわかってホッとしたり、マリさんが死んでいることを周りの会話から察したり……。そこだけにとどまらず、現実世界のパートは夢の中ではわからなかったことが明らかになる嬉しさと怖さが常にある分、ストーリーが進むシーンでは常にドキドキしっぱなしだった。
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その中でもとりわけゾッとしたシーンがある。オーブリーとの戦闘シーンだ。変わってしまったオーブリーと、その見た目を体現したような、ギターを乱暴にかき鳴らすようなBGM。困惑したまま普段通り主人公=自分はナイフを振るわけだが、攻撃が当たったオーブリーは怪我を負い傷を流す。夢じゃないから当たり前である。オーブリーは困惑しつつその場を去り、ケルは慌てて主人公からナイフを取り上げる……というものだ。僕はこのシーンでめちゃくちゃ嫌な気分になった。だって、その後のシーンでオーブリーに言われるように、この場における主人公の行動は「サイコパス野郎」だ。そんな行動を自然な流れで行なってしまったことに酷い罪悪感を覚えたのだった。
これがすごいのは、「引きこもって夢ばかり見ていた主人公は現実世界も夢の中と同じだと思ってナイフを振ってしまった」という心の動きが、そこまでのプレイですっかり夢の世界の感覚に馴染んでいたプレイヤーと主人公で重なっているところだ。こんな形でプレイヤーと主人公の感情がダブるなんて思わなくて、びっくりしてしまった。
ちなみに、この後オーブリーが仲間になった際に彼女の武器である釘バットの説明を見てみると「ステーキナイフよりも危険。」と書いてあり、別にお互い様であることを示唆している(多分)。こんなとこまで作者の掌の上かい!!
基本的にキャラはみんな愛しいんだけど、ハンフリーだけは許せない。スライムガール食べちゃったから。あのシーンの異常なほどの命の軽さってカートゥーン的な価値観を感じる。ああいう感じで簡単に死が扱われる作品ってあるよな。それだけじゃなくてそれ以降の展開も意図的に「最悪〜!」と思うように作ってあるというか、物語の核心に迫る場面とはまた別ベクトルの「悪い夢でも見ているみたいな感覚」を呼び起こすものがあった。オモリの精神が不安定になってきていることを表しているとも取れるかもしれない。
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先ほども軽く触れたが、本作で最も印象に残ったのはさまざまな演出だ。主に主人公の思い出、そして忍び寄る恐怖を表現した演出の数々はどれも巧みで、特に途中で入るアニメーションの数々は、キャラの魅力を引き出したり、レトロスタイルのドット絵では描ききれないような映像表現を行なったりと本作を語る上では外せないだろう。中でも主人公とバジルの二人の関係性を仄めかす映像の数々は、主人公の断片的な記憶を探るような、得体の知れないものを覗いてしまったような感覚を想起させ、特に記憶に残っている。かなりの量があったから、本当に制作には長い時間がかかったんだろうな……と思わざるを得ない。
アニメーション以外にも、演出には印象的なものが多かった。誤解を恐れず言えばふざけたノリな夢の中の世界から、過去の暗い記憶へと向かうギャップが上手く使われていたと思う。
ゲームシステムを使った演出も多いし、どれもすごかった。ゲームシステムの欄で書いた、「怯えるあまり戦うことができない」というのはその最たるものだが、夢と現実でのバトルのゲームバランスの違いもなかなか良い要素だと思った。現実では、レベルも上がらないし、ナイフを振るうこともできないし、何かを食べても体力は回復せず、救急箱や絆創膏が効力を持っている。当たり前のことがまどろっこしく感じてしまうのに不思議な感覚を覚えた。
恐怖に対して、マリの言葉を思い出し、新たなコマンドを得て立ち向かっていくという要素や、ラストバトルでのコマンド変化はもうね……みんな好きだよね……。
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主人公がずっと封じ込めてきた記憶を明らかにするブラックスペースの演出は、何もかも強烈だった。書くのも野暮という感じすらしてしまう。
記憶の深層であるブラックスペースのマップの様相は、言ってしまえば疑いようもなく『ゆめにっき』そのものなんだけど、実際に「精神世界の中でも、あまりにも深いドロドロした場所」の表現として使われているのを見ると物凄くはまっていて、演出の上手さに感嘆するとともに『ゆめにっき』の偉大さのようなものを再確認したような気がした。『ゆめにっき』の存在を前提にしたある種のオマージュによる効果とも言えるかもしれない。
それにしても、マリを殺してしまった記憶を受け入れる最後の手段として、みんなからのプレゼントであり、マリと一緒に演奏していたヴァイオリンを使うというのはあまりにもそこに辿り着くまでの流れとのつながりが感じられて素晴らしかったな……。
バジルくんと主人公はあまりにも重い秘密を分け合っていて、だからこその二人のなんとも言えない距離感というか関係性が愛しかったし、だからこそ主人公=オモリは惨いほどに夢の中でバジルを責めるシーンもあったのかなと……。だからこそ、二人は秘密を打ち明けて、改めて昔のように仲良くして欲しいです……。
グッドエンディングの後、マリが言ってくれたように、二人が秘密を話しても、みんながずっと友達でい続けることを願うばかりです……本当に……。
全員が健やかに幸せであってくれ!!!!!
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このイラスト良すぎる。上手く言えないが、この作品はあまりにも暗い話かもしれないけど、こういう良い方向の未来を是としてくれているのがすごく救いだし、ただの鬱ゲーではないな、と感じさせられる。
音楽
MOTHERシリーズリスペクトの作品として、例に漏れず本作も音楽に力が入っている。サントラが179曲で3時間56分であるというだけでそのガチっぷりは伝わってくる。
色々と凄いところはあるが、通常戦闘曲がワールド毎に変わる上にどれも名曲なのがまず素晴らしい。
好きな曲としてはやっぱりボス曲が多い。『You Were Wrong. Go Back.』がシンプルにかっこよくて好き。『CHAOS ASSEMBLY』もMOTHER2のクラーケン戦を思い出す感じで良い。
また、先程の内容とも絡んでくるが、音楽と演出との絡め方が非常に効果的だった。実際サントラを聞くと、いわゆる劇伴のような、シーンやムービーの展開に密接にリンクしたような音楽の割合が非常に多いことがわかる。特に、恐怖演出を盛り上げる音楽がかなり多い。先述の『ゆめにっき』的なフィールドでも、しっかりそれっぽい音楽で恐怖を煽ってくる。
一番最初のトレーラーで使われた『my time』も、本編でまさしく「最高だけど最悪」な使われ方をされていてそれもよかったな。
あと東方Projectシリーズでお馴染みの通称ZUNペットを惜しみなく使ってくる曲が何曲かあってびっくりした。隠す気がない。
グラフィック
本作のグラフィックの手の掛かりっぷりはすごい。なにせ敵の戦闘グラフィックは全て手書きで、ちょっと動いている(同じ構図のキャラを描いたイラストを複数用意し、重ねてアニメーションさせることで、線のブレによって脈動しているように見えるというアレ)し、主人公たちの攻撃のエフェクト(ボールが飛び交ったり、斬撃のエフェクトが出たり)も全て手書きである。もう、気の遠くなるような作業を重ねて作り上げていることが目に見えてわかるので、圧倒されてしまう。
まあ3Dのビッグタイトルも大量の3Dモデルを作って動かしてるわけで、総合的な労力で言えばそっちの方が上ではあるはずなんだけど、やっぱり大量の手書きアニメを突きつけられるとそのパワーに打ちのめされる感覚がある。
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アニメーションの量が凄すぎてあんまり意識しなくなっちゃうんだけど、もちろんドット絵のクオリティも高い。MOTHERへのリスペクトを感じつつも独特の雰囲気を醸し出している。ピクニックなどで仲間達がいろんな動きをするのだが、これもかなり手が混んでいる。個人的に、最近は『アンリアルライフ』や『EASTWARD』などの少し解像度高めのドット絵に魅力を感じていたのだが、こういうのもやっぱいいな〜と思った。夢と現実での色彩の違いも印象的だ。
あとキャラデザが良すぎる!!!!!!もうすっかりイラストレーターのOMOCATのファンになってしまい、過去絵を漁りまくっている。
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特にスライムガールズはちょっとずるいと思う。あの戦闘シーンで一枚絵が出てきた時、「うわ!ドット絵で多少察してはいたけど!おいおいおいおい!!!それはもう!それはもうでしょ!!!」と思ったもんな。
日本語化
日本語化の秀逸さは触れておかなければいけない要素だと思う。もうとにかく完璧な日本語訳だと言っていい。友達たちの口調はもちろん、NPCもキャラに合わせた特徴的な喋り方になっているし(スイートハート、ハンフリーなど)、このローカライズの精度の高さはすごい。そしてビックリしたのはUI周りの翻訳だ。本作は手書き感あふれるイラストに合わせ、エフェクトやUIにも手書きの文字が多く使われているのだが、これが完璧に日本語になっているのだ。例えば、吹き出しで「YOU CAN DO IT!」と出る技が「あなたならできるよ!」とバッチリ書き直されていたりする。しかもこれが数個の騒ぎではないから、これまたものすごい手間がかかっていることが容易に想像できる。翻訳班はもちろんすごい働きをしてくれているのだろうが、開発元のOMOCATもかなりズブズブなんじゃないか?と推測してしまう出来だ。
全体的な話
こちらの記事で、
私たちは、もちろん『マザー』シリーズから多大な影響を受けていますが、他にも大好きなゲームから影響を受けています。『ゆめにっき』『ポケットモンスター』シリーズ、『Ib』『ドラゴンクエスト』シリーズ、『逆転裁判』シリーズ、『どうぶつの森』シリーズ、『ゼルダの伝説』シリーズ(特に『ふしぎの木の実』)、『キングダムハーツ』シリーズ、『ファイアーエムブレム』シリーズ、『ペーパーマリオ』シリーズ、『クロノ・トリガー』と『クロノ・クロス』、『ダーククラウド』『ファイナルファンタジータクティクス』…たくさんあります!
ゲーム以外にも、私たちが子供の頃大好きだったものから影響を受けています。「鋼の錬金術師」「さよなら絶望先生」「ひぐらしのなく頃に」と言ったアニメや、「20世紀少年」「おやすみプンプン」「よつばと!」と言ったマンガ、そして松本大洋氏の作品です。それからボーカロイドのプロデューサーの皆さんや彼らの作品、カゲロウプロジェクト、nekobolo氏、きくお氏、Neru氏…こちらもたくさんです!
と書かれているように、というか最早確認するまでもなく、日本の作品からの影響を多大に感じる作品である。MOTHERからの影響は多分に感じるし、スイートハートのデザインは魔法少女だし、『Ib』も言われてみればそうだなと思う。日本語化の秀逸さもあるだろうが、日本の作品と言われても疑わないほどだ。
繰り返しになるが、概観を見ても、本作を語る上で「大ふざけの夢世界とシリアスな現実世界の対比」という面は欠かせないのではないかと思う。
夢の中の世界のシナリオはマジでふざけまくっている。「これ、ほんとに主人公君の脳内で形成されてんの?」と疑ってしまうほどで、ふざけ具合で言えば『DELTARUNE Chapter2』といい勝負だ。かと思えば、主人公の記憶に関わるシーンでは一転してシリアスになり、現実世界でもかなり落ち着いたシナリオが展開される。楽しい夢の中から出て辛い現実と向き合う主人公の心情を追体験しているとも言えそう。
こういったふざけとシリアスの対比はMOTHERシリーズの単なるオマージュに止まらず、作品に飽きさせない、面白いものを作るための工夫としての一つの正解なんじゃないかと考えたりする。
『機界戦隊ゼンカイジャー』とか、そこら辺がすごく上手だなと思う。
さいごに
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もう、情緒グチャグチャにされたし、最高の作品としか言いようがない。この記事はネタバレありだから未プレイの人には読んでもらえないかも(というか読まないほうがいい)だけど、ある程度のホラー耐性がある人には是非お勧めしたい作品である。
ここまで書いておいて何だけど、全然回収できてないイベントがおそらく山ほどある!!調べると出てくるピザ屋バイトも一度もやらないまま終わってしまった。あと夢世界も全然探索できてないところある気がする、ブラックキーも残ってるし……。夢世界のセーブデータを残していなかったのが本当に悔やまれる、何も思わず上書きしてしまった……。バジルくんの家行く時にもう一回ぐらい聞いてくれてもいいんじゃない!?いや、それはわがままが過ぎるか……。
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サムネ用にネタバレなしの絵を描こう!と思い描いた絵。ドット絵で手書きイラストの雰囲気を出すのは難しい。
ネタバレ全開の絵も描きたい欲がすごいので、描いたら何か公にならない手段を使って公開すると思います。