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杉田陽平さんの個展「曇り空の中に、どこまでも鮮やかな色を探して」に、心地よく巻き込まれた話
2022年2月18日(金)〜28日(月)に、渋谷パルコGALLERY Xで画家の杉田陽平さんの個展「曇り空の中に、どこまでも鮮やかな色を探して」が開催されました。
杉田陽平さん(杉ちゃん)のことを『バチェロレッテ・ジャパン』で知ってから、大きな個展がいくつかあったのですが、個展が開かれる度に、「個展に行った」というよりも「個展に参加した」という当事者意識が不思議と芽生えるのです。
今回の個展も、そういった意識が芽生えたのですが、今回は「参加」を超えて「参画」したような気持ちにすらなりました。それは、杉ちゃんが、「曇り空の中に、どこまでも鮮やかな色を探して」という個展のタイトル決めの時に、Twitterで4択のアンケートを取ったり、ポスターについても、ブログやInstagramでアンケートを取ったりしたからです。個展が始まる前から、お客さんやファンの人たち、個展に関心を持った人たちを巻き込んでいました。私も、アンケートに答えさせてもらいましたが、大切なことを杉ちゃんと一緒に決めている、というようなワクワク感がありました。まさに、当事者の一人にならせてもらった感じがしました。
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一方で、杉ちゃんは、その結果を参考にしつつも、最終的には自分がいいと思ったものに決定するという変化球を投げてきたのです!
アンケート内で、一番票の少なかったタイトルに決めていました。
「みんなはこう言うけど自分はこれがいいと思ったんだよ」という強い意志を表してきた杉ちゃんにびっくりしながら、とても面白かったです。
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一方的に、作者や企画者が「素晴らしく作り上げたもの」を観客に見せるのではなく、会場に来られない人も含めて、共に作り上げていきたいという杉ちゃんの展覧会に、間接的にではあるけれど私も関わらせてもらったようでとても嬉しかったです。
杉ちゃんの個展への試みについて、いろいろすごいなと思ったことがあるのですが、その一つが、個展の様子と作品の説明のYouTubeの動画を、個展が始まる前に公開されたことでした。
「個展に行きたくても行けない人のため」ということでしたが、行く予定のある者にとっても、作品の説明を事前に聞けることは本当に有り難く、ギャラリーの雰囲気を知ることができて安心もしました。こういった細やかな配慮が本当に素晴らしいなと感じました。
初日の前日に、杉ちゃんはレセプションを開かれて、取材の方や著名な方を招待されていたようですが、杉ちゃんご本人だけではなく、そのような方々も個性豊かな動画をあげてくれていて楽しませていただきました。
その中でも、個展の開催期間の途中くらいに、佐々木あさひさんがあげてくださっていた杉ちゃんとのコラボ動画が、とても好きでした。聞き上手で、引き出し上手なあさひさんによって、杉ちゃんの口からとても素敵な表現が紡ぎ出されていたのです。
私は、初日と、その翌日、そして最終日の3回、この個展の会期中に伺わせてもらいました。個展に行ってみたいと言ってくれた友人をお連れするタイミングがそれぞれ違ったということもありますが、私自身が何度も作品を観たかったということもあります。
初日は、整理券がまだなかったのですが、平日にも関わらずとてもたくさんの方が来場されていました。翌日は、整理券が配られ、確かそれも早い時間に配り終わり、キャンセル待ちの方を受け付けていたように記憶しています。最終日は、整理券は発行されませんでしたが、ギャラリー内にはたくさんの人がいました。
杉ちゃんは一人ひとり丁寧に対応されていて本当にすごいなと感じました。私にも行く度に絵を描いてくださって、本当に嬉しかったです。一方で、作品について、直接説明をお聞きする時間はなかったので、杉ちゃんが個展の前にあげてくれた動画や、取材の記事や動画で杉ちゃんの作品や個展のレイアウトのコンセプトを知ることができて、それを手がかりに作品を観せてもらいました。
杉ちゃんの個展の空間にはいろいろな工夫がされていて、毎回、とても楽しい気持ちになります。今回も、ガラスに描かれた個展のタイトルやその影、ガラス越しに見える作品たちが出迎えてくれて、ギャラリーに入る前から物語が始まったようで、とてもワクワクしました。
ギャラリーに入ってすぐ、またガラス越しに見える立体作品たちがあって、作品のタイトルと価格の書かれたプリントをもらうとすぐに、私の好きな「水面日記」という作品がありました。Instagramで作品の写真を見せていただいたときからずっと気になっていたので実物が見られて本当に嬉しかったです。いろんな青があり、流れとか温度とか音とか、見えないものまで想像させてもらった気がしました。
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杉ちゃんの作品はとても彩りが鮮やかでカラフルですが、今回は「赤」がとても強く主張していたように感じました。
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私がいいなと思った作品はたくさんあるし、空間全体がとてもいいなと思ったのですが、なんと言っても、今回の個展のメインと思われる「青い花瓶と花と黄緑の鳥」という大きな作品に圧倒されました。
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私は、この作品を最初に個展の告知のHPで見せてもらった時からとても惹かれていました。特に、黄緑の鳥に惹かれて、スマホの待ち受けにもさせてもらって、実物を観させてもらうのをすごく楽しみにしていました。
実際に、会場に来て、その大きさに驚きました。
こんなに大きかったんだ!
何度もこの絵の前に来ては、眺めたり、写真を撮ったり、動画を撮ったりしました。
とても強く惹かれながらも、なぜこんなに惹かれているんだろうということがはっきりわからなかったし、この作品から発せられているメッセージとかエネルギーのようなものを全て隈なく受け取りたいと思っている自分に気づいたけれど、その術がなく、ただただ見つめる時間が過ぎていったのです。
前半の2回は、杉ちゃんのこの作品に対する思いをよく知らなかったのですが、個展期間中に、動画や記事から知ることができて理解が深まり嬉しかったです。
その思いというのを、意訳させてもらって、箇条書きにしてみると……
・渋谷はカルチャーの発生場所という感じがする。
・個展に来た人が馬鹿馬鹿しいくらい明るい気持ちになって、来てよかったなと思うような絵を描きたかった。
・こんなに自由でいいんだよ! 縛られなくてもいいんだよ!
・作品を観るときに、難しく捉えてもいいし、簡単に捉えてもいい。
・こういう世の中で、画家を続けるってどういう意味なのかなと考えたら、他人が居てこその絵だと思った。
・他人がいて、自分がいる。
・枯れない花。
・同じ地球というキャンバスの中に、一人ひとり、いろんな姿、形をして、伸び伸び生きたり、自己否定したり、悩み、もがき、引け目し合い、関係性を紡ぎ会いながら、でもそれぞれが連携、影響し合って育っていっている。
・ここに全てが入っている!
・ここから、また離れて別のところもあるかもしれないという含みを持たせる意味でも、黄緑の鳥が飛んでいて、物語が続いていく。
杉ちゃんの思いを知って、初日にとても惹かれた理由が少しわかった気がして嬉しかったです。
明るい気持ちになれたことが
自由でいいよって言われた気がしたことが
一人ひとり違うけれど、繋がっていることが、嬉しかったんだ!
ここに居てもいいし、別のところに行ってもいいんだ!!
なんかとても温かいものに包まれたような気がしました。
それから、杉ちゃんが、今回の個展で大切にされていたことはたくさんあるのだと、Instagramやブログなどに書かれた文章を読んで知り、そのこともとても素敵だなと思いました。その中でも、購入した画集の白い額のページに、杉ちゃんが在廊していた時には、一人ずつ似顔絵を描いてくれたことがすごく印象的でした。そして、その理由が「限られた時間の中で、少しでも、目を見て話ができるように」と知ってグッときました。
また、「お子さま連れの人を優先します」とか「さまざまな理由で並ぶのが困難な人に配慮します」という対応も本当に細やかだなと感じました。
そして、その杉ちゃんの思いを実現して形にしてくれていた渋谷パルコのギャラリーのスタッフの方々も本当に素晴らしかったです。
実際に、私自身も、行く度に丁寧に接していただき感謝していますし、遠方から訪れた友人が、時間があまりなくて、帰ろうかと思ったけれど、杉ちゃんが書いてくれたブログをスタッフさんに見せたところ、とても丁寧に快く対応してくださったと喜んでいました。
普段こういった場所に来ることが難しい方が、杉ちゃんの試みを知って、勇気を持ってこられたという話もお聞きし本当に感動しました。
個展は一昨日閉場しましたが、その直後、私は複雑な思いでした。
寂しい気持ち。 泣きたい気分。 温かい気持ち。 嬉しい気持ち。 切ない気分。
矛盾した気持ちや気分が混在して、なんとも言えない充実感と喪失感があったのです。
一晩寝て、昨日、個展で撮らせてもらった作品の写真を見たり、出来事を思い出しながら、文章を書いていたら、少しだけ心が落ち着きました。
ここまでリアルに感情が持てるということは、まさに、当事者意識を持たせてもらって、杉ちゃんと一緒にというか、それぞれではあるけれど、いろんな感情を味合わせてもらったからなのかもしれません。
「また巻き込まれたよ」と思いながら、とてもいい気分。
人は、時には、心地よく巻き込まれることがあるんですね。不思議です。
私はとても欲張りなので、感動する場面に遭遇すると、その会場の空気を全部吸いたいというか、そこにある「感じることが可能な感動」を全て持って帰りたいと思ってしまうことがあります。けれども、当然のことながら、そんなことはできたことはありません。
でも、そのわかりたいのに「わかりきれない」、感じたいのに「感じきれない」ほどの刺激的な空間に居させてもらって、作者である杉田陽平さんの思いやメッセージ、表現してくれたものをわずかにでも共有させてもらえたことがとても有り難いです。
何かを見たり聴いてインプットしたものを、意図的にアウトプットできることは限られてしまうけれど、ひょっとしたら、自分が認識している以上にたくさんのものを受け取ることが実はできていて、ただそれに気づけていないだけのような気もして、もしそうだとしたらいいなって思います。
日常を過ごす中で、受け取ることができた何かが、ふと自分の中からこぼれ出し、感じられる瞬間を現れるかもしれないと思うとワクワクします。その可能性を楽しみに過ごそう。
個展は終わっても、そこでもらった思い出や感動は、私の中でまだ温度をもって生きている気がします。
そのことが嬉しい。
素晴らしい個展を開催してくださった杉田陽平さんに心から感謝しています。