
凡豪の鐘 #36
〇〇:ただいま。
美月:ただいまじゃないよ! また勝手に帰って!
〇〇:いいだろー。台本書くから許せって.....
美月:あれ?なんか元気ない?
〇〇:ん?.....美月もよく気づくなぁ.....実はな?
〜〜
美月:た、退部!?
〇〇:うん。後で職員室行って聞いてきたけど、退部届出されたって。.......はぁ.....あいつ何考えてんだよ...
美月:た、確かに文芸部入ってなくても〇〇みたいに小説は書けるけど.....
〇〇やいや....小説書くのもやめるって言ってた。
美月:えぇ!?
〇〇:あいつ.....ほんとに何考えてんだよ......
美月は少し悩んだ様に俯いた。
美月:........やっぱり....私達の中で一番蓮加のことを知ってるのは〇〇だと思う...
〇〇:え?
美月:二人とも似てるし....だから...蓮加が今何かに悩んでるんだとしたら....解決できるのは、〇〇なのかな....
〇〇:................
====================================
そらから何日か経っても蓮加が〇〇と口を聞く事はなかった。退部も決まり、部活にも顔を出さない。屋上で昼飯を食う事も無くなった。
逆にクラスメイトとはよく話すようになったらしい。
麻衣:明日は修学旅行だからね!早く寝るように!
男1:やべぇー....寝れねぇかも....
男2:それな笑 楽しみすぎて寝れないわ笑
〇〇:.................。
美波:ねぇ....ここ最近悩んでるオーラ出すぎ...
〇〇:え......俺?
美波:〇〇君以外誰がいるの笑 皆んな浮き足立ってるのに〇〇君だけ地面にべったりくっついてるよ笑
〇〇:ごめんごめん笑 .....もうちょっと楽しくすっかぁ....楽しくっつっても、住んでた所に戻るだけなんだけどなぁ笑
美波:......蓮加のこと?
〇〇:へっ?
美波:蓮加の事で悩んでるのかなぁって.....
虚をついてくる質問だった。
美波:接してても何となくわかるよ。最近の蓮加はいつもと違うって。
〇〇:............
美波:でも...仲良くなったのは高校からだし....やっぱり蓮加の事を一番わかってるのは...〇〇君だと思うなぁ。
〇〇:.........皆んなそれ言うよなぁ...
〜〜
〜〜
昼休み 屋上
律:よっす!
〇〇:んあ......テンションたけぇなぁ.....
律:お前ぐらいだよテンション低いの笑 修学旅行は皆んなテンション上がるの。
〇〇:東京じゃなかったら、テンション上がってたんだけどなぁ....
律:...それだけじゃないだろーけどな。
〇〇:あ?
律:蓮ちゃんの事もあるだろ。聞いたよ。退部したんだって?
〇〇:....らしいな。
律:無視されてるのも〇〇だけなんだろ? 他の人とは仲良くしてるらしいし。
〇〇:.............
律:ま、解決できるのは〇〇だけなんだろうよ。
〇〇:皆んなそれ言うよなぁ.....俺をなんだと思ってんだよ.....
律:何って....蓮ちゃんと一番仲良いのお前じゃん。
〇〇:俺が!?蓮加と!?仲良い!?
〇〇は飛び起きて律に聞いた。
律:え?うん...。
美月:ちょっとぉ! また上で盗み聞きー?
下から美月の声が聞こえた。〇〇は身を乗り出して、下にいる美月達に聞いた。
〇〇:俺って蓮加と仲良いのか!?
美月達はあっけにとられているようだった。
美月:何言ってんの?笑 当たり前じゃん笑
美波:喧嘩するほど仲良いって言うしねー。ま、それを言ったら美月と〇〇君も仲良いけど。
茉央:茉央が嫉妬するくらい仲良いで?
奈央:部活中も蓮加さん、〇〇さんの話題になると良く喋ってくれましたよ。
〇〇:........(俺...仲良いのか...)
====================================
放課後、一人で黄昏に染まる道を歩いて帰る。頭の中は蓮加の事でいっぱいになっていた。
正直、今まで蓮加と仲が良いなんて思った事はなかった。小学生の頃からいつも隣にいただけ。喧嘩だってしょっちゅうするし、なんだこいつ!?って思う事も沢山ある。
賢治に稽古をつけてもらって小説を見せ合って、褒めあった事なんて一回もない。
小説勝負で負かしたらいつも蓮加が得意のゲームでボコされて、最後は蓮加が良い気分をして終わる。そんな嫌な奴。
〇〇:はぁ.........。
でも、こんなにも考えてしまうのは何故なんだろう。
〇〇:あー......なんなんだよ....
あの時、部室で小説を破っていた蓮加の顔が忘れられなかった。
あの時、小説を書くのをやめると言った蓮加の声が耳から離れなかった。
〇〇:..........早く帰ろ。
====================================
山下宅
コンコンコンッ ガチャ
美月:ご飯だよ.....って何してんの?
〇〇:ん?ちょっとな.....
〇〇の机の上は、かつてないほどに散らかっていた。
美月:ゴミはちゃんと捨てなよ?
〇〇:ゴミじゃないから捨ててないの。.......よし。飯食うかー。
〜〜
美月:明日は修学旅行〜!
食後のコーヒーを飲みながら、美月ははしゃいでいた。
〇〇:呑気なもんだなぁ....
美月:私の事楽しませてくれるんでしょ〜?
〇〇ま、有名所連れていれば喜ぶんだろ?笑
美月:......否めない...
〇〇:あはは笑 忘れもんないようにちゃんと用意しとけよ?
美月:〇〇に言われなくてもするし!
〇〇:なら良いけどさ笑 ..........最近...蓮加と話してる?
美月:蓮加? うん、話してるよ。なんかいつもより元気な感じ。
〇〇:ふーん......そっか。
美月:ま、おかしいけどね。いつもと違うから。.....解決できるのは〇〇だけだよ。
〇〇:まーた言ってる......俺蓮加の事よくわかんないんだけどなぁ...
美月:...蓮加の好きな食べ物は?
〇〇:チョコ。
美月:誕生日は?
〇〇:2月2日。
美月:どんな性格?
〇〇:性格?....んー、良くわかんねぇけど...ゲーム好きで負けず嫌い。チョコあげれば素直に喜ぶ。ツンデレかも。まぁ、俺以外には良いやつかな。俺には妙に強く当たってくるけど。
美月:へぇー! そうなんだ。
〇〇:え?わかってたんじゃないの?
美月:誕生日とかは知ってたけど、性格はそんなはっきり言えないよ笑
美月:〇〇は幼馴染で、蓮加の事を一番知ってるのも〇〇。......小説書くのやめるって言ったのも....もしかしたら、止めて欲しかったんじゃないかな...
〇〇:.....そうか...
美月:わかんないけどね? .....でも一回ちゃんと話してみたほうが良いと思う。
〇〇:.......わかった。
この時はまだ、あんな事になるとは思っていなかったんだ。
====================================
翌日 朝
〇〇:用意したか?
美月:万全!
美月の目は、もうバッキバキに開いていた。
〇〇:.......ちゃんと寝たか?
美月:寝てない!てか寝れない!
〇〇:はぁ....ちゃんとバスとか新幹線で寝ろよ?
〜〜
坂乃高校の昇降口の前には、2年1組と2年2組のメンバーが集まっていた。
ワイワイガヤガヤとすでに騒ぎ立てている。
〇〇:朝早いっつーのに........チラッ
人混みの中で、隣のクラスをチラ見する。視線の先にいたのは蓮加だった。
蓮加はクラスの女子と楽しそうに会話をしている。
〇〇:.....んだよ、楽しそうじゃん.....
心配は杞憂だったのかと言うほどに、楽しく会話をしている蓮加を見て、どこか拍子抜けというのと同時に....
〇〇:............無理してんな....
どこか無理をしているようにも見えた。自分を偽って周りと接している。そんな感じがした。
麻衣:はい!委員長人数数えて報告してー。
委員長が人数を数えて先生に報告をする。
麻衣:よし、全員いるね。今からバスに乗って駅まで行くからー!そこから新幹線ねー。
一同:はーい!
どんどんとバスに乗り込んでいく。あの人と隣がいいやら、後ろで固まろうなどと言う声がちらほらと紛れ込んでいる。
〇〇:よいしょ。
律:隣失礼しまーす。
窓際に座った〇〇の隣に、律が来た。
〇〇:変わり映えねぇなぁ笑
律:いいだろ笑
麻衣:じゃ、あんまうるさくしないようにねー!
麻衣が先頭の方で呼びかけている。
美月:すぅ......んんー.....
美波:もう!
美月はもう寝ているようだった。美波は隣で寂しそうにトランプを持っていた。
〇〇:だから寝とけっつったのに笑
横にもう一台バスがついた。隣のクラスのバスだろう。ぴったりと横につき、窓のガラス越しに隣のクラスの様子が見えた。
〇〇:あ...........
ガラス越しに隣に来たのは、蓮加だった。蓮加は隣の席の女子と談笑し、まだこっちには気づいていない。
ふとこっちをみたと思えば、
シャッ!
勢いよくカーテンを閉められた。
〇〇:なっ!?
律:ん?どうした?
〇〇:.......なんでもねぇ!(なんだあいつ....)
そのままバスは出発した。朝から気分は乗らなかった。
〜〜
新幹線
席をぐるりと回し四人席。
美月:UNO!
美波:嘘!? 早くない!?
律:早いなぁ笑 よし、ドロー4。
美波:私も持ってる!ドロー4!
〇〇:うぇー.....まじかよ....8枚かぁ....と、思わせといてのドロー4だ!
美月:.......じゅ、12枚?
〇〇:早く引くんだなぁ!
美月:むぅぅぅぅうぅぅ!!!
移動中はUNOで盛り上がった。美波が一番楽しそうにしていた。こういうのはあんまり好きじゃないと思っていたのに。
その人の知らなかった一面が見れるのも、修学旅行の醍醐味だ。
〇〇:ちょっとトイレ行ってくるわ。
律:あいよー。
高速で運行する新幹線に少し揺られながらトイレへ向かった。
〇〇:..........あ...
蓮加:あ.........
反対側の車両から来た蓮加も鉢あった。
〇〇:よう。なんかこうやって会うのも久しぶりだな。
蓮加:...............。
〇〇:バスのあれさぁ、さすがにいきなりカーテン閉めるのはひどいぜ?
蓮加:.....うっさい。
バタンッ 蓮加は勢いよく扉を閉めトイレに入って行った。
〇〇:......なんなんだよ....自然に話しかけたってのに....
UNOで楽しくなっていた気持ちも、また少し沈んでしまった。
====================================
PM11:00 東京駅
美月:......ついたぁ!東京ー!!!
律:おー!! ビル高っけぇ.....
〇〇:見上げすぎると首痛くなる.......ぞ......
東京から離れたのは一年も経っていない。でも、聳え立つビル群と人の多さを見て東京で過ごした4年間の全てが想起された。
〇〇:......あれ?
気づけば、目からは大量の涙がこぼれ落ちていた。
====================================
To be continued