手羽先的Best Track ~Wynton Kelly with Horns~
ハンク・モブレーとのコンビがとても印象的なウィントン・ケリーですが、サイドマンとしてとても人気のあったピアニストで、色んなミュージシャンと共演しています。ウィントンのバッキングだとみんな本当にいい演奏するんだよな。そんな彼と彼のサポートによるホーンズの名演をご紹介します。
曲名:I Believe in You
出典アルバム:『Domino』 by Roland Kirk
ローランド・カークと言えばサックスを3本ぐらい一度にくわえて吹く人な訳だけど、その見た目のインパクトに違わず出てくる音もとても楽しい。のだけど、実はこのアルバムを買った当時は、良いんだけど、楽しいんだけど、聴いてると段々悲しい気分になってくるなと思っていた。多分カークの心には絶望的に回復不能な深い傷が刻まれていて、それがずっと血を流し続けていて、ホーンから出て来る音に滲み出し、僕を悲しい気持ちにさせるんかな、と思っていたけど、年を取り、そんな感受性はとっくの昔に擦り切れてしまったので、今はただ楽しいだけだ。いくらカークが達人級に上手くても、さすがに多管奏法で複雑なメロディは吹けない訳で、そこにできる余白にケリーがノリノリで絶妙なピアノを入れてくる。もう最高。
曲名:I Get a Kick Out of You
出典アルバム:『Seven Standards and a Blues』 by Ernie Henry
最もパーカーに迫った男(当社比)アーニー・ヘンリーの、何となく「らしく無い」急速ナンバー。この人もユルなんだけどこの曲ではキリッと頑張ってます。ラテン調のリズムでグイグイ行くイントロ〜テーマから、何一つ間違いのない完璧なソロへ。完璧だけどリラックスしていて且つ楽しい!この人もデクスターみたいな濃ゆいアーニー・ワールド持ってるよな。
曲名:The Way You Look Tonight
出典アルバム:『Blue Soul』 by Blue Mitchell
また最高の急速ナンバーで畳みかけてみました。フィリー・ジョー・ジョーンズがバキッとドラムイントロを決めていきなり盛り上がらざるを得ません。ブルー・ミッチェルもテーマの1音目からゾクゾクさせるカッコ良さ。疾走感たっぷりのソロをグイグイ決めています。後テーマの終わりまでフィリーとの息の合い方が完璧なんだよな。ケリーもソロは控えめだけど、相変わらず笑いながらバッキングしてます。メチャメチャ楽しそう!
曲名:Namely You
出典アルバム:『Newk's Time』 by Sonny Rollins
ミディアム・スローのご機嫌ナンバー。相変わらずロリンズは、ご機嫌だと思って油断していると気付きも出来ないうちにバッサリ切られちゃいそうな殺気を放つ硬質なテナーですね。そんなのの後ろでケリーは本当に楽しそうに歌っています。もうロリンズが構えた切っ先の上で踊ってるみたいですね。そしてロリンズのテーマを引き継いでご機嫌なソロへ。このアルバムも名演ぞろいですが、ブルースとかを聞くと、ああ、ロリンズも遊んでいたんだなと解るんで聴いてみてください。本当は良い人なのかもとか思っていると、気が付かないうちにバッサリ殺られそうですが。
曲名:Soul Station
出典アルバム:『Soul Station』 by Hank Mobley
モブレーのキャラ全開のゆるゆるナンバー。国立のロージナ茶房で友人と聴いて、彼女があまりのユルさに脱力してたのを憶えている。でもユルイんだけどエキサイティングなんですよ?この歌心はもう天才としか言いようがない。こんなにユルイのにモブレーの語り口にグイグイ引き込まれてしまう。まあ良いから聴いてみて下さいよ、ホントこの人超天才なんですから。ケリーもアルバム全編でキレッキレのピアノを聴かせてくれます。とんでもないスピードで狂った様に正確な運指、とかがジャズじゃ無いんだぜ。
曲名:Like Someone In Love
出典アルバム:『Last Chorus』 by Ernie Henry
6曲目はイントロなしでいきなりあの音色。前にこのアルバムの素晴らしさは語り倒した気がするんですが、ホント素晴らしいんですよ。とんでもないテクニシャンのはずなのにこんなですから。これ、どう聞いてもジャズなんだけど、ビ・バップなんだけど、メチャメチャ良いんだけど、ジャズってこんなだったけ?という新鮮な感じがするんだよな。なんか異世界感がある。騙されたと思ってスピーカーで音を出して聴いてみてください。もう、部屋の壁の色から違って見えますよ。あれ、ここ、自分の家だよな?なんかいつもと違う気が・・・。みたいな。本当にそうなったら教えてください。
曲名:All the Things You Are
出典アルバム:『On the Trail』 by Jimmy Heath
先日(2020年1月19日)、惜しくも亡くなられたジミー・ヒース先生の名盤です。フィラデルフィア時代はコルトレーンやゴルソンを従えてビッグバンドのリーダーをやってたジミーさんですが、その後も多管編成の作品を多く残しています。そんな中、ケニー・バレルを従えての貴重なワンホーン盤。ジミーさんはデクスターみたいな異次元のリズム感とは真逆のキッチリした感じが個性になってる方なんですが、デクスターと同じぐらいメチャクチャ上手いよ。超まとも。このソロもテナー吹くならコピー必須の名演です。ケリーのイントロ、テーマの合いの手も相変わらずすばらしいけど、ソロもかなりイケイケで頑張ってます。
曲名:Asiatic Raes
出典アルバム:『Newk's Time』 by Sonny Rollins
変な曲名が付いていますが、a.k.a.「Lotus Blossom」です。どちらにしろオリエンタリズムっぽいですね。この頃はアンチ西洋というかアンチ・キリスト教思想っぽいモノが流行っていたんでしょう。みんなイスラム教に改宗してみたり、インドでヨガをやってみたりしてましたから。まあ要は黒人差別に対する抵抗の一環ですね。このアルバム録音の2年前にローザ・パークスが逮捕されてますんで、そんなんな流れがジャズに大きな影響を与えていたと思われます。やっぱ理不尽な事には怒らないとね。ロリンズにバッサリ殺られちゃいます。あ、ケリー最高。
曲名:The Best Things in Life Are Free
出典アルバム:『Workout』 by Hank Mobley
イントロ無しで始まるテナーのテーマからもうケリーはノリノリです。もうモブレーと一緒に遊ぶのが楽しくて仕方ないのが伝わってきますね。もちろん超天才モブレーの1音も無駄のないソロがそもそも素晴らしすぎるのですが、ホント宝石の様な一曲になっております。グラント・グリーン以外はマイルス・バンドのメンツなんだけど、これはマイルス、一緒にやるの嫌になるよな。
曲名:I Wish I Knew
出典アルバム:『Blue's Moods』 by Blue Mitchell
最後はブルー・ミッチェルの最強アルバムからの一曲。この音色でこんな曲をやられたら10代の頃にずっと感じていたあの理不尽な喪失感を思い出してしまう。この人「Scrapple from the Apple」みたいな曲でも哀愁漂わせて来るんでヤバいっす。一切暗い感じはしないのに不思議なんだよな。こういうのがジャズなんだぜ。このアルバムはメンツ完璧、選曲絶妙、演奏最高の最強アルバムなんで、もっと認知されるべきなのである。本来なら、「B」と入力したら「Blue's Moods Blue Mitchell」と予測変換されないとおかしいし、「Blue」でググったらトップにヒットしなければならないはずだ。皆さん、ちょっとこれ深刻な問題ですよ。良いですか皆さん?もっと我々の頑張りが必要なのです。今、私はあなたの心に直接語り掛けています。ではなくて、えーと、最後はこの余韻に浸る感じで。またすぐ初めから聞きたくなりますから。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?