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凡豪の鐘 #32
〇〇:.......書いてねぇわ...
蓮加:はぁ!? 何やってんの!?
高校生で小説家を目指しているものにとって重要な大会は、小説甲子園、そして文芸コンクールの小説部門。
小説甲子園の締め切りは8月の半ば。締め切りは明日に迫っていた。
蓮加:書いてないってこと!?
〇〇:いや.....親父との勝負に夢中になってて...頭から完全に抜けてた....
蓮加:はぁ....何やってんの....
〇〇:んー....まぁ....でもいいや。
蓮加:え?
〇〇は特段気にしていないと言ったような様子で椅子に座りながら天を仰いだ。
〇〇:賞獲る為に書いてるわけでもないし、誰かに認められる為に書いてるわけでもないしな。
〇〇:親父と引き分けたってだけで、俺にはでっかい財産になったよ笑
〇〇は持っていたペンをクルクルと回しながら答えた。その顔はまるで少年のように未来に希望を抱いている嬉々とした表情だった。
蓮加:...........帰る。
〇〇:え?
蓮加:帰る!
バタンッ
蓮加は乱雑に荷物を持って演劇部の部室を出て行った。
〇〇:......俺なんかまずい事言った?
美月:......言った。
〇〇:えぇ!?
美月:何が原因かわかんないけど、蓮加が怒ってるって事は、何か気に触ること言ったんじゃない?
〇〇:.....うーーん....
考えてみても、わからなかった。
〜〜
〜〜
蓮加:ただいまー.....
賢治:おう。おかえり。今日は早かったな...ゴホッゴホゴホ
蓮加:大丈夫?
賢治:大丈夫だ。気にするな。
蓮加:そう.........ねぇ、お爺ちゃん?
賢治:ん?なんだ?
蓮加は賢治が小説を書いている横に行き、座った。
蓮加:私の小説......面白い?
賢治:....なんだ、急に改まって。
蓮加:いいから答えてよ。
賢治:.......そうさなぁ....まだ...面白くはねぇなぁ。
蓮加:.......そっか...ありがとう。
蓮加は立ち上がって賢治の部屋から出て行った。
賢治:...................。
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翌日
〇〇:ふぁあ.....ねっみぃなぁ....
大口を開けながら登校する。
〇〇:....ん?...あ、蓮加だ。
学校へ向かう道すがら蓮加を見つけた。〇〇は駆け寄り話しかける。
〇〇:おーっす。おはよー.....
蓮加:.............。
〇〇:あれ? おはよーー!!
蓮加:................。
蓮加は〇〇の横を早歩きで通り過ぎて行った。
〇〇:........こりゃあ...まずいぞ...
〜〜
坂乃高校
麻衣:今日のクラスルームで自主研修どこ行くか班毎に話し合うからねー。あらかじめ決めておいてもいいし。
一同:はーい!
美月:修学旅行かぁ....どこ行こうかなぁ..
律:美月さんは行きたい場所あるの?
美月:たくさんあるよ!!
クラスの面々はどこに行きたいか、何をしたいかという話題で沸騰していた。
美波:東京かぁ.....憧れるなぁ....あ、そういえば〇〇君は東京から来たんだよね?
〇〇:........。
美波:〇〇君?
〇〇:.....ん?あぁ、何?
美波:...なんか朝からボーッとしてるね。悩み事?
〇〇:ん、大丈夫大丈夫。
美波:.....そう?
〜〜
昼休み
〇〇は仰向けで寝転がり、考え事をしていた。
律:よーっす。
〇〇:ん。おう。
律も合流し、横に座った。
律:.....なんか元気なくね?
〇〇:んん? .....うーん....律さ、小学校から蓮加と一緒じゃん?
律:え?う、うん。
〇〇:じゃあ、わかるだろ?.....蓮加が無視する時って....
律:はぁ....お前何したんだよ....
蓮加が怒っている時は基本的に3段階に分けられる。レベル1は普通に言い合いになる。〇〇と蓮加が基本的にいつもやっているやつ。これは次の日には普通になっているのでありがたい。
レベル2は泣き出す。これは悲しくて泣いているのか、怒って泣いているのかわからないから苦労した。まぁ、これも一日経てば治るから良い。
問題はレベル3の無視だ。これは本当にやばい。原因がわからない限りずっと無視をかまされる。これが結構きつい。
小さい頃からいつも一緒だった為、俺と律はこんな感じでレベルを作った。
律:....今までレベル3までいったのって、何したんだっけ。
〇〇:俺が蓮加のゲームぶっ壊した....まぁ...後は、小さい頃は小説勝負して負けたら毎回黙りこくってたな....
律:....そのレベルってことか...
基本的に...というより毎回蓮加を怒らせるのは〇〇だった。
ガラガラガラッ 下の扉が開く。
美月:んんー! 良い景色!
美波:他にないの?言うこと笑
美月:いいのー!
茉央:教室より涼しいー!
奈央:だねー。
いつものメンバーが屋上に上がってくる。だが、その場には、蓮加はいなかった。
〇〇:....よいしょ。....聞いてみっか...
〇〇は体を起こし、立ち上がった。
律:おい....何しようとしてんだ?ボソッ
律の声を無視して〇〇は美月達がいるところまで降りて行った。
律:あっ!ちょ...待っ・・
美月:あ....〇〇。
もう遅かった。
美月:また盗み聞きぃ?
〇〇:たまたまだよ。
美波:あ......律君.....
律:や、やぁ....
〇〇を止める為に身を乗り出していた律は、美波と目が合ってしまった。
〇〇:なんか謝りたい事あるらしいよ。話聞いてやんな?
美波:え?
〇〇:律ー!なんか美波がお前と二人で話したい事あんだってよ! どっかで話してこい!
律:え?
〇〇:二人とも、え? じゃねぇよ。早く行ってこい。
〇〇のはからいで二人は屋上を出て行った。
美月:ナイスだね〇〇。
〇〇:だろ?
奈央:あの二人喧嘩してたんですか?
茉央:ダメやなぁ...お兄は。
〇〇:いいんだよ、喧嘩するくらいがちょうどいい。.......じゃなかった、聞きたい事あるんだった。
美月:聞きたい事?
〇〇:今日蓮加いないけど、なんで?
美月:蓮加? 今日は教室で食べるって言ってたけど?
〇〇:....そっかぁ...(美月と普通に話すって事は....やっぱ俺が原因か)
〇〇:おっけ。さんきゅ。
美月:なんかあったの?
〇〇:ん?いや別に?
〇〇は弁当箱を持って屋上を出て行った。
〜〜
〜〜
放課後
クラスは沸いていた。修学旅行の自主研修の行き場所を決める為の話し合い。だが自主研修とは名ばかりで、生徒達に学ぶ気など毛頭ない。完全なる旅行気分だ。
美月:ねぇねぇ!どこ行く!
美波:どこにしよっかー。....り、律君は行きたい場所ある?
律:お、俺? 俺は....テレビ局とか行ってみたいかも...
二人は無事に仲直りをしたようだった。
美月:いいね!芸能人とか会ってみたい!〇〇は?行きたい場所ないの?
〇〇:............。
美月:おい!〇〇!
〇〇:うわっ!....びっくりした....なに?
美月:なにボーッとしてんの? 修学旅行やる気あるのー!
〇〇:なんだよ、修学旅行のやる気って....
美月:私のこと楽しませてくれるんでしょ?
律:え、そんなこと言ってたの?
〇〇:....あんま言うなよボソッ よしっ!己ら行きたい場所を申せ。タイムマネジメントしてやっから。
美波:えー....〇〇君に出来るの?
〇〇:誰だと思ってんだ。東京に4年住んでたんだぞ。貴様らとは経験値が違う。
実際、その後の話し合いも、〇〇のおかげで円滑に進んでいった。
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律:よし.....大体行き先は決まったかな....
〇〇:だな。
美波:あー...楽しみになってきた笑
美月:だよね! 東京だよ東京! 美波とも一緒だしぃー。美波も律君と行けて嬉しいでしょ?
美波:そ、それは//
律:俺は....嬉しいかな//
〇〇:....ここでおっ始めんなよ...ま、いいや。俺帰りまーす。
美月:私も帰ろー。これからも二人仲良くね?
律、美波:.......///
〜〜
〜〜
美波と律は、オレンジ色に包まれた道を二人で歩いていた。
美波:.......い、一緒に帰るの...初めてだね...
律:そ、そうだね! なんか...緊張するわ笑
美波:なんでよ!笑 まぁ....私もしてるけどさ笑
ぎこちないながらも繰り広げられる二人の会話は側から見たらくすぐったくて仕方がなかった。
律:あ、明日さ!その.....駅に集合でいいよね?
美波:う、うん.....その.....わ、私、初デートなんだ...
律:え!?そうなの!?
美波:ていうか...律君が初彼氏だし//
律:そ、そうなんだ// よかった....
美波:良かった?
律:俺も...美波さんが初彼女なんだ。だから美波さんがデートとか経験してたら、比べられて幻滅されないかなぁ...とか思ってた笑
美波:もう!比べたりするわけないじゃん!......でも...一緒だね笑
律:だな笑
お互いの事を知っていくうちに、次第に打ち解けて行った。
律:ん?あれ、〇〇じゃね?
帰り道の先に、〇〇姿が見えた。
美波:あ、そうだね....隣にいるのは....美月?
先にあった影は二つ。それは〇〇と美月のものだった。
美波:......あの二人、急に仲良くなったよね。
律:わかる!ちょっと前までお互い嫌いとか言ってたのに.....
律:なぁ....ちょっとついて行ってみる?
二人並んで帰る〇〇達を見て、律は好奇心が湧いてしまった。
美波:えー.....でも...興味あるな...
〜〜
二人は一定の距離を保ったまま〇〇達を尾行して行った。
律:....そもそも〇〇ってどこ住んでんだっけ....
美波:わかんないの?
律:ちゃんとは聞いてないかも。美月さんはどこ住んでんの?
美波:一回遊びに行ったことあってさ、もうすぐ着くはずだけど......え!?
律:ん? はぁ!?
二人は思わず大声を上げてしまって、急いで口を手で塞いだ。
驚いた理由は、二人で同じ家に入っていく所を見てしまったからだった。
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山下宅 夕食
〇〇:あ、そうだ。俺明日家いないから。
美月:え、どこかいくの?
〇〇:うん。ちょっと用事があってさ。
美月:じゃ、家には誰もいないってことか。
〇〇:美月もどっかいくの?
美月:うん。別に遠くじゃないんだけどね。
〇〇:そか。何時頃帰ってくる?
美月:んー.....わかんないな。
〇〇:俺夕方くらいだからさ、先に帰ってきた方が夕飯作るってことでいい?
美月:おっけー。
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翌日
〇〇:よしっ。行ってきまーす。
美月:いってらっしゃ......〇〇って...おしゃれなんだね。
玄関には外出用の服装に着替えた〇〇が立っていた。
〇〇:そう? まぁ....一応、人いっぱいいるとこに行くから気は遣ったけど....
美月:......女の子との予定?
〇〇:違うわ!笑 やば、もう時間だ。行ってくる!
バタンッ
美月:..............。
〜〜
〜〜
AM10:00 駅前
〇〇:.....ったく....なんで人のデートを観察せにゃならんのだ.....
ピロンッ LINEがくる。
律L:もういる?
〇〇L:いるけど。
律L:俺、駅の入り口立ってんだけどさ、見える?
木の裏に立っていた〇〇は木の横から顔を出し、駅の入り口を見た。
〇〇L:ん、見えた。 んで今日は何すんの?
律L:それが...あんま決まってないんだよね。
〇〇:はぁ?
スマホの画面を見て、律に文句の一つでも打ってやろうと思ったその時だった。
茉央:あれ?〇〇?
〇〇:あ.....ま、茉央......
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To be continued