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DTx(Digital Therapeutics)製品に必要とされる基本原則と倫理観

 今回は、「DTx(Digital Therapeutics)に関するお勉強」というテーマで書かせていただきました。

 TechDoctor のデータサイエンティストの杉尾です。
 最近、DTxというワードが界隈ではよく聞くようになりました(DXではないですw)。そのDTx、いわゆるデジタル・セラピューティクス(Digital Therapeutics)に関して、お勉強している内容の一部をnoteとして書かせていただきました。

 あと、冒頭に失礼いたします。弊社へのお問い合わせはコチラになります。「こんなことはできないか?」、「こういうサービスまたは研究をしたいんだけどサポートしてくれないか?」など、何なりとお申し付けください。


1. DTx(Digital Therapeutics)とは

 弊社の代表から、DTxという言葉を聞いたとき、「DXの間違いでは?」と思ったのが第一印象です。聞いて以降、そのDTxを実現するためのプロダクト開発とその要素に関して調べ物をしたので、その一部を乱文ながら、記述していきたいと思います。

 DTx(Digital Therapeutics)を直訳すると、「デジタル」の「治療学・療法論」と訳すことができます。つまり、新しい治療・療法アプローチと解釈することができます。

 この言葉の定義は、まだ各所で細かな誤差がありますが、2017年に設立された米国に本社を置くデジタルへルスに係わる業界団体のコンソーシアムであるDigital Therapeutics Allianceによると、Digital Therapeutics は、

・医学的な障害や疾患を予防、管理、または治療するための高品質なソフトウェアによって推進されるエビデンスに基づく治療的介入を患者に提供するもの
・患者支援と予後の健康を最適化するために単体または薬剤や医療機器、もしくは他の治療法と組み合わせて使用されるもの

[1]

と定義されています。
 このDTxは、薬による治療とは異なり、臨床的に証明されたエビデンスを元にしたアウトカムを提供し、患者様の状態に影響を与える治療のアプローチになります。患者様の各症状に適した、いい感じの方法や手段(介入)を提供しますよ、ということでしょうか。

具体的には、
1. 慢性または重度の疾患のリスクが高い患者のための一連の予防的ケア活動
 例えば、糖尿病を発症するリスクのある人々のための体重管理および運動のヒント
2. 診断と治療の決定を行うための健康情報の提供
 例えば、うつ病に苦しむ患者から提出された日報
3. 単独治療または従来の治療(対面および薬理学)と組み合わせた治療
 例えば禁煙のためのデジタルプログラム
4. 高血圧患者の血圧管理など、治療プログラムと健康状態を継続的に改善することを目的とした症状を監視および追跡するためのツール

 これら多くのデジタル治療法は、人工知能(AI)、機械学習(ML)、および自然言語処理(NLP)を利用して患者様のデータを解析します。現代のAI領域の技術が支えになっているのですね。ある程度、AI関連の技術が確立されてきたからこそ、再定義できる/できている領域って他にもいっぱいありそうですね。ワクワク

2. DTxの基本原則

 このDTxという新しい取り組みに対する日本の姿勢の一つとしては、2021年9月、株式会社日本総合研究所による「医療のデジタル化におけるデジタルセラピューティクス(DTx)導入の推進に関する提言」が公開されています。
 そして、そこでは以下の3つのことが提言されています。

①デジタルの世界的先導領域設定
 超高齢社会の健康課題等世界をリードする領域にて、対応する治療用アプリ開発を強化
②デジタルに適した評価追求
 デジタルとひとくくりにしない価格体系と価値に基づく価格改定
③デジタル分野の仮償還制度*1実装
 一定のデータで仮承認を与え、その後のデータ補填により正式承認を与える制度の実装

[2]

 簡単に言うと、①得意な領域で開発を頑張っていくぞ!、②医療だから製品の評価や価格ルールをちゃんと考えていくぞ!、③海外に負けないようにスピード感もって開発していくぞ!という内容でした。これらの詳細はまた別のnoteにでも記したいと思います。

 また、それらDTxを謳う製品は、どんな商品であるべきかなのか、という話も整理・体系化され始めています。例えば、Digital Therapeutics Allianceでは、以下の基本原則を遵守しなければいけないと提言されています。

1. 医学的障害や疾患の予防、管理、治療を行うこと

2. ソフトウェアを用いた医療行為を行うこと

3. 設計、製造、品質のベスト・プラクティスを取り入れていること

4. 製品開発、ユーザビリティのプロセスにエンドユーザを関与させること

5. 患者のプライバシーとセキュリティを保護すること

6. 製品の展開、管理、保守に関するベストプラクティスの適用

7. 臨床的に意味のある結果を含む試験結果を査読付き学術誌に掲載すること

8. リスク、有効性、使用目的に関する製品の主張を裏付けるのに必要な規制機関による審査、承認または認定を受けていること

9. 応じて規制機関による審査、承認、認定を受けること

10. 臨床評価および規制上の地位にふさわしい主張を行うこと

11. 現実世界のエビデンスおよび/または製品性能データの収集、分析、および適用

[1]

 つまり、DTx製品を作る我々は、上記の11個を満たせているか、をしっかりと確認して、開発を進めていく必要がある、ということです。まぁ、なかなか厳格な原則が立てられており、いかにしてこの基本原則を守りながらスピード感を持って開発していくか、がものすごく難しいですね(臨床がめっちゃ時間かかるよね…)。頑張りましょう。やはり、医療領域は、その他の商用サービスとは一線を画するものですね。

3. Dtxに必要な倫理

 また、この領域において、大事なことは倫理観です(一番大事といっても過言ではないかも)。他の領域とは異なり、人間の生命活動やその権利に近しい領域ため、正しき倫理観を持ち、それに準拠した開発を進めることが大切なのです。
 そして、このDTxのサービスに必要と定められた倫理というものも、Digital Therapeutics Allianceによって定義されています。

Code of Ethics
簡単に分類してみました。

A. Patient First
 患者様を大事にしましょう、ということです。

1. 患者の安全に対するコミットメントを示す。傷つけないこと。
 すべての意思決定プロセスにおいて、患者様の安全性を重要な要素として位置づけましょう。

2. ケアの質、臨床結果、および生活の質を向上させる介入策を開発する。
 患者、介護者、医療システムにとって、より良いケアの提供と臨床結果をもたらす製品を開発しましょう。

3. プライバシー、同意、データ使用に関する患者の権利を保護すること。
 患者様のデータがどのように使用、保存、共有されているかについて、透明性を保ち、説明責任を果たしましょう。
 患者様の明確な知識と同意なしに、識別または非識別の患者データを販売することは禁止です。

[3]

B. Evidence
 サービス・プロダクトのアウトプットは明確なエビデンスを元に提供し、透明性を持たせましょう、ということです。

4. 製品の定義、主張、ベネフィット、およびリスクを、すべての分析および臨床評価結果と 直接的に整合させること。
 製品の明示された使用目的と対象となる臨床関連性は、製品定義を開発するために作成されたエビデンスを反映したものでなければなりません。DTxの製品は、分析的および臨床的なエビデンスによって裏付けられた以上の主張をしてはいけません。

5. 適用される各規制当局内での製品ステータスに適した主張を行うこと。
 現地当局によって確立された規制および法的境界を超える直接的または間接的な主張をしてはなりません。

6. 製品の主張と結果を裏付ける信頼できる証拠を、患者、介護者、臨床医、支払者が容易に入手できるようにする。
 主要評価項目に関する臨床的に意味のある結果を含むすべての試験結果を公開しましょう。

[3]

C. Security / Governance
 プロダクトが関与するシステム及びデータに対するセキュリティとそれを運用する組織のガナバンスを大事にしましょう、ということです。

7. 責任ある方法で製品を市場に投入する。
 エンドユーザーを尊重しましょう。DTx業界の原則とベストプラクティスに沿って行動しましょう。製品の特徴、期待される結果、および限界について、関連する利害関係者に率直に説明しましょう。
 製品の使いやすさ、アクセシビリティ、持続可能性、信頼性を継続的にテストする姿勢を示しましょう。

8. 製品が期待通りに動作し、記載された要求事項を満たすことを検証する。
 実世界での結果、製品の性能データ、エンドユーザーからのフィードバックを生成、分析、適用することで、品質とコンテンツを継続的に改善することを約束しましょう。

9. 製品のセキュリティ、データ、および機能性が損なわれないようにする。
 データの保護とセキュリティ侵害の防止を優先する社内文化を構築しましょう。

10. 品質と組織的なエクセレンスの文化を維持する。
 企業の持続可能性と人材を優先し、製品のライフサイクルのすべての段階で製品を維持し、長期的な価値と安定性を生み出しましょう。安定性を確保しましょう。 

[3]

 これらに関しては、B.EVIDENCEの内容である”正しいエビデンスを元にした主張をしろよ”、という部分のそのエビデンスを証明するハードルの高さ以外は、他のプロダクトやソフトウェア開発においても、比較的当たり前のことを言っているように感じました。例えば、おすすめ商品のレコメンドアルゴリズムの計算やそのアルゴリズム自体を提唱した評価実験自体が間違っていたとしても、大した問題にはならないですし、開示責任もないのですが、この領域はそうではありません。サービスストップです。また、昨今はデータのセキュリティにコストをかけるようになってきておりますし、高品質なプロダクト開発体制を目指せば実現できるものかと思います。

4. 今後の記事に関して

次回以降は、私が調べている上でわからなくなった

・DIGITAL HEALTH、DIGITAL MEDICINE、DIGITAL THERAPEUTICSの違い

に関して話を掘り下げて、記述していこうと思います。

 今後も、継続的にこの領域に関してキャッチアップした上で、発信をしていきたいと思います。ご興味を持っていただけたならば、「スキ」していただけると中の人が喜びます。

 弊社㈱TechDoctorではウェアラブルデバイスデータを主軸に人々のメンタルヘルスを計測・可視化、さらには分析していき、より健全な社会にしていくことをモットーに調査・研究・サービス開発を進めております。エンジニア・データサイエンティスト、医学的バックグラウンドを持つ方など多様な人材の採用を実施しております。お気軽にご連絡下さい。

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*1 仮償還制度...検証試験・治験のデータが揃わない状態でも、その他の医療機器の安全性またセキュリティなどが担保されていれば、仮償還として申請を承認し、その処方に公的保険も適用されるというシステム。主にドイツでの実行事例がある。

参考文献

1. Digital Therapeutics Alliance, "Digital Therapeutics Definition and Core Principles", https://dtxalliance.org/wp-content/uploads/2021/01/DTA_DTx-Definition-and-Core-Principles.pdf
2. 日本総研, "医療のデジタル化におけるデジタルセラピューティクス(DTx)導入の推進に関する提言(2021年9月)", https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=39492
3. Digital Therapeutics Alliance, "DTx Industry Code of Ethics", https://dtxalliance.org/wp-content/uploads/2021/01/DTA_DTx-Industry-Code-of-Ethics_11.11.19.pdf
4. 野村章洋 / Akihiro Nomura, "デジタル療法(DTx)とは何か?", https://note.com/nomuryn/n/n7e2380ad6664

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