日本農業の課題と、アグリテックによる解決
本記事では、日本の農業の現場が抱える課題と、その課題解決の為にアグリテックをどう活用すればいいか考察する。上の図はこの記事の概略である。
農業は、栽培計画から始まり、土地や労働力の確保、肥料などの資材調達がされ、栽培へと続く。農業全体で見ると、その後に流通や販売というプロセスを経て消費者に届けられるが、本記事では、農業の現場の課題に絞って考察する。
加えて、現在農業の課題を解決する為に、様々なテクノロジーが導入されている。どのような「アグリテック」が、日本の農業の現場に求められるかも考察したい。
①栽培計画
課題:プロダクトアウト
従来の農業では、各々の農家が思い思いに作りたいものを作るプロダクトアウトが主流であった。しかし、農業が大規模化し、雇用する労働力や購入する肥料等農業資材が大きくなるにつれて、出来るだけ安定的な価格で決まった量を販売できるようにしなければ、農家が抱えるリスクがあまりに大きくなってしまうのが現状である
解決策:マーケットインの農業
小売や卸と生産者がコミュニケーションをとり、あらかじめ需給調整をした上で栽培計画を立てることが求められるが、現状このようなサービスは私の知る限りではあまりない。しかし、気象データ等のビッグデータと農業経営の実績を基に経営計画を策定し、その情報を地方自治体や農家に提供して栽培計画を立てるサポートを行う会社は存在する。今後、データを使って農家の意思決定をサポートするサービスは増加するだろう。
➁土地・労働力確保
課題:農地の可視化がなされていない。労働力を地域に依存している。
栽培を行うためには農地が必要になる。現状、日本の農地は、所有者が不明であったり、借り入れ条件が明確に示されていなかったり、そもそも一覧にすらなっていないことがある。仮に土地所有者が明かになっていても、利用価値が維持された状態で土地が管理されておらず、利用者が改めて整備をする必要がある。
解決策:農地の不動産事業
米国の「Faemland Partners社」は、小さな土地を買い集めて、集約して大きな面積にし、利用価値を高めて農家に売るという、農地の不動産事業を行っている。国内においても、リデン株式会社が、「農地の窓口」という農地のマッチングプラットフォームを提供している。
労働力の確保も、従来は地域に依存していたが、昨今は、若者アルバイトが近隣の飲食店に
取られたり、新型コロナウイルスの影響で外国人労働者が来日できない状況となっている為、地域企業の退職者にも手を伸ばしたり、フレックス導入等で働き方を柔軟にすることで、人材の裾野を広げていくべきだろう。
➂農業資材調達
課題:少量多品種
日本では、地域ごとの気候や土壌の違いに最適化した結果、肥料銘柄が非常に多い。この多品種生産が、製造コスト、包装資材コスト、在庫管理コストの増加に繋がっている。
解決策:デマンドマネジメント
まずは、需要の調整を行うため、米、葉物野菜、園芸などのカテゴリ別に必要な肥料、農薬、資材を特定し、全国的に銘柄を集約していく必要がある。農場に目を移すと、土壌診断を通じて、必要な肥料の成分や量を細かく特定出来、無駄な入荷を防ぐことが出来る。
④栽培
課題:ベストプラクティスが共有、継承されていない。
大前提として、「農業には熟練の農家が知っているベストプラクティスが存在する」という考え方が根底にある。従来、熟練の農家の下で何年間か修行する「丁稚奉公」や、地域ごとに研修会を開いて技術を広める「講習会」などによって、栽培方法が伝承されてきた。しかし、「丁稚奉公」は技能を伝承するのに時間が掛かる上に伝承可能な人数が少ない。「講習会」は実践ではない点が課題となっている。
解決策:ベストプラクティスのレシピ化
誰でも熟練の農家と同様の成果物を残せるようなレシピが出来ることが理想
しかし、非常に難しいのが現状である。なぜなら、収穫時の土壌の状態等の「結果」にはあまり価値はなく、そこに至るまでにどのような作業をどのタイミングでどんな気象条件で行ったのかという一連の情報が必要だからだ。熟練農家の作業日誌の解読や、IoTやドローンによるリアルタイムでの農場管理による情報収集が鍵になるだろう。