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ジャズの引き出しについて〜ソニー・スティットの引き出し〜

 20歳でジャズを始めたばかりのころ、今は都内を中心にプロ活動をされているピアノの友人にジャズのテープを何本かお借りした。それがソニー・スティットの『Tune-Up!』と『12!』だった。今でもよく聴くアルバムである。スティットはとにかく多作すぎてバンドメンバーも無名アーティストの場合が多い。時にまるで「そこら辺の誰か」を使った風である。パーソネルを調べても「Unknown」とか書かれている物すらある。おそらくスティットも「メンツなんか適当で良いんだよ。俺の演ることなんていつでもどこでも同じだしな。ただし、いつだって同じ様に凄いぜ?」こんな感じだったのだろう。自信たっぷりなのである。実力に裏打ちされた自信。ロリンズとバトルをしても平然と笑っていられる強者なのである。普通ロリンズなんかと向き合ったら瞬きする間も無くバッサリですよ。しかしスティットは笑っていて、肩で息をするのはロリンズなのだった。
 「HAHAHAHAHA!よぉローリン、オレ達、結構イイ勝負だったな!」
 「・・・(声が出ない)」。
 僕のスティットのイメージはこんな感じである。
 わかりにくい方向に話が逸れたが、「ビ・バップって言葉、時々聞くけどどんな音楽か知りたい!」という方には上記の『Tune-Up!』『12!』や『Constellation』あたりのバリー・ハリスとのカルテットのものをお薦めします。ベースはサム・ジョーンズ。スティットは、バンドのメンツに関係なく自分の吹きたいことを吹き倒すタイプなんだけど、当然バンドメンバーは良い方が良くて、バリーとサム・ジョーンズはもう完璧なメンツである。前のめりにバリバリ吹いちゃうスティットに、ゆったりとしたリズムのバリー・ハリス。それぞれ、アナザー・バードとかパウエル・クリソツとか言われる二人だけど、パーカーとパウエルのコンビとは全然違ったテイストだ。 『Tune-Up!』はアルバムタイトルの曲が1曲目だけど、イントロ抜きでフェイドイン気味に始まると、スティットは高速フレーズを次々と綴っていく。曲調と相まってもう最初からテンション上がりまくりである。

アルトサックスによる短いイントロから始まる「Just Friends」は曲のキーがAフラットで演奏されていて、そのせいかスティットにい感傷的なソロだ。Fならもっと能天気な演奏になるだろう。テンポは速いけどバラードを聴いているような気分になる。しかし決して暗くはならない。

ラストナンバーはガーシュインの「I Got Rhythm」。これだけ10分近い長尺で、バンド全員大盛り上がりだ。最初と最後でテンポがスローになるアレンジもカッコいい。スティットは相変わらず、流ちょうに高速フレーズを連発する。決して躓くことも立ち止まることもない。これはサックスを吹く人には是非聴いてほしい。

他のアルバムも『12!』の「Our Delight」や『Constellation』の「Ray's Idea」など紹介したい演奏が目白押しなのだが、長くなるので残念ながら省略する。本当にバップってここまで出来るんだなあ、もう何もいらないな、と思わせる素晴らしい演奏ばかりである。あと、スティットは必ずと言っていいほどアルバムに1曲はスローブルースを入れてくる。これが良いのである。ジャズマンは「楽譜が読めるブルースマン」に過ぎないって事を思い知らされる。こういうのを聴くと僕もいつかスローブルースをカッコよく吹けるようになりたいと思うのだ。

また、あまり言われないことだが、スティットはバラードも素晴らしい。優れたバッパーは優れたバラ―ディストでもあるのだなということが良く判るのである。

 さて、僕のスティットの引き出しに入っているのは、何だろう。やはりワンホーンでサックスが吹きまくっているカルテットということになるだろう。難しい事は抜きだ。リラックスしていて、明るく、それでいてエキサイティングでなければならない。
 デクスター・ゴードンの『Go』はどうだろう。これも先の友人に借りて聴いたのが最初だったと記憶している。ピアノはソニー・クラーク。名演と名高い1曲目「Cheese Cake」も良いが、かつてのボス、ビリー・エクスタインの曲「Second Balcony Jump」のアレンジがカッコいい。

サビのメロディはいつものアレ的なバップフレーズなんだけど、デクスターのレイドバックするリズムでやられるともうグッと来てしまう。これは本当にマジックとしか言いようがない。どうやっているのか何回聴いてもわからん。僕なんかがバンドでこれやったら怒られるよ。デクスター以外の誰がこれをやってもカッコ悪いだけだろう。ロリンズもレイドバックするが、「真面目にレイドバックしています!」って感じで、デクスターの「大体こんな感じだろ。なあ、カッコいいだろ?」というのとは全然違うんだよなあ。曲の終わりもキメキメで滅茶滅茶かっこいい。こんなにレイドバックしていてキメられるのか?と思うが、出来ます!完璧です!レスター・ヤングそっくりさんとしてキャリアを始めたデクスターだけど、もう全く誰にも似ていない人になっている。ポインデクスターのアルバムでも感じたけど、この人が吹き始めると全部持ってかれる感じがするな。バラード「Where Are You?」も滅茶滅茶美しい。

ラストの1オクターブ上がるところなど鳥肌ものだ。これもコピーしたがアルトでは無理だった。最後の「Three O'Clock in the Morning」まで完璧で、最後のピアノのアウトロの余韻でしばらく動けなくなる感じである。本当に素晴らしいよ。


最後はルー・ドナルドソンの『Light-Foot』と『Gravy Train』どうでしょう。ピアノはハーマン・フォスター。ルーはハーマンとやる時が一番良い。『Light-Foot』は2曲目のスローブルース「Hog Maw」が素晴らしい。

もう録音スタジオ全体がノリノリで、エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーだと思うんだけど、悪乗りして変な声入れてるし、滅茶滅茶楽しい。本当にジャズマンて「楽譜が読めるブルースマン」に過ぎないんだよなあ。曲名からして楽しいホノボノナンバー「Walking by the River」、ラテン調でノリノリの「Mary Ann」、大好きなスタンダードの「Stella by Starlight」等もとても良いのでホントお薦めです。

『Gravy Train』も全部いいんだけど、20年前にバラードの「Polka Dots and Moonbeams」を後輩の車の中で聴いて、最後のアウトロでみんなで大爆笑したのを鮮烈に覚えている。

バラードで爆笑できるのはルーぐらいです。言っておくけど演奏は本当にリリカルでしっとりしたバラードなんです。ルーの演奏能力は滅茶滅茶高いよ。ジョニー・ホッジスばりの包み込む様な演奏なんだけど、良すぎて最後は爆笑しちゃうんだよな。思えばこの曲で僕はルーにハマったんだな。「South of the Border」や「Candy」等の素敵ナンバーが入っているのもうれしい。これらもコピーした。

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