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紅くらげに告ぐ #13


和:おはようございます...

九条:んー、おはよう和ちゃん。


朝起きて、孤児院に行くと、既に九条が起きてコーヒーを飲んでいた。

結局あの後、程なくして〇〇が車に戻ってきた。「何も心配はするな」とは言っていたけど、何かあった事は、間違いないだろう。

家には、戻ってこなかったから。


九条:朝ご飯食べたらさ....ちょっと話あるんだけど、大丈夫?


エプロンをつけ、包丁を持った所で、そう声をかけられる。背筋が一瞬にして伸びた。


和:はい....あ、あの...〇〇は?

九条:ん!〇〇って呼ぶ様になったんだ笑 距離縮まったねぇ。

和:あ...いやぁ...あはは..


なんとなく話題を逸らされている気がした。


和:昨日帰った後も...家に来なかったので...どうしたのかなぁと...

九条:まぁ...大丈夫だよ。〇〇は...寝ないし。

和:え?

九条:〇〇は一週間に一回くらいしか寝ないのよ。だからいつもどっかほっつき歩いてる。あんま気にしないでいいよ。


嘘にしては、下手すぎる。教えてくれそうもないので、ここで話を終えることにした。


和:.....そうですか..

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〇〇:おはようございます!

上司:おー....どうだ?休めたか?

〇〇:はい!...すみません、一週間も休みを貰ってしまって。

上司:ほんとだよ....もっと有給の取り方考えなボソッ

〇〇:あはは....


なんとまぁ、直接的な嫌味。上司は横を通り過ぎていった。

いくら制度が変わったって、人の心が変わってないんだから、何も解決しないじゃないか。

今日も、社会の事を学べた。それだけで儲けもんだ。

俺の分の仕事をやってくれたのであろう後輩を尻目に、屋上へ向かった。

まだ、仕事を始める時間には早かった。

〜〜

〜〜

肺の深い所まで、煙を入れる。

美味しくはない。


〇〇:っはぁ....


溜め息と一緒に、吐き出した。


蓮加:朝から溜め息やめてよ。

〇〇:うぉあ! ビックリした...


後ろに立っていたのは、蓮加だった。手すりに手を掛けて俺の隣にくる。

まだ、ほぼ吸っていない煙草を灰皿に押し付けた。


蓮加:別に消さなくて良かったのに。

〇〇:ん?前嫌いって言ってたろ。

蓮加:....覚えてたんだ。

〇〇:蓮加の前では吸わないよ。

蓮加:....ふーん//

〇〇:それよかさぁ...上司に嫌味言われてもう...やってらんねぇよ笑

蓮加:一週間も有給取ってたからでしょ?何してたの?

〇〇:んー...実家?帰ってた。婆ちゃんの体調見に。

蓮加:そっか。じゃあ仕方ないね。


理解が早くて助かる。やっぱり蓮加の前では素で話す事ができる。


〇〇:またどやされても嫌だし....そろそろ行くかぁ..


一度背伸びをして、手すりに背中を向けた。


蓮加:ち、ちょっと...

〇〇:ん?

蓮加:約束...覚えてるよね。

〇〇:約束?なんかしてたっけ。

蓮加:......ご飯。食べに行くって言ったじゃん。

〇〇:あー笑 ....まぁ良いけど。そんな俺に奢ってもらいたいの?笑

〇〇:政治家の娘なんだから、金なんて・・

蓮加:それ、言わないでって言った。

〇〇:あ.....す、すまん...

蓮加:それに...お、奢って欲しい訳じゃないから。

〇〇:え?

蓮加:....い、一緒にご飯行きたいだけってゆーかボソッ .....あぁ!もう、うっさい!今日行くからね!

〇〇:お、おう...


バタンッ 何故か怒って、蓮加は屋上を出ていってしまった。

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平日の孤児院は、割と暇だ。小学校に通っている子達は学校に行っているし...7歳に満たない子達は、朝ご飯を食べたら眠ってしまった。


あれ....でも、今日は朝から美空を見ていない。寝坊かな....起こしに行こうかな。


そんな事を考えて、洗い物を済ませた。

〜〜

〜〜

ダンスのレッスンにも、最近通いたいと思っている。最近少しブレていた夢。

でも、今はまた"アイドル"になりたいと強く思っている。

美空はダンススクールに通っているらしいから、紹介してもらおうかなと、思っていた。

美空の部屋の前まで来て、ノックをしようとしたその時だった。


「うぁ.....やめて...もうやめて...」

和:えっ?


部屋の中から、声が聞こえた。

確かに、美空の声だった。


和:み、美空・・


トントンッ 肩を叩かれて、扉越しに美空に声を掛けようとしていたのを辞める。

後ろに立っていたのは、九条だった。


九条:ちょっと話そうかボソッ...

和:え?で、でも美空がなんか・・

九条:うん。だからそれ関係ねボソッ


美空に聞こえないようになのか、小さな声で話す九条の後を、渋々着いて行った。

〜〜

〜〜

九条:はい、どうぞ。


九条はテーブルにココアを置いて、私の対面に座った。

初めてここに来た時と、同じ構図だ。


和:話って...なんですか?

九条:朝にちょっと話があるって言った事と...後..さっきのことね。

和:はい。


ココアに口もつけずに、九条に聞いた。


九条:まずは...昨日の事ね。...和ちゃん達が帰ってきた時ね? ...〇〇には言うなって言われてたんだけど..やっぱり言っといたほうが良いと思って。

九条:...この孤児院を、警察が嗅ぎつけたらしいんだ。

和:えっ?

九条:住所は違う所に設定してあるんだけど....周辺に聞き込みでもしたのか...廃ビルの前まで来てたらしいんだ。

和:...だから...私達を車に置いてたんだ..

九条:...〇〇が追い払ったらしいんだけど...それで、和ちゃんに頼みがあってさ。

和:頼み...ですか?

九条:頼みって言ってもいつもとあんま変わんない。いつも通り監視カメラで外に誰もいないかを確認して、誰かいた時には子供達を外に出さないで欲しいんだ。

和:あぁ...それなら..はい。大丈夫です。


料理の他に、これが私の業務だった。業務といっても、九条や〇〇がいない時の仕事。

ここは、外観からは想像出来ないくらい、厳重な設備で子供達を保護している。

でも...やっぱりここは、認められていない施設なのか..。


九条:ありがとう。全部〇〇一人でやろうとするからさ....助かるよ。


私を車に置いていった理由がわかって、少しショックだった。私にだって力になれる事はあるだろう。

同時に、〇〇の力になりたいと思っている自分がいると...わかった。


九条:それと....美空の事なんだけど...

和:.....はい。


私が気になっているのは、こっち。九条も珍しく険しい顔をしている。


九条:ちょっと...精神的に参っちゃう日があってね...過去のトラウマというか...それを時々思い出しちゃうみたいなんだ..

和:か、過去?

九条:うん。美空は、この孤児院の一人目の子なんだ。だから〇〇は、孤児院の名前を"イチノセ"にした。

和:へぇ...だから...

九条:でも...孤児ではなかった。〇〇が無理矢理...連れてきたんだよ。

和:え?...つ、連れてきた?

九条:美空の親は...離婚してて、母親に育てられてたんだけど。まぁ....酷かった。

九条:体を売ってこいとか....まぁ金を稼いで来いしか言わないようなね...。そのくせ自分は仕事をしないで、美空が稼いだ金で生活していた。

九条:俺達が美空に会った時は...今とは考えられないくらい...暗い子だった。

和:そう...だったんだ...

九条:だから、その時の事が、たまにフラッシュバックするんだ.....最後の言葉が..脳裏に焼き付いちゃってて..

和:最後の言葉?

九条:....美空が家を出る事を、自分で告げた時....美空の親は・・


「必ず見つけ出してやる。お前が何をしていても、お前は私の子なんだから金を落とさなきゃいけない。その為に生まれてきたんだ。それが出来ないなら、お前は娘じゃない」


九条:そう言ったんだ。およそ...自分の子供に言う言葉じゃないよね...

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〇〇:ちょ...お前飲み過ぎだって...

蓮加:いいれしょー! 〇〇とご飯いけたんらから...


一週間仕事をしなかったお詫びに、蓮加と飯に行くことにした。

居酒屋で良いと言ったから、俺は車で来ているから飲まないという条件で、行くことにしたが...


〇〇:酒弱いじゃねぇか...

蓮加:んー...背中あったかい...

〇〇:.......


酔って立てなくなってしまった蓮加をおぶって、車まで連れていっている。


蓮加:〇〇ー...〇〇は...不思議だよね。


背中で、怪しい呂律ながら、何かを話している。


蓮加:政治家の娘ってだけで、周りは気遣うのに...〇〇はつかわらいよねぇ..

〇〇:...遣われんのやだろ。

蓮加:んふふ笑 ....だから...すき。

〇〇:へいへい。ありがとよ。


どうせ恋愛感情じゃないだろうから、軽くいなした。


蓮加:んん!ベシッ

〇〇:あたっ!


軽く頭を叩かれた。


〇〇:なんだよ...

蓮加:....まぁいいや。...今は..。


その言葉を最後に、背中で寝てしまった蓮加を車に乗せ、家まで送っていった。

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〇〇:車の中酒臭ぇ...


蓮加が残していった、蓮加の香りと、酒の匂いを嗅ぎながら、自宅へ戻る。


車通りが少ないから、ライトを上向きにして照らす。

孤児院がある廃ビルが見えてきたあたりで、気がついた。

一人の女性がよたよたと歩いている。

こんな時間に、なんだろうと、不思議に思いつつ、車で横切った。


〇〇:は?


思わずブレーキを踏みそうになった。


間違いない。あの顔は、子じゃない俺でも忘れない。


今孤児院の前を歩いていた女は、確かに・・


美空の母親だった。

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             to be continued


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