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【映像美とノイズ】『竜とそばかすの姫』についての雑記


『竜とそばかすの姫』を観たので思ったことを雑多に書き連ねてみようと思う。書きたいように書いてるのでネタバレ全開かつストーリーの説明もないです。






結論から言うと、悪くはないけどかなりわだかまりの残る作品だった。

まず、映像については言うまでも無く良かった。田舎の風景やごちゃごちゃした家の描き方も見事ですごくリアルだったし、仮想世界「U」の内部もOZとは違った独特の雰囲気(何となく全体的に古代文明的な雰囲気を感じた。ビルとかもあるけど)が出ていて綺麗だったな。

キャラデザも良かったと思う。普通の人間(変な言い方だけど)はいつも通りで、特筆すべきことはない。主に触れたいのは「U」のアバター「As」についてだ。色んなデザイナーさんが参加してるらしく、OZよろしく多種多様で奇抜なデザインが織り混ざってなかなかカオスな感じになっていてこれも良かった。
特にippatuさんという方がデザインしてるAs(ヒロちゃんのAsや竜の守護をしているAIなど)がとても可愛くて最高。元々カニ人のツイッターのファンだったので、特徴的な「あのキャラデザ」が動き回るのを観れただけでも映画館に行った価値はあったなと思うぐらい。
主人公のすずのAsであるベルのデザインはなかなか強烈で、(ディズニーのデザイナーさんが関わってるらしい)少なくとも僕には「ちょっと異質だな」と思えた。でも、それ故の独特の雰囲気があって、皆が夢中になることに妙な説得力が生まれてもいるから、デザインとして正解なのかなと思う。

Uはユーザーの生体データをスキャンして、それを元に唯一のAsを作り出すらしい。劇中には幼児的な精神性を持ってるから赤ちゃん型のAsになっているおばちゃんが出て来たけど、もし自分がそういうハズレ的なデザインになったらすごい嫌だな。



次に脚本だが、これがやっぱりこの作品を一番微妙にしてる部分だと思う。知ってる人は知ってると思うが、『バケモノの子』以降の作品では細田監督が原作だけでなく脚本そのものも担当している。そして、彼自身が描いた脚本は問題点が少なからず散見される。本作もその例に漏れず、という感じだった。個人的に脚本のことって言語化が難しいと思うのだが書いてみる。

まず、話の本筋や、キャラクターの性格付けは別に問題ないと思った。家族という物語やインターネットによるつながりは話に組み込まれてるし、登場人物たちのキャラも立っている。ただ恋愛模様の描写がしっかりあるわりに結末に一切影響しないのはどうかと思う(ストラテジーゲームのくだりは絶対にいらない)。あれだけ恋愛の話しといて竜は別にいるんかい!!!!ってなった。恋愛以外にも色々な要素が交錯してて、テーマのブレは感じずにはいられなかったかもしれない。「インターネットの良い面と悪い面」というところは全編通して感じられることではあるが、それはメッセージとは違うわけで、結局何が言いたいかはうやむやな印象がある。最後の大詰めともいえる、すずがDV父の前に立ちはだかるシーンも現実味はないし、あれが何を表しているかは(自分の読解力不足はあるとは言え)少し不透明な部分がある気がする。

加えて少し気になったのは途中の推理パートだ。色々なニセモノにあたりつつも最終的に竜の正体を突き止めるという流れだが、特に面白みもなくないか?と思った。結末としてあのツイキャスみたいな配信は偶然と言っていいような見つけ方をしているし、「あのアザは心の痛みからできたもので、竜が強かったのもその反動によるもの」と言われても、ふーん……としか言えない。クリオネ型のAsが竜の弟だったという伏線はあるものの、「あなたは、誰?」をキャッチコピーにするぐらいに中心に据えているのなら、もう少し「そういうことだったのか!!」と思わせて欲しかったかもしれない。


問題点についてだが、先述の内容にも絡むことだが、色々とガバすぎる。これに尽きる。感覚的な表現で申し訳ないが「ざっくりしてる・しっかりと論理立てられていなくてふわふわしてる」みたいなニュアンス。分かりやすいのが仮想世界「U」の設定だ。「5人の賢者によって創られた仮想世界で、ユーザーが50億人いる」という説明が冒頭でなされているが、僕はそれを聞いて何より「50億人だぁ??」というクソデカ疑問が生まれてしまった。50億って人類の過半数だぞ。OZですら娯楽が沢山あってショッピングもできて公的機関が窓口置いててユーザー10億人なのに、あんなろくなサービスの描写もない仮想世界に各々が専用のデバイス付けて参加してるってちょっと現実味がない。「現実味がなきゃ設定としてダメか?」と言われたらそんなことはない。『キルラキル』の設定とかとんでもないけどあれは妙な説得力がある。現実とは異質な世界観の描写がキッチリされてるからだ。しかし本作はかなりリアルな世界観である。だからそこら辺のぶっ飛びっぷりに疑問を覚えてしまったのかもしれない。
5人の賢者という設定も拾われるかと思ったら明確には拾われない。竜の周りにいたAIたちがそうか?という考察もできるが、確証はないし話の本筋には絡んでこない。

Uの得体の知れなさも気になるポイントだ。Uは建物が立ち並ぶのみで目立った娯楽はない。全身の感覚をダイブさせられるなら色々と発展してそうなものだけど、一切の描写がない。それこそなんで50億もユーザーいるの?って話だ。竜だけ自分の城みたいなのを持っているのも不思議に感じた。どういうシステム?あの空間で一体みんな何してんだ。

ヒロちゃんが超高スペックパソコンをしれっと教室に持ち込んでたのも気になってしまった。(それでやるのがブラウザ大量起動ってどうなの?)『サマーウォーズ』でもほぼ同じようなシーンがあるが、あれは「田舎の電気屋が大学に卸す予定のPCを勝手に持ってきちゃった」というれっきとした裏付けがあった。それと比べると一切の説明がされないのが気になる。こういう細かいポイントが本作には多い。


最後の大団円とも言えるシーンでUの全員が泣いてるのも一抹の「え……?」という気持ちが発生してしまった。確かにあの場にいるみんなが感情を動かされるのは分かるんだけど、あそこまでその場にいる全員が泣いてると「ほら、スクリーンの前のお前も泣けよ」という圧力を感じたし(こう感じたのは僕の性格が悪いからでもあるというのは百も承知だ)、純粋な気持ちで観られなかった。あと、皆の胸元で光ってるオレンジの玉も何らかの説明が欲しかったな。

要するに本作は設定面で「これってなんなんだろうな……」と変に考えを巡らせてしまうことが多かった。確かに、あり得ないことが起きてて破綻してるとかじゃないんだと思う。ただ説明がないせいでそれがノイズになっていると感じた。そしてそこから、雰囲気で押し切ろうとしてる姿勢をそこはかとなく感じてしまうのだ。
「雰囲気で押し切る」というのもある種一つの手法だし、否定はできない。上記のことも人によっては一切気にならないだろう。でも雰囲気で押し切りすぎるのも考えものだと思う。

ここまでに「もっと説明しろ!」みたいな話を結構してきていて、「だったら何もかも説明する作品が正義なの?」とか言われそうだが、別にそう思ってるわけではない。実際、『新世紀エヴァンゲリオン』は難解で分かんないこと山積みな作品なのにめちゃくちゃ面白い。この理由は「分からないことがストレスにならないから」「ちゃんと考えを巡らせれば分かるから」「最低限は説明してくれてるから」「分からないことをどうでも良いと思わせる説得力があるから」など、色々考えられる。その点本作は、大して深い設定も無さそうな癖して「ご想像にお任せします」なところが多すぎる。そういう「細かいこと気にしたら負け」みたいな作風が個人的にはひっかかってしまったのかなと思う。



これだけ書いたが総合評価的には「結構良かった」ぐらいだった。素晴らしい映像美に感銘を受けつつ脚本のガバさにちょっと冷めつつを繰り返して最終的に良い寄りに落ち着いた感じ。比較対象が『未来のミライ』だったのもある(筆者は『未来のミライ』を極度に嫌悪している)。

そうは言ったけどやっぱり僕は『ぼくらのウォーゲーム!』と『サマーウォーズ』の方が好きです。

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