デジタルヘルスに求められる価値について
テックドクターの湊です。さまざまな業界団体ができて、デジタルヘルスについての議論も増えてくる中で、デジタルヘルスのビジネスモデルを何度も何度も考えているのですが、その前に、そもそもテクノロジーが医療にもたらす価値について考えてみました。
デジタルヘルス、DTx、SaMD
まず、デジタルヘルスとDTx、SaMDを下記に整理しておきます。
デジタルヘルス:「情報通信技術、デジタル技術、AI等を活用したヘルスケア全般」
DTx(Digital Therapeutics、デジタルセラピューティクス):
「疾患等を治療、管理、予防するため、証拠に基づいた治療介入を提供するデジタル製品」SaMD(Software as a Medical Device):「医療機器として承認・規制されるべきソフトウェア。医療診断、予防、モニタリング、治療のサポートなど、デジタル技術を利活用して診断や治療を支援するソフトウェアとその記録媒体を含む(「プログラム医療機器該当性に関するガイドライン 令和5年3月31日一部改正」を参照)」
理解としては、デジタルヘルスはより大きい定義で、DTxとSaMDに関しては、より医療機器等に近いことを前提とした定義と考えています。
デジタルセラピューティクスの価値について
それでは、上記の整理をした上で、DTx及びSaMDのもたらす価値とは何が考えられるでしょうか?
それを考える前提として先日発行された、医療政策研究所の政策研ニュースのNo.69 2023年07月発行に掲載された「デジタルセラピューティクス(DTx)がもたらす価値を考える」のレポートが素晴らしい整理をされてましたので、その内容を要約させて頂きながら検討してみたいと思います。
https://www.jpma.or.jp/opir/news/069/03.html (主任研究員 辻井惇也)
ちなみに、このレポート、海外の事例などを下敷にし、DTxの価値の本質を細かく整理してくれていて、本当に素晴らしい内容でした。著者の辻井先生は、これ以外にも過去にもデジタルヘルス関連は素晴らしいレポートを多数掲載されていて、個人的にファンです!
期待されていること
このレポートでは、まずデジタルセラピューティクスに期待されることを下記の3点をあげています。ただし、国内においては「DTxの多様な価値」がまだ十分に整理されていなく、議論も足りていないとしています。この点は、まさにその通りだと感じています。
日常の連続データの取得価値
これまでのデータは、主に病院に来た時に収集されるデータをもとにされていたところに、テクノロジーの発展で家にいるときや普段の生活の中の情報も限定的ではありますが収集することができるようになってきており、それらの連続データが通院時以外の状態把握に新たな価値をもたらすと考えられます。
医療的価値と支援的価値
レポートの中では辻井さんが下記の図で説明をされていてとてもわかりやすかったのですが、デジタルセラピューティクスがもたらす価値、期待される価値というのは、広く捉えれば社会的価値も含まれますが、医療的価値に限定したとしても、直接治療するわけではない「支援的価値」も相性が良いと考えられます。
医師や医療従事者の方々の手間を削減したり、医師と患者のコミュニケーションコストや情報伝達のロストを抑えるようなことも、最終的には治療効果を改善するというエビデンスも出てきています。
レポート内でも触れられていますが、イスラエルのMoovecareというサービスは患者が定期的にオンライン上の質問に答えて、それを医師が確認するというサイクルを回し患者をケアするサービスです。
転移性がん患者を対象としたランダム化対照試験の結果、患者の全生存期間を平均5.2ヶ月間伸ばしたと報告されました。
(Basch&al. 2016-2017)
治療的価値の有効性を検証しつつ、そのための、アプローチとしては支援的価値も考慮し広く検討するべきであると考えられます。
支援的価値について考える
ちなみに、このレポートでは、ドイツにおける「患者に関連する構造及びプロセスの改善」を基本に下記の9つの要素を整理しています。
これらは「治療効果の向上への寄与」、もしくは「治療機会と自己管理能力の拡大(迅速な治療アクセス、良好な治療経過等)への寄与」と整理されています。
治療効果の向上だけではなく、それを取り巻く広い価値がデジタルには期待されていると考えることができると思いますし、これらの価値の出し方には様々なアイデアがもっと出てくるのではないかと考えられます。
また、実際レポート内でもそれぞれの価値を事例も交えて紹介されています。
ビジネスを検討する時の”価値”
ここまで考えててきた時に、治療的価値は当然重要でありながら、支援的価値にも十分に価値があり、むしろデジタルと相性が良いのは支援的価値ですらあるように思えます。
私は、治すことをデジタルで全て行うことは難しいと考えています。デジタル的なものが新しい産業で価値を生み出していく時に、全てを置き換えていく形で活用された事例はあまり多くありません。既存の枠組み全体をエンハンスしたり、一部をデジタル化することで強化するような形で、少しずつ浸透していくケースの方が上手く取り込めていると思います。
新しくヘルスケア領域を検討する場合も、ヘルステックとしてビジネスを検討する場合も、治療におけるプロセス全体を見渡してみて自分達が価値を出せるポイントを探していくことが大事なのかもしれません。
デジタルバイオマーカーで作る価値
私たち、テックドクターとしては、デジタルバイオマーカーという価値を通じて、この支援的価値をより遠隔からも効果を計測しながらサービスを構築できるのではないかと考えています。
支援的価値の中で「治療効果の向上への寄与」、もしくは「治療機会と自己管理能力の拡大(迅速な治療アクセス、良好な治療経過等)への寄与」といった価値があると整理をしましたが、その価値の証明は簡単ではありません。
場合によっては、これまでのプロセスでは評価できないものもあります。以前、当社のnoteで紹介したMOSTのように、それらを証明する手法などの開発も検討されていくのだと思いますが、よりリーンに検討を進められることがこの領域における重要なポイントになります。
デジタルバイオマーカーは、その点において、患者が病院にいないときの状況を把握し定量的に評価する上でも活用できますし、本人が意識していないことも定量化することができます。
また、より長期に計測することも容易になるので、変化している状況をデジタルバイオマーカーで把握することも可能です。
空白を埋める価値
私は、医療において、デジタルテクノロジーに求められる根本的な要請はレポート内の下記の価値に集約されると考えています。
これまでの価値のあるものを置き換えるのではなく、これまでの価値をいかにエンハンスして、空白を埋めるのか、デジタルバイオマーカーが計測したり予測したり、確認したりすることに活用されることは間違いありません。我々も様々な企業の取り組みをデータでサポートできるように全力で頑張っていきたいと思います。
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