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凡豪の鐘 #35


〇〇:あ、おはよー。

蓮加:...................。


蓮加は目も合わさずに横を通り過ぎてゆく。


〇〇:まだダメかー......早いとこなんとかしないとな....


蓮加との関係は未だ険悪。そうこうしてるうちにも修学旅行が近づいていた。

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坂乃高校


教師:・・であるからして....

〇〇:..... To you who disappears...ボソッ


昨日の電話の言葉ばかり頭を駆け巡る。徐にノートにも書いてみた。

ネイティブの発音を聞き取るのは難しいが、どの電話にも絶対"To you who disappears"という文が入っている気がした。


美波:......何書いてるの?今現文の時間だけどボソッ


隣の席の美波がノートを覗き込んで来た。


〇〇:んー? ......ただの落書き笑

美波:ちゃんと授業受けなよー?

〇〇:へいへい。


英文を書いたページを飛ばして、次のページへと移る。


〇〇:(...... To you who disappears......消えていくあなたに.....か。俺消えんの?いや....そんな訳ないしな...)


気がついたら授業が終わっていた。

〜〜

〜〜

昼休み 屋上


〇〇:.................。


空を見て移りゆく雲を感じながら、目を瞑る。


??:本当に伝えたい事は....上手く伝わらないんだよねぇ....


目を瞑るとすぐに瞼の裏に情景が浮かび上がる。それは、病室のベッドに寝ている一人の女性。今にも消えそうで、でも強かで。一生忘れる事はないと強く思える。そんな女性。


律:よぉー。

〇〇:ん。


律が屋上に登ってきた。


〇〇:美波と食わないの?

律:ん、今日はお前と食おうと思ってさ...よいしょ


律は〇〇の隣に座った。弁当箱を開けて、昼飯を食べ始める。


律:.......なんかあった?

〇〇:ん?


律がこっちに目は向けずに聞いてきた。


律:なんか今日ずっと考え事してるっぽいけど。

〇〇:......良く俺のこと見てんだなぁ...お前。

律:キモいこと言うな。.....で?なんかあったん?

〇〇:んー、悩んでる事と言えば.....どっかの誰かさんが茉央に、俺と美月が同棲してることチクった事かなぁ...

律:ングッ....ゴホゴホッ! お前本当に同棲してたのかよ!

〇〇:一緒の家に入った所見たんだろ?その時点で気づけ。

律:.......まじか...。

〇〇:他に言いふらすなよ?

律:わかってる。茉央に行ったのは許せ。

〇〇:ジュース一本な。

律:わかったよ笑........え?悩みそれだけ?

〇〇:あ?

律:いや....これだけだったらあんな深刻そうな顔してねぇだろ....


どうやら俺はかなり深刻そうな顔をして一日中過ごしていたらしい。いや....律だから気づいたのか。


〇〇:......これだけだよ。

律:嘘だな。....ま、言いたくねぇって事か。

〇〇:......言っても解決しねぇってだけだ。

律:....そか。.....言うだけで軽くなるもんだけどな。

〇〇:....言う事で重くなる事もあんだよ。 寝る。放課後起こして。

律:あいよ。


〇〇は再び目を瞑り、記憶の世界へと潜っていった。

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ブーッ ブーッ スマホが震え、起きる。


〇〇:"んん.....もしもし..."

律:"もう部活も終わったぞ。起きろ"

〇〇:"え?"


寝ぼけた目を覚まし、下を見ると部活を終えた生徒達がちらほらと帰っているのが見えた。


律:"何回かけても電話出ないからさ、死んだかと思った。俺美波さんと帰るから、じゃあな"

〇〇:"ういー"


プツッ 目を擦り、本格的に体を覚醒させていく。


〇〇:ふぅ.....帰るか...。


夢の内容は良く覚えていない。屋上から出て、まだ覚束ない足を叩き起こしながら階段を降りる。もう校舎には人影はないように思えた。

〜〜

〇〇:ふんふーん....誰もいない学校って結構楽しいな


鼻歌を歌いながら廊下を闊歩していく。


ビリビリッ! ビリビリビリッ!


〇〇:んあ?


とある教室を横切った矢先のことだった。何か紙を破いたような音が廊下に響き渡った。

そろりそろりと足を後退させ、先程横切った教室の前で停止する。


〇〇:.......文芸部...部室....


その教室は文芸部の部室だった。


〇〇:......文芸部って確か....


そう。文芸部には蓮加が所属している。


ビリビリビリッ! また聞こえた。紙を破る音。


〇〇:................


ガラガラガラッ 〇〇は勢い良く部室の扉を開いた。


〇〇:.......蓮加....


部室にいたのは蓮加一人だけ。他の部員はもう帰っているようだった。

破かれた紙の残骸が散乱している部室の中心に、蓮加は立っていた。蓮加の手には紙の端くれが握られていた。


蓮加:..............。

〇〇:お前....なにやって.........は?


蓮加に話を聞こうとして近づいた時に気づいた。破かれた紙には全て文字が書かれている。つまり、原稿用紙。蓮加が文字を書き連ねた小説が破かれていた。いや、蓮加自ら破いていた。


〇〇:何やってんだ!


気づいた時には怒鳴っていた。


蓮加:.........何しに来たの...


蓮加はこちらを一切見ずに、下を見ながら話した。


〇〇:ケンじぃに教わっただろ! 何があっても自分で書いた作品を粗末にしちゃいけないって!

蓮加:...........さい...ボソッ

〇〇:あぁ!? 何やってんだよ!こんなことしたら・・

蓮加:うるさい!!

〇〇:は?


蓮加ははっきりと〇〇を見てそう言った。目には涙を溜めて。


蓮加:あんたに何がわかんの!? 父親からも認められたあんたに....私だけが....私だけが取り残されて....

〇〇:ちょ、ちょっと落ち着けって...

蓮加:......もういい。....私、小説書くのやめる。

〇〇:は?.....おい待てって!


バタンッ


蓮加は部室を飛び出していった。


〇〇:はぁ.........何なんだよ......

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山下宅


〇〇:ただいまー。

美月:おかえり。ご飯出来てるよ。

〇〇:あざす。

美月:あざすじゃないよ! 何で部活来なかったの。授業にも出てなかったし。

〇〇:寝てた。

美月:はぁ!?

〇〇:まぁまぁ、明日は部活出るからさ。着替えてくるわー。

〜〜

〇〇:いただきます。

美月:いただきまーす。

〇〇:うまっ。

美月:へへ笑 ありがと。

〇〇:.....午後の授業サボったの、先生怒ってた?

美月:いや? 別に怒ってなかったよ。学年一位だから怒れないんじゃない?

〇〇:良かった。じゃこれからもサボろ笑

美月:.....〇〇が頭いいのってさ、テスト中に小説の中とかに入ってるの?

〇〇:ううん。ただ高校の範囲が終わってるだけだって。頭いい訳じゃない。

美月:なんで範囲終わってるの?勉強とか好きなタイプに見えないし。

〇〇:失礼だな笑 ........まぁ....教えてたんだよ。

美月:え?誰に?

〇〇:元カノ。

美月:へぇー! 元カノさん勉強好きだったんだ。じゃあ良い高校とか行ったんだ。

〇〇:.....いや.....死んだよ。

美月:え?


食卓には〇〇がカレーを食べる為に動かしているスプーンの音だけが響く。


〇〇:俺が中3の時に死んだ。病気で。

美月:え......あ......そう....なんだ....ごめん...

〇〇:気にすんな。いつか話そうと思ってたし。

美月:.............ごめん...。

〇〇:そんな謝んなって笑 もう終わったことなの。俺もつい最近まで.....まぁ、今も引きずってるけど、そろそろ前向かないとなぁって思ってたから。大丈夫。気にすんな。

美月:.....ありがとう。

〇〇:ほら、早よ食え。冷めちまうぞ。

美月:...うん。パクッ......ん、美味しい。

〇〇:美月は良い嫁さんになるな笑

美月:何言ってんの....もう...。

〜〜

〇〇:よしっ......やるか。


風呂から上がり、バッグの中からとある物を取り出して、机の上に置く。


〇〇:こりゃあ.....時間かかるぞ笑 1日じゃ無理かぁ....

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翌日 坂乃高校


麻衣:来週は修学旅行だから、体調管理しっかりねー。じゃ、今日も一日頑張ろー!

一同:はーい。


修学旅行という一大イベントを控え、クラスは浮き足立っていた。一人を除いて。


美波:.........〇〇君大丈夫? クマすごいよ?

〇〇:んー?......うん....眠い。

美波:昨日寝てないの?

〇〇:寝てない上に.....細かい作業してたから余計疲れた.......今日サボろっかな....

美波:昨日もサボったんだからダメです。

〇〇:ぶへぇ.......


その後の午前の授業は、寝そうになったら美波に起こされ、また寝かけるを繰り返しながら、何とか乗り切った。

〜〜

昼休み


〇〇:ぐがーっ........すーっ......

律:豪快に寝てやがる.....


〇〇は屋上へは行かず、机に突っ伏して寝ていた。


美波:授業も頑張って起きてたからねぇ...私が起こしてたんだけど笑

律:そっか......じゃあ....今日は二人で食べる?

美波:うん//


屋上


律:ここでいっつも食べてんだー。

美波:え?いつも?


律はいつも〇〇と二人で過ごしている所に美波を案内した。


美波:じゃあ.....盗み聞きしてたんだ.....


美波は目を細めて、律の事を見た。


律:聞いてない聞いてない!ずっと耳塞いでたから!

美波:嘘つき笑 でも....前に注意した時は、律君と付き合うなんて思ってなかったなぁ...

律:俺も笑 完全に嫌われたと思ってたから笑

美波:何が起こるかわかんないねー笑 いつも〇〇君とここで食べてるの?

律:うん。あいつは先に食べて寝てるけどね。

美波:あはは笑 〇〇君っぽい笑 ........でも〇〇君って不思議だよねぇ...

律:不思議?

美波:私ね、前に〇〇君に言われたことがあるの。もっと周り見て生きろって。後になって気づいたけど、あれは律君の振る舞いとかをちゃんと見ろってことだった。

律:....へぇー...そんなことが....

美波:なんか....なんでも見透かす様な感じがある。子供っぽく見えるけど、凄く大人な部分もあるし。

律:あー...それはわかるかも。

美波:そういうところ、美月に似てるんだよね。だからあの二人、お似合いだと思うんだけどなぁ....

律:お互いちょっと距離空けてる感じがするんだよね。

美波:あー.....なんかあったのかな.....

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放課後 演劇部 部室


〇〇:部活来たは良いものの....なんもすることないじゃん.....

美月:あるよ!修学旅行終わったら文化祭だよ!私達の初舞台!

茉央:いよいよ初舞台.....緊張してきた.....

〇〇:.......待って....俺も出るの?

美月:え?当たり前じゃん。部員なんだし。


美月はさも当然と言った顔で〇〇を見ている。


〇〇:.....まじかよ....

美月:台本も〇〇が書いてね?

〇〇:え!?既存の物じゃねぇの!?

美月:せっかくだから0から作りたいじゃん!最初で最後なんだし!

〇〇:いや....来年もあるだろ....えー.......まぁ....台本なら小説と一緒か....。

美月:そうだよ!

〇〇:わかったよ。じゃ、台本は俺が書く。その為に.....帰って家で書きまーす。

茉央:あ!〇〇待っ・・


バタンッ


〇〇は部室を出ていった。

〜〜

〜〜

〇〇は家に帰った訳ではなかった。立ち寄ったのは文芸部。


ガラガラガラッ


〇〇:こんちゃーす。

奈央:あ、〇〇さん。


部室にいたのは奈央一人だった。


〇〇:あれ、奈央ちゃん文芸部だっけ。

奈央:入りました! 

〇〇:へー!良いじゃん。.....で、他の部員は?

奈央:皆んな家で作業するので部室を使ってるのは私と蓮加さんぐらいですね。

〇〇:へー......


〇〇はぐるりと部室を一周見渡した。


奈央:で、なんの用ですか?

〇〇:ん?あぁ、蓮加に用があってね。

奈央:あ.....聞いてないんですか?

〇〇:え?

奈央:蓮加さんなら......今日の朝、顧問に退部届を出したみたいです。

〇〇:はぁ!?

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              To be continued






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