凡豪の鐘 #5
カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ます。
〇〇:んぁ.....今何時だ....うぉあ!10時!完全に遅刻じゃねぇか!
ベッドから飛び起きて制服に着替える。急いで部屋を出ると、テーブルの上には置き手紙があった。
「何か食べてから学校行った方がいいよ。また倒れられたら困るから」美月
〇〇:.......起こせよ...。
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昨夜
美月:私と一緒に住んでもらいます!
〇〇:はぁ!?
美月:まずは当番決めよう。
〇〇:ちょ...待てって。まだ追いついてねぇから。
美月:ん?
〇〇:一緒に住むってどういう事だよ。
美月:そのままの意味だよ?
〇〇:そのままって....お前と一緒になんて住めるかぁ!
美月:な! なんでよ!
〇〇:理由も利点もなんもないし、そもそも俺はお前の事良く知らん!そして、人をいきなりストーカー呼ばわりする奴とは仲良くなれんわ!
美月:それは君がいきなり家に入ってきたからでしょ!
〇〇:元々俺んちだ!
美月:私が買ったの!だから私の家!
〇〇:知るかぁ!
そこから小一時間程、言い争いが続いた。
〜〜
〇〇:はぁ..はぁ...とにかく!俺はお前の事良く知らないし!あと嫌いだ!
美月:私も嫌いよ! その上で一緒に住むって言ってるの!
〇〇:それが意味わかんねぇってんだよ! 俺は一人で住む。お前が出てけ!
美月:嫌!ここ買ったの私だし!
〇〇:女子高生が家買えるわけねぇだろ!
美月:買えるわよ!ここ一万円で売ってたもん!
〇〇:バカなのか?バカなのか?俺の親は!
美月:第一、ここに住めなかったら君また神社行くんでしょ?
〇〇:........まぁ
美月:また倒れて誰に迷惑かけて欲しくないし、お金もないんでしょ?
〇〇:........ぐぅ..
逆にぐうの音しか出なかった。
〇〇:......仮にも男と女だぞ?
美月:ふふっ笑 君に襲える度胸あるの?
〇〇:....お前、まじで腹立つ。
美月:ね、決まり。一緒に住むよ。
〇〇:.....お前になんの利点がある。
美月:それは後で話すから!
美月:ね!ルール決めよ!
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ガラガラガラッ
〇〇:.....おはよーっす。
麻衣:おはよーっす、じゃないわよ! もうお昼になるよ!?
〇〇:.....すんません。
麻衣:もー!早く席に着いて!授業再開するから!
〇〇は周りの生徒に笑われながら、席につく。
〇〇:.....ったく...起こしてくれてもいいじゃんかボソッ
隣の席の美月は見向きもしなかった。
美月と〇〇が決めた同棲の上でのルールは以下の通り。
1:学校では同棲している事を絶対に隠す。
2:家事は当番制。
3:美月が良いと言った時以外、〇〇は自室から出る事を禁じる。(トイレとお風呂、その他急用以外)
三つ目のルールだけは、〇〇が反論したが、美月が折れる事はなかった。
〜〜
昼休み 屋上
律:へい!起きな!〇〇!
〇〇:ん.....あぁ、律か。
律:あれ?お前今日弁当持ってきてんの?
〇〇:ま、まぁな。(あいつが作ったやつだけど)
律:へぇー!お前弁当とか作れるんだな。
〇〇:....多少はな。で?お前はまた梅澤の事を見に来たのか?
律:うっせぇなぁ。そうだよ!悪いか!
〇〇:そんな怒んなって。悪かねぇよ。
ガチャ
下の方で扉が開く音が聞こえた。
美月:はぁ!良い景色!
美波:ほんと毎回言うねそれ笑
美月:景色は見れる時に見とくもんだよ?
蓮加:ねぇー、寒いから中で食べようよー。
律:あれ...今日は蓮ちゃんもいるボソッ
〇〇:あぁ? 蓮加いんのか?...あいつって確かクラス一緒じゃないよなボソッ
律:うん。隣のクラスボソッ
〇〇は少し身を乗り出して下を見た。
蓮加:なんで今日は私の事誘ったの?
美月:ちょっと聞きたい事あってさ。それより、毎日ここで食べようよ!
蓮加:えー....寒いし...
美月:私は蓮加と一緒に食べたいなぁ。
蓮加:...どうしてもって言うなら//
美月:じゃ、決まり!
美波:(相変わらずツンデレ...)
美月:あとさ、今日は蓮加に聞きたい事あってさ
蓮加:なに?
美月:〇〇君ってどんな人?
蓮加:〇〇?
美波:あ!それ私も聞きたい! 〇〇君授業中ずっと寝てるし、遅刻してくるし、いつか注意しないと思ってたんだ。
律:.......いいなぁ、お前美波さんに注意されるらしいぞボソッ
〇〇:....きもいぞお前ボソッ
蓮加は少し悩んだ様子で話し始めた
蓮加:〇〇は....アホ、バカ、ちんちくりん。
律:ぷっ笑 おい〇〇、我慢しろよ?ボソッ
〇〇:あんなんで怒るほどガキじゃねぇよボソッ
そう言って〇〇は目を閉じて再び寝始めた。
蓮加:小さな頃からずっとガキ臭くて、ガサツだし。久しぶりに会ったけど全然成長してなかった。
〇〇:.............。
美波:すごい言うね笑
美月:でもなんかわかるかも笑 それに加えて変態だしね。
〇〇:...........💢
美波:変態って...何かされたの?
美月:んー.....されたと言えばされた。とにかく変態。
蓮加:変態で、ガサツで、ガキで、口悪くて、モテない。これが〇〇かなぁ。
蓮加:まぁ....小説書いてる時だけは・・
〇〇:おい!クソガキ!
蓮加、美月、美波:えっ!?
律:おい!〇〇!何してんだ!
〇〇はたまらず立ち上がり、怒った。
〇〇:黙って聞いてりゃボロクソ言いやがって!ガキはお前だろうが!
美波:ちょ...いつからそこに・・
蓮加:あんたが一番ガキでしょ!てか盗み聞き!?ほんとの変態じゃん!
〇〇:俺の方が先に屋上来てんだよ! そしたら勝手に罵詈雑言浴びせやがって。
蓮加:ほんとの事言って何が悪いの? そんなことも理解できないから、面白い小説書けないのよ!
〇〇:てめぇ....一回勝ったくらいで調子乗んなよ?1826戦、1勝の分際でほざくな。
蓮加:だったらもう一回勝負する?どうせ私が勝つだろうけど。
〇〇:言ったな?今日の放課後、お前んちで勝負な。逃げんなよ。
蓮加:逃げるわけないでしょ。
律:ちょ、〇〇!どこ行くんだよ!
〇〇:教室戻るだけだ。
そう言って、〇〇は屋上を出て行った。元々ケンカっ早いタイプではあるが、ここまで苛立っていたのは、蓮加に負けたという事を認められなかったからだった。
蓮加:.....私も教室戻るね。
美月:あ!ちょっと待って!
屋上から足早に去る蓮加を美月は追って行った。屋上に残ったのは二人だけだった。
律:え、えーっと.....
美波:律君、ずっと会話聞いてたの?
律:いや....聞いてたって言うか、たまたまって言うか..
美波:コソコソして、カッコ悪い。やめな?そういうこと。
美波は律を睨みつけて去って行った。
律:...オレ..〇〇....ユルサナイ...
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放課後
律:あいつ、帰るの早過ぎだろ....
律は下駄箱で愚痴を言いながら帰り支度をしていた。
美波:あ、律君。
律:あ.....美波さん.....あの...えーっと...
律:すみませんでしたぁ!
律は渾身の土下座を見せた。
美波:ちょ、ちょっと!目立つから!頭上げて?
律:いや、ほんとに....盗み聞きしてすんませんでした。
茉央:あ、お兄ちゃん。.....どういう状況?
妹には1番見られたくない光景を見られてしまった。
美波:妹さん?
律:あ、はい。妹の茉央です。
茉央:初めまして。律の妹の茉央です。....それより、なんでお兄ちゃん土下座してるの?
律:....大罪を犯した...
茉央:えぇ!?
美波:そんな大きい事じゃないから!笑 もう怒ってないし。
律:ほんとすか。
美波:うん。だから顔上げて?
律は顔を上げて立ち上がった。
律:...許してくれます?
美波:....うーん...簡単に許すのもなぁ...
律:え?
美波:ちょっと付き合ってくれない?
〜〜
〜〜
美波:茉央ちゃん、可愛いね。
茉央:そんなそんな! 梅澤さんは、背が高くてモデルさんみたいでカッコいいし綺麗です!
美波:ふふっ笑 ありがとう。
律:(なんだ、この状況...)
3人は岩本書店へ向かっていた。理由は美波が対決を見たいと言ったからだ。
美波:茉央ちゃんは〇〇君と友達なの?
茉央:〇〇は...友達っていうか...幼馴染っていうか...//
美波:ん?なんか顔赤くない?
茉央:そ、そんなんやないですよ! す、好きとかじゃ//
美波:バレバレだよ?笑 へー...〇〇君の事が好きなんだぁ。
美波:ていうかさぁ、茉央ちゃん関西弁なんだね。
茉央:そうですよ! お兄ちゃんは恥ずかしいって言うて隠してますけど。
律:...余計なこと言うな。
美波:えー...いいじゃん関西弁。私は好きだな。
律:え、そうなんすか...(関西弁使おうかな)
そんな事を思案していると、あっという間に岩本書店に着いた。
〜〜
〜〜
ガラガラガラッ
美波:お邪魔しまーす。
律:だいぶ久しぶりに来たな....
美月:あ、美波来たんだ。あと....律君と茉央ちゃんも。
店内にはすでに美月がいた。奥の机では〇〇がペンを走らせている。そして、そこから少し離れた所で賢治が見ていた。
賢治:今日は客が多いな。
美波:あ、す、すみません...。
美波:ねぇ、蓮加は?ボソッ
美月:2階で書いてるボソッ
店内の雰囲気は重苦しかった。
それから20分程経っただろうか。蓮加が2階から降りてくる音が聞こえた。
賢治:よし、制限時間いっぱい。おい、〇〇。早く原稿寄越せ。
〇〇:....いや...ちょっと待ってくれ。
賢治:ダメだ。ルールはルール。早く寄越せ。
賢治は渋る〇〇から原稿用紙を奪い取った。蓮加も賢治に原稿用紙を渡した。
賢治:審査員は....儂、茉央ちゃん、そこの嬢ちゃん二人、それと律の5人だな。どっちが面白かったか投票してくれ。
律:い、いや、俺全然小説とかわかんないですよ?
賢治:バカやろう。小説ってのはそういう奴に響かせてこそだ。黙って読め。
律:は、はい...。
賢治達が読んでいる間も、〇〇はどこか、心ここに在らずといった様子だった。
〜〜
〜〜
賢治:よし。全員読んだか?
全員が首を縦に振った。
賢治:じゃ、〇〇の小説が面白いと思った奴、手上げろ。
誰も手を挙げなかった。
賢治:じゃ、全員蓮加の方が面白かったって訳だな。
〇〇:............。
〇〇は荷物を持って徐に立ち上がった。
〇〇:......悪かったな蓮加。
蓮加:........手加減したの?
〇〇:してねぇよ。そもそも小説なんて書くのやめるつもりだったんだ。良いきっかけになったよ。
蓮加:な、なんで....なんで!?
〇〇:.....時々こうなる...。今日は...どうしても書けない。そういう日が時々ある。
今日の勝負のテーマは医療系。賢治が選んだテーマだった。
〇〇:才能が....ないんだ...きっと...。蓮加、お前もそろそろ気づけ。才能には勝てない。
そう言って〇〇は店の扉を開けた。
賢治:〇〇!
部屋の空気を切り裂くような声が響いた。
〇〇:...なんだよ。
賢治:才能には鮮度がある。
〇〇:あ?
賢治:今日の会見よく見とけ。
〇〇:....何言ってっかわかんねぇよ。
〇〇は店を出た。
美月:......今日は...〇〇君、小説の中に入ってなかったですね。
美波:小説の中?
賢治:あれでいいんだよ。だが、あまりにも構成から何まで酷かった。
蓮加:..............。
賢治:気にするな蓮加。あいつが書くかどうかは結局あいつしか決めらんねぇんだ。
蓮加:...........うん。
賢治:さ、お前らも帰れ。本買ってくなら別だけどな。
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山下宅
美月:.....ただいまー。
玄関にはすでに〇〇の靴があった。今日の夕飯の当番は美月。
キッチンまで進むと置き手紙があった。
「今日夕飯いらない」
それを受けて美月は料理を作り始めた。
〜〜
〇〇の自室
〇〇:はぁ......
扉の向こうでは料理をしている音が聞こえる。恐らく美月が帰ってきたのだろう。
〇〇:.....祐希....
〇〇の手には、とある女性と自分のツーショット写真が握られていた。それはとても幸せそうな写真。だが、涙が滲んでいた。
〇〇:.....君との約束は.....守れそうにない...。
〇〇は写真を引き出しの中にしまい、ベッドに横たわった。
〇〇:...........寝よ。
現実から目を背けるように〇〇は目を閉じた。
〜〜
〜〜
ブーーッ
スマホのバイブ音で目を覚ます。外はすでに暗い。徐にスマホを取り、画面を見るとネットニュースの通知だった。
「鐘音 天先生と井上選手、夢の緊急対談!」
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To be continued