遺伝子組み換え食品が消費者に嫌われた理由と、ゲノム編集で同じ失敗を繰り返さない方法。
本記事では、ゲノム編集によって開発された食品が、消費者に受け入れられるにはどうすればよいか、「遺伝子組み換え」との比較を通じて考察する。
遺伝子組み換えは、DNAを酵素を使って人為的に操作するという技術の類似性から、ゲノム編集の比較対象に挙がることも多い。しかし、遺伝子組み換えによって開発された作物は、消費者には受け入れられなかった。
「遺伝子組み換えがなぜ消費者に受け入れられなかったのか?」紐解くことで、ゲノム編集普及のヒントを探る。
結論、以下の3つである。
①遺伝子組み換え食品の作り方が危険と思われてしまったから。
➁消費者にメリットがあまりなかったこと。
➂消費者との誠実で、丁寧なコミュニケーションがなかったこと。
要因①:遺伝子組み換え食品の作り方が危険と思われてしまったから。
〈原因分析〉
遺伝子組み換え食品を開発する際は、科学者が自然界から探してきた、何らかの生物の遺伝子を、接着剤の役割を果たすバクテリアを利用して、元の作物の遺伝子に組み込まれる。
問題は「バクテリア」である。バクテリアには人体に良いものも、悪いものも存在するが、当時の一般消費者からすれば、バクテリアはばい菌同然のものであり、これが消費者団体による反対運動を加速させてしまう要因になった。
〈ゲノム編集はどうか?〉
一方のゲノム編集は、「外部から何かを組み込むのではなく、既に作物が持っている遺伝子を変異させる」点において、遺伝子組み換えとは異なり、開発方法が問題視されるとは考えにくいだろう。バクテリアも使用されない。
要因➁:消費者にメリットがあまりなかったこと。
〈原因分析〉
「バクテリアの使用」と同程度か、それ以上に遺伝子組み換え食品が消費者に嫌われた理由として、消費者にとって本当に必要なものか?疑われてしまった点にある。
究極、開発工程でバクテリアのような奇妙なものを使っていようが、本当に必要なものなら必ず受け入れられる。
米企業「ジェネンテック」が開発した、遺伝子組み換えで作られた初の医薬品「ヒト型インスリン」がその代表である。
大腸菌という、一般人から見て非常に悪いイメージを持つ細菌を利用して作られていたにも関わらず、広く普及した。なぜなら、この薬がないと、一部の糖尿病患者が死んでしまうからである。結局、ジェネンテックは、多くの糖尿病患者を救い、ビジネスとしても大成功を収めた。
しかし、遺伝子組み換え作物が作られた1980年~2000年付近、遺伝子組み換え食品を開発した企業が本社を構える先進国において、食料は豊富であった。結果、「収穫量増加」「害虫耐性」等の遺伝子組み換えのメリットは、一部の農家には魅力でも、消費者にとって魅力的ではなかった。
〈ゲノム編集はどうか?〉
ゲノム編集は、遺伝子組み換えよりも高精度で作物のDNAを改変できることから、カバーできる消費者ニーズの範囲が広いと考えられている。
遺伝子組み換えは、「収量増加」「害虫耐性」等、農家や、恵まれていない国々のニーズを満たすものであった。
しかしゲノム編集は、血糖値を下げるGABAを多く含む「高GABAトマト」のように、先進国の消費者の健康ニーズを満たす商品も開発されており、遺伝子組み換えよりも消費者に受け入れらるのではないだろうか。
要因➂:消費者との誠実で、丁寧なコミュニケーションがなかったこと。
〈原因分析〉
米企業「モンサント」など、当時のバイオ企業が消費者とのコミュニケーションを軽視し、半ば秘密裡に遺伝子組み換え食品の開発を進めている印象を持たれてしまった。
加えて、遺伝子組み換えは、「ほうれん草の遺伝子を持った豚」等、消費者からしたら奇妙な製品を、消費者に遺伝子組み換えが理解される前に知られてしまったことが、抵抗感を持たれる要因の一つであった。
科学者たちにとっては、単なる興味本位ではなく意義のある実験であったが、消費者の理解が追い付かず、遺伝子組み換え全体への消費者の抵抗感を醸成することに繋がった。
〈ゲノム編集はどうか?〉
ゲノム編集では、この反省を生かした取り組みも行われている。
米ベンチャー企業の「ダウ・デュポン」の開発した「粘り気のあるトウモロコシ」は、まず、オフィスなどで使われる市販のノリや、工場でポテトチップスを揚げるための油等、比較的ニッチな商品への応用から始められ、消費者の反応を見ながら、食への応用をするか否か?させるなら度のタイミングなのか?慎重に検討されている。