ジャズの引出しについて　～ロリンズ、ブラウンの引き出し～

2021年1月10日 02:06

〇「引き出し」の中のジャズについて

「引き出し」とは僕が言っているだけで特に一般的な概念ではないのだが、要はプレイリストの素の様なものだ。ランダム再生でジャズを聴いていると、ソニー・ロリンズの次はクリフォード・ブラウンが聞きたいのにマイルスが掛かって曲をスキップする、面倒くさいのでロリンズとブラウニーでプレイリストを作りマイルスがかからないようにする、という様な事があると思う。その様にして僕の中ではロリンズとブラウニーは同じ引き出しに入っている。しかし、引き出しを開けるとその中にはロリンズとブラウニー以外の何かも入っているのである。

まあ、要はコレがお好きならこういうのも如何ですか、という話しです。

〇ロリンズ、ブラウンの引き出し

どのミュージシャンも多少はそうなのだが、ソニー・ロリンズも時期によって演奏の印象が変わる。結構変わる。その中で、まだロリンズを聴いたことがない人に彼のアルバムを推すことになったとしたら、プレスティッジに残されたMJQやセロニアス・モンクと録音されたアルバムを選ぶだろう。明るくて少し尖ったロリンズがその硬質な音色とリズムで唯々楽しそうに演奏している。もう楽しそうなのである。面倒くさくないのである。
クリフォード・ブラウンならマックス・ローチとのクインテットは全部良い。影の無い音色だ。真面目な顔をして吹いているが、目が笑っている。気持ち良さそうにハイノートをヒットさせる。一音も間違いが無い。ロリンズも一時参加していた時期があるが恐ろしいコンビである。
ブラウンとジジ・グライスとのバンドはジジの個性が結構際立っているので、聴き方が変わる。ロリンズもビレッジ・バンガードのピアノレストリオは緊張感があって聴いていて疲れる所がある。少し硬派過ぎるのだ。無性に聴きたくなる時もあるが体調のいい時である。ここら辺はまた別の引き出しに入っているかもしれない。

さて、僕のロリンズ・ブラウンの引き出しに入っている他のミュージシャンのアルバムは、例えばチャーリー・パーカーの「Now’s the Time」だ。
チャーリー・パーカーの引き出しにはパーカー以外入っていない。パーカーを聴きたいときはパーカー以外聴きたはくない。そういう時はミュージシャンのリストからパーカーを選んで再生すればよい。しかし、他のミュージシャンの引き出しにパーカーが入っているということはあり得るかもしれない。
パーカーの作品は大きく3つに分けることができると思う。まずサヴォイとダイアルに残されたSP盤用のスタジオレコーディング音源。一般的にはパーカーの最盛期のものと言われる。確かに演奏は素晴らしいのだがこの言説は鵜呑みにできない。なぜならパーカーはどの時期のものも素晴らしいからである。最盛期など存在しない。
2番目はヴァ―ヴに残された音源。「Now’s the Time 」はこの時代の作品だ。時代がやや下がるがその分音質が良くて聴きやすく、演奏も当然素晴らしい。最盛期を過ぎたジャズマンが同じブルース（「Chi Chi」）を4テイク録って、その全てが素晴らしいなんてことがあるわけがない。そもそも、パーカーマニアは音質が悪ければ悪いほどありがたがる節がある。彼らの言うことを鵜呑みにしてはいけない。ワンホーンである所も良い。パーカーは1曲目「The Song Is You」の1音目からこれしかないという音を出してくる。1音でぐっと引き込まれる。最後まで耳を離す事ができない。確かにコレは凄い。パーカー中毒患者が散見されるのも無理は無い。
また同時期の「South of the Border」はラテン調の曲を集めたものだが、リラックスして楽しそうな演奏の中にスリリングな瞬間が散りばめられていて、つい集中して聞いてしまう。この引き出しに入ってはいないが、おすすめである。
3番目はラジオ放送音源を集めたエアチェック盤や、ロックランドパレスのライブ盤に代表されるブートレグだ。音質は悪いのだが、ライブレコーディングなので独特の空気感がある。僕が最初に買ったパーカーの「Newly Discovered Sides By the Immortal Charlie Parker」もエアチェック盤だった。初めて聴いた時は音質の悪さにガッカリしたが（解説のクソでたらめさにも）、当時の空気感を感じられるような気がして時々無性に聞きたくなる。また、映画「Bird」でも使用されたロックランドパレスのライブは本当にマジでぶっ飛んだ（バードだけに）名演なので、もしパーカーを好きになってしまったら是非聞いてみて欲しい。基本的にブートなので様々なバージョンの盤が出ているが、音質という点ではより新しいものが無難だろう。