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あなたは、どの程度、自身の健康情報をデジタルに検索し、活用することができますか?:デジタルヘルスのリテラシー尺度の紹介

 データサイエンティストの杉尾です。主にデジタルバイオマーカーの開発プラットフォームである(SelfBase)の機能開発や、そこで収集されたデータの解析を担当しております。

 今回のテーマは、「デジタルヘルス尺度(質問紙)」の紹介です。
 これらは、デジタル環境における健康情報に対する理解力や活用能力を測るための尺度です。この尺度によって、特にインターネットやデジタルメディアを通じて提供される健康情報をどの程度効果的に見つけ、理解、評価し、利用できているかを評価することができます。
 デジタルヘルスに対するリテラシーは、特に現代社会において重要なスキルの一つであり、適切な健康情報の取得と使用は、個人の健康管理および医療決定に大きく寄与します。
 以下に、尺度を2例紹介します。


1. デジタルヘルスに対するリテラシー尺度

1-1. e-health literacy scale(eHEALS) [1][2]

 eHEALSは、個人が健康に関する情報をインターネット上でどの程度見つけ、評価し、使用する能力があるかを自己評価するための尺度です。この尺度は、Cameron D Norman と Harvey A Skinner によって2006年に開発され、健康情報の検索、理解、評価、そしてその情報を健康管理や意思決定に応用する能力を測定することを目的としています。

主な特徴

  • 質問項目:eHEALSは8つの質問項目から構成されています。これらの項目は、オンライン健康情報の探索、理解、評価、そしてその情報を健康行動に結びつける能力に関連しています。

  • 評価方式:各項目は5点リッカート尺度で評価されます(1 = 全くそう思わない、5 = 非常にそう思う)。これにより、個人の自信と能力を数値化し、総合スコアを算出できます。

  • 目的:eHEALSは主に医療設定や公衆衛生の研究で使用され、個人がデジタル技術を介して健康情報をどの程度効果的に使用できるかを評価するのに利用できます。

1-2. Digital Health Literacy Scale(DHLS) [3][4]

 DHLSは、van der Vaart R と Drossaert C によって開発された尺度です。個人がデジタル環境における健康情報に対して持っているリテラシー、つまりその情報を探し、理解し、評価し、適用する能力を測定するための尺度です。この尺度は、特にデジタルメディアを使用して健康情報を扱う際のスキルを詳細に評価することを目的としています。2013年にオランダの研究で初めて導入されたeHEALSよりも後発の尺度になります。

主な特徴

  • 質問内容:DHLSは、情報検索、内容理解、情報の信頼性評価、意思決定といった健康情報のデジタル管理に関連する合計21の項目から構成され ています。

  • 評価方法:各項目はリッカートスケール(例えば1から5までのスケール)を用いて評価され、参加者は自分のスキルや経験に基づいて各項目に回答するようになっています。

  • 利用目的:医療研究、公衆衛生キャンペーン、教育プログラムの評価など、さまざまな分野で利用することができます。

1-3. 応用例

 上記2つの尺度は、以下のような用途に応用することが可能です。

  1. 医療研究:研究者がデジタル健康リテラシーのレベルを調査し、それが健康行動や健康結果にどのような影響を与えるかの研究に利用することができます。

  2. 健康教育:教育者がこのスケールを使用して、特定の集団のデジタル健康リテラシーの弱点を特定し、カスタマイズされた教育プログラムを開発することができます。

  3. 政策立案:公衆衛生当局がデジタル健康リテラシーのデータを使用して、情報不足が健康不平等にどのように寄与しているかを理解し、その改善のための政策を策定することができます。

2. eHEALSとDHLSの相違点

 eHEALSとDHLSは、デジタル環境での健康情報に対するリテラシーを測るツールとして似ていますが、焦点が異なるため、具体的な使用法や評価項目が異なります。

eHEALS
 
eHEALSは特に個人がオンライン健康情報を探し、理解し、評価し、活用する自己効力感(自信)に焦点を当てています。このスケールは、以下のような質問を含んでいます:

  1. 私はインターネットを使って健康情報を見つけるのが得意です。

  2. 私は健康に関するオンライン情報の信頼性を評価する方法を知っています。

  3. 私はインターネット上で得られる健康情報を利用して健康問題を解決することができます。

これらの質問は、インターネットを介してアクセス可能な健康情報の利用に対する自信と能力を反映しています。

DHLS
 
DHLSは、デジタル環境における具体的な健康情報管理のスキルをより詳細に評価します。このスケールは以下のような様々なスキルを測定することに焦点を当てています:

  1. 操作スキル(デバイスの基本的な使用方法)

  2. ナビゲーションスキル(情報を見つけるための効果的な検索方法)

  3. 情報検索スキル(特定の健康情報を見つける能力)

  4. 信頼性の評価(情報の信頼性を判断するスキル)

  5. 関連性の決定(情報が自分の健康状況にどれだけ関連しているかを評価するスキル)

  6. 自己生成コンテンツの追加(自分の経験や知識をオンラインで共有するスキル)

  7. プライバシー保護(個人情報の安全を守る方法)

これらの項目は、デジタルツールを使用して健康情報を得る際に遭遇する、具体的な状況や課題への対処能力を評価するために設計されています。

 つまり、eHEALSはオンライン健康リテラシーの自己評価に重点を置いており、基本的なデジタルスキルよりも個人の自信と知識の活用能力を測定できます。一方、DHLSはデジタル環境で健康情報を効果的に管理するための具体的なスキルセットに焦点を当てており、より詳細なスキル評価を提供することが可能です。

最後に

 今回は、デジタルヘルスに関する個人のリテラシーを計測するための尺度についてまとめました。何か不調を感じた時、インターネットで情報を検索することが当たり前にもなりつつある現代で、その検索・情報活用能力は個々人でバラバラです。その度合いにより、デジタルヘルス診療の適合度合いも異なってくるかもしれませんね。それらを念頭に入れて、診療の開発に繋げていければと思います。

 尺度に関しては、過去記事で、うつやwell-beingの計測に関してもまとめております。もしお時間あればご一読下さい。また、このような尺度とウェアラブルデバイスを用いて、何か取り組みをしたいという方がいらっしゃれば、是非ご連絡下さい。お待ちしています。

参考文献

[1] Norman, Cameron D., and Harvey A. Skinner. 2006. “eHEALS: The eHealth Literacy Scale.” Journal of Medical Internet Research 8 (4): e27.
[2] 光武 誠吾, 柴田 愛, 石井 香織, 岡崎 勘造, 岡 浩一朗, eHealth Literacy Scale (eHEALS) 日本語版の開発, 日本公衆衛生雑誌, 2011, 58 巻, 5 号, p. 361-371, 公開日 2014/06/06, Online ISSN 2187-8986, Print ISSN 0546-1766, https://doi.org/10.11236/jph.58.5_361, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/58/5/58_361/_article/-char/ja.
[3]
 Vaart, Rosalie van der, and Constance Drossaert. 2017. “Development of the Digital Health Literacy Instrument: Measuring a Broad Spectrum of Health 1.0 and Health 2.0 Skills.” Journal of Medical Internet Research 19 (1): e27.
[4] 宮脇 梨奈, 加藤 美生, 河村 洋子, 石川 ひろの, 岡 浩一朗, デジタル・ヘルスリテラシー尺度(DHLI)日本語版の開発, 日本公衆衛生雑誌, 2024, 71 巻, 1 号, p. 3-14, 公開日 2024/01/26, [早期公開] 公開日 2023/09/05, Online ISSN 2187-8986, Print ISSN 0546-1766, https://doi-org.kras.lib.keio.ac.jp/10.11236/jph.23-021, https://www-jstage-jst-go-jp.kras.lib.keio.ac.jp/article/jph/71/1/71_23-021/_article/-char/ja.

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