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米国の予防的な恩赦(Preemptive Pardon)について解説

1. 予防的な恩赦とは?

📝 予防的な恩赦(Preemptive Pardon) とは、特定の人物に対して、まだ起訴されていない、もしくは裁判中の犯罪行為に関して事前に与えられる恩赦のことです。

通常、恩赦は有罪判決後に適用されますが、予防的な恩赦は、有罪判決前または訴追の前に「免責」を与える形で行われます。この恩赦を受けた人物は、該当する犯罪行為について今後追及されることがなくなります。


2. 法的根拠

⚖️ 米国憲法第2条第2節 が大統領に恩赦権を付与しており、これには「予防的な恩赦」も含まれると解釈されています。恩赦権の範囲には、以下が含まれます:

  • 刑事責任の免除

  • 連邦法違反に限定

  • 既存の事件だけでなく、将来の訴追を防ぐためにも適用可能


3. 予防的な恩赦の特徴

  • 起訴前の犯罪に適用:まだ起訴されていない犯罪行為に対しても恩赦を与えることができます。

  • 連邦犯罪に限定:州法違反には適用されません(州知事が恩赦を与える権限を持つ場合があります)。

  • 広範囲な適用:特定の行為全体に対して与えることができます。


4. 過去の実例

① ジェラルド・フォード大統領によるニクソン元大統領の恩赦(1974年)

  • ウォーターゲート事件に関連し、リチャード・ニクソン元大統領に対して「予防的恩赦」が与えられました。

  • 背景:ニクソンは辞任後も連邦犯罪での訴追が予想されていたため、フォード大統領は「国の癒し」を理由に恩赦を与えました。

  • 結果:これにより、ニクソンはウォーターゲート事件に関連するすべての連邦犯罪で免責されました。

② ジョージ・H・W・ブッシュによるイラン・コントラ事件関係者への恩赦(1992年)

  • イラン・コントラ事件に関連し、元国防長官キャスパー・ワインバーガーを含む6人に対し、予防的恩赦が与えられました。

  • 目的:事件に関与した人物の刑事責任を回避し、さらなる追及を防ぐため。


5. メリットとデメリット

🌟 メリット

  • 国の安定:重大なスキャンダルや危機において、国の分断を防ぎ、迅速に収束させる手段となる。

  • 個人の権利保護:特定の行為が政治的な理由で不当に追及されるリスクを回避できる。

⚠️ デメリット

  • 司法の公正性への懸念:犯罪行為を免責することで、法の下の平等が損なわれる可能性がある。

  • 濫用のリスク:政治的利益や個人的なつながりのために恩赦が使われる場合、批判を招く。

    • :トランプ大統領による側近への恩赦(批判的視点から「利益誘導」と指摘された)。


6. 予防的恩赦の限界

  1. 連邦犯罪に限定:州法違反や州裁判所での事件には適用されません。

  2. 憲法違反の場合は無効:恩赦権の行使が憲法に違反していると裁判所が判断すれば、無効となる可能性があります。

  3. 政治的批判のリスク:予防的恩赦は、その目的や対象者によって政治的な論争を引き起こす可能性が高い。


7. まとめ

予防的な恩赦は、大統領の恩赦権の一環として、特定の犯罪行為に関する刑事責任を事前に免除する非常に強力な手段です。その歴史的な利用には、国家の安定を目的としたものが多い一方で、濫用や司法への干渉として批判されることもあります。この権限は、慎重かつ倫理的に行使されるべき重要な手段です。✨


参考記事


大統領が自分自身に予防的恩赦を与えることは可能か?

米国憲法と恩赦権に関する議論において、大統領が自らに予防的恩赦を与えることが可能かどうかは、未解決の法的問題であり、憲法上の明確な答えは存在しません。ただし、以下にその可能性と議論のポイントを説明します。


1. 憲法上の恩赦権の範囲

  • 米国憲法第2条第2節は、大統領に「連邦犯罪に対する恩赦を与える権限」を付与しています。

  • 制約:

    • 州犯罪には適用されない(州の犯罪に関する恩赦は州知事の権限)。

    • 弾劾手続きには適用されない。

この条文では「他者に恩赦を与える」とも「自分自身に恩赦を与える」とも明記されていません。そのため、大統領が自分に恩赦を与えることが可能かどうかは解釈に依存します。


2. 自己恩赦の法的議論

肯定派(可能であると主張する立場)

  • 憲法の文言に制約がない: 憲法上、大統領の恩赦権には「他者に限定される」と明記されていないため、自己恩赦も許容される可能性がある。

  • 権力の独立性: 恩赦権は大統領の特権として広範囲に認められており、裁判所がこれに介入することは制限されるべきだと考える立場。

否定派(不可能であると主張する立場)

  • 法の下の平等の原則: 自分自身に恩赦を与えることは、「誰もが法の下に平等である」という基本原則に反する可能性がある。

  • 利益相反の問題: 自己恩赦は明確な利益相反を引き起こし、大統領が自身の行為について責任を免れることは憲法の趣旨に反すると考えられる。

  • 連邦ist Papersの解釈: 憲法起草時の議論では、大統領の権限乱用を防ぐ仕組みが意図されており、自己恩赦はその趣旨に反するとされる。


3. 実際の判例や先例は?

  • 前例がない: 米国の歴史上、大統領が自分に恩赦を与えたケースは存在しません。そのため、裁判所でこの問題が検討されたこともありません。

  • ニクソンの場合: ウォーターゲート事件後、ジェラルド・フォード大統領が辞任したニクソン元大統領に恩赦を与えましたが、ニクソン自身が自分に恩赦を与えようとしたことはありませんでした。


4. 法的な判断が必要な場合

もし現職大統領が自分に恩赦を与えた場合、以下のプロセスを通じて法的な判断が下される可能性があります:

  1. 訴訟の提起: 恩赦が適用された状況に異議を唱える者(政府機関や個人)が訴訟を起こす。

  2. 裁判所での審査: 地方裁判所から始まり、最終的に最高裁判所が判断を下す。

  3. 司法の役割: 恩赦権の範囲が憲法に適合するかどうかを判断。


5. 自己恩赦の限界と影響

可能性

  • 退任前に恩赦を与えれば、連邦犯罪については訴追を免れる可能性があります。

制約

  • 州法違反には適用されない: 自己恩赦が連邦犯罪には適用されても、州犯罪(例:ニューヨーク州でのトランプ氏の財務調査など)には効果がありません。

  • 政治的影響: 自己恩赦の行使は世論や議会から強い批判を受け、後の大統領の権威や政治的信用に影響を与える可能性があります。


6. 結論

現行の憲法の解釈では、大統領が自分に予防的恩赦を与えることが理論的には可能と考えられています。しかし、実際にこれを行った場合、法的に争われ、最終的には最高裁判所の判断に委ねられる可能性があります。

同時に、自己恩赦は「法の下の平等」という原則に反し、政治的・倫理的な問題を引き起こすため、極めて慎重に議論されるべき問題です。✨

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