『仕組みの理解』について
テクニカルディレクターの森岡です。フィジビリティチェックの記事でも『できる・できない』の話をしましたが今回はこの判断において重要な『仕組みの理解』について掘り下げてみます。
新しいことはやってみないとわからない
ものづくりは結局『それが作れる作り方の模索』にある、と言えます。つまり製法の話になる、ということです。
例えばみなさんも一度は作ったことがあるであろう、折り紙の鶴を例えにして考えてみます。
折り紙やチラシの裏では折り鶴を折った事があるでしょうが、ここで知り合いから『透明の折り鶴』を作って欲しい、と言われます。
皆さんならどのような手法で作るでしょうか。
例えば素材を変える方向で考えてみます。
透明ビニールで折り鶴を折る?折り目がしっかりつかなさそうですね。
透明なプラスチック?逆にポキッと折れてしまいそうですね。
折る、という手法にも手間を加えたほうがいいかもしれません。ガラスを熱して熱く曲げられるときに折る?いやいやもういっそのこと折り鶴の型を作ってそこに透明な樹脂を流し込んで・・・等々。もしも透明な折り鶴を作ったことがない限り、様々アイデアが浮かぶものの、どれも『これがベストな製法だ』と確信を持つことは難しいのではないのでしょうか。
このように何かを作りたい、と思った時に手法は無数にあり、どれが成功に最も近いのか、簡単なのか、クォリティが高いのかは考えただけでは判断つきません。
また、実際に手を動かし始めると思ってもみない問題に当たることも多くあります。
先ほどは折り鶴というハードウェアで説明しましたが、基本的にはソフトもハードも同じです。あのAPIとこのAPIを組み合わせたらできるかな、でもあのAPIにはこういう制限があるな・・・と。作り方、つまり成功に至るまでのアプローチは複数想定でき、どれが実際にできるのか、また、できたとしてどの製法がベターなのかは不明なのです。
つまり、極論してしまうと『新しい事はやってみないとわからない』ということになります。
『理解』とは?
ただし、常に『やってみないとわからない』わけではありません。『やってみなくてもわかっている』場合や『なんとなく予想が付く』場合があります。
1つは過去にすでに同等の条件で試行錯誤をしていた場合。今回でいうと過去にすでに『透明な折り鶴』の制作にトライし、成功している人は改めてやってみなくとも作れる、あるいは作れないということが判っているでしょう。
もう1つはそれそのものは作ったことないが、なんとなく作れるかどうかの判断が付くような経験や知見をすでに持っている場合です。
例えば貴方に『ガラスの折り鶴は作ったことはないが、ガラスの紙飛行機は折った事がある』といった場合、恐らく『やってみないとわからないが、まぁできるだろう』と貴方は判断するのではないでしょうか。
このようにそのものは作ったことが無くてもいくつかの課題(ここで言うと「透明な素材を折る方法」という課題)をクリアできていれば「作れるだろう」あるいは「これでは作れない」と予測することができます。
暗闇で壁に向かってボールを投げる
ものづくりにおける理解のモデルは、暗闇の中でボールを投げるシチュエーションをイメージしてもらうと良いかもしれません。
『成功』というターゲットに到達するよう、様々な角度からボールを投げるイメージです。この『様々な角度』というのが手法や製法といった、『実現に向けたアプローチ』の比喩になります。作り手は様々なアプローチをしてどうやったら成功するのか、あるいはどうなると失敗するのか投げて(作って)確認していきます。
何度か投げて成功と失敗を重ねていくと、うまく行く手法と失敗する手法にそれぞれ共通項が見えてきます。例えばこの例だと低い位置から投げたボールはターゲットに届かず、高い位置から投げたボールだけがターゲットに届いています。となると貴方は『この暗闇のステージではターゲットと自分の間に高い壁があるのでは』と予想するでしょう。
かなり回り道をしましたがこれが先ほど話した『なんとなく作れるかどうか予想が付く』という状態です。先ほどの例で言うと(ガラスの紙飛行機を作ったことがある人に透明な折り鶴を作ってくれ、と頼んだ場合)、ターゲットは紙飛行機と折り鶴でそれほど離れていないのであればガラスの飛行機の作成に成功した製法がそのまま使えるのでは、と予想できます。
少し余談がになりますが、しばしばモノづくりにおいて『失敗も大事』という話が出るのは、失敗がないと失敗と成功の境目が判らず、モノづくりの障害の形状(子の比喩でいうところの壁)が予測できていないからです。
ただし一方でこのように何度も試行錯誤することは非常にコストと時間がかかります。なので『作った人の知見』というのはとても重要になるわけです。
『完全に理解した』と『なんも判らん』
ちょっと前にSNSで『●●完全に理解した』と『なんも判らん』いうフレーズが流行りました。これはまさしく前章で話題に上げた壁の理解の話と捉えることができます。
何度もトライ&エラーを繰り返すと壁の形状がなんとなく予測できてきます。これが『完全に理解した』という状態です。
しかしある時、自分の想定した壁の形状では説明がつかない成功や失敗が発生したとき、壁のモデルの立て直しを余儀なくされます。これが『なんも判らん』という状態です。
そして再び試行錯誤の中で新たな壁のモデルが自分の中でできてきます。しかし次は『この壁の形状は今はこう思っているけど、実際は違うかもしれない』という疑念が常に付きまとうことになります。これが『チョットデキル』という状態になります。
最後に
このようにモノづくりにおいては成功と失敗の境目にブラックボックスであり、大体の場合において執行と成功の境目は非常に複雑です。
そのため、数々の試行錯誤を繰り返して得た失敗あるいは成功の傾向は非常に貴重であり、その知見は非常に価値があります。
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