
凡豪の鐘 #56
〇〇:うぁあ......グスッ....あぁぁあああぁ...
無意識に脳が避けていたものに真正面に向き合う。そうなると激流となって流れ込み体が弛緩していく。蓋が外れると、後はもう止める術はない。
蓮加:.........ギュッ
〇〇:うぁ.....
蓮加は〇〇を抱きしめた。
蓮加:大丈夫....私達がついてるから。何があったか....話してくれる?
その声はどこまでも優しかった。
〇〇:.........うん...
〜〜
〜〜
〇〇は話した。1週間前に起こった全てのことも。手紙も見せた。4人は固唾をのんで話を聞いていた。〇〇の声はずっと震えていた。
〇〇:気づいてたんだ....本当は...
茉央:えっ?
〇〇:....でも....脳が勝手に...考えることを避けてたんだ....
〇〇の悲痛な叫びだった。
〇〇:......でもまぁ....変わらねぇか...
律:は?
〇〇:もう死ぬことは決まってんだし....知ってたところで・・
バチンッ 鈍い音が響いた。
〇〇:.......いってぇな...
律:ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。
美波:ちょ、ちょっと律君!
〇〇の頬を叩いたのは律だった。
律:お前が勝手に美月さんの命決めてんじゃねぇぞ...
〇〇:はぁ? 勝手にって・・
律:お前の中学の頃の話は....そりゃ悲しいわ...外野からしか言えねぇけど....だけどな、祐希さんと美月さんを勝手に重ねてんじゃねぇよ!!
〇〇:っ......
律:まだよくわかってねぇ病気なんだろ!? だったら...だったらなんとか方法を模索して、美月さんを助けるっていう方向にベクトルを向けろよ!!
〇〇:................
プルルルルルッ プルルルルルッ 家の固定電話が鳴り響く。律の怒号が響く部屋に、もう一つ音が鳴り響いた。
〇〇:........もしもし...
??:あ!もしもし!
聞いたことがない声だ。
〇〇:誰すか.....
保母:え、あー....なんていうのかな...美月の養護施設の保母です。
〇〇:え?.....
衝撃的な電話だった。
保母:美月ちゃんから話は聞いててね。同じ歳頃の男の子と住んでるって。だから...家にかければ、いるのかなぁって思って。
〇〇:え、あぁ....それは俺っすけど...
保母:美月ちゃんの事は.....聞いた?
〇〇:............はい。
保母:そう......それで....病院に来ることはできないかしら。
〇〇:え?
保母:入院してから...ずっと空元気なの...もう死ぬことを悟ってるみたいで...
〇〇:....ちょっと待ってください。美月は....もうどこか感覚を無くしてるんですか?
保母:えぇ....味覚を....
眩暈がした。
保母:最後に....美月ちゃんには元気になってもらいたいの...だから...来てくれないかしら...お友達も連れて...
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〇〇・・ってことで、来たんだよ。
美月:.............学校は。
〇〇が来たというのに、美月の顔は暗いままだった。
〇〇:休学届出したんだよ。美月、遠い所にいんだもん。
美月:...........なんで呼んだんですか。
保母:え?
〇〇:.................
美月:....会いたくなんて...なかったのに..
美月からついて出てきた言葉はそれだった。
保母:ちょ、ちょっと!美月ちゃん!?
〇〇:ははっ笑 いいんすよ。じゃ、こいつらとは話してくれよ。
〇〇のその言葉と同時に病室の扉が開く。
美波:美月!
美月:あ!
蓮加:元気ー?
茉央:大丈夫ですか!?
美月:皆んな....
病室から顔を覗かせたのは、馴染みのある面々だった。美月の顔は先程と打って変わり嬉しそうだった。
〇〇:じゃ、ごゆっくり。
美月:............
〇〇は病室の外へと歩いていく。病室の外には律がいた。
律:あれ、お前早くね。
〇〇:........会いたくなかったんだとよ。
律:は? な、なんで?
〇〇:しらねぇよ。嫌いなんじゃねぇの。
律:嫌いなわけねぇだろ....あの手紙の内容だと...
〇〇:手紙の内容?
律:........鈍感もここまで来ると腹立つな...ちゃんと読み直せ!
〇〇:.......なんだよ...
〇〇は予めとっておいたホテルに向かった。
〜〜
ボフッ シングルベッドにダイブする。
〇〇:.......別に俺だって会いたくて来たんじゃねぇよ...
ベッドに顔を埋め愚痴をこぼす。あの電話の後、律に諭され行くことを決めた。正直、行くのは嫌だった。あの状態の人間をもう見たくなかったから。
でも....美月の顔を見たら、なぜか気分が晴れた。正直...嬉しかった。何故かはわからないが。その上で美月には「会いたくなかった」とはっきり言われてしまった。
〇〇:......なんだよ...くそ....
どうしていいかもわからない気持ちを真っ白なシーツにぶつける。
律に言われた言葉を思い出す。「ちゃんと読み直せ」 一応持って来て置いた手紙を取り出し読み直す。
〇〇:あ....なな姉に伝えないと...
手紙の後半に七瀬に伝えてほしいという旨が書いてある。〇〇は七瀬に電話をかけた。
〜〜
七瀬:"........そうなんや..."
〇〇:"うん"
〇〇は七瀬に美月の病気のことを話した。
七瀬:"前一緒にお風呂に入った時に聞いたんや....そしたら、この町にいつまでいれるかわからないって言ってて...そういうことやったんやな....
〇〇:"....俺もついこの間知ったんだ。...あ、あと美月がなな姉に伝えてほしいことがあるって"
七瀬:"なんや?"
〇〇:"「〇〇のことを好きになってはいけない」という約束を私は守ることが出来ませんでした、だってさ。何この約束"
七瀬:".......あんた....本当に意味わかってないんか?"
〇〇:"え?"
七瀬:"....あかん...腹立つ...小説書いてるんやろ?国語得意なんやろ?ちゃんと読め!"
〇〇:"はぁ?.......「〇〇のことを好きになってはいけない」という約束を私は守ることが出来ませんでした.......あ......"
七瀬:"そうや! 美月は〇〇の事好きなんや!! 一緒に住んでてわかんなかったんか!....ほんま....鈍感にも程があるで..."
七瀬:"もう切るで。会いに行けそうだったら私も美月に会いに行くから"
プツッ 電話は切れた。
〇〇:........俺のことが....好き?...
再びの放心状態。でも今度の放心状態は今までとは全く違うモノだった。
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病院に大人数が集まっても良くないということで、次の日から少人数で美月に会いにいくことになった。
美波:や!
美月:みなみ〜!
美波:元気そうでよかった笑 .......〇〇君から聞いたよ、病気の話。
美月:.......そう。.....私、死んじゃうんだってさ。
美波:......いつから、わかってたの?
美月:中学の時。 気を何回か失う事があったから、病院に行ったら、大きい病院に移されて、診断された。
美波:そんな前から......私達には言ってくれても....って言えないか。
美月:美波達にこそ、言えなかったんだ。.....だから手紙書いたのに...〇〇....
美波:〇〇君は行こうとはしてなかったよ。私達が行こうって言ったの。手紙読んだ上で行こうって言ったの。
美月:.........うぇ!? 手紙読んだの!?
美波:あ....へへ笑 読んじゃった笑
美月:もーー!! .....バレちゃったじゃん...
美波:なんとなく気づいてたよ。〇〇君のこと好きなのは。だから会いたくなかったんでしょ?
美月:.......うん。思い出したら....辛くなるから。
美波:....それで、美月は後悔しないの?
美月:え?
美波:最後の最後に、好きな人と一緒に入れないのは、辛いと思うなぁ...
美月:...........
美波:あ、最後の最後とか言ったけど、まだ美月が死ぬって決まってないから!力は少ないかもしれないけど...美月が治るように私達も色々考える!
美月:......ありがとう。
美月と美波は高校に入ってから一番関係値が深い。だから来てくれたことは本当に嬉しかった。
〜〜
蓮加:来たよー。
茉央:美月さーん!元気ですか?
来たのは蓮加と茉央。
美月:元気だよ。味がないから食事は楽しくないけどね笑
茉央:......じゃあその分違う所で楽しませます!
美月:ふふっ笑 ありがとう笑
蓮加:はい。小説持ってきたよ。
美月:え!?....これ...蓮加が書いたやつ?
蓮加:うん。
美月:こんなにいっぱい....どうして...
蓮加:茉央が描いて持っていこうって、茉央が書いたやつも何個かあるよ。
茉央:へへ笑 難しかったです笑 でも...私思ったんです。感覚が無くなるのは、ずーっと楽しい感情が続けば防げるんじゃないかって!
茉央:だから美月さんの好きな小説を持ってきたんです。とりあえずこれで、楽しいとか、好きっていう感情は失わずに済みます!
根拠のない自信。でもそれが気休めだとしても、本当に嬉しかった。
美月:.....グスッ...うぅ...ありがとう...
蓮加:もう...泣かないのー。
蓮加は美月の涙を拭いた。
茉央:....あ!でも美月さんはライバルですからね!
美月:ライバル?
茉央:手紙読みましたよ〜?〇〇の事が好きなら、ライバルです!
美月:うぅ...恥ずかしい//
蓮加:.....私も...〇〇の事好きなんだ...
美月、茉央:.....知ってるけど?
ますけど?
蓮加:え!?
美月:なに笑 気づかれてないとでも?笑
蓮加:んぅ// と、とにかく!まだ死んじゃだめだよ美月!私が〇〇と付き合う所見せつけてあげるから!
茉央:あ!私が付き合うんですよぉ!
美月:ははっ笑
あぁ、蓮加と茉央も、私を"生者"として扱ってくれるんだ。本当に...優しい。
蓮加:あ、でも美月。
美月:ん?
蓮加:〇〇、度が超えて鈍感だから、あの手紙だけじゃ伝わってないと思うよ。
美月:えぇ!?
〜〜
律:よーっす。
美月:あ、律君。一人?
律:うん。一人で来た。美波には浮気じゃないよねって言われたけど笑
美月:あはは笑 厳しそう笑
律:よいしょ...
律は椅子を持ってきて美月の隣に座った。
律:まぁ....なんだ....俺そんなに美月さんと話した事ねぇしなぁ..
美月:確かに笑
律:隣の席のよしみで言うけど...〇〇と美月さんってどっちも不器用だよな。
美月:なにそれー!
律:んー?〇〇は元々不器用だけど、美月さんは他の人の前では演技してるみたいに上手に話すのに〇〇と話す時は、不器用だなぁって思って。
美月:......それ気づいてるの...律君だけだよ...
律:そうかな笑 .....でも...〇〇気づいてなかったよ。美月さんが〇〇の事好きなの。
美月:......ほんとなの?...ほぼ答えみたいに書いたのに...
律:あいつは小説以外自分に自信ないから.....だから...直接言うしかないと思うなぁ...
美月:........
律:好きって....
美月:///
律:ま、後悔しない方を選ぼうよ。
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〇〇:あれ、もう夜か。
外は暗い。小説を書いていると時間の進みが早く感じる。
美月に会いにきたと言うのに、ホテルの一室で俺は何をしてんだろう。
七瀬と電話をした日から、美月の事が頭から離れなかった。
ピロンッ ベッドの上に置いていたスマホに通知が入る。
〇〇:んー......え?...
スマホの通知を見ると、一件のLINEが入っていた。
美月:"外行きたい。早く来て。家主命令"
〇〇:......はっ笑
俺は気づいたら、ホテルを飛び出していた。
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To be continued