デジタルバイオマーカー(dBM)の開発について
今回はチームで取り組んでいるデータの活用や、そこからデジタルバイオマーカー(dBM)について説明をしていきたいと思います。昨年末に一度まとめた記事をnoteにしました。
実際、テックドクターでは、創業以来、様々なデータを解析し疾患におけるマーカーの可能性を探ってきました。その中から、今回はデジタルバイオマーカー(dBM)をキーワードに終わらせないためにも具体的な活用や開発手法に関しても何度かに分けて考えていきたいと思います。
なお、少しでもデジタルバイオマーカー(dBM)に興味を持った方の参考になるよう努めて書いていますが、まだ不確定な要素も多い段階ですので、今後、解釈が変化するなどの可能性があり、現時点におけるテックドクターとしてわかったこと等を元に構成している内容であり、今後変化していく内容であることはご容赦ください。
■なぜいま、デジタルバイオマーカー(dBM)なのか
血圧・体温、HbA1cなどのバイオマーカーは、病気の状態を知るために用いられてきました。これからも今後も、こういった情報は診断や疾患の病状を知るのに不可欠です。
ただ、通常は来院時や入院時など 定期的にしか取得することができないので、細かな変化を捉えたり、院外における状態を把握することが困難です。
センサー技術やテクノロジーの発展で、より安価に継続的に患者さんの負担を抑えてデータを取得できるようになってきたことがデジタルバイオマーカーに対しての可能性を切り開き、上記の課題を解決しはじめているわけです。
■デジタルバイオマーカー(dBM)にはどのような活用可能性があるか
現在、テックドクターでは様々なデジタルバイオマーカー(dBM)の取り組みをしていますが、特にこれまで客観的には評価が難しかった状態の定量化の取組が多くなっています。
痛みや発作は、患者さん本人は非常に辛いにもかかわらず、それが起こった時の状態やその程度に関して客観的に評価することが難しいものです。
その中で、デジタルバイオマーカー(dBM)を開発する前に、状態を表現する「デジタルモデル」と言えるものを作ることが重要です。それ自体がマーカーになるかどうかはこの時点ではわかりません。ただ、この状態を表現できるデジタルモデルがデータから定義できるかどうかをまず確認していく必要があります。
もし、このデジタルモデルが表現することができるのであれば、これまで評価が難しかった状態を客観的な評価に活用できる可能性があると考えられます。
■デジタルフェノタイピング”Digital phenotyping”
実はデジタルバイオマーカー(dBM)は、あくまでデジタルモデルの一つの使用方法を表しているに過ぎません。
そもそも、デジタルバイオマーカーのような考え方は2015年にHarvard大学のJ.P Onnelaによって、スマートフォンやウェアラブルセンサーなどのパーソナルデジタルデバイスからの活動、行動、コミュニケーションに関連するデータを用いて、個々人の表現型をその場で瞬間的に定量化することとして初めて提唱されました。
これが、デジタルバイオマーカーを開発する上で基本となる考え方となります。
■重要なのはロングタームデータとしての可能性
デジタルデバイスには様々なものがありますし、今後も新しいデバイスもでてくると考えていますが、現時点において新しいウェアラブルデバイスなどがデジタルバイオマーカー(dBM)開発に新しい可能性を示しているのは”ロングタームデータ”である点だと考えています。
ロングタームデータと言っても数日間のみとれるものも含まれます。ただし、デジタルバイオマーカー(dBM)開発に新たな可能性を示しているのは下記の条件(2週間以上連続データ)を満たしているデータと考えています。
- 2週間以上連続してデータが取得できる
- 数分に1回以上の頻回な粒度でデータ取得できる
- 複数の項目が同時に取れる
これは超長期に取れるデータこそが、これまでになかった表現型”フェノタイピング”を示すことを可能にしているからです。
■デジタルバイオマーカー(dBM)開発の為の解析手法
ではなぜ2週間以上のロングタームデータこそがデジタルバイオマーカー(dBM)開発の転換点となると言えるのでしょうか?それは主に下記3つのことを可能にするからと考えられます。
ⅰ. 元々持っているその人の特徴を捉えることができる
ⅱ. 変化があった時を捉え、元々の状態(ベースライン)と比較ができる
ⅲ. 治療・介入による中長期の変化・影響を確認することができる
こういったロングタームデータは、解釈が非常に難しいデータだと言えます。常に変化する状態をとらえているからこそ、ピンポイントの値だけで見てしまうと意味がありません。
変化を捉える価値を毀損しない解析手法が求められます。
詳しい解析手法はまた改めてnoteでまとめたいと思いますが、上記のような「変化」を捉える解析手法が必要となってきます。
■デジタルバイオマーカー(dBM)の要件
下記の日本製薬工業協会の医薬品評価委員会のタスクフォースによってまとめられた報告書には「dBM の妥当性・信頼性の担保を評価する上において必要な 3 つのステップ」が記載されています。詳しくは下記のURLより実際の報告書を読んで頂くのがよろしいかと思いますが、大きく下記3つのステップに分かれています。
日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会「医薬品開発におけるデジタルバイオマーカー(dBM)の利活用と要件」
https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/rfcmr0000000216e-att/digital_biomarker_202204.pdf
1:検証(ベリフィケーション) デジタルデバイス内のデータ取得技術の適切性あるいは信頼性の確認を目的としてセンサーの正確性、精度、一貫性や複数センサーの均一性を測定
2:分析バリデーション 検証プロセス以降のdBMへのデータ変換、推定、評価プロセス適切性確を目的としてアルゴリズムで処理したデータが適切な参照基準を用いて評価されたかの確認
3:臨床バリデーション dBMを対象患者層で利用することの科学的、臨床的妥当性の確認を目的として識別、測定または予測出来た臨床症状や経過などの妥当性を確認
■デジタルバイオマーカー(dBM)開発の要件
しかしながら、これらの検証や分析バリデーションは、これまでの臨床研究のチームと枠組みでは目的やプロトコル、解析手法、ゴール設定などが異なってくるのではないでしょうか?
具体的には下記4つの点で新しい取り組みが必要となります。
- データの取得技術
- 医療機器との比較検証を運用するノウハウ
- 医学的な前提を知るデータサイエンティストの知見
- 非構造化データからデータモデルを構築する解析技術
これらを実施するには、専用の仕組みを組織内に蓄積するとともに
アジャイルに小さな検証を積み重ねていく枠組み(アジャイルな臨床試験)が必要となります。
■デジタルバイオマーカー(dBM)の構築を支える仕組み
次回以降の記事では、このアジャイルな臨床試験とは何か、より細かい解析手法なども交えてまとめていきます。テックドクターではこれらの要件をサポートするツールとして「SelfBase」を提供しつつ、具体的な解析手法やチームづくりのお手伝いもしています。
また、そもそもどんなデータが取れるのか、またデジタルバイオマーカー(dBM)のヒントとなるような実証実験の結果などの提供もSelfBaseの中で開始していますので、ご相談などお気軽に頂けたらと思います。
■まとめ
ということで、改めてこの半年でデジタルバイオマーカー(dBM)に関してまとめられてきた内容など整理しつつ、我々の考えやロングタームデータの価値なども説明させて頂きました。今後も、まとめていきますので、ご要望などもお待ちしています。
■関連記事
Digital Health, Mobile and Wearable Devices for Participatory Health Applications 2021, Chapter 3, Pages 33-54
https://www.hsph.harvard.edu/onnela-lab/research/
HealthtechDB「デジタルバイオマーカーは普及するか?」
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